入学式の次の日、オレはトレセン学園の栗東寮の前まで来ていた。今日からここが在学中のオレの住む場所になる。確か寮長のフジキセキの所に行けば良いんだったっか?荷物は先に部屋に運び込まれているはずだからそこは心配しなくて良し。にしても相部屋らしいが誰かなぁ。
「失礼します」
「どうぞ」
寮長室にノックをして入ると一人のウマ娘がいた。テレビでも見た事のある男性的でありながら女性とわかる美しい顔立ちが特徴の寮長のフジキセキだ。
「おや、君は……」
「新入生のアクセルメモリーです」
「ああ、君が。私は寮長のフジキセキだよ、よろしく」
「よろしくお願いします」
オレはカバンから和泉和菓子の風花饅頭の入った菓子折りを取り出すとフジキセキに渡す。これからお世話になる寮長なんだしこういう挨拶は大切だよな。
「おや、ありがとう。少し待っていてくれ」
菓子折りを受け取ったフジキセキは近くの机にそれを置くと机の横の棚から一つの鍵を取り出した。
「これが君の部屋の鍵だよ。相部屋の相手はワンダーアキュートだよ」
「ありがとうございます」
ワンダーアキュート、ウマ娘ではおばあちゃんそのものの性格でオレもアプリ版では推してたんだ。これほど嬉しいの事は無い、ウキウキしてきたな。
「入学おめでとう、楽しい学園生活を」
「はい。では失礼します」
寮長室を後にして早速部屋に向かう。そして部屋についてノックする。自分の部屋だが相部屋でもあるので礼儀はしっかりとしないといけない。
「は〜い。どなたですかぁ?」
「新入生のアクセルメモリーって言います。今日からこの部屋ですごす事になりました」
「あら、相部屋の子ね。どうぞ入ってなぁ」
部屋の中からは聞いていると落ち着くようなおっとりとした声が聞こえてくる。部屋の中に入ればテレビやスマホの画面越しに見ていたその姿が見えた。
「おお、おっきい子だねぇ」
「改めてアクセルメモリーです」
「あたしはワンダーアキュートって言うの。よろしくねぇ。そんな固くならなくてもええんよ。自然体が一番なんよ」
「あ、はい」
なんだろうこの、体から滲み出ているおばあちゃんオーラは。今すぐに甘えたくなる。
その衝動を心の内に留めて荷解きを始める。
荷物は服だったり本など一般的なものが多いが一部だけ一般人が持たないようなものもある。其れはメモリガジェットであったりガイアメモリにベルトなどのがある。実はてぇんさぁい物理学者製であったりする。
まあ、父さんが過保護なせいであんまり出番ないんだよねぇ。一応捜査のノウハウとか戦闘技術とか諸々色んな人に習ってるから弱くは無いんだけどなぁ。
ちなみにワンダーアキュートさんは2年生なので荷解きとかは無いようでゆったりと寛いでいた。
「そうだ、あたしが学園を案内してあげましょうかね」
「え?良いんですか?」
「せっかくの同室だし仲良うなりたいしねぇ」
ワンダーアキュートさんのその言葉に甘えてオレは学園を案内させてもらう事になった。その為に荷解きはマッハで終わらせた。
「それじゃあ行きましょうねぇ」
「はい」
ワンダーアキュートの連れられるまま部屋を出る。
「ここが食堂」
「…………」
まず連れてこられたのがトレセン学園に通うウマ娘達を食の面で支える場所、食堂なのだが……。
「おかわりを頼む」
「こっちにもお願い」
「つ、追加です!!」
「ファッ!?」
「コナバナナ!?」
「し、死ぬ!? 」
「あんた達!!弱音を吐いてる暇があるなら手を動かしな!!」
「「「「イエッサー!!マム!!」」」」
そこは戦場だった。厨房から響く悲鳴と怒号、食材の焼ける音や包丁が食材を切る音、ぶつかり合う食器の音がまるで一つの音楽のようにしかし、騒音のように奏でられている。
そして食堂の一角に大量に置かれた大皿に乗った料理たち。しかし、その料理が尋常ではない速度で消えていく。まるで掃除機がゴミを吸い取るかのように──否、ブラックホールに吸い込まれるが如く消えていく。
料理を瞬く間に消していくブラックホールの持ち主の一人はオレも知る芦毛の怪物オグリキャップ。
「あらあら、オグリキャップちゃんは今日もいっぱい食べとるねぇ。それで、あっちの子は見た事無いねぇ、新入生かしら」
そしてオグリキャップと同等のスピードで食べ進めるウマ娘が一人。
「……マジックビースト」
「あら、知り合い?」
「まあ、はい」
まさかあいつが来ていたなんて。食べる事以外には殆ど興味を見せずとにかく常に何かを口に運んでいるところしか見ない程の大食い。もはや何かしらのドーパントと言われた方が納得するような量を喰らうウマ娘だ。
「ん?モグッ、メモリー、ズルッ、じゃな、ゴクッ、いか、ズズッ」
「いつも喋る時は食うのを止めろって言ってるだろ……」
「……そうだったな、ゲフッ」
……ダメだコイツ。やはりなんかのドーパントじゃねえのか?
「お前も食べるか?」
そう言ってビーストは巨大なメロンパフェを差し出してきた。
「……あー、アキュート先輩。良いですかね?」
「もちろんええよぉ〜。私も少し頂こうかしら」
「ングッ……是非食べると良い。ズゾッ、ここの料理は美味しい。味は津上さんには劣るが量は凄まじい」
「いや、あの人の店よりもこっちの方が人数多いだろうし当たり前でしょ」
とりあえずメロンパフェを受け取って席に座った。