好き勝手されるのは癪なので、貴様らは絶対に許しません ~という令嬢の報復~ 作:こまの ととと
そう、いきなり現れた彼は、私の学園時代の同級生でクラスメイトだったミエラ・ゴトーダ君。
普段から大人しい性格な上、引っ込み思案。
でも、本当は優しくて気遣いができる、とてもいい人物なのだ。あんまり話し事無いけど。
そういえば、魔導院に入ってたんだった。
そんな彼が、勇み良く私を庇うように立つなんて。ちょっと感動。
「こ、ここここは危険です! ぼ、僕があああいつを引き受けますから、早く逃げてください!!」
「え、でもミエラ君は?」
「だ、だだ大丈夫です!! 僕だって、まま、魔導士ですッ! から」
そんな足と声を震わせながら言われても……。こっちが心配になるんだけども。
「……僕がやるんだ。僕がコルニーさんをッ、守るんだあああ!!!!」
杖を構えながら人工魔物に突進するミエラ君。
だからどうして魔導士が突っ込む必要があるのか?
それは分からないけど、今この瞬間の彼は確かに輝いていた。
だが……。
「がおー」
「わあああああ!!!!」
魔法を唱える間も無く、軽く蹴飛ばされていったミエラ君。
あれ? 彼だけ本気でやられてない?
何てことだ、彼は他の職員から何も聞かされていないのだろうか?
勢い良く飛んでいくミエラ君。
そりゃ彼は女子かと思うくらい小柄で、運動音痴で、マラソン大会でもビリを走っていた程体力も無いけど。
それでも、こんな扱いを受けていい男の子じゃない!
「もう、怒ったぞ!! こんな茶番事ブっ飛ばしてやる!!!」
両手を胸の前に掲げ合わせ、その中心意識を集中させる。
――深淵より吹き出せ、我が魔力の胎動。
「チリ一つ残さず消えてしまえ!!」
――プロトニックミサイルッ!!
私の掌より放たれた重陽子の光弾。
追尾性のそれが人工魔物へと吸い込まれるように向かっていき、着弾と同時に大きな爆発を引き起こした。
爆風を受けないように咄嵯に両腕を顔の前で交差させ、顔を背ける。
暫く経ってからそろりと目を開けると、そこには何物の姿は無く。人工魔物は文字通りに跡形もなく消滅していた。
やったぜ!
「あ、あわわわわ!」
「ああぅ! 我々の研究成果があぁっ!」
「ああ、あああ……」
「ふええ……もうおうち帰りたいよおお」
目の前では慌てふためく職員達。
「ざまぁ見晒せ!!!」
おっと、おヤクザさん達のお言葉が移ってしまったかしら?
いけませんわ、元お嬢様がおはしたない事を。おほほほほ。
その後、自分の研究成果とやらを潰した私は主催者のお偉い人を締め上げて、金一封をもぎ取ると共に今回の件について洗いざらい吐かせた。
昨今、目覚ましい成果を挙げられていなかった魔導院は国から予算の引き下げについて打診されていたらしい。
そこで白羽の矢が立ったのが、私がボコったあの研究途中の新型人工魔物だったというわけだ。
国防に人工魔物を担当させて貰う為のデモンストレーションに私達は利用された。
腕の良い傭兵や戦士、魔導士でも敵わない魔物を作り出せば、国も予算削減を考え直してくれるだろうと踏んでの事だった。
「よくもまあ、そんな事を。本ッ当にどうしようもない連中ね!」
お偉い人を簀巻きにして、事情を聞いて怒り狂う参加者達の前に放り出すと、
駄菓子を貪りながら街へと戻った。
「もう、くったくた。アッホらしいわぁ」
◇◇◇
「うむ、活躍は聞いているぞ。よくやったな少女よ。流石は私が見込んだ逸材だ」
あの一件から数日後。
例よって例の如く、街を歩いていると、全っ然関係ない全くの赤の他人であるあの不審者のおっさんに話し掛けられた。
「皆さんここに不審者が居ます! 不審者が居ますよ!!」
「わあああ! 待ちたまえ! 分かった! ちゃんと話しをするから! だからその拡声器を下ろしてくれ!!」
私の持つ拡声器を取り上げると、それを地面に置いて話し始めた。
「実はな、先日の魔導院の一件、私には見えていたのだ」
「はあ、で?」
「あのような邪知に富んだ
「そうですね。で?」
「そこで私は考えたのだ。かの聡明なランブレッタ公の娘であり、稀代の魔導士との噂も密かにある君の手で成敗して貰おうとな」
「ご自身でやられては駄目だったので?」
「残念ながら、私には表だって動けぬ理由があった。だが、君はこの件を快く引き受け、私の期待以上の働きをしてくれた。この目に一寸の狂いも無かったという訳だな。その上、今は勘当された身。公的な立場を気にする事なく好きに動けるという、まったく都合の……いや、身軽な身で助かったぞ。あははははは!」
いつ誰が快く引き受けたっていうのよ。無理やりやらせといて。
ああ、もうムカついた! 好き勝手言いやがって!!
目の前で高笑いを浮かべるおっさんの覆面に手を掛けた。
「この!」
「止めるんだ! 仮にも覆面で顔を隠している者の素顔を暴こうなどと!!!」
「うるさいですわッ!!」
剥ぎ取った覆面の下から現れたのは……。
「……え?」
「くっ、バレてしまっては仕方無い。そう、私だ。
お前の元父、現ランブレッタ家当主であるタジラート・フォン・ランブレッタだ。
驚いて声も出まい」
「え? ホントにお父様ですか?」
何故ならその人物は、まぶたを青く腫らし、頬に引っ掻き傷を大量にこしらえた、見るも無残なお姿だったからだ。正直、見た目じゃ判別出来ない。
「な、何でそんな事に!?」
そこでふと思い出した。
そういえば、長年ランブレッタ家に仕えるメイド長のレンレンさんから聞いた事がある。
父は過去にニ度、半殺しにされた事があるらしい。
一度目は私のお母様との浮気がバレて、当時婚約者だったママ上様に……。
二度目は妹が生まれた際、男児が生まれたと勘違いしてボルディの名前で勝手に届け出を出してママ上様に……。
それでいけば今回も。
「ママ上様にボコボコにされたんですね」
「ち、違うぞ! 何を言ってるんだお前は!? 娘を利用する為に家から追い出した事がバレて激怒した妻に一方的にやられるなど、お前と血の繋がった男がそんな情けないはずがない、居るわけがないだろうそんな男が!!」
居るじゃないか、私の目の前に。
「……ふーん、そうなの。お父様はお強いのねぇ」
「そうだとも。私は昔、若い頃はそれはもう強かったのだ。今では牙を休ませているが、断じて妻の尻に敷かれてなどいない!」
そう断言するも、判別出来ない程に変形した顔面では一切の説得力が無い。
……私この男と血が繋がってるんですよ? やだぁ。
私の冷えた視線を受けてか、さらなる弁解をすべく私の肩を掴んだ。
「ま、待て! これはな、人工魔物が出た際に、お前が戦いやすいようにわざとああいう手段をとったのだ! 私も実の娘を追い出すのは辛かったのだ!!」
「あら、まあ。素敵! 流石はお父様ね! 娘の事をそこまで想ってくれているなんて感激ですわ。ああ、元でしたわね。申し訳ありません。では今後は他人という事で、……さようなら」
「ま、待つんだ!? 仕方なかったのだ! 婚約も破棄されたし、口実として渡りに船だったのだ!!」
そう言って、その場を離れようとする私を引き止める為に肩を掴むおっさん。
この場合、不審者に対する対応は決まっている。
「きゃあ!」
私は悲鳴声を目いっぱいに上げて相手のボディーにレバーブローを決める。
「ぐべわ!?」
肝臓周辺に深い衝撃を与えられた不審者のおっさんはそのまま泡を吹いて倒れた。
ああスッキリした! これは特に関係無いけど、巻き込まれてしまったミエラ君の分だ。
◇◇◇
私はミエラ君が入院をしている病室を訪れていた。
吹き飛ばされた彼は、肋骨や鎖骨を骨折していたが命に別状は無かった。
「お加減いかが?」
「ああ、コルニーさん! こ、こここんな見苦しい姿を見せ、ってしまうなんて! ご、ごめんさい! 結局僕は貴女の為に何も出来ませんでした」
「いいのよ。あれは貴方の責任じゃないわ。
……あと、悪いこと言わないから転職しなさい」
「いえ、それでも!」
「いいから、ね? ほら、これでも飲んで」
「あ、ありがとうございます」
私は差し出したのは、店で取り扱っているカフェオレだ。
友人の見舞いに行くとマスターに言ったら水筒に入れて持たせてくれた。
それを飲むと、彼の表情は少しだけ和らいできた。
「美味しい……」
「そうでしょう? ウチの店のコーヒーを甘くしたものよ。
どう? 気分が良くなったかしら?」
「はい。あの、でもどうして?」
「私が好きでやってる事だもの。気にしないで」
そういえば、こうして面と向かって話しをするのは初めてじゃないだろうか?
学園時代じゃクラスメイトとといってもあまり話す機会が無かったから。
あまり誰かと居た所を見たことが無い彼。
でも、頭が良くて教師たちの覚えは良かった彼。
その頭の良さが災いして、あんな所に就職してしまった彼。
ミエラ君も頑張っているのに……。
どうしてもイマイチ報われない、可哀そうな子だなと思う。
よしっ! 決めた!
「ねえ、もし良ければだけど、私の働いているお店に来てみない?」
「え? そ、そんな! ぼ、僕なんかが行ってもいいんですか!?」
「ええ勿論。むしろ来て欲しいわ」
「……で、でも」
「もう決定! だから、早く怪我を治して退院してね」
そう言って微笑むと、彼は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
……ふふふ、可愛いところあるじゃん。
何というか、どっか放っておけないのよね。
弟を持った姉の気分とはこういう事なのかしら?
その後も暫く、時間の許す限り彼と他愛の無い話を楽しんだ。