ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
一機のモビルスーツの前に連れてこられたベルメリアは目を見開いた。そこに有ったのは量産タイプのガンダム・ルブリスだった。『オックス・アース・コーポレーション』と『ヴァナディース機関』で開発した
何故こんなところに有るのかエランに問い詰める。曰くヴァナディース事変後も裏ではガンダムは量産され地球で活動しているテロ組織が所持している場合もあり、伝手さえあれば割と簡単に手に入れられるらしい。そして彼はそんな商売をしている人間から昔にもしもに備えて買ってみたらしい。秘密裏な取引だったので何処の記録にも残っていないが。
「これを私に見せてどうして欲しいの?」
「いやオレもコレを持っていることをすっかり忘れててね。流石に個人でガンダムを所有してるのはヤンチャすぎると思ったんだ。それで手放そうと考えててね」
「それで?」
「これがテロリストの手に渡ったら困るだろ?でも不良品にしてしまったら誰も引き取ってくれない。だからその時の為に外部から止められる措置をして欲しいんだ」
「それならできるけど…」
「やっぱりベルは頼りになるね、ありがとう」
ビルの一室を借りた。本日行われる採用面接のためだ。いつも話し合う時に使っている喫茶店や大衆向けの居酒屋、料亭、レストランの個室、彼の持つマンションの一室などで面接を行うのは見栄えが悪いとエランが判断したからだった。それなりに高い階の部屋を借りたので椅子に座り背を向けている窓ガラスには立派な景色が広がっていた。
困惑した様子のベルメリアは隣に座るエランに問いかける。
「面接って何を聞けばいいのかしら?台本とか作ってきてる?」
「なんも無いよ」
「じゃあどうするのよ」
「頼りになる時とそうじゃ無い時の差が激しいね」
「今そう言うの良いから」
「入って来た人に気になること聞けばいいんだよ。ナンパとおんなじさ」
「したことないわよナンパなんて」
会話を楽しんでいると扉がノックされる。そしてエランが入ってくるように声を掛けると眼鏡をかけた若いインテリ風の男が「失礼します」という声と共に入室する。そこでこの会社でやりたい事などを聞いたり経歴を聞いたり特技を聞いてみたりしてその回は終わった。
そしてまた次の人間が入ってくる。そしてまた次の人間がと続く。募集ページを作っただけなのにかなりの数の応募者が来ているのに驚いた。だから数人の面接を終えて今話していた人が退室してから次の人が来る前に聞いてみた。
「何でこんなに人が来てくれているのかしら」
「色んな学校の学生課に頭下げたし転職支援会社にも頼み込んだからね」
そう話す彼は手でお金を表すポーズを取る。動きで会話を終わらせるとまた次の人間を招き入れた。これが最後の面接だ。
「失礼します」
若いと言うよりは幼いと表現するのが正しいと思われる声が聞こえて来た。
入室してきた女性はエランと同世代に見えて先ほど話していた学生課に頼った学生にもましてや転職支援サービスを利用するような歳とも思えなかった。
エランが椅子に座るように言うとその少し青みがかった銀髪と白い肌で儚げな透明感を持つ少女はパリッとしたパンツスーツのズボンに皺を作って腰を下ろした。
その雰囲気だけで只者で無いことは分かるが何者なのだろうか。帰り際に彼が呟いた面白いこととは彼女のことなのだろうかと思い、隣を見るが彼も探るような視線を放っていることから想定外の事態なのであろう。そう面接官たちが逡巡している間に件の少女が口を開いた。
「ある人にこの会社のことを伺って来ました。ミオリネ・レンブランです」
とんでもない人物だった。ベネリットグループ総裁の一人娘だった。
「ある人とは何方ですか?」
「シャディク・ゼネリです」
一瞬でフリーズから抜けたエランが問いかける──やはりどんな事態にも冷静に対応する度胸がある。少しは動きを止めてしまっていたが大した動揺もしなかったのだろう──とまた大物の名前が聞こえて来た。彼がインキュベーションパーティーの際に声を掛けた人物の名前だ。なら彼が言っていた面白いこととはシャディク・ゼネリがここに来ることであったのだろう。
「彼はオレたちの会社をなんと?」
「私が入れば社長になれると、また貴方の資金も自由に使えて事業も自由に決められるとも」
彼はシャディク・ゼネリにそんなことを言っていたのか。勝手に色々言い出さないで欲しいと睨もうとエランに顔を向けるが彼も口を開けて驚いた顔をしていた。
社長として迎え入れたいとは言ったけどそこまでは言ってないぞ。
「それなら申し訳ないけど事業はもう決まってるんだ」
「それでも社長の話と資金の話は本当なんですね」
「うん、本当さ。オレは嘘をついたことが無いんだ。この面接は社長を決める為のものだし、それで選ばれた社長にオレは忠義を尽くす」
息を吐くように出鱈目を言い出すエランにベルメリアはとうとう無反応で居られるようになってしまった。
「でも君は事業を決められるなら何をしたかったんだい?」
「モビルスーツの開発事業を。ベネリットグループの中核を担う会社を作りたかったんです。自分で」
「それならオレたちの予定ともそう変わらないね」
「あなた方はこの会社で何をするつもりなんですか?」
「GUND技術を扱いたくてね」
他の応募者には話していなかったことを伝える。ベネリットグループの総裁だけでは無くモビルスーツ開発の秩序と倫理を守る監査組織カテドラルの統括代表でもあるデリング・レンブランの娘に話すには危険な内容だ。ベルメリアもギョッとした表情でエランを見つめる。無反応で居られるといったがアレは嘘だった。だけど……
「ガンド?」
「知らない?GUNDフォーマットやGUND-ARM、GUND医療」
そうエランが問いかけると少女は俯いてしまう。恐らく父親からは過去に起きた悲惨な事件、軍事産業の闇を知らされていなかった、護られていたのだろう。本人としては不本意に押さえつけられていると感じているようだが。
下を向いて動かなくなってしまったミオリネにエランがスタスタと足音をたてて近づくと目の前で止まり跪く。それに反応した彼女が顔を上げる。そしてエランはミオリネに目を合わせると手に持っていた資料を恭しく差し出す。
「これがGUND技術について纏められたものです。これを読んだ上で私たちの元に来てくれるのなら、その時は貴女をボスとして迎え入れたい」
「え…」
反射的に紙束を受け取ってしまったであろう彼女は呆然とした様子で手に持った資料を眺めたあとにハッと目を覚ましたような動作をすると一心不乱に閲覧を始めた。速読だとしてもかなりの速度で。
この場は一旦解散して後日話しをしようと考えていたエランもこの光景には目を見開いている。
そしてものの数分で読み切ってしまった彼女が今度は目を合わせてくる。父親が自分に隠して来たもの、その一端を知って何を思ったのだろう。
「私を貴方たちの会社で一緒に働かせて下さい」
そう言った彼女の瞳は不安に揺れながらも覚悟の色が浮かんでいた。資料で読んだだけとは言えGUNDの呪いを理解しての発言だろう。それでも不安を押し込んでこう言えるのは凄いことだ。強い娘なんだと、そう思った。
「ああ!これからよろしくな!ベルもそれで良いだろ?」
「ええ、そうね。よろしくお願いします」
喜色満面の笑みを浮かべる彼らにミオリネはホッと息を吐いた。
「そうと決まれば歓迎会をしないとね。ボス今夜のご予定は?」
「空いてるわよ」
「あれ?さっき迄と大分違うね」
「今から私が社長なのよ。なら素の自分でやらせて貰うわ。文句ある?」
「いいね。そっちのが好みだ」
「ふふっ分かってるなら良いのよ」
ミオリネが加わって直ぐだけれども3人の間に流れる空気はふわふわとした居心地の良いものになっていた。
「それじゃあオレは店の予約をしておくからベルは今日来てくれた他の人たちにお祈りメール送っといて、ボスは好きに過ごしててくれ」
「ちょっとっ雑用を私に押し付けて。店の予約の方を私がやるわよ」
「こういうのは早いもの勝ちさ、じゃっ」
懐から通信端末を取り出すと彼は扉を抜けて何処かへ行ってしまった。
「まったくもう何で私が…」
「良いじゃ無い。ベルが応募者に連絡しときなさいよ。ふふ、これは社長命令よ」
「ふふふっ仕方ないわね社長命令なら」
廊下を抜け人気のない階段の踊り場に出るとエランは電話を掛けるがそれは歓迎会の会場になるような飲食店に向けてでは無い。1人の少年に向けてだった。
「もしもしシャディク?」
『やぁエランそろそろ連絡が来ると思っていたよ』
「じゃあオレが聞きたいことも分かるよな?」
『何故彼女を君の元に送ったかって?』
「それも気になるけど違うよ。惚けるなよ」
『分からないな』
「何で来てくれなかったんだ?」
『ミオリネなら俺が来るよりも成果は上だろ?』
「そういう問題じゃない、オレはシャディクが欲しかったんだ」
『情熱的だね。どうしてそこまで俺に拘るんだ?』
心底分からないといった様子でシャディクが尋ねてくる。本気で言っているならコイツは自分のことを客観視できていないのだろうか。
「組織の強さは色んな人間がいることだ。ミオリネと俺は突き詰めれば似通った性能の人間だ。どっちも人を動かす事で本領を発揮するタイプだろ」
『俺もそうだと思うけど』
「いやシャディクは違う。君なら人を動かすことも人のために動くこともできる。そう言う人間が欲しかった」
お互いの間に沈黙が響く。どちらも声を出そうとしない。
『分かったよ、俺の負けだ。入社はできないが手を組まないか?人脈が欲しいなら俺が顔を繋ぐし必要な人材があればグラスレーから派遣する。俺は君たちの支援者になる。悪い話じゃないだろ?』
「条件は?」
『ガンダムについてやあの日のこと、それにヴァナディースについても色々と教えて欲しい』
「ベルメリア・ウィンストンを調べたな?」
『隠してないだろ。社名にするくらいだ。むしろわざとそうしてる』
「さあ何のことだかサッパリだ」
『で呑むのかい?呑まないのかい?』
「最初からこうする予定だっただろ」
『そんな訳ないだろ濡れ衣だ。証拠がない』
完全にしらを切るつもりらしい。
だけどシャディクが提示してきた話は双方にとって悪くない。エランはシャディクを味方につけることができるしシャディクもエランを安全圏から探ることができる。
「お姫様のことは心配じゃないのか?」
『君は損得の判断が上手い。ベネリットグループを敵に回せばどうなるか分かっているさ』
「双方痛み分けってところかな」
『なら』
「ああその条件で行こう」
『君が納得してくれて良かったよ。それじゃあね』
シャディクが通信を切ろうとする。
「ちょっと待ってくれ」
『なにかな?』
「今夜ミオリネの歓迎会をやるんだ君も来てくれ」
『突然だね、残念だけど俺にも予定があるんだまたの機会にさせてもらうよ』
「来てくれ」
『聞いてなかったのかい?』
「来てくれ」
『今夜は無理だ』
「来てくれ」
何度も断るがエランは来てくれとしか答えない機械になってしまった。そして何十回もループしたとき到頭シャディクが折れた。
『はぁ…分かったよ何時に何処に行けば良い?』
「ああ今店の位置情報を送るからよろしくな。時間もそこに書いとくよ」
歓迎会はレストランの個室を使って行われた。メンバーはエランとベルメリアとミオリネだ。其々の元へドリンクが渡るのを見届けるとエランが乾杯の音頭を取る。
「ではボスの歓迎会を始めたいと思います。が、その前にサプライズゲストの登場です。どうぞ入ってきてくださーい」
メールで指定した時間になり扉が開く。顔つきには少年らしさが残るが身長は高い青年期にさしかかりつつある褐色の肌に綺麗な長い金髪を携えた少年が入って来た。
「今晩は」
「はい、シャディクくんでーす」
「ちょっと待ちなさい何で此処にシャディクが来てるのよ」
「言ってなかったのか!?」
ミオリネとシャディクが驚きの声をあげる。ベルメリアにいたっては口は開けているが声をあげられもせずに固まっている。
「彼はこのたび『ベルメリア・テクノロジーズ』のスポンサーになってくれることになりました。みなさん拍手」
「そういうのはちゃんと報告しなさいよっ。私、社長よ社長っ」
「貴方は報連相をちゃんとしなさいよ…」
「もしかしてこの為に強引に来させたのか…」
非難轟轟である。当然だった。
「ハハハ、ごめんって」
「今回もそれで済ますつもりなのね…」
翌朝、『ベルメリア・テクノロジーズ』の社員である3人は面接会場として利用したビルの一室に集まっていた。
エランがその部屋をこれからはオフィスとして利用するように契約したのである。シャディクが仲間に加わるのであれば仕事場には所有しているマンションの一室をあてがえば良いと考えていたのだが、流石にベネリットグループ総裁の娘をそのような場所に連れ込むのは体裁が悪すぎる。
そのような事情があっての事なのだが、かの姫君はその立場に相応しく我儘を言い出した。
「社長命令よエラン。アンタ、私が住む場所を用意しなさい」
台無しである。後ろめたいことを無くしたかったが、そうも行かないらしい。
「菜園もやりたいから、それ用の温室も用意した住居にしてね」
オレの資金を自由に使えるってそう言う意味じゃなかったのだが。
「仰せのままに。育てるトマトとか土や器具はミオミオの給料で買ってね?流石に」
「当たり前よ。ていうかミオミオはやめなさいよ。センスがない」
「えー、ボスは嫌だって言ったからそうしたのに」
「ならアンタもエラエラって呼ぶわよ」
「うわダッサ」
歓迎会は出だしこそ一波乱あったが上手くいったらしい。軽口を叩き合えるほどには打ち解けている。
「ベルは住むところに希望はある?」
「私も?」
「オレがミオリネ1人の生活の面倒見てたら絵面がヤバすぎるでしょ。社宅ってことにするからミオリネの隣に引っ越してくれ」
「分かったわよ」
会話がひと段落したことでミオリネが話を切り出す。
「さて、じゃあ本題に入るわよ。始めましょう新事業企画会議を」
何を会社で最初にするのか決めるのである。いきなりGANDフォーマットを使ったものを開発してしまえばカテドラルに咎められて詰みである。また、実績の無い会社で売れるものは限られている。ベルメリアの腕だけだ。
ペイル社で開発主任を務めていた功績とインキュベーションパーティーの際に色んな人間に技術面での優秀さをアピールしてきたから少しは噂になっている筈である。
ミオリネがタブレットに様々な資料を表示する。今売れ筋のモビルスーツやスラスター専門の会社やビームライフル専門、コクピットのUIの開発会社など。
その中でエランが1つの資料に反応した。
「意志拡張AI?これ良いんじゃ無いか?ベル1人で何とかできそうじゃん」
「できるわけ無いでしょっ私の腕に信頼を置きすぎなのよ。1人じゃ無理よ」
「そうよ、そもそもAI技術のトップは御三家の1つ『ジェターク・ヘビー・マシーナリー』なのよ勝負にならないわ」
素人の甘い考えだとエランの意見を2人が却下しようとする。
「それは
「どういうこと?」
「ベルは任意のモビルスーツを外部からコントロールするコクピットを作ってくれれば良い」
「遠隔操作をAIとして売りつけるってこと?詐欺じゃない」
「いやオレたちが作るのは戦闘支援
「やっぱり詐欺じゃない。それに誰が操縦するのよまさかアンタ?」
「いや、オレは操縦関連はポンコツだ。自転車にも乗れないぜ」
「ならこの話は無しね」
「いやいや、こんな時こそスポンサー様の出番だろ。いるじゃ無いか何でもできる男が」
「それで実現できても売れるものじゃ無いでしょ」
「売れなくても会社に実績がつけば良いんだ」
「と言うと?」
エランは目の前のタブレットをいじってあるサイトを表示する。
「実はジェターク社主催で傘下企業に向けたAI技術のコンテストが開催されるんだ。これに出れば良い」
「いや発表できない技術でどうやってコンテストに参加するのよ…」
「待ちなさいベル、エランの狙いが読めたわ。私たちが参加するのはコンテストじゃ無くてその中で行われるの自社のAIを装備したデスルターを素人が運転してジェターク社所属の部隊のデスルターと対戦するイベントね」
「良い案だろ?シャディクなら誰にでも勝てるさ」
「確かにこれならバレずに行けるかも」
訓練を積んだ操縦士が相手だとしても厳しい競争の中でサリウス・ゼネリから養子の座を勝ち取ったシャディクなら勝つ。
完璧……完璧だ!!
完璧だ……