ソロ冒険者・ホロウの日常   作:流々毎々

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結構流行ってるファンタジー系ダンジョン物語を書きたくなったので書きました。


プロローグ

 

「ふぅ・・・ふぅっ」

 

 四方を壁で囲まれた、薄暗く狭い通路を一人の男が道の奥へ奥へと逃走する。

 

「はぁ・・・はぁっ」

 

 その男は闇に溶け込むような黒色の厚手の外装(コート)を身に着け、一定の間隔で吐息を吐き続ける。外装による厚着のせいか、はたまた長時間走り続けているせいか、額に汗が滲み出ているその有様はまるで何かから逃げているようであった。

 

(くそ、失敗したぜ!)

 

 息を乱さぬため、男は走りながら心の中で悪態を付く。

 そう、この暗がりの場所にいるのは男独りではなかった。

 

 薄暗い、まるで地下通路のような場所を走る男の背中。その僅か30メートル後ろに男を猛追する数多の追跡者(プレデター)たちがいた。よくよく目を凝らして見れば、男を追い駆ける追跡者たちの異様な影は人型でないことが分かる。

 

(近道して帰ろうとしたら、とんでもないババ(・・)を引いちまった!)

 

 その影はみな一応に視線が低く、赫く妖しく揺らめく眼光は暗いこの通路の中でも異様なほどに目立つ。

 四つの手足で以て地を力強く駆けるその姿は猛々しい四足獣そのもの。

 

「まさか”魔狼”の群れと会敵しちまうなんてよォ!」

 

 運がない。そう独り言ちる男は肩越しに自分に迫りつつある化外(モンスター)の群れを確認する。並みの大型犬の三割増しの体高に鋭く尖りぎらつく鋭歯。野生の熊のようにデカい手足から生える五指の厚い爪など並みの刃物より危険な凶器であろう。

 無尽蔵にも思えるその体力は、既に10キロ近く通路を爆走しているにも関わらず一向に衰えを見せない。

 

 そんな捕食者たちが目算で十数体。狭く隠れる隙間も他者の救援も望めないこの場所で自分を襲うために猛追してくるのだ。

 なんともまあ、絶望的な状況である。

 

 男が捕食者に食われるだけの只人であればの話だが。

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・、っ。ここは!」

 

 永遠に続くかと思われた男と化外どもの追跡劇。しかしそれは薄狭い通路から唐突に開けた空間に男が飛び出た事により終わりを迎える。

 

 男が入って来た通路の入り口から約五十歩先に見える巨大な壁。左右を見渡してみても逃げ込めるところはない。

 

「行き止まり、か」

 

 ただ、だだっ広いだけの場所。つまるところの袋小路になっている大部屋。

 もはや男は他の場所へ逃げること出来なくなってしまった。

 

 そこへ狼の形をした化外どもがなだれ込んでくる。男が魔狼と称した存在は、行き止まりの部屋の中央で立ち尽くしている彼ににじりじりと近付いていく。

 まるで逃げ場を失った獲物の姿を嘲る様に。

 

 そんな化外たちに向かって男は呟く。

 

「獣もどきが追い詰めたつもりかよ」

 

 こちらに振り向いた男の表情を見た追跡者たちは疑問を抱く。これまで何度も行って来た狩り。その犠牲者たちが抱く思いはいつも同じであった。

 

 絶望。悲観。そして諦めの心境。化外たちはこんにちまでそんな獲物を食らい己の血肉に変えて来たのだ。

 だがこの男は他の獲物と違いそんな思いを一切抱いていない。

 

 姿形は狼のそれに類似すれど、その本質は間違い無く既存の生物から外れてしまっている化外たちは男の態度を訝しむ。

 

 されども多少の知恵があったところで化外は化外である。理性よりも本能が勝る彼らにとって、降って湧いた違和感など捕食の愉悦を前に容易く流れ去った。

 

 獲物を食らう為、追跡者たちは再び男に向かって歩み始める。

 そんな化外の様子を冷めた目で眺めつつ男は言葉を吐く。

 

「俺はただ逃げてただけじゃない。探していたんだよ」

 

 狼たちはさらに彼へ近付く。もはや化外たちに男の言葉は聞こえていない。

 

「お前さん方を、まとめてぶっ飛ばせる開けた場所(ここ)をな」

 

 自分に接近してくる化外に向かって、男は外装の袖からゆっくりと己の両の掌を出した。

 親指と人差し指の腹を合わせ、他の指は握り込む独特の手の形。そして左右両方の手を化外たちに向け、男は標準を合わせる。

 

「覚悟しろよ化外ども。お前さん方はもう尋常な死に方は出来ないぞ」

 

 もう男と化外たちの距離は五歩より短い。

 

 今にも飛び掛かって来そうな化外たちに向けて男は火口(・・)を切った。

 

――――――――――

―――――

―――

 

 ここではない何処か。世界さえ隔てた巨大な大陸に3つの大国と7つ小国があった。

 

 一の大国。グウレード王国。

 

 二の大国。神聖スウシャール国家。

 

 三の大国。ハイリーナ帝国。

 

 そしてそれぞれの大国に隣接する7つの小国。この10の国がこの世界で現存する、人が文化的に生活が出来る国々であった。

 

 3つの大国は表面上こそ良好な関係を築いているように振舞っていたが、水面下に置いては常に相手の国力を削ぎ自国に取り込もうとする火花を散らす間柄である。

 

 一の大国は武力と国民の数に優れていた。グウレード王国の優秀な兵士たちは、並みの大人10人分の戦働きをすると讃えられている。この国が正面から戦えば、他の2国であっても勝利するのは難しい。

 

 二の大国は生産力に優れていた。優れた技術、食物を育てるのに適した土地。何よりも宗教を軸にした国家体制は国民の愛国心と選民意識を強めた。

 結果、年中通して戦い続ける事が出来る三国随一の持久力(タフネス)がこの国には備わっているのだ。

 

 三の大国は他の2つの国家に比べれば突出した面はない。ほどほどの軍事力とほどほどの生産力を持った中途半端な国力。

 しかし、3つの大国の中で一番多くの小国と同盟関係であった。

 

 武力に優れ1つの小国を属国化しているグウレード王国。

 

 信仰により並々ならぬ継続戦闘力を持ち2つの小国を己が宗教の教えで染め上げた神聖スウシャール国家。

 

 そこそこの国力と残りの4つの小国と同盟を結んでいるハイリーナ帝国。

 

 世界はこの3つの大国を中心に三つ巴の睨み合いが長年続いていた。完全な拮抗状態に陥っていたこの3ヵ国は水面下を除けば、ある種の平和な状態を保ち続けていた。

 

 3つの大国と7つの小国。合わせて10の国々に突如として出現した”迷宮(ダンジョン)”が現れるまでは。

 

 迷宮はある日、突然国の中心部にその姿を現した。

 大きな門を携えた入り口。その奥にはまるで地中に降りて行くかの如く通路と階段が鎮座していた。

 

 突如起こったこの異常事態。10の国々は3日と開けずにすぐさま調査に乗り出した。自国で用意できる最優の兵士。最高の武装。万全を喫した彼らが迷宮で見たものとは、この世のどこにもいない化外(モンスター)の存在であった。

 

 子供の頃、寝物語に聞かされていた怪物。神話に登場する異形共。各国に現れた迷宮の中は幻想(ファンタジー)で溢れ返っていたのだ。

 3つの大国はこの事態を重く受け止め、即座に迷宮の制圧に赴いた。

 

 しかしその結果は惨敗。大国が用意した最優の兵士も最高の武装も、迷宮の中にいた化外どもを倒すにはいたらなかった。

 古今東西、化外を打倒するのは伝説の超人(えいゆう)のみ。物語の怪物も神話の異形も只人が相手にするには重すぎる相手であったのだ。

 

 唯一の救いはこの化外共は迷宮の中から外に出る事が不可能な点であった。どれだけ狂暴で恐ろしい怪物たちも迷宮の入り口まで近付くと例外なく体を返して奥に引き返してしまうのだ。

 

 この事実を前に3つの大国は取り敢えずは最低限の安全の保障が確認出来たと判断して、いったん迷宮の攻略を諦める事にした。

 そして迷宮から持ち帰った数少ない成果を頼りに打開策を練る方向にシフトした。

 

 だが各国共々思うような結果が得られずいたずらに時間が過ぎて行く。

 

 そして10の国々に迷宮が現れてから約3年。予想だにしない悲劇が起こる。

 迷宮の中にくすぶっていた数多の化外たちが、外に溢れ出て来たのだ。

 

 当時の人類には知り得なかった事であるが、実は迷宮の中にはこの世界に存在しない未知の(エネルギー)が充満していたのだ。その力が迷宮の中に存在する生物に変化を与え異形の怪物にしてしまっていた。

 この力が3年かけて迷宮内に溜まり、外に溢れ出してしまったせいで化外の存在達も外に縄張りを広げようとしたのだ。

 

 結果的に多くの人間が迷宮から出て来た化外に命を刈り取られて行った。さらに問題はこれだけに留まらない。

 迷宮の生物に影響を与えていた未知の力は人間にもその効力を発揮し始めた。

 

 ある者はその力に侵され壊死し、またある者はその力にあてられて精神を病み廃人と化した。人類に訪れた始まりの黙示録。

 だが迷宮が人間に与えたのは害だけではなかった。

 

 化外たちが国に蔓延るようになって幾日もしない内に迷宮の未知の力に適合する人間が現れたのだ。その者たちはまるで物語から出て来たかのような超常の力を行使する超人となった。

 彼らは伝説の英雄の如く、国に溢れた化外共を駆逐し迷宮の中へと押し返した。

 

 さらに彼らの力は国の兵士が惨敗した迷宮内を探索することさえ可能にした。そいて探索以前は怪物しか存在しないとされていた迷宮の中は宝物で満ちていた。

 

 大きな外傷を手間なく治せる特殊な薬(ポーション)。人間に様々な効力を与えてくれる特別な装備(アーティファクト)。そして溢れ出る黄金や金銀財の宝物。

 

 これらは迷宮が明確に人類へと与えた唯一の幸であった。

 

 それから3つの大国と7つの小国は迷宮の力に適応した超人の量産に躍起になった。超常の力を扱える彼れらの存在が多ければ多いほど、これからの時代の中心を担えると確信していたからだ。

 

 一の大国、グウレード王国では迷宮の力の事を”闘力(オーラ)”と称しこれに適応し覚醒した者を”戦士(ソルジャー)”と名付けた。

 

 二の大国、神聖スウシャール国家では迷宮の力の事を”聖力(プラーナ)”と称しこれに適応し覚醒した者を”神人(プレイヤー)”と名付けた。

 

 三の大国、ハイリーナ帝国では迷宮の力の事を”魔力(マナ)”と称しこれに適応し覚醒した者を”魔法使い(マジックマスター)”と名付けた。

 

 それからの人類は徐々に迷宮の力に適応して覚醒した超人たちを増やし、国を主役とした前時代から迷宮を中心としたダンジョン時代へと移り変わって行く。

 

 迷宮がその姿を現してから50年。現代の世はまさに大ダンジョン時代へと様変わりしていた。

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