こえが、きこえる
「……目を覚まして……」
だれかの、こえが
「……目を覚まして……」
だんだんと、せんめいに
「……目を覚まして……」
ゆっくりと、めざめる
「……お願い、起きてよ……ッ」
目を開けると、知らない天井と廊下が目に映り起き上がる。どうやら廊下で仰向けで意識を失っていたようだ。たが室内であるのに関わらず、薄っすらと白い霧が漂っている。
「おぉ、……無事みたいだな」
「えぇ!………でも貴方、怪我はない?」
体を起こし、声のした方へ向くと、知らない2人が前から現れた。1人は青いリボンに整った制服に身を包み、両手には白い手袋を、左腕には腕章を付けており、特徴的な眉毛のある凛とした雰囲気の女子生徒である。
もう1人は20代ぐらいの男性で医療関係者なのだろうか?何故か疑問符がついてしまうぐらいに白衣がクシャクシャになっていた。しかも髪も癖っ毛なのかボサボサしていて、とてもじゃないが衛生的な人には絶対に見えない。
「め、目を覚ましたの……⁉︎」
そしてさらにまた知らない少女がすぐ近くで顔を覗き込んでいた。服は腕章の女子生徒と同じ制服を纏い、髪は黒のショートで特徴的な十字の赫い髪飾りを付けた少女で、その金の瞳は不安で揺れており、感極まった様子で抱きしめられた。
「んっ⁉︎」
「…良かった…本当に良かった…”ジャック”…!」
「ヒュウ、こんな状況なのにお熱いなぁ」
男性が茶化すように二人を揶揄うが、腕章の少女が心配し声をかける。
「ちょっと先生………あなた大丈夫?立てる?」
「は、はい……立てます」
その時、廊下の周りの霧が一気に濃くなっていく。さっきまで薄っすらでしかなかったのに今は向こうの景色が一向に見えず、濃度が立ち込めていた。辺りを見回し異常を察知した男性が腕章の少女に言った。
「まずい……霧が濃すぎる。急ごう」
「はい、そうですね」
「あの! あなたたちはッ——」
「説明はあとだ!今はこの場に留まるが不味い」
「こっちよ!」
そうして少女に手を引かれ、彼は言われるがままこの場を後にし3人について行った。
「す、ストップ……ひぃ、ひぃ…………うへぇ……疲れた…………死ぬ。………もう無理…」
廊下から少し移動した場所で、息切れしながら白衣の男性が休憩を提案する。しかし息切れしているのは彼1人だけだった。あの廊下から小走りして3分すらも経っていない。とんでもない貧弱性だ。
「この距離で息切れ?不摂生がたたってるんじゃないですか?カケル先生。もうちょっと体を動かしたらどうです?」
腕章の少女も運動不足をジト目で指摘しながら男性を見たが、男性は息を切らしながらも困ったように答えた。
「バカ言え。こんな貧弱オジサンに運動を勧めるなんて殺す気か?それに、えーと……日夏よ。先生は多忙で時間ないんだよ」
「……日向です。”
「オイオイ…先生つっても、俺は校医だからなぁ……それに、お前のことは会長で呼び慣れちゃってるし」
「…………」
腕章の少女——日向先輩(年上そうだしそう呼ぶ)は腕を組んで不服そうにした。不満というより呆れに近い表情だったが、今はそんなことをしている場合ではないと思い黙る。
その直後、髪飾りの少女は彼を心配するように声を荒げた。
「この学園がおかしくなって……離れ離れになって1週間……本当に心配したんだから…!」
「ご、ごめん……」
「いいの、あなたが無事なら……」
「2階で倒れてる生徒がいるって聞いて驚いたけど…まさかアリスちゃんの幼馴染だったなんてね」
「ここは渡り廊下で2年校舎と繋がってるし、そっちから来たのかもな?」
男性がそう説明する、確かに廊下が一直線で自分達以外何も誰もいない、存在するのは薄っすらとある白いモヤだけだった。
「………ねぇ、大丈夫?痛いところとかない?」
「あのさ、そうなんだけど……きみは、誰……?」
「そんな冗談笑えないわ。私だって、怒るときは怒るわよ」
そんな噛み合わない状況に腕章の少女は眉をひそめる。幼馴染という小さい頃からの関係なら、気を失っただけで忘れるのは変ではないだろうか?もしかしてこれは———普通なら無いだろう。しかしそんな普通はこの学園の何処にも無い。此処では異常こそが普通なのだ。
「きみ、もしかして記憶がないとか?」
「…え?」
「自分の名前はわかるか?」
証明も記憶もまるでないが、不思議と頭の中に浮かび上がる。そして流れるように声に出した。
己が魂に刻まれた名を
「………ジャック、”
「名前しか思い出せないんだ……」
彼は——否、ジャックは申し訳なさそうに下に俯く。記憶喪失とはいえ大切な人を忘れてしまったのだ。罪悪感が大きかった、そんな気持ちを察したのか表情が暗くなる。
「…そう、なの……」
「それ以外に覚えていることは?学園、友達、家族のこと…なんでもいい」
「そう言われても……すみません」
そう、今のジャックは気を失う前の記憶がない、唯一確かなのは名前しか覚えていない状態ということ学園、友達、家族、それら一切覚えていなかった。読んで字の如く記憶喪失なのだ。
「まぁ、記憶障害は十中八九ここで昏倒していたことが原因だろう」
「”霧”は人の意識をおかしくさせるから……」
「”霧”?」
「ソイツについてはあとで話すが………とにかく健康なアスちゃんや体の弱い生徒にも良くない。”霧”どういう現象なのか分からないことだらけだ」
「先生、アスじゃなくて”アリス”です」
そんな2人の談笑(?)にどこか安堵するジャックだが、それが本当なら
「それなのにこの子は俺たちの制止を振り切ってやって来たんだ。………云うべきこと、わかるだろ?」
「ありがとう、アリス」
「いいえ、私も声を荒げてごめんなさい。でも貴方が無事で良かった…おかえりなさい……」
ただいま……なの?ここは家じゃなくて学校だと思うけど、まぁ1週間もいたら愛着が湧くのかな?とかなり見当違いな方にジャックは納得した。カケル先生が皆の話に区切り付いたのを確認した。
「よし、じゃあ一息つけたしさっさとこの階抜けるか」
〈「♪~♪」〉
突然、音楽が鳴り出した。どこかメルヘンチックな着信音で、この異常な状況下において余りにも気が抜けそうな……そんな音楽だった。
この中にいる誰かなのか音がかなり近い。
「電話?ずっと圏外だったのに………」
「圏外だったの?」
「そうね、今の学園では外との連絡が一切できなかったの」
アリスの代わりに日向さんが答えた。制服のポケットから携帯電話を取り出したのはアリスだった。
しかし何故だろう、何故かその着信に掛けたらいけない気がする。そんな釈然しないたが確かな予感に、ジャックは頭ではなく体が既に動いていた。
「外からの電話なら助けを呼べるかもしれない!もしも——」
「ちょっと待って、アリス」
ジャックはいまだに着信音が鳴っているアリスの手に持つ携帯ごと掴んでいた。そんな幼馴染の行動にアリスは頬を赤くした。かわいい
「い、いきなりどうしたの、ジャック?」
「その着信やっぱり変だよ、ずっと圏外だったのに、いきなり繋がるなんて少しおかしい…………出ない方がいいと思う…」
「……確かに霧が出てから通信手段は軒並み使えなかったからな、それが唐突に繋がるなんて普通じゃありえない」
そう、カケル先生の言う通りだ。普通ならありえない、ジャックはこの学園に何が起きてるか分からないが霧が出てる一週間の間、異常なことが続いているのは確かだ。
その状況下の中でこんな都合よく電話が掛かってくるのは少し変ではないだろうか?
「じゃあ、この電話は?……いったい何処から」
そんな日向の疑問に、アリスは着信音が鳴る携帯を見る。この携帯は”どこ”から掛かっているのだろうか?”だれが”自分の携帯に掛けているのか?今自分はとても不味いことをしているのではないだろうか、
そんな考えが泥のようにアリスに纏わり付く
直後耳障りな不協和音が頭の中で鳴り響いた。
ジャックも、アリスも、日向さんも、カケル先生も、全員が立っていられず膝をつき倒れ込んでしまう。
「……っ何!?この音…頭が、痛い……!」
「っ!まずい!皆離れるな!!!」
こうしてセカイは歪んでいった。
「…………っ、あーもう、ギリ遅れたッ‼︎」
「ギギ、オマエが道に迷ったカラダロ」
「うっさい!霧で分かんなかったの!アンタの力で今すぐ
「……イイダロウ、気遅れるナヨ」
「はッ、誰にもの云ってんの?」
「ソウダナ……なら行くゾ」
「あいよッ!」
サァ——物語ノ開幕ダ