好き勝手されるのは癪なので、貴様らは絶対に許しません ~という令嬢の報復~ 作:こまの ととと
部屋へと戻り、荷を纏める私。
思えば色々とあったものです。
……でもま、いっか!
途端に、背中に感じる視線。その先に居たのは、私の妹。
腹違いの妹であるボルディでした。
「あら? どうかしたの?」
「お話は、既に聞きました。しかしながらお姉さま! これでよろしいのですか? 何故平然と家を出ていこうと出来るのです!? ボルディには委細わかりませぬ!!」
目に涙を浮かべながら、当然の疑問を口にする我が異母妹。
確かに、彼女にとっては突然の出来事。
納得のいく話しではないのかもしれません。
そう、予想外とはまさにこの事なのでしょう。彼女にとっては。
そんな彼女に私も努めて優しく声を掛ける事にしました。
「よく聞きなさい。本妻との血の繋がりのない妾の子として生まれた以上、家の為にならないのならばいつかはこうなるのが運命。ただそれだけの事」
「最初からわかっていたと。そう、おっしゃるのですか?」
「そう、全ては必然。そう思って受け入れなさい」
努めて優しくと決めたはず。ですが姉としての、先達としての厳しさが含まれていたかもしれません。
「彼が私を愛さないというのならば仕方がないわ。
元々が浮いた話の絶えないお方でしたから」
「なんと!? そうだったのですか?!」
驚いて目を見開くボルディ。
彼女は純粋です。人を疑うということを知らない、せめてそれを教えるべきだったかもしれませんが、思わず蝶よ花よと誰もが育ってしまった結果。
しかし、その純粋さが羨ましくもあって。
常に物腰が柔らかく、落ち着きのある彼女とて驚くことを止められない。それも仕方がありません。
そんな彼女には、素直でいて欲しい。それが最後の、姉の願いでした。
「ボルディ……。お父様が男の子が生まれたと勘違いして名付けてしまった可愛い我が妹。貴女は貴族の正当な血統。混じりの私と同じ場所に立ったって良いことは無いわ」
「お姉様、何故そのような物言いをなさるのです! 半分の血など……ッ! 私は、不躾でぶっきらぼうで喧嘩を仕掛けてきた男の子をのし倒すような、そんなお姉様を嫌いになどなれません!! それでも私を置いていかれるのですか!!?」
「……まあ、悪気はないんでしょうけどもねぇ」
今更ですが私の家系、このランブレッタ家の事情についてご説明いたします。
私の母は、本当の親ではありません。
全ては十九年ほど前のお話。
当時、婚約したばかりで当然子供はいなかった父には、人目を盗んで町で遊んでいました。
その時に出会ったのが私の本当の母親。
さすがに身分を隠していたとはいえ、女遊びに勤しんでいた父にとっては町娘の一人や二人。
そんな中、出会った母ですが、これが中々の美人で気立ての良い娘だったようで、父は一目で気に入ってしまったそうです。
つまるところ、そんな二人の間に生まれてしまったのは私なのです。
当然こんなことがバレてしまったら大変なこと。父は必至で隠しましたが、うっかり婚約者である現夫人に見つかってしまいました。
父は責任を取り母を妾として迎え、当時お腹の中にいた私とともに別宅へと住まわせたのです。
物心つく前から、貴族としての教育を受けた私に乗ってその生活は別段苦ではなかったものの、母にとっては幸せなことだったのでしょうか? 今となってはわかりませんが。
特に不満のない生活でしたが、ある日転機が訪れました。
母が病に倒れ、看病の甲斐なく亡くなってしまったのです。
その時から私は、父と夫人の正式な娘となりました。
父と母はともかく、果たして母と夫人は仲が良かったのか? 二人がそろっているところを見たことがないのでそれは分かりません。ですので、当初は受け入れられないのではないかと思いました。
でも、ま。それなりの日々は送れたんだけどね。
お母様だってお金持ちの家に住めたわけだし、病気が憎いもない。
「所詮は、ピープルの混血の私。貴女や父はともかく、夫人にとっては赤の他人でしかないのよ。だからあまり、二人に詰め寄ってははいけないわ。お父様は特にショックを受けるでしょうね、貴女に嫌われたりなんかしたら」
そうです、着るものも食べるものも与えてもらえて、その上教育まで受けさせてもらった。何の恨みがありましょうか。
折り合い自体はもう、実はとっくにつけていた。なんとなく、そんな日が来るんじゃないかと思っていましたから。
むしろ、新しい生活に希望を持てるくらいです。
「さようならボルディ。ちゃんと両親の言う事を聞くのよ、今まで通りに。後、この際だから言っちゃうけど、戸棚に置いてあった貴女が自分に作ったマカロンとクッキーを食べたの私なの、ごめんなさい。つい、夜中にお腹がすいちゃって。あ、それと貴女のお気に入りのぬいぐるみを汚した事もあったわ、何とか洗濯しようとしてちょっと色が変わっちゃったけど、これもごめんなさい。それと……」
「も、もう結構ですお姉様。……お元気で」
「ええ、貴女も病気には気をつけて長生きしてね。きっとそのうち白馬の王子様が迎えに来てくれるわ」
「お姉様……流石にそこまで子供ではありませんわ」
これが私達姉妹の最後の会話だと思うと、思うところがあります。
しかし仕方がありません。
涙は払って、風の流れるまま風来の徒とでもなりましょう!
いや、やっぱそこまでの覚悟はないわ。
だけど最後は笑顔で。
「行ってきます……!」
「はい、行ってらっしゃい。お姉様……」
我ながらなんと美しい姉妹愛でしょうか。
この感動だけでも、きっと日々の糧となることでしょう。
私は笑みを浮かべ、ボルディは涙を笑顔に変えて。そして別れました。
「さようなら、我が生家」
長年過ごしたこの屋敷。
これで離れると思うと、やっぱり寂しいものがありま……。
やっぱやめよう、この口調向いてないわ。
せっかく家を出たんだからもう、お嬢様らしい喋り方とかやってらんないわ。
ああ、凝った凝った肩が凝った。
心なしか腰も痛い気がする。
やっぱり心の不調は体に出るもんなんだなあ。
さあて、どこさ行きますかねえ?
「ちょっとお待ちなさい」
「ん?」
屋敷に背を向けて、さあ旅立ちとなったところで。まさかの全くかけられた。
一体誰なんだと思ったけれども、この声の主は
振り返りざまやはりと思った
「お母様。……あっ」
「お母様ですって?」
この屋敷の当主の夫人である、ベレテレスティ・ランブレッタ様。
詰まるところ私の義母。いや、元義母である。
齢四十を超えているにも拘らず、その若さにイマイチ衰えが見えない。
どんな健康法を行なっているのだろうか? ふと思った。
それはさておき、つい癖でまたお母様と読んでしまった。
元義母が、額にしわを寄せながら私に距離を詰めてくる。
そうして飛び出してくるのはきっといつものセリフだろう。
「貴女にお母様などと呼ばれる筋合いはありません。――私のことはママと呼びなさいといつも言っているでしょう!」
「ご、ごめんなさいママ上様」
お母様。
その呼び名は私の実の母のみを指すものだから、自分のことはママと呼べと常日頃からおっしゃる。
私としては、そこにこだわりなんてあまりないんだけどね。
だいたい、ボルディにはお母様と呼ばれてるんだからいいじゃないのさ。ダメ?
ダメか。
「それで、ママ上様は一体何をしにここへ? 御付きもつけずに、外へ出るなんて珍しい」
「貴女、それは本気でおっしゃっているのですか? まあよいでしょう。折角ですので、元娘に対してせめてもの、せめてものッ! お見送りでもして差し上げようかと、そう思った次第です」
「は、はあ……」
何故だろう、いつも以上に当たりが強いようなそんな気がしてくる。
ふとそんなことが疑問に思ったが、気が付くと私は手を強く握りしめられていた。
「あ、あの……」
「当主様のお決めになられた事故《ことゆえ》、こちらも口出すつもりはございませんが。これが母としての最期の語らいにもなりましょう。しかし私は多くは語りません、風邪などひかぬよう健康には気を使いなさい。それだけです」
「はあ……」
いや、それだけって言うけれどもね。
「あの、ママ上様? でしたらそろそろ手を離して頂きたいのですが?」
「何をおっしゃるのです? この私の細腕など、すぐに振り払えるでしょう?それが出来ないということは貴女にまだ未練があるということです」
「え、普通に手が痛いんですが? ちょ、ちょっとそんなに握りしめられても……。強い、強いかなって。そろそろやめてほしいかなって」
「言い訳ですか? しかしそれでも手に痛みを感じると言い張るのであれば、それは母の痛……、いえ、もう母娘ではありませんね。では、あれです、やはり物理的な握力です」
「本当にそう言い切っていいんですね!? もうむちゃくちゃですよ!」
そんなやり取りもあったが、なんやかんやで私はやはり家を出ることになった。
そうこれは新しい門出、新しい私のスタートであるのだ。
見よ! この軽やかな足取りを!
……勢いで街へと飛び出したはいいものの、
やっぱり勢いで行動するもんじゃないなぁ。
とりあえずお小遣いはあるし、安宿を拠点にして住み込みのバイトでも探すか。