ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話   作:冬に生まれたかも

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信じて良かった

 

勝負は数秒で決着した。モビルスーツの手足が切り落とされる。

 動けなくなったエランの乗るデスルターはそのまま頭部のブレードアンテナが破壊された。

 

『そこまで。勝者グエル・ジェターク』

 

 無慈悲にアナウンスが響く。

 

「お…終わった…」

 

 客席から見守っていたミオリネ・レンブランの呟きが空虚に溶けた…

 

 

 

 時間を少し戻そう。

 ベルメリアの技術力も有ってか対戦前のモビルスーツの検査は何事も無く通過した。そして今回の対戦相手はジェターク社のパイロット隊の中でも新人で今回のイベントは経験を積ませる機会として活用しているらしい。

 だからその勝負は当然のようにエラン(シャディク)が勝利したのだった。

 両者のモビルスーツが対戦場に降り立ち準備が整ったところで開戦のゴングがなる。

 シャディクはその音を聞くと直ぐに後退しライフルとバズーカで引き撃ちを徹底し、相手を寄せ付けない。

 相手からの弾はシャディクの能力を活かして躱す、ジェターク社の特徴である優れた装甲を活かす訓練をしてきた故か新人ゆえか相手は無駄な被弾が多い。それを繰り返す内に次第に相手は冷静さを失っていき無茶な突進が増え被弾が増す悪循環に陥っていく。

 そうやって何のピンチも山場も無くイベントを乗り切ったのだ。

 あまりにあんまりな戦い方に観客席は冷え冷えであったが勝利した機体から出てきたパイロットが姿を見せると様子が変わる。

 フラつく様な足取りで外に出てきた彼はヘルメットを外し素顔を晒す。相手の勝利の芽を潰す冷徹な戦い方、それに相応しい何の感情も写さない無表情、そしてそれを強調する血の気の無い白い肌をカメラドローンが捉える。勝利を噛み締めるように深い呼吸を繰り返すとカメラの存在に気づき笑顔で手を振る。肌に張り付くパイロットスーツは体の薄さを引き立たせ本当に訓練を積んでいない素人が勝利したのだと観客たちを理解させる。

 年端もいかない少年が勝利したことで会場は大いに盛り上がりをみせた。此処までで終わっていれば今日は『ベルメリア・テクノロジーズ』として大成功と言えたであろう。

 だけどそうはならなかった。

 

 父親に連れられ偶然にもコンテストにやって来ていた『ジェターク・ヘビー・マシーナリー』の御曹司グエル・ジェターク少年はAI技術の発表には興味が無かったのでモビルスーツの対戦イベントを見て時間を潰していた。

 そして今目の前で行われた戦いが自分と同い年の人間によるものだと知ると、今まで自分の操縦技術に自信を持ってきた身としてどうしても戦ってみたくなった。

 そんなことを自身の子守りとして父親に付けられた今も直ぐ後ろに立っているジェターク社の社員に伝えてみればサラッと対戦する流れになってしまった。

 何でもこの件を伝えた時の向こうのパイロットも快く了承してくれたこともスムーズに決まった一因らしい。

 グエル・ジェタークは子供らしい希望に満ちた笑顔を湛え浮き足だった調子でハンガーデッキへと進んで行った。

 

 エラン・ケレスは絶望していた。

 エランは対戦中は特等席でシャディクの技量を堪能できると思っていた。だが違った。

 予想できない方向へと引っ張られる体。内臓を下から上へ押される様な感覚。ヘルメットの中に籠る呼吸。揺さぶられる三半規管。安定しない視界。全てが不快だった。

 この苦しみから逃れようと外に出て呼吸を整えているとカメラに気付き気合で笑顔を作り不調がバレぬ様に手を振って観客に応えた。

 そして退場すればデスルターの側に座り込み蹲って呆けていた。そこに係員らしき人物が現れ何かを話し始める。それに対して定まらない思考の中で肯定とも取れる曖昧な返事だけを返しているともう一戦することがいつの間にか決まってしまっていた。絶望した。

 

 番狂せに観客たちは沸いた先程の試合の余波。そして御三家の御曹司による試合という注目度。それによってイベントの観客席には会場中の人間が集まってきていた。その中にいるミオリネは予想以上の注目に心が躍っていた。ここで勝利することができれば当初の予定よりも大々的にアピールできると。この勝負は必ずベネリットグループ内で話題になると。

 そして達磨にされて負けた。

 

 

 

 コンテストの終了後、意外なことに無様な敗北を晒しただけの『ベルメリア・テクノロジーズ』にジェターク社CEOであるヴィム・ジェタークからの呼び出しが有った。それに社長であるミオリネと書類上は開発主任になっているエランが向かうことになった。

 

「ワハハハハ、今日は息子の晴れ舞台を用意してくれて感謝する」

「それを言う為だけに私たちを呼んだんですか?」

「なに、そう急ぐな。実はお前たちのモビルスーツに気になるところが有ってな」

 

 そう言うとヴィムは後ろに控えていた人間に3人分の紅茶を注ぐように命ずると席を立たぬまま入れる時間、温度、角度を指示する。そして目はミオリネを見つめていた。

 

「いつからお気づきに?」

 

 今まで存在を無視されていたエランが口を開く。

 

「あまり舐めるなよ。あれを見せたくてウチに来たんだろう」

「そこまで見抜かれてましたか」

「お前らは何がしたかったんだ?」

 

 未だに固まっているミオリネの横でエランが意気揚々と説明を始める。

 

「御社の現行機ディランザの次世代機について興味深いお話を聞きましてね」

「ほう」

「なんでも意志拡張AIによる新型ドローン兵器を装備した機体だとか」

「ああそうだ。それで素晴らしいものが出来上がる予定だ」

「でも驚きになられたでしょう。私たちのデスルターのあまりのラグの無さ、滑らかな動きに」

「それで?」

「御社が抱えている弱点のお話しですよ」

「何だと」

 

 ヴィムから発される空気が一段と重いものになる。

 

「ここから先は人払いをお願いします。もし私たちに価値を見出しておられるならば」

 

 その言葉にヴィムは睨みつけるようにエランを数秒見つめるも目を逸らそうともしない様子に頷いて周りの人間に出て行くように命じる。3人だけになり冷え切った部屋でエランは続きを話し始める。

 

「貴方は倫理的にも理性的にも正しくGUNDフォーマットに手を出さなかった」

「当たり前だ」

「でも周りはそうじゃ無かった」

「なに?」

「コレをご覧ください」

 

 タブレットにあるデータを表示する。ファラクトのデータだ。

 

「ならあのデスルターはある種のGUND-ARMなのか」

「違いますよ」

「ならあの情報伝達速度はなんなのだ」

「それだけ差があるってことですよ、パーメットを取り扱う能力は。GUNDを知る者と知らない者の間には」

「これを俺に話してどうしたい」

「オレたちとGUND-ARM(ガンダム)作りませんか?」

 

 ヴィムの表情が引き攣る。

 

「ふざけるなよ。ジェターク社をあの『呪い』を振り撒く『魔女』に仕立て上げたいのか」

 

 重く静かな、しかし激しい怒りを滲ませた声で言葉を発するヴィムに言葉を返したのはミオリネだった。

 

「貴方はGUNDの理念はご存じですか?」

「あの夢物語か」

「それを踏み躙る『魔女』はもう居ます」

 

 ミオリネはファラクトのデータの上に強化人士計画のデータを表示する。

 

「私たちはGUND技術を取り戻したいのです『呪い』ではなく『祝福』として」

 

 ミオリネの凛とした言葉にヴィムが考え込む。

 

「そちらのお嬢さんは大層ご立派なことを言うが君に何ができる?」

「何もできないですよ。操縦もできないしGUNDを取り扱う技術もウチの社員の能力、社を経営してるのは彼女。でもね、そんな彼女らを守るのがオレの役目です。それが男の生き様でしょう?」

 

 長い沈黙。

 

「ワハハハハハハハ、この俺に男を説くか気に入った。なら俺もお前たちと世界を守らねばな」

 

 

 

 帰りの船の中、テーブル席にミオリネとエランが隣り合って座っている。そして対面に座るシャディクとベルメリアへの説明も兼ねて今までを振り返る。

 

「生きた心地がしなかったねぇ。無事に帰れて何よりだよ」

「何言ってんのよ、呼び出された時点でこうなるのは決まってたじゃない」

「あれ?そういうの分かるんだ」

「気付いたのは途中からだけどね。向こうも硬直した軍事産業を盛り返す為にGUNDというカードが欲しかった。だから呼んだんでしょ」

「じゃあオレのカッコいい台詞に心打たれたりとかは?」

「無いわよ。無駄なやりとりだったわ」

「えー、それは違うぜ」

「何でよ」

「向こうはコッチが組むに値する人間か試してたんだよ。人と人が繋がる時は相手の器を調べてからじゃ無いと始められないだろ。な?シャディク」

「そこでコッチに振るのか」

「オレと組む時もそうだっただろ」

「そうだね、実際君が面白かったから話をしたんだ」

「そういうこった。実は窮地を乗り越えてたりするんだぜ今回は」

「なっ…なら最初から言っときなさいよ」

 

 怒り心頭に発したという顔色で詰め寄るミオリネにエランが何でも無いように返す。

 

「いや言わなくてもちゃんとできてたじゃんか」

「は?」

「カッコ良かったぜ、ガンド技術を取り戻すって」

 

 ミオリネの白い肌が赤く染まる。揶揄われていると思っているのだろうか。

 

「信じて良かった。あの場で演技なんかしたらバレるに決まってる。ミオリネの生の言葉だからヴィムCEOも聞いてくれたんだ」

 

 エランが有無を言わせぬ目でミオリネを見つめる。

 

「私は大したことはして無いわよ」

「いいやそんな事ないね。ミオリネがあそこで啖呵を切ってくれなかったら終わってた」

「大袈裟なのよ…わた」

 

 謙遜は許さないと言うように言葉を遮って正面から語りかける。

 

「あの日、面接に来てくれたのがミオリネで良かった。君が今日、オレたちを救ってくれたんだ。他の誰でも無い君じゃなきゃ駄目だった」

「さっきから恥ずかしいのよ、そんなに持ち上げてきて。大体ね私はそんな立派な意志を持ってアンタたちのとこに来たんじゃ無いのよ…ただ自分の力が欲しかった…自由が欲しくてアンタを利用するつもりで面接に行ったのに…クソ親父に吠え面をかかせたかっただけなのにGUNDの呪いなんて重いもの背負わせて…そのくせ報連相もマトモにしないし…博打を勝手に打つし…もう散々なのよ…」

 

 ポスポスと力なく胸を殴ってくる。俯いていて表情は読めないが声は泣いているように聞こえた。

 

「ごめんって」

 

 ベルメリアとシャディクの目が痛い。

 

「違うわよ…感謝してるって言ってるの」

「えぇ…」

「私にも、俺と来いって言ってよ。それでベネリットグループから私を連れだしなさい。地球にも連れてって。奪えば全部なんでしょ」

 

 何でそれを知ってるんだ?ベルメリアを睨むとサッと目を逸らされる。シャディクはもう良く分かんない目で俺を見ている。怖い。

 

「ちょっと落ち着けよ」

「言って」

「ほら、周りの目も有るから」

「良いから言って」

「ピギュ」

 

 パンチが鳩尾に入って汚い悲鳴がでた。それに観念したようにエランは真摯な表情で応えた。

 

「ああ分かったよ、連れてってやるよ。オレと来いミオリネ・レンブラン。もう後戻りはできないぞ」

「それでいいのよ」

 

 望み通りの言葉を聞けたことで顔を上げると思っていた以上に近かった。しかしここで顔を逸らしたら負けだと思ってしばし見つめ合っているとエランが口を開いた。

 

「オレがお前を奪ってやる」

 

 赤く染まっていた頬が真っ赤を超えて朱色に変わる。

 

「そこまで言えとは言ってない!」

 

 振りかぶった拳が迫ってくる。身を捻ってそれを躱そうとするが何故か動けない。気付かないウチに後ろに回ったシャディクに抑え込まれていた。

 

「グェ」

 

 連続して同じ急所に衝撃を受けて蹲って動けなくなってしまったが…

 

 近づいてくる者はおらず背中を摩ってくれる者もいなかった……

 

 

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