ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
ミオリネは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のエランを叱らねばならぬと決意した。
ミオリネは、人の多い会場の中、矢の如く走り出た。
そうして、ミオリネはエラン・ケレスと同じ顔をした少年の眠るオフィスまで何よりも速く、帰ってきたのだ。
勢いよく、扉を開けて中に入れば、彼はまだ、スースーと寝息を立てて静かに眠りこけていた。
それを無慈悲に叩き起こす。綺麗な丸い後頭部を叩けばドスッという鈍い音が響く。
グーで思いっきりやったから。
「お……お帰りなさい……」
少年はその整った顔立ちに涙を滲ませながら、とりあえず挨拶をすることで相手の反応を伺う。
そんなマヌケ面を冷たい目線で睨みつけるミオリネは、その不機嫌さを隠そうとしないまま、自らの疑念を相手にぶつける。
「アンタ誰?」
問いただす声色は父に似て、真実以外を述べるのを許さないという気迫が籠っていた。
「いつバレた?」
「馬鹿にしないで。違和感は前からあったわ。でも確信に変わったのは今日よ。あんなヘナチョコな操縦を見たら、誰だって気付くわよ」
「なんだ、アッチのミスか」
自分の演技力に、密かに自信を抱いていた強化人士5号は、そっと胸を撫で下ろした。
ミオリネにすら正体を隠し切れていたのであれば、他の誰かにバレている確率は極小であろうから。
「いいえ、決め手はアンタよ」
「なんだって?」
何か取り返しのつかないミスをしていたのかと、過去を振り返るが自分では気づけない。
「すまないが分からない。僕の何がダメだったんだ?教えて欲しい」
これに対してミオリネは大袈裟に
一体誰に似たのだろうか。
「エランの寝顔はもっと汚いのよ。デスクの上、水たまりが出来て無いじゃない」
「そんなことで…………」
取り敢えずはミオリネ──もしかしたらベルメリアも──以外には気づかれないミスだったようで、その点のみは安心する。
ミオリネは可愛らしかった顔から尋問官の顔に戻り、再び5号に問いかける。
「アンタはアイツに成りすまして裏で何をしてたのよ。嘘や誤魔化しは許さないわ。キリキリと吐きなさい」
有無を言わさぬ迫力だ。これに5号も観念し、自分が指示されていたことを余すことなく話し始める。
5号は自分が何よりも大事なのである。
「実はね、
会議室の中、CEOたちから注目を集めていたエランは、いつも通りの自信に満ち溢れた人を苛立たせる表情を──自分を奮い立たせるためにも──貼り付け、自分が作り上げたペイルの状況を説明していた。
「だからね、あなた方が強化人士5号だと思ってたのオレなんですよ」
「確かに驚いたわ。でもそれが何だと言うのかしら?」
「惚けないでくれよ。此処まで言って、何も察せないあなた方じゃないでしょう?強化人士を1人、ヴィムCEOが手元に抱えてるって言ってるんだぜ?」
それでもニューゲンCEOはポーカーフェイスを保とうとするが、他のCEOたちは顔を強張らせる。
「アハ、余裕が剥がれてきたねェ」
「良いから、続けなさい」
それに気を良くしたエランは、入室時からその手に持っていた資料を、CEOたち4人の前に投げ捨てるように放る。
そして、視線でそれを見るように、未だ不気味な微笑みを保つニューゲンCEOに促す。
ペラペラとその資料を捲るにつれ、冷や汗がその顔に浮かんでくる。
「これは……」
長い長い正座の後、5号は痺れる足を摩りながら、ヴィム・ジェタークと合流した。
その場所は、豪勢な料亭だった。
「ワハハハハ、まさか息子たちに教えるよりも先に、お前をこんな会食に呼ぶ日が来ようとはな。エラン」
「光栄です」
意外にも、ヴィム・ジェタークは演技派らしい。自分を完全にエラン・ケレスとして扱う表情には、微塵も違和感がない。
2人がこれから行うのは、仲良くお食事して、5号が本物であるとアピールすることでは無い。
これから人に会うのだ。
今後のペイル攻略の鍵を握る超重要人物であると5号は聞かされている。
そして、暫くの時間の後にその人物と料理越しに対面する。
その人物とは、仕立ての良いスーツを身に纏った高年の恰幅の良い人物だった。
その男性に5号は微かに見覚えがあった。
しかし誰なのかが思い出せない。喉元までは来ているのだが……
困惑を表に出さずにヴィムとその男性、2人の会話を、最低限の相槌のみで様子を伺っていると、彼が誰なのか分かった。
彼はペイルの大株主の1人だった。
それさえ理解してしまえば、この場での自分の役割も自ずと察せられる。
「ならば、ジェタークくん貴方はペイルが企んだという強化人士計画は実際に行われていたと言いたいのですか?」
「ええ、その通りです」
「そして、ペイルが我々に発表した。ジェターク社が、エラン・ケレスの偽物を用意したというのも嘘で、貴方はその被害者の1人を保護するのに成功していたと?」
高年の男は、疑いを隠さない目で5号を不躾に、舐めるように見つめてくる。
その気味の悪さに肌を粟立たせながらも5号は自分の役割を果たすべく、自身の体を赤く発光させる。
5号の腕、首筋、頬に浮かぶ燃えるような赤い光に、男性は顔色を変えると、畏まった様子でヴィムに尋ねる。
「何が望みなのですか?」
「ジェターク社はカテドラルの協約に従い、もう一度、審問会を開き、今度こそペイルテクノロジーズをベネリットグループから追放しようと考えています。しかし、そうなると貴方は大損害を被る訳だ」
「それで?」
「だが、今なら私がこの事実を握り潰しても良いと思っている」
「条件はなんですか?」
「貴方の持つペイルの株式を、ウチで全部、買い取らせて貰おう、株式交換で。それが条件だ」
「魅力的な話ですね、もしそれが本当ならば」
「お返事はファラクトのお披露目、その翌日まででお願いしますよ。しかし、良く考えてから行動して下さい。この話が外に出た時、損害を受けるのは、私と貴方どちらなのか」
そして、その会食は以降は何気ない雑談のみで終わり、解散となった。
あまりの緊張から解放された5号はフーっと長い息をつく。
疲労を溜め込んだ、力の無い5号の肩をヴィムが勢いよく叩くと、機嫌が良さそうに口角をあげながら声をかける。
「今日は良くやった。充分お前の役割を果たしたぞ」
「そうですか……ありがとうございます……」
疲れを滲ませながらもニコリと返す。
そんな5号はヴィムの続く言葉に絶望に落とされた。
「この調子で明日も頼むぞ」
「明日?」
「何を不思議そうにしている?ペイルの株主全員を回るんだぞ?」
目の前がクラクラとしてきた……
ニューゲンCEOが手に取った資料、それは自分たちペイルテクノロジーズの多数の株主たちのデータであった。
「ヴィムCEOが頑張ってくれましたよ。彼ら彼女らが、どう言った意味でソレに纏められた株主だか分かりますよね?」
「ええ、どうやら本当に私たちを追い込んだ。そう言いたい訳ね」
「引っかかる物言いだね」
「疑問に思ったの。なぜ貴方は今このことを私たちに話したのかって」
「へぇ」
エランが興味深そうに相槌を打って、続きを催促する。
「貴方は、今日この場で私たちの心を折る必要があった。何故ならまだ、証拠が足りていないから。と言うのはどうかしら?」
エランの顔色が変わる。それは青褪めているように見え、心なしか額に汗が浮かんでいる様に見える。
「それは違うぜ。時間は十二分にあった。全てを、シャディク経由でグラスレーに渡す準備も整ってるさ」
「ならその焦りようは……あぁそう言うことなのね」
「何が分かった……?」
ニューゲンCEOは相手の弱点を見つけたと、言わんばかりに意気揚々と続きを話し始める。
「貴方、今回の件はこのままじゃタダ働きじゃない」
「バレちゃいました?」
「これからの流れはこう、審問会が開かれる。そうしたらグラスレーが私たちを潰す。もしくは審問会は開かれない。そうしてペイルはジェタークに買収される。どちらにしても貴方には一切の得が無い」
ニューゲンCEOはまさに鬼の首をとった様に上機嫌に続ける。
「何をそんなに余裕そうにしてるんです?
「そうならない選択肢があるじゃない。それが貴方の望みでしょう?」
「あーあ。それはコッチから提示して、有利に話を進めたかったのに……」
「ツメが甘かったわね」
事態を静観していた、3人のCEOが希望に満ちた目でニューゲンを見つめる。
「エラン・ケレス……貴方にペイルテクノロジーズのCEOを譲るわ。そのために、危険を犯してまで5号のいる次期後継者に成り代わったんでしょう?」
「条件は?」
「もちろん、私たちの今後の生活の保障、安全の保障、それ相応の資産の譲渡、こんなところかしら?」
「吹っ掛けすぎじゃない?安全の保障だけじゃダメかな?」
「いいえ、資産の譲渡は譲れないわ」
「なら、オレから出せる額はこれ位かな」
「少なすぎないかしら?」
「これ以上を望むなら、安全の保障は無しね」
「でももう少し、色を付けられるわよね?」
「仕方がないね」
一通りのやり取りで、疲れ切った顔色で俯くエランに、4人のCEOたちが、してしてやったり、と言った表情を浮かべている。
つくづく間抜けな連中だ。
心理戦の基本が分かっていない。相手を屈服させ、凹ませる、それが勝ちなのでは無い。
相手に気持ち良く、ハズレを引かせるのが勝ち筋。
ちょっとのお金と、ちょっとの集めた証拠、ほんの少しのモノを対価に…………
「あー」
「どうしたのかしら?」
「やっぱり、今の全部無しで」
「は?」
その時、突然に会議室の扉が開く音が響く。
そこからスタスタと足音を立てて、その高貴なオーラを放ちながら、エランに近づいていく少女がいる。
ミオリネ・レンブランだ。
そしてそれに続くように、大変顔色の悪い男たちが、情けなく入室する。
強化人士5号とシャディク・ゼネリだ。2人とも青褪めた表情で、バツが悪そうに、また、可哀想なモノを見るような表情でエラン・ケレスを見つめている。
これから起こることはもう分かる。全部バレたのだ。このお姫様に。
「アンタ、勝手に私の会社から抜けようとしたわねッ」
「そんな訳ないでしょ」
「証言は揃えてんのよ」
「誤解だって。ペイルには此処で退場して貰う」
そう言ってエランは5号に近づくと、彼の着ている服のポケットを弄る。
そこから取り出したのは録音機だ。
「ヴィムCEOにはペイルの買収を諦めて貰おう。ここにインサイダーの証拠もあるから……」
そう言って、エランはミオリネに身の潔癖を示そうとする。
「なら、なんでそんなに顔色が悪いのよ」
そう詰め寄って、胸ぐらを掴み上げる。
「あっ……待って……揺らさないで……」
「は?」
急いで、エランはミオリネを突き飛ばし、顔を誰もいない方向に向ける。
ピシャッ……ピシャッ……
オロロロロロロロロロロロロロロッ
当たり一面に酸っぱい匂いが広がる。
薬の効果が全て切れたのだ。
幸いにも今日は何も食べていなかったので、その中に固形物は無かったが、胃液が床に撒き散らされたのである。
「「「キャアアアアアアアアア!!」」」
「「「ギャアアアアアアアアア!!」」」
その場のエラン以外の全員が悲鳴をあげた。
「ゼェ……はぁ……はぁ……あっダメだ、目がまわる。立ってらんない」
吐瀉物の中にダイブしそうになったエランを、なんとか急いで飛び出したシャディクと5号がキャッチする。
混沌とした場でミオリネが、全ての状況を無視して声をあげる。
「そう言うことになったから、ペイルテクノロジーズもここまでね。それじゃ、さようなら。帰るわよ、シャディク、偽エラン」
ミオリネが颯爽とその場を後にすると、それに続くようにエランを両サイドから支えた男2人が続く。
その彼女の背中にエランが声をかける。
「帰る前に……4号を回収してくれ……頼む……あっ……意識が……」
動くことの無くなった酸っぱい匂いのエランを、ジャンケンに負けたシャディクが背に抱えると、今度こそペイルから侵入者全てがいなくなった。
沈黙に支配された会議室でニューゲンCEOの声が響く。
「ミオリネ……レンブラン!」
それに続くようにゴルネリCEOの声も響く。
「掃除……していきなさいよ!!」