ソロ冒険者・ホロウの日常   作:流々毎々

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迷宮専門総集組合所

 

 ”ギルド”。正式名称”迷宮専門総集組合所(ダンジョンズギルド)”。

 それは大小10の国家から迷宮に関する全ての運営を委任された商業組合である。迷宮潜りを生業とする冒険者にとっては切っても切れぬ隣人でありビジネスパートナーだ。

 

 迷宮に関わる組織としての性質上、ギルドの役割は多岐に渡る。迷宮内でのトラブル解決や冒険者への"依頼(クエスト)"の斡旋。さらに迷宮から出土する恩恵の適切な売買商業など、手広く活動をしている。

 

 また国から運営を一任されている性質上、両者の関係性はずぶずぶ・・・もといとても良好な中である。

 

 基本的に迷宮潜りの冒険者はこのギルドを通して迷宮内で得た富を捌き生計を立てている。

 そしてこの迷宮の恩恵の売買は、ものにもよるがギルドを通さないやり取りを原則禁止している。

 

 仮にこの事が明るみになれば違反者は、最低でも国が定めている二級罪人者(重犯罪者)として処理され、鉱山での重労働や長期間の服役などの厳しい罰則が待っている。

 

 さらにルールを破った者が冒険者であれば、ギルドが発行している冒険者免許(ダンジョンライセンス)を、平民であれば市民権を剝奪されてしまう。

 このことから、国がどれだけ自分たちの管理下に無い迷宮の出土品の蔓延を嫌っているのかが伺える。

 

 まあそれでも、国やギルドの目を搔い潜ろうとするもぐり(・・・)の冒険者というのはいなくならないのだが・・・

 

 ともかくまっとうな迷宮探索活動をしている冒険者とは、常にこのギルドのサポートを受ける事が決められているのだ。

 ソロ冒険者のホロウもそんなギルドの制度を利用する数多くの内の一人だ。彼もまた昨日の探索の成果を受け取るためにハイリーナ帝国に唯一存在するこのギルドに訪れていた。

 

 ギルドの所在地はハイリーナ帝国のど真ん中。中央街に位置している。より正確に言うのであれば50年前に突如として国々の中心部に現れた、迷宮を取り囲むようにして建造された3層からなる巨大な建物だ。

 

 この場所はまさしく国の経済の中心部。よってギルドには日夜、数多くの人々で溢れ返っていた。

 

 そんなギルドの入口の扉を開けたホロウは、ギルドの買取受付の場所に赴き列が空いてるカウンターにいる職員に声を掛けた。

 

「こんにちは。バルダーさん。昨日の探索の成果を受け取りに来たんだけど貰えますか?」

「こんにちは。ホロウさん。お待ちしておりましたよ。ギルドの発行した割札とライセンスの提示をお願いします」

「はいよ」

 

 ホロウはギルドの受付のバルダーの言うとおりに、冒険者のライセンスと受け取り番号代わりの割札を渡す。

 基本的にギルドでの迷宮の成果のやり取りはトラブル防止のためにその日の内に即金で支払われる。しかし中には様々な理由でそのビジネスが日を跨ぐ場合もあるのだ。

 

 その場合はギルドが貸出する割札と本人証明を確認するための冒険者ライセンスが必須になる。仮にこのどちらかまたは両方を提示できないときは中々にややこしい事態が冒険者には待っている。自分の家にそれらを忘れた位であればまだ取りに帰って注意されるくらいで済むが、紛失した時は最悪、成果物の没収もあり得るのだ。

 

 なので冒険者と言う人間は、日ごろから自分の持ち物に対して敏感でなければいけないのだ。

 

 バルダーはホロウから受け取ったそれらを、手元の名簿と照らし合わせ確認を終えるとカウンター内の席から立ち上がる。

 

「それでは迷宮の恩恵の買取金をお持ちしますので、この場で少々お待ち下さい」

「分かりました」

 

 ホロウ自身、ハイリーナ帝国での冒険者活動の歴は長い。そのお陰かギルドの職員の何人かとは顔見知りである。バルダーもその一人で、知古のある相手が担当だとこう言った日を跨ぐ成果物のやり取りもスムーズに進み易い。

 

 なのでホロウは基本的に顔見知りのギルド員とのやり取りを好んでいた。

 

 余談ではあるが、迷宮専門総集組合所の職員とはとても狭き門でありなりたいと思ってなれる職業ではない。普段から取り扱う物が物だけに相応の能力が求められるのだ。

 

 最低でも高等教育を終え、いくつかの資格と犯罪履歴の有無の確認。さらに自国内で市民権を経て3代以上続く家柄でなければならないなど、数多くの壁を乗り越えなければならない。

 そんないくつもの試練を乗り越えなければならないギルドの従業員とは並みの職業とは一線を画すエリート職なのだ。

 

 仮にそんな彼らにぞんざいな態度を取る冒険者がいたとすれば、その者は色んな意味で良い目に見られない。手遅れになる前にその態度を改めるかよほどの才能がない限り、状況を客観視できない常識の無いバカはこのギルドからそう遠くない内に去る事になる。

 

 逆に言えば、ギルド員に対する態度さえ気を付けていれば誰であっても彼らのサポートを受ける事が出来るのだ。なのでそこら辺を理解している冒険者と言うのは基本的にお行儀が良い(猫被りが上手い)

 少なくとも素面であれば、人目のある場所で悪目立ちする者はあまりいない。

 

 故に冒険者と言う鉄火場の近くに身に置く彼らの間には一定の秩序があり、よっぽどの問題児でない限りそれなりに平和に日々を過ごせる環境であった。

 少なくとも表に見える限りでは。

 

「お待たせしました、ホロウさん。こちらが昨日の買取金額になります」

「お、待ってました。ありがとうございます」

 

 じゃらりと硬貨の厚みを醸し出す小袋をトレイに乗せたバルダーが戻って来る。ホロウはさっそくその報酬を受け取るのと同時にバルダーがその金額を口する。

 

「報酬のお値段は大金貨1枚と金貨が2枚になります。どうぞご確認ください」

「あ、はい」

 

 大金貨1枚。ハイリーナ帝国に暮らす一般的な市民の月収が大金貨2と少しなのを考えると、あくまで純利益だけ見ればの話だがたった1日でその半分もの金額を稼げる迷宮潜りの成果は彼らのそれと比べると破格と言える。

 

 しかし、ホロウの顔色はあまり優れなかった。

 

「いかがなさいましたか、もしや金額が合わなかったでしょうか?」

「いや、そこは大丈夫でした。ただちょっと、ね」

 

 少ない。正確に言えば割に合わない。

 昨日の”魔狼”の群れとの望まぬ残業タイム(エンカウント)を加算すれば間違いなく市民の月収の半分程度では割に合わない金額だ。

 

 極論言えばこの金額はホロウが命をベットにして手に入れた報酬だ。ホロウはソロ冒険者なので迷宮の探索で得た報酬は全て独り占めできる。だがだからと言って、その金額がしょっぱいと感じてしまうとどうしても微妙な心境になるのだ。

 

「ギルドとしては適正な買取価格だったと自負しております」

「あ、いえ。そこは疑っていませんよ!」

 

 おそらくホロウの心境を読み取ったバルダーが、早めに牽制を入れて来た。いつの世も正しい事柄に対しても難癖を付ける者はいるからだ。

 

 そんなバルダーにホロウは慌てて訂正を入れる。流石にこんなつまらない事で今まで培ってきた信用関係に罅を入れるつもりは無かった。

 

 そもそも話。迷宮探索における労力とその恩恵の価値の有無は別問題である。どれだけ努力して時間を掛けようともゴミを拾ってきては二束三文の金にしかならない。

 逆に少しの労力で価値のある物を手に入れられれば、手間を掛けぬ分はそのまま丸儲けである。

 

 そこら辺の嗅覚の有無が優秀な迷宮潜りの証であった。

 

 まあ今回に限って言えば、迷宮の帰りに横着して普段使わない近道を通り化外(モンスター)の群れと会敵してしまったホロウの完全な自業自得なので誰にも文句など言えないのだが。

 

「まあ何と言いますか、最近は儲け話に中々出会えないなと思いまいして」

「儲け話でございますか・・・」

「ははは・・・」

 

 ホロウが紡いだ言い訳にどことなく呆れた雰囲気をバルダーは醸し出す。

 とは言え、ホロウがついそんな愚痴を溢してしまうのはしょうがない事でもあった。

 

 仮にホロウと同クラスの冒険者が数人のパーティーを組んで迷宮に潜れば、上手くいけば今回のホロウの10倍以上の稼ぎを叩き出すだろう。それと比べればどうしても今回のホロウの稼ぎは見劣りしてしまう。

 

「ちなみに何かいい”依頼(クエスト)”とかって入ってますかね?」

「今すぐご紹介出来る物ですと常時発注のものだけになります」

「あー、なりほど・・・」

「条件の良い依頼は他の皆様にも人気ですので。朝の時間帯でしたらもう少し違ったのですが」

「やっぱそうですよねー」

 

 冒険者が金銭を得る方法は主に2つ。迷宮に潜り得た恩恵を売りさばくか、ギルドが仲介をして発注している依頼制度を受けるかである。

 当たり前の事ではあるが基本、腕っぷしがあればどうとでもなる迷宮の探索と違いギルドの運営から紹介される依頼をクリアするには細々とした条件が付く。

 

 その条件も様々で何日の何時まで仕事の拘束時間があるだとか、どこどこに荷物を届けるだとか、この資格を持っていないと受けれないだとか、その内容も多岐に及ぶ。

 

 とうぜんこれらの条件を達成できなければ依頼は失敗。よほどその依頼内容が悪質でない限りはそれを受けた本人の評価が落ちる。

 なので依頼制度はどちらかと言うと戦闘能力よりは生活能力が高い方が有利だ。

 

 中には迷宮の探索よりこちらの依頼に比重を置いて生計を立てている冒険者もいる位だ。そんな奴は冒険者じゃないと非難する者もいるが、個々人の持つ色んな技能を腐らせず活用できる組織形態があるのは健全な証であろう。

 

「ホロウさんのご希望に添えぬようで申し訳ございません」

「いえいえ、こんな中途半端時間に来る自分が悪いので。それに今日は元々休む予定だったんで」

「左様でございますか」

「ええ。報酬も受けとったので今日は帰りますね」

 

 そう言って踵を返そうとするホロウにバルダーは声を掛けて呼び止める。

 

「ああ、お待ちをホロウさん」

「何です?バルダーさん」

「お節介かもしれませんが、仕事内容で悩んでいるのならパーティを組んでみませんか?」

「あー、パーティですか・・・」

「はい。ホロウさんはベテランのC級冒険者でありますし、このギルドに所属して幾年も経ちます。探索者として実績もありますので、もしよろしければギルドから他の方々に打診してみますが」

 

 ちゃんとした冒険者はギルドから発信されているサポートをいつでも受ける事が出来る。とは言えギルドは基本的に受け身の体勢だ。それらのサポートを十全に生かすにはこちらから積極的に声を発していかなければならない。

 

 なのでギルド職員の側からこのような提案をしてくるのはそれなりの信用がなければいけない。

 贔屓と言えばそうなのだが、ギルドとしてもこちらに貢献してくれる冒険者には長く活躍してほしいのが実情だ。

 

 なので多少の手間で済むのであれば、それらの裁量は各担当のギルド職員の判断に任せている。

 

 因みにギルドに所属している冒険者には階級が設けられており、その等級はA~Eの5段階だ。ホロウはちょうどその真ん中のC級に当たる。

 

 これらの階級の大雑把な区分訳をすると、E級冒険者は見習い、D級冒険者は半人前、C級冒険者は1人前、B級冒険者は1流、A級冒険者は超1流となっている。

 

「う~ん。せっかくの提案ですけどお断りしておきます」

「畏まりました」

「なんかすみませんね」

「いえ、ことらも過ぎた事をしてしまい申し訳ありません」

 

 ホロウとバルダーはお見合いのように互いに頭を下げて社交辞令の謝罪をする。

 

「それじゃあ、今度こそ帰りますね。バルダーさん、ありがとうございました」

「はいホロウさん。またのお越しをお待ちしております」

 

 ホロウはバルダーに別けれの言葉を告げるとギルドの入り口に向かって歩き出す。

 

「パーティ、ね・・・」

 

 小さな独り言をホロウは漏らした。先ほどのバルダーの提案は決して悪いものではない。そもそも命の危険が常にある迷宮内で、ソロで活動を続ける冒険者と言うのはほとんどいない。

 

 特定の仲間がいないものでもそう言った者同士で臨時のパーティーを組み、探索へと赴くのが常識だ。その枠組みから外れた冒険者と言うのは、脛に傷を持っているかよっぽど迷宮探索に向いておらず避けられたりと何かしらその人物の抱えている問題に理由がある。

 

 ホロウもその1人だ。ホロウ自身が抱えるとある理由。それのお陰で彼は長年パーティーを組めずソロで迷宮の探索を続けて来た。

 

 ホロウ自身、その問題を周りに風潮してきたわけではないのだがある程度このハイリーナ帝国で冒険者の活動を続けていれば自ずと知れてしまう。

 それくらいには目立つ問題であった。

 

 なのでバルダーの提案はありがたいとは思えども、ホロウにとって本人が言っていた通りに余計な節介でしかなかったのだ。

 例えパーティーを組み仲が良くなったとしてもホロウのそれを知れば高確率でパーティーは解散する。

 

 そんな気不味い思いを味わうのであれば、ホロウは独りでいたほうがマシであった。

 

「あー、やめやめ。センチメンタルは俺には似合わねぇ」

 

 ゆるりと首を振り、気分を変えたホロウはどこかに飲みに行くかと足を速める。そしてちょうどギルドの入り口が見えて来る場所でとある一団が目に入った。

 

 彼らパーティーであろうか。ギルド内に設置されているテーブルを囲んだ4~5人の男たちが何やら顔を突き合わせて話し込んでいる。

 その内容は距離もありホロウの耳には聞こえてこなかったが、鎧を着こんだ体に剣や盾をテーブルに掛け立てているその集団はそれなりに目を引いた。

 

 何だかんだとそれなりに長い年数をハイリーナ帝国で過ごしてきたホロウも見かけた事がなかった顔ぶれであったからだ。

 

(他所の国からの転身組か?)

 

 ”魔法使い(マジックマスター)”の多いハイリーナ帝国ではあからさまに戦士然とした姿の冒険者はかえって珍しい。武器や鎧をきっちり用意して迷宮探索をするのはどちらかと言えば他の2つの大国の冒険者の特徴だ。

 

 とは言え迷宮探索が当たり前になったこの時代で国から国への行き来は、50年前に比べれば難しい事ではない。面倒な手続きと諸々の出費による金が必要となるが、それらさえどうにか出来れば国境を跨ぐことができる。

 

 特に迷宮探索に明け暮れる冒険者なぞ常に命の危機が隣り合わせの職業である。少しでも自分に有利な環境に身を置くために故郷から他所の国移り住むものも珍しくない。

 

 かくいうホロウもそんな転身組の一人だ。ハイリーナ帝国と同盟を結ぶ小国の1つで生まれ育ったホロウは、その故郷でC級冒険者になったのち他の小国の迷宮を数年かけて踏破してからこのハイリーナ帝国にやって来た。

 

 なのでホロウの視線の先にいる彼らが他所から来た冒険者だったとしても気にする必要は無いと言えば無いのだが。

 

(どうにも目を引きやがる)

 

 所謂第六感。

 彼らの纏う雰囲気かそれとも見慣れぬ装備故なのか。どうにも彼らの姿はホロウの好奇心を刺激した。

 

 しかしそんな風にじろじろと見ていたせいだろうか。その集団の一人がホロウに気付き、こちらへ視線を向けて来た。

 

 濃い橙色の髪を短く刈り上げている彼は、ホロウと目線が合うと何か用があるのかと言わんばかりに古傷が残った片方の眉毛を持ち上げた。

 

 これに慌てたのはホロウの方である。いくら見慣れぬ集団がいたとしても、初対面の相手を露骨に観察するように注目するのは流石に礼儀を欠く行為だ。

 人によってはぶっし付けな目線を送る者など、喧嘩を売られていると勘違いする事もあるだろう。

 

 ホロウは素早く頭を下げると、じろじろ見てすまなかったとジェスチャーで伝えた。それを見た相手は軽く右手を振って気にするなと返した後、ホロウに興味を失ったかのように視線を切った。

 

 ホロウも余計なトラブルを起こさないために、自分の中にある彼らへの好奇心に見切りを付けて今度こそギルドから出て行くのであった。




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