ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
窓からキラキラと光が降り注ぎデスクの横に彩られた観葉植物が瑞々しく輝いている。広いオフィスにあるのは3人分のデスクのみ。しかしその何処にも座っている人物はいない。
「アンタ何やらかしてんの?」
「何とは?」
手入れ、片付けが行き届いてるのだろう。無駄な物が少ない空間で当然余る広いスペース、そこに1人の少年が正座させられそれを1人の少女が正面から腕を組んで威圧している。
「言われなくちゃ分からないのかしら?」
ミオリネは自身の通信端末を取り出してニュースサイトを表示させると目の前に突き出した。そこで報じられていたのは、審問会の隠し撮りであり、内容はこうである。
"ヴィム・ジェタークの陰謀か?2人目のエラン・ケレス"
世間に2人もエランがいることが大々的に暴かれていた。しかもミオリネの目の前にいる彼が偽物として。
今もテレビをつければ円錐形の耳飾りをつけている以外は眼前の少年と同じ外見の人物が事情の説明やファラクトの宣伝を兼ねた記者会見を開いている。
「で、アンタはコレをどうするつもりなのよ」
「それなら直ぐに解決するから安心してよ」
「は?」
「来週にはペイル社が最新機のお披露目会としてジェターク社と決闘するんだ。そこで全ての決着がつくから、それまでの辛抱だよ」
そう言って立ち上がると、その顔に微笑みを湛えながら2人の間の距離を縮めて行き、ミオリネの細い腰に腕を絡める。そしてネットリとした声で耳元に囁く。
「今は君が本物だと信じてくれる。それだけで良いんだ……」
「…………」
互いに顔を見つめ合う。その表情に変化は無い。ほんの数秒、辺りを静寂が支配する。
至近距離にいるミオリネが僅かに腕を後ろに引いた。そして硬く握られた拳が鳩尾に向かって振るわれる。
顔を青くしてそれを躱したのを見て、怒りを滲ませた笑顔のミオリネが声をかける。
「この前のことで学習しなかったようね。恥ずかしいことを言って誤魔化そうたってそうは行かないわよ」
お説教はまだまだ終わらないつもりらしい。このお姫様は怒ると長いのだ。
再び正座をさせられた少年に上から無限と思える程に小言、注意、文句が降り注ぐ。
そうして幾許かの時間が過ぎた頃に、声を荒げることに白熱しすぎたミオリネが、息切れしているところに、媚びるような顔をして懇願する。
「そろそろ、ヴィムさんに会いに行かないといけない時間なので許してください……」
「なら仕方ないわね」
「じゃあ、」
「帰って来たら、この続きよ」
「ヒュッ」
ある種の死刑宣告に喉から変な音が鳴った……
そうして来たる日、ペイルテクノロジーズの最新機ファラクトの発表会の時がやって来た。
会場には多くの人々が集められ、またその様子を映したライブ中継も先ず先ずの視聴率を叩き出している。
設置された大型のモニターにはファラクトの試験時の映像とデータが表示されており、両肩に取り付けられた大型のスラスターによる、地上でも宇宙と変わらない機動性を発揮する動きに、観客たちの関心を集めていた。
ガヤガヤとした喧騒の中にエラン以外のベルメリアテクノロジーズの面々もいた。
「ねぇ、実際にファラクトが戦ったらどれ位の性能を発揮するの?」
ミオリネが隣にいるベルメリアに話しかける。
「そうね、少なくともディランザが勝つのは相当難しいと思うわ」
「と言うと?」
「今見た通りファラクトの飛行性能はとても高いわ。それはGUNDによる高度な姿勢制御によるモノも大きいの。これの意味するところは分かるかしら?」
「勿体ぶらずに教えなさいよ」
「動きながら射撃ができるのよ。かなりの精度で」
「それが?」
「この前のデスルターの対戦を思い出してちょうだい。引き撃ちと突撃、相性なんて言うまでも無いわ」
「かなり不味いじゃない」
改めて聞かされる不利な条件に顔が引き攣るが、それだけで終わらないと、まだ不安材料が投下される。
「仮に近づくことに成功してもね、あの機体にはビットがあるの。触れた部位をスタンさせる電子ビームを照射する性能の。そんな動くトラップにハマればそれで詰みよ」
「どうするのよ」
そんな話を聞いてしまえば、「今は偽物騒動で迂闊に人前に出られないから」と会場に来ることも無く、「ヴィムさんに連れ歩かれすぎて疲れてるんだ」と言い放ち、オフィスから出発するミオリネとベルメリアを見送ると、サッサと自分のデスクに座り眠り込んでしまった、あの野郎に殺意が湧いてきた。今までも今日の為の策を聞いても「今まで見てきたエラン・ケレスを信じろ」とだけムカつく笑顔で答えて具体的なことを聞かされていないのである。
そうして不満を募らせているとモニター近くの壇上で変化が訪れた。
「本日は弊社の将来優秀なパイロットを皆様に紹介できますこと、大変光栄に存じます」
その声と共に照明が消えるとスポットライトが1人の少年を照らしだす。
「それでは、あらためてご紹介しましょう。弊社の誇るファラクトのパイロット、エラン・ケレスです」
拍手の音が辺り一面に響く。
そして一歩前に踏み出してペコリと頭を下げる黄緑色の髪の少年はいつもとは違い、一連の所作を無表情で行なった。
彼の纏う雰囲気はキラキラしたモノと言うよりは全体的に鈍くなっている様に普段の彼を知る者には感じられた。
そんな彼は、挨拶を早々に済ませた後にファラクトに搭乗する為に短い時間で退場するが、司会進行は恙無く進んでいく。
遠巻きから壇上を眺めていると、頭が一つ抜けた目立つ長身の金髪を見つけた。シャディクだ。
彼もコチラに気付いたようで、いつもの人好きのする笑顔のようでありながら、飼い主を見つけた犬に似た笑顔でミオリネに近づいてきた。
「お2人とも、今日のことに興味がおありで?」
「当然でしょ」
近づいてきたシャディクはミオリネの目の前で止まることなく、耳元まで顔を寄せてから話し始める。
「この勝負、君たちはどう見てるのかな?」
「どうせ今日のこと、エランと一緒に色々と仕組んでたんでしょ。そんなアンタに聞かせることなんて無いんだけど」
「ミオリネの意見が聞きたいのさ」
「良いから、アイツが何をする
「そうだな、彼曰く『MSの性能の違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる』だそうだよ」
「何よそれ」
広大な宇宙空間で、2機のMSが射出される。決闘が開始されたのだ。
スタート位置は遠く離れており、ファラクトが有利な開始と言える。
会場のモニターには俯瞰から見た2機とそれぞれのコクピット内が映し出されていた。
ファラクトを操縦する少年の顔にはGUND-ARM特有の赤く発光する紋様が刻まれていたが、しかしパーメットスコアの上昇による息切れが見られず、本当に呪いを克服したかの様に見える。それが観客の注目を集めていた。
対するディランザを操縦するパイロットもまた、違った意味で注目を集めていた。何故ならディランザのパイロットもファラクトのパイロットと同じく少年だったのだ。つまり言うまでも無いがグエル・ジェタークだったのだ。
両者、御三家の次世代を担う者同士の対戦カードは大いに観客たちを盛り上げさせた。
遠距離からの狙撃を徹底するファラクトとジリジリと距離を詰めていくディランザ。
予想通りの展開だったのだが、違和感が募る。それは想定よりもファラクトの弾幕が薄いのだ。そして自慢の機動性も少しフラついている様に見える。
ここまでは小さな違和感だったのだが、到頭ディランザが中距離戦まで迫ると、多数の観客も気が付く程にファラクトの様子がおかしくなる。
先程の映像で示されたビットの動きに比べて随分とコラキの動きが鈍いのだ。
一見回避不能に思える
そうしてグイグイと距離を縮めていき、最後にはアッサリとディランザがファラクトのブレードアンテナを頭ごと切り飛ばした。
この結果をもって、今回のイベントはジェターク社の宣伝に差し変わり、ペイル社の最新機ファラクトは業績回復の見込み無しとされ、人々の記憶からは忘れ去られていった。
いくらカタログスペックが良かったとしても、使えなければ意味がない。ファラクトにはGUNDフォーマットの強みの1つとされる、操作性は無いとベネリットグループからは評価されたのだ。
これには、此度の出来事を仕組んだヴィム・ジェタークも、ガンダム疑惑のある機体に反感を抱いていたサリウス・ゼネリもご満悦である。
今回のことで不満を抱いたのは──楽しみにしていた対戦が直ぐに方が付き、肩透かしを食らったグエルもそうであろうが──グループ内で覇権を握ろうとして、そのチャンスを不意にし、唯一割を食ったペイルテクノロジーズであった。
しかしその晩、ペイルテクノロジーズの会議室では深刻な雰囲気は流れてはいなかった。
CEOたち4人は此度の件で無様を晒した強化人士4号は処分をし、次の強化人士にファラクトの運用を任せ、宣伝を繰り返すことでスタートダッシュの失敗を早々に取り戻すことを、人間1人の命の価値を顧みることも無く冷酷に決定したのである。実際、ファラクトを早期に完成させる為に既に、強化人士の2号と3号は使い潰してしまっている。
これにベルメリアの後任で強化人士の調整役に就任したであろう研究者が早計であるとして止めるように食い下がるが、CEOたちは取り付く島もなく切り捨てる。
「使命を果たせない強化人士に次はない、あなたも分かっているでしょう?」
「スペアはまだあるわ。早く次を用意することね」
強化人士4号は微睡む意識の中で四肢を拘束され、ビームの照射口の前に吊るされていた。
研究者が食い下がるのを辞めた瞬間には、ビームに焼かれ処分される。あと数秒の命である。
そして目の前の銃口に奥から段々と光が灯っていく。
それを見つめる4号の瞳には何の感情も無く、何も持たない、虚無のまま人生を終えようとしていた。
会議室でも全員が静寂を保ち、4号の焼却処分を待っている。
が、突然に4号の目の前の光が消える。照射が止まったのだ。
人間を処理する為だけの空間はその機能を停止したのだ。
事態が理解できないまま、4号は1人暗闇の中で取り残されたのだった。
一方、会議室ではあれから数分待っても届かない処理の完了の知らせに4人のCEOは首を捻っていた。
ゴルネリCEOが何か言葉を発そうとしたタイミングで扉が開いた。
入ってきたのは黄緑色の髪と瞳をした少年だ。
「あら5号、何のようかしら?」
そうニューゲンCEOが声をかけるが、入ってきた少年は、実に人をイラつかさる笑みで首を振る。その顔をよく見れば、そこに当然あるはずの円錐形の耳飾りが無い。
「違うよ。オレだよオレ、アンタら曰く偽物である
ネボラCEOが疑念を滲ませた声で問いかける。
「何故貴方が此処にいるのかしら?…………エラン・ケレス」
「じゃあ、諸々の種明かしと行こうか」
この場の空気は突然の乱入者によって完全に支配されたのだった……