東方実況録:実況してるタイプの霊夢と魔理沙が幻想入り 作:鳩胸な鴨
「…ツッコまないからね」
数分後。空を飛ぶ霊夢は、手元に鎮座するソレに対し、呆れを込めて吐き出す。
魔理沙をそのまま生首にして、少し丸みを帯びさせた物体。
何も知らない参拝客が目の当たりにすれば、「人の生首を引っこ抜く巫女」として悪評が広まっていたことだろう。
願わくば、あのパパラッチ天狗に見つかりませんように。
霊夢が名前も知らぬ博麗神社の神に祈っていると、鎮座していた生首が口を開いた。
「この状態は『ゆっくり』と言って、生首みたいな見た目に反して便利なんだぞ。
サイコキネシス的なアレでコントローラーはもちろん、箸だって持てる」
「この状態だと死んだ途端に全身ぐちゃあ行くんだよね」
「言わんでいい」
どうして「ゆっくり」なんだろうか。
少し早口な喋り方といい、この見た目といい、何一つゆっくりしていないように思えるが。
巫女霊夢がそんな疑問を抱いていると、ゆっくり状態の実況霊夢を箒に乗せた普通魔理沙が口を開いた。
「なぁ。お前らの世界には小傘は居ないんだよな?」
「うん。たぶん、ほとんどの幻想郷の住人はいないよ。ウチ、6人しか居ないし」
「お前と生首の私と、今から会うであろうフランと…、あと誰だ?」
「魔理沙、レミリアどうしてたっけ?最近見ないけど」
「世紀末もびっくりな低民度の東京に飛ばされて半泣きになりながら世直ししてる」
「ああ、そういやそうだったわ」
今頃は全泣きしてるだろうか。
心細さと悍ましい悪意に負け、嗚咽で実況になっていない様がありありと目に浮かぶ。
そんなことを思いつつ、実況魔理沙は紹介を続けた。
「あと動画に出てるのは、妖夢とゆかりだな」
「…なんというか、変な面子ね」
「それは私も思う。
…心配なのは、今言った全員がこっちに来てる可能性があることだ。
もし私の懸念が当たれば、相当まずいことになる」
「まずいって、何が?」
神妙な面持ちを浮かべる実況魔理沙に、巫女霊夢が同じく深刻な表情で問うた。
幻想郷の危機に転じかねない爆弾なのだろうか。
霊夢がそんな危惧を抱いていると、実況魔理沙が顔の彫りを深め、口を開いた。
「動画が出せない」
「アンタらの話かい」
幻想郷の危機とかじゃなかった。
巫女霊夢たちからすればどうでもいいが、実況魔理沙たちからすれば死活問題である。
全員が幻想郷に迷い込んでないといいが、と思いつつ、実況魔理沙は紅魔館を見下ろす。
「ほぇー…。わりとMMDの通りなんだな」
「えむえむ…、なに?」
「mikumikudance」
「みくみ…何?」
「説明がものすごくめんどくさいから、『紅魔館を再現したものがある』と思ってくれ。
…お、ウチのろくでなし居たな。メイドさんにナイフ投げられてる」
田植えでもしているのかと思うほどにナイフがあちこちに突き刺さっている。
かなりの時間、降り注ぐナイフの雨から逃げていたのだろう。
メイド…咲夜の顔には疲労が滲んでいたが、実況フランの顔は変わらず、腹が立つほどの笑みが浮かんでいた。
「すごいわね、あのフラン。
太陽の下であそこまで動けるなんて」
「アイツの担当死にゲーだからな。
あれよりキツい上、エグい死に方が日常茶飯事」
「例えば?」
「意識があるままぐっちゃぐちゃにされる。
死んでるはずなのに全身がゆっくり、ゆぅ…っくりバラバラにされてく感覚と痛みがバッチリあるって言えば、ヤバさ伝わる?」
「幻想郷でもンなエグい食い方する妖怪いないわよ…」
「よく正気でいられるなお前ら」
少なくとも、自分だったら秒で精神が瓦解する。
2人が呆れを向けると、実況魔理沙は存在しない胸の代わりに顎を張って答えた。
「私とフランは慣れたもんよ。これで食ってんだし。
そんな死に方とほぼ無縁なのがそこの霊夢なんだが」
「私の担当、基本的に対戦ゲーだから下手くそって言われるだけで済んでる」
「不公平すぎだろ」
だから、この霊夢だけ闇が浅そうなのか。
抱えてる悩みが明日の飯のことしかなさそうなツラを前に、普通魔理沙が更なる呆れを見せる。
と。巫女霊夢が困惑した様子で口を開いた。
「…止めなくていいの、アレ?」
「ああ、そうだった。
そっちの私、霊夢を渡してくれ」
「おうよ」
「だだだだだだっ!?戦国武将が敵の首を持つ時の持ち方しないで痛いから!!」
普通魔理沙の乱暴な持ち方に抗議するのも束の間、ゆっくり状態の実況霊夢を見えない手で掴む実況魔理沙。
実況魔理沙は実況霊夢の抗議を遮るように彼女を振り上げ、思いっきり放つ。
「止まれアホォオッ!!」
「ばばばばばはば!?」
「はぇ…、べぶらっ!?」
ゆっくりという名に相応しくない流星となった実況霊夢が、実況フランを吹き飛ばす。
あまりに唐突なことに巫女霊夢たちが困惑を見せる中で、実況魔理沙がドヤ顔を浮かべた。
「止めたぜ」
「なんというか、なんでもありね」
「酔った私らでもやらねぇよ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「………ここどこぉ?」
実況レミリアは困惑していた。
何個目かもわからない世界を救い、戻ってきたと思ったら、どこかもわからぬ竹林に放置されていたのである。
「え、ぇ…?今度はなんの世界…?」
間髪入れず、新しいシリーズが始まったのだろうか。
なんにせよ、碌でもない世界に決まってる。
どうせまたいきなり尋問されたり、銃で撃ち殺されかけたり、存在ごと消されそうになったりするんだ。
悪い想像ばかりが頭をよぎり、実況レミリアはその目尻に涙を溜めた。
「ぇ、っぐ、ひぐっ…。
まりさ…。まりさぁ、どこぉ…?」
その様は、完全に迷子の子供である。
こんな体たらくで、よくもまあ実況者が務まっているものだ。
叫ぼうにも、嗚咽が邪魔をして上手く声が出せない。
この世界の彼女とは似ても似つかない有様である。
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、アテもなく歩いていると。
「レミリアさん!!日の下ですよ!?」
「ぉあびゅっ!?!?」
怒鳴り声に近い叫びが、その耳を劈いた。
ただでさえ小さい肝を粉砕しかねない声に、実況レミリアはその場にへたり込み、そちらに視線を向ける。
そこに立っていたのは、業者のような出立ちの少女。
見覚えのない少女を前に、実況レミリアは身を抱え、凄まじい勢いで後ずさった。
「ちょっ、なんで逃げるんですか!?
私ですよ、ほら!永遠亭の!」
「いやぁぁああああっ!!??
また撃ち殺されるぅうううっ!!??」
「何叫んでんのこの人!?
…あ、いや、そんなことしませんから…!」
すっかりトラウマになっているようだ。
無様を通り越して可哀想になってくる勢いで取り乱す実況レミリアを、少女…鈴仙・優曇華院・イナバがなんとか宥めようと声をかける。
が。近づいたことで余計に恐怖が駆り立てられたのか、実況レミリアは背を向け、その場で丸くなってしまった。
「いやっ、近づかないで!!
乱暴する気でしょ!?
変な薬を打ち込んだ上に、気が済むまで殴った後に撃ち殺すつもりなんでしょ!?」
「だから、何を叫んでるんですか!?
私のこと忘れたわけじゃないでしょ!?
結構な頻度で紅魔館にお薬納めに行ってんだから!!」
「おくっ、おく、お薬…!?
お薬イヤぁぁああああっ!!??」
「あダメだ話通じない」
重大な精神疾患でも患ったのだろうか。
この吸血鬼、隠れてストレス溜め込んでそうだもんなぁ。
優曇華がそんなことを思っていると。
竹林の影から、白い髪を編んだ少女が姿を見せた。
「どうしたの?すごい声だったけど」
彼女の名は八意 永琳。
元は月に住まう賢者であったが、紆余曲折あり、地上で診療所を営んでいる不老不死の蓬莱人である。
優曇華は視線を実況レミリアから永琳に向け、安堵を浮かべた。
「あ、師匠。実は、そこにいるレミリアさんがですね…」
「レミリアというと、紅魔館の……」
永琳は視線を実況レミリアに向け、即座にフリーズする。
それも無理はない。日傘もなく地面に蹲り、ガチ泣きするレミリア・スカーレットがそこに居たのだから。
「ひぐっ、ぐっ、ばりざぁ…」
「ツッコミどころしかない絵面ね…」
「どうします?」
「…このままほっとくのも気が引けるし、無理矢理にでもウチに連れて行きましょう。
説得は道中でするわよ」
言うと、永琳は実況レミリアの腰に手を回し、ひょいっ、と持ち上げる。
実況レミリアはめそめそと泣きながら、永琳に向けて口を開いた。
「せめて、優しく殺してください…。
魔理沙みたいな『ごりごりごりぐっしゃあ』はやめてください…」
「何言ってんのこの子???」
「さぁ…?」
ゆかり…誤字にあらず。唯一ゆっくりの姿を持たないメンバー。担当実況はモン○ンとソシャゲ。
実況妖夢…解説担当。主に裏方として動くが、たまーに単発でバカゲーをやらされる。パーティゲームの穴埋め役にも選ばれる。
実況レミリア…メンタルがクソ雑魚すぎてちょっとのことでパニックを引き起こす。メンバーの中で魔理沙しか味方になってくれない且つ、他のメンバーがガチで頼りにならないので、魔理沙にべったり。