ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話   作:冬に生まれたかも

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計画通りだ

 

 エラン・ケレスはどんな軌跡を辿って此処まで至ったのか。それを説明するためには時は審問会の終了後まで遡る。

 エラン・ケレスと強化人士5号は、カテドラルの協約、倫理問題の件、つまりはガンダムの製造疑惑と強化人士計画の真偽を問い質すために、ペイルが召喚され、あの一連の問答を行った広間から少し離れた個室にて、合流することに成功していた。

 これは、5号が公の場で本物(オリジナル)のエランを再現をさせねばならないと、多くの時間を、エランの過去の行動の記録をその頭に濁流の様に叩き込められたことに起因する。

 あの審問会の最中、5号は無意識のうちにエランをずっと目で追っていたのだ。

 だから、エランからの呼び出しのアイコンタクトに気付くことができた。

 本当に自分を呼び出したのかは半信半疑であったが、それを確かめるために、広間からの退出が命じられた後に「雉撃ちに行ってくる」とCEOたちに嘘を吐いて離れ、廊下を少し歩いてみれば直ぐに本物様に声を掛けられたのだ。

 

「よぉ。はじめましてだねぇ、オレ」

 

 やはり、あのアイコンタクトの意味は呼び出しで正解だったらしい。

 そうして、2人で歩いてそのまま空いている部屋に入っていった。

 

「それで?一体何の用で僕を?」

「単刀直入に行こうか。オレと一緒にペイルテクノロジーズを滅茶苦茶にしてやろうぜ」

 

 まるで冗談を言う調子で軽々と重たい問いかけを投げる。

 

「どうやって?詳しく聞かなくちゃ、いきなりそんな話しをされても乗れないよ」

 

 が、自分の人生が懸った状況だけあって5号の受け答えは重たい。

 その姿勢からは、自分の命を守ることを何よりも上に置く価値観を読み取らせる。

 

「強化人士計画を使う」

「その策はもう潰されたじゃないか」

「だからコレを使う」

 

 そう言って、いつの間にか手に持っていた通信端末をいじるとそれを机の上に置き、自身は体を5号の横に移動させ隣から言葉を続ける。

 机上の通信端末に表示されているのは或るニュースだ。審問会の中、2人のエラン・ケレスが上段の席と証言台の横で視線を交わしている写真付きの。

 

「何でこんな写真が?世に出るにしたって早すぎる……」

「オレだから」

「?????」

「オレが流出させた。君が入ってきて直ぐに目を合わせてくれて助かったよ。ヴィムさんとニューゲンCEOがバチバチやってる時にはもう世に流れてたぜ」

「頭がおかしいんじゃないか?」

「そんなに褒めんなよ」

 

 そう言って照れや恥じらいの表情を一切見せずに応える、自身の行動に絶対の自信を持つかの様な態度は、こういった場面ではある種のカリスマ性に似た何かを感じさせる。

 それが5号に、話の続きを聞く気にさせる。

 

「それで?それからどうするのさ」

「席替えだよ、席替え」

「つまり?」 

「君は、今日からエラン・ケレスだ」

「アンタは?」

「君に成り代わってペイルに潜り込む。それからの事は、君はヴィムさんの指示に従ってれば良い。オレのフリをしながら」

 

 エランの話す作戦を聞き、5号は深く考え込む。その間、隣でニヤニヤと笑顔を浮かべる少年は黙って答えを待っている。

 

「もし僕が断ったら?」

「断らないよ」

「なぜ?」

「だってお前、嫌いだろ?ペイルテクノロジーズも今の自分の状況も」

 

 心根を見透かされたような発言に押し黙るしか無くなる。

 そうして、まんまと5号は承諾した。

 

 そう……当然こうなるのだ。

 人を人として扱わなかった故の離心。

 裏切られるのは4人のCEO(ババアども)……!

 地位だけで汚い手を押し通せると勘違いしたマヌケどもだ。

 

 だから、いとも簡単にエランはペイルに潜入することを成し遂げたのである。

 

 

 

 ペイルテクノロジーズに潜り込んでからの日々は全くもって予定通りであった。

 連日の記者会見に駆り出され、ベルメリアの後釜からの検査は逃げおおせる。

 移動中にはコソコソとシャディクと連絡を取り合い、裏で手を進める。

 強化人士としての試験、実験も翌日の体調不良の可能性を盾として躱し続ける。

 ペイルが演技のできる、代替品エランを1人しか用意しなかった間抜けさに、随分と手間が省けた。

 ただ一つ、都合良く進まないことと言えば強化人士4号との接触が、思うように行かないことだ。

 暇を見つけては顔を見せに行っているのだが、返ってくるのは「興味ないよ」「鬱陶しいよ」などの返事ばかりで、エランは4号の内面に入り込めずにいた。

 

 そうこうしている内にやって来てしまったファラクトのお披露目会。

 本来ならば、ペイル社内に同じ顔の人間がいる事をバレるのを防ぐためにエランは待機が命じられていたのだが、そっとシャディクに連絡を取り、内密に会場内まで忍び込んでいた。

 現在はモニターにファラクトの勇姿を流して、観客の興味を一点に惹きつけている。

 もう少々の時間が過ぎ去れば、パイロットの紹介が始まる。

 できれば、この前日までには強化人士4号を仲間に加えておきたかったのだが、4号の凍りついたような心には到頭、触れることすら叶わなかった。

 人の心だ。できるだけの事はしたと割り切って、そして覚悟を決めてエランは4号の居る控室に足を運んだ。

 

 プシュッと音がして開いた扉を4号は椅子に座ったまま、首だけ動かして無感情な瞳で視線を向けた。

 入って来たのは、自分とは違い表向きにエラン・ケレスのフリをするために顔を変えられた強化人士の少年だった。

 髪と瞳を隠すように深く帽子を被っていたが、部屋に入るなり直ぐに脱いでしまったから分かったのだ。

 

「お前も運が無いよな、操縦が一番上手かったからって最初のパイロット役なんぞに選ばれて」

 

 嫌味を言いにきたのだろうか。僕にそんな話をしても意味なんか無いのに。

 そう思い、いつもの様に無視をしているといつの間に淹れたのだろう、目の前にコーヒーが差し出される。

 

「せめてもの労いだよ。大丈夫だとは思うけど今日……死ぬなよな」

 

 そうして4号の前にカップを置くと自分の分も注ぎ、最初の一口だけゴクリと音を立て、その後はチロチロと飲み始める。

 そして自身が飲み終わったタイミングで「お前は飲まないのか?」と言うかの如き視線で見つめてくる。

 それが鬱陶しく感じられ、サッサと出て行って欲しいと示すように、目の前のその黒い液体を一息に飲み干した。

 が、その意図は伝わらなかったらしく、彼はまだツラツラと雑談を続ける。

 

「なぁ、知ってるか?本物(オリジナル)のエランは操縦が下手っぴで、なんでもジェターク社のMS(デスルター)に乗った時にはゲロをぶち撒けたらしいぜ」

「興味ないよ」

「いや、此処からが面白いんだよ。それでね、それからは彼、普段から酔い止めを持ち歩く様になったんだってさ」

 

 やはり、どうでも良い話だったので無視を続ける。

 

「で、彼が持ち歩いてる薬品がコレ……効能は胃酸の分泌を抑えるのと自律神経を抑制するものだ。だけど量を間違えるとね厄介な副作用が付いてくるんだ」

 

 サっきから彼ハ何を話してイるのダろ……う……

 

「それはね、吐き気と目眩に眠気、果ては幻覚作用まで……どうだい?クラクラしてきただろ?」

 

 眠気を覚ますために頭を机に打ちつけるが、4号はそのまま顔を上げることができずに、微睡みの中に誘われていった。

 眠りにつく直前、目の前にケーキと蝋燭の光が灯る幻覚を見ながら……

 

「おやすみ4号。君の弱点は自分の命に価値を見出せなかったことかな。人に興味を持てないってのは、相手を無根拠に信じるのと同等のリスクがあるもんさ」

 

 それだけ言うと、スースーと寝息をたてる4号の顔に手を伸ばし、その耳からシルクの耳飾りをそっと奪い取り、自身のものをそれと取り替えて、カップとコーヒーサーバーを回収してからフラフラとした足取りで、会場のモニター付近へと向かって行った。

 

 

 

 自分が演技しなければならないのが4号で本当に良かったとそう思いながら、エランはコクピットへと腰を下ろした。

 舞台上での挨拶をしている最中、とても笑顔なんて作れる余裕は無かった。

 今、エランが苦しんでいるのは、酔い止めによる副作用だけでは無い。

 その副作用を抑えるための薬による副作用だった。

 幻覚と吐き気と眠気を抑える薬、その副作用は呼吸の抑制と集中力の低下だ。

 つまり、絶対に運転なんかしてはいけないコンディションだ。

 だけども泣き言を言ってられる場面では無いのだからと、必死に自分を奮い立たせる。

 そう自分と戦っていると遂に、ファラクトが宇宙空間へと射出された。

 

 GUNDフォーマットを起動すると即座に、体に異変が感じられた。

 神経伝達物質の抑制を無視して、パーメットが脳に情報を洪水のように叩き込んでくるのだ。

 そう、まるで脳に手を突っ込まれるようなザラついた……

 それを無視して、コクピットのディスプレイに遠くに映るディランザを標準に定め引き金を絞る。

 ファラクトは万全のパフォーマンスを発揮していると観客たちに思わせねばならないのだ。

 そんな調子で対戦を続ければ、ディランザが中距離にまで迫ってくる。

 それに対応するためにはビット兵器(コラキ)を使用するしかない。しない訳にはいかない。

 

「パーメットスコア3」

 

 覚悟を決めて呟く。

 両肩のアーマー裏からビットが展開される。それを操って、あたかもディランザを仕留めるような動きをさせる。

 

 息が苦しい。

 息が吸いたい……息を吐きたい……

 だけど満足に呼吸ができない。

 酔い止めは無意味となった癖に、呼吸の抑制はその役割を休まずに律儀に果たしていやがる。

 誰なんだよ……過去の事例を見てもスコアを4まで上げなければ死にはしないとか考えて、こんなサブプランを用意した奴は……ぶっ殺してやる。

 いや……オレなんだけどさ……

 ダメだ……意味のない思考が混ざってくる……操縦のみに集中しなくては……

 完璧に操縦しきれていると全員に判断させなくては……

 ビットの有機的な操作は諦めて……パターンを作って運用……

 射撃は丁寧に……丁寧に……狙って……撃つ……狙って……撃つ……

 この苦しみが続くとしても、後ろに下がり続けろ。長引くことを恐れるな……わざと手を抜いてると判断されたら全てが台無しだ……機動力を活かすんだ。

 

 コクピットのディスプレイに強い光が映し出され、あまりの眩しさに目を細める。

 そして次の瞬間にはコクピットから外の景色が見えなくなる。

 意識が落ちたのかと心配になったが、目は開いている。

 それを確認した後にようやく、ファラクトの頭部を切り飛ばされたのだと、勝負に決着が付いたのだと分かった。

 

 宇宙空間から回収され、MSハンガーまで戻ってくると、コクピットを即座に開き、周りのスタッフの静止も、自分の体の悲鳴も、フラつく脚も無視して、観客にだけは見られないようにと最低限だけ注意して、何度も転びながら4号の控室まで走った。

 そして中に入り、いまだに椅子の上で眠り込んでいるのを確認すると、自分が預かっていた(奪い取っていた)耳飾りを彼の耳に戻す。

 そして、自分がこの部屋にいた痕跡が残っていないことを確認し、シャディクに連絡を取って回収してもらい、ペイルテクノロジーズ本社まで送ってもらう。

 今日の最後の一踏ん張りのために此処で寝ておきたかったが、眠気覚ましの影響で一睡もできなかった。

 流石ベルメリア特製薬である。これは恨み言だ。

 

 それから程なくしてCEOたちと、眠ったまま拘束された4号が帰ってきた。

 此処までは概ね計画通りだ。

 

「良し、じゃあ最後の仕上げと行こうか」

 

 他に誰もいない部屋で、独りごちると颯爽と会議室へと向かって行った。

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