異神獄:Monark/スケルター   作:寿影瞳

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賽は投げられた。


ジュリアス・シーザー








甘いの好きなの——

 

 

 一瞬の内に廊下から異質な空間へ放り出されていた。

 

「……ここは?」

 

「どこ……というか、なに?」

 

 

 空は血のように赤黒く、周りには大小様々な瓦礫の破片が浮いて今にも崩れそうになっている。そこに自分達が立っている床と何かの形をしていたと思しき破片だけが浮いている。

 

 いや、驚いている場合じゃない。近くには皆が意識を失い倒れかかっており、ジャックは急いで1番近いアリスの元に向かい体を起こした。

 

 

「…アリス!?大丈夫!?」

 

「……ん、ジャッ…ク?」

 

 

 其処へカケル先生が2人の前に来た。どうやら僕同様、いち早く目醒めていたのだろう

 

 

「アリス、ちょっと体診せてみろ」

 

「はい……」

 

 

ヒカル先生がアリスを検診する。緊急なのか必要最低限だが丁寧な動作でアリスに怪我や体の異常がないか診ている。

 

 

「———安心しろ。怪我はない。ジャックは大丈夫か?」

 

「あ、はい、大丈夫です!」

 

 

 文字通り世界が——いや、異界という表現の方が正しいのか、この異常自体にも関わらず素早く検診が出来る辺り、ガサツでも学園の教職者。

 もしやと思ったら校医なのは本当のようだ。会長もどうやら怪我はなく全員無事のようだ。

 ジャックはホッと安心したその時、

 

 突如目の前に長剣を携えた黒い骸骨が2体出現した。理科室にある骨の人体模型のようだが、その色は只々”黒”であった。

 炭で焼いた様な黒ではなく、あらゆる光を通さない純黒とも呼べるような色だった。

 

 

「……え…何…?」

 

 

 骸骨が先輩に向かって剣を振り上げた

 

 

「…っ危ない!」

 

「先生!?」

 

 

 カケル先生が咄嗟に庇ったが、当然生身の人間が耐えられるようなものではない。その場に膝をつく。軽く斬られたのか腕から血が出ていた

 

 

「お前らは逃げろ!ホラ、俺は大丈夫だからさ」

 

 

 ぎこちなくそう笑いかけ安心させようとするカケル先生だが、嘘だ。誰がどう見ても痩せ我慢でしかない。

 

 

「そんな…誰かをおいて逃げるなんて無理!私も一緒に残ります!」

 

「バカ!犠牲が増えるだけだッ」

 

「…っそれでも、私は、誰かを犠牲にするなんて嫌なんです…!」

 

「でも、……何処に逃げるの?」

 

 

 だがこの異界に逃げる場所も戦う力もない。文字通り退路はなく、皆殺しにされるのは時間の問題だろう。

 自分が何者か分からず、よくわからないまま無意味に死んでしまうのだろうか、せっかくこの人達に危険を侵してまで助けられたのに

 その恩をまだ何も返せないのか

 その時だった。もう一体の骸骨が剣を振りかざし棒立ちのアリスに凶刃が迫った

 

 

「——ぁ」

「アリス⁉︎」

 

ドンッ

 

 僕は頭ではなく体が先に動き彼女を庇った。

 

 

「…………ッ‼︎」

 

 

 痛い

 

 背中が焼けるように熱い

 

 そこから血が

 

ドロドロと血が流れる

 真っ赤な血がジャックの体から決して少なくない血が流れている。骸骨の剣で斬られたのは明白だ

 

 

「ああああああ………っ‼︎」

 

 

「あっ……」

 

「アリス‼」

 

 

 

姿が、変わる

 

 

髪は黒から白へ、

 

 

金色の瞳は虹彩のピンクに

 

 

 

 右手は華奢な体に不釣り合いな黒く巨大な剣に、左手はメラメラと燃えるピンクの炎を模った大きな手に

 

絶望に満ちた表情は愉悦に染まる

 

 

「はーーーっ、はーーーっ……」

 

「あはははははははっ‼︎」

 

「ア、アリス……?」

 

「ど、どうなってるの?」

 

 

 日向先輩が震えながらそう呟く。しかし渦中であるアリスは沈黙している。まるで糸の切れた人形のように黙っていた

 

 

「ふふ……ははは………!」

 

「あはははははははははははは………!!」

 

口を張り裂けんばかりに高らかに笑う、嗤う

 明らかに正気ではない状態。此方にギョロリと視線を向けると右手の大剣を無情にも振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、まだ終わりではない。彼の命もその運命も

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを示すように突然、アリスとジャックの間に黒い虚空が忽然と口を開けた。

 

 

「甘〜いの好きなのだーれかなー?」

 

「っ⁉︎」

 

 

 振り下ろされた大剣は大きな物体に阻まれ、ジャックに当たることはなかった。その物体とは先端が尖り刃物になっている人間よりも巨大な(ハサミ)である。しかしこの状況下に置いて一際異質だ。その持ち手の主が少女であったからだ。

 

 

「今度は何!?」

 

「え、うさぎの……ぬいぐるみ……?」

 

 

 そこから黒い…ぬいぐるみと少女が現れた。長い耳があるからウサギなのだろう。ぬいぐるみは手足が縛られて、口が裂け、あちこち縫い付けられた。なんとも可愛らしげのない人形。見た目だけを見ればぬいぐるみより呪いの人形の方だと合っていると思う。その人形は宙を漂っていた。

 もう一人はパーカーを着込んだ軽快な雰囲気の短い茶髪の少女、腕には腕章が付いているが日向先輩の物とは異なり色が赤となっている。

 

 

 

 そして一番驚くべきなのはパーカーの少女の瞳の色がアリスと同じ様にピンクに光っているからだ。

 

 

 

「っ……やっぱ、ブラッドスケルター化してるか…」

 

 

 フードの少女は白く変わり果てたアリスを見て悲痛に顔が歪んだ。

 

 

「ギギ…伽藍、張子、虚妄、捉月。ナカナカ、ユカイデ、ガタガタ。奇妙な組み合わせダナ」

 

「こんな時にまで分かんないこと言わないの!困ってんじゃん!」

 

 

 黒いヌイグルミはまるで訳が分からない言葉の羅列を喋り始めたその時、フードの少女がジャック達の心を代弁するように言う。

 

 

「フルエロ。そして恐悦するがイイ。ワレは深遠ナルもの。一であり全。オマエでもアリ、世界でもアルもの。刹那カツ永遠タル存在。そして、オマエの運命を…」

 

 

 黒いヌイグルミはまたもや訳が分からない言葉の羅列を喋り始めたその時、フードの少女がキレた。

 

 

「あーもっ、うるさいッ!」

 

 

むぎゅっ

 

 フードの少女はこれ煩しいと感じ、ウサギのヌイグルミの耳を引き千切らさんばかりの勢いで掴んだ。

 

 

「まて、おい離せ!おかしいだろ!少しは躊躇しロ!そもそも人の話は最後まで聞けヨ!耳を掴むな!!!」

 

「うるさいってッ、アンタいつも変なことばかり言って……少しは聞く側も考えてよ!」

 

「人?………人、なの?」

 

 

……どこからどう見ても人ではないよね。

 いきなり現れた二人はそんな漫才のようなことが始まった。僕は呆気に取られているが二人にとっては平常運転なんだろうか?

 

 

「って、うわっ⁉︎、なんか数多くないッ⁉︎」

 

 

 そうこうしている内にジャック達は大量の黒い骸骨に囲まれていた。先程までは二体しかいなかった筈なのに。

 それに気付いたのか、素早くアリスの前に立ち塞がりジャック達を守るようにフードの少女はハサミを構える。

 因みに望先輩は負傷したカケル先生に駆け寄って応急処置で止血していた。

 

 

「……ギィ…耳掴みやがって……あいつ、マトモじゃなさすぎる………嗚呼、其処のオマエ、とりあえずワレのことは”バニタス”とでも呼ぶがイイ」

 

 

 振り終わったのかヌイグルミ……バニタスは少しフードの少女から離れ僕に気づいたのか話しかけられた。流石に掴まれるのは嫌らしい。

 

 

「……バニタス、さん、」

 

「”さん”はいらン。バニタスでいいゾ」

 

「力を貸して下さいっ!」

 

「………オマエ。ワレのことをもっと驚戒しろヨ。してくれヨ。調子崩れるんダヨ」

 

 

 頼まれる御本人も呆れるぐらいの無警戒な頼みだったのか、仰々しい態度が嘘のような言葉遣いだった。

 

 

「す、すみません……」

 

「力は貸し借り出来る都合の良いものじゃナイ。自分の力でなんとかするんダナ」

 

「そんな、教えて下さいッ!アリスを元に戻す方法はないんですか⁉︎」

 

 

 ジャックはバニタスに頼み込む、このヌイグルミならばこの状況を打開する術を何か知っている筈。まさに一縷の望みを心の内を胸にバニタスに聞く。

 

 

「……ない」

 

 

フードの少女が悲痛な顔で答えた。

 

 

「今の彼女は正気じゃない。ブラッドスケルター化は元には戻せない、

 

 せめて………終わらせてやるしか……」

 

 

フードの少女はそう言うとガシャンと鋏を構えた。

 

 バニタスは目の位置にあたる黒いボタンが空洞のようにジッと此方を見つめる。

 

 

「それはオマエらの力が強ければダナ。ヤツラ……あのホネ共はいわゆる”悪魔”だ。最下級の”レギオン”という存在ダガナ」

 

「レギオン……」

 

 あくま?悪いと書いて魔法の魔?

 とにかくあの骸骨はレギオンと呼ぶのか……、いやそこは別にいいんだ。聞きたいことはそんなことではなくて、と余計なことを思案した所でバニタスが続けた。

 

 

「ダガ、最下級のといえ、オマエラみたいな生身の人間に勝ち目はないダろう。サレド、サダメのうえで苦しみ抗う、愉悦なるスガタをみせると約束するのでアレバちからヲ——」

 

「待ってッ! アンタこの子にも”契約”するつもり⁉︎」

 

 

 暴走するアリスを止める為抑えながら鋏で迎撃するフードの少女は声を荒げて叫ぶ。

 

 

「ギギ、この人間には必要だロう?それにオマエが出来るのはレギオンを潰すことだけダ。ああなった小娘ヲ戻すことはワレは出来ン…」

 

「………っ」

 

 

 バニタスの指摘に押し黙るフードの少女。

 彼女が云う『契約』が都合の良いものだけではないことだけが分かった。ジャックは意を決してバニタスに問う。契約云々はどうでもいい、聞くべきなのは————

 

 

「————バニタス」

 

「その契約でアリスを元に戻せるんですか?」

 

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