「あはははははははははッ‼︎」
「っ!……めちゃくちゃに攻撃しちゃっ———てぇッッ!」
暴走しているアリスを止めることだった。
フードの少女が持つハサミとアリスの腕と融合した剣と巨大な爪がぶつかり合って目にも止まらぬ速さで斬り合っていた。
周りにいたレギオン達もその戦いの巻き添えで次々と消えていくが、
しかし暴走したアリスが強く決定打が打てず苦戦していた。
「やっぱ強いな、でもッ…!」
攻めあぐねた状況に愚痴るフードの少女はハサミを構えた。
暴走した仲間をいや、そうだった存在を斃す…放っておけばあの三人は彼女に殺される。そうなる前に止めなくちゃいけない、たとえ同じ過ちを繰り返すことになろうと。
ピンクの瞳から一層輝くと同時に髪が段々と白くなりかけ———
「待って下さい!」
突然別の方向から大きな声が聞こえた。声の主を探すとさっきの少年であった。しかし服装が少しだけ変わっていた。ジャックがアリスの前に立ち塞がり、叫んだ。
「アリス!僕だ、ジャックだッ!」
「バカッ! 早くその子から離れて!」
そんなジャックの行動にフードの少女は一瞬呆けてると思わず叫んだ。
「ブラッドスケルター化は元に戻せないんだよ!
ああなったらもう、どうにもできないっ!あれはもう、アリスじゃない………
倒れるまで誰彼構わず襲う化け物になっちゃったんだよ!」
フードの少女が叫ぶと同時に。
目の前にいたアリスは腕と融合した大剣でジャックに目掛けて振り下ろした。標的をジャックにしたようだ。
急いで避けたが、思装を纏った影響か以前よりも感覚が鋭くなっているのを感じる。だが、
「ひゃははははははは!あはははははは…」
「…っ!!今のアリスの狙いは僕ですっ!
引き付けている間にあいつらをなんとかして下さいッ!お願いします!!」
「はぁっ!?ちょ———」
フードの少女に大量のレギオンの相手を任せる。アリスの攻撃の巻き添えである程度減ったとはいえ、カケル先生や先輩にとって未だに脅威だ。
やはり攻撃も速さも段違いで、強化していても避けるだけで精一杯だった。
(このままじゃ、僕の方の体力が先に尽きる…っ。どうしたら……っ!)
そう思考するが、どうすればいいのだろうか。
アリスを殺す?論外だ。そもそも今それが可能かどうかも怪しい。この場から逃げる?どうやって?仮に算段がついても時間が掛かるし、その隙にやられる。
どうする?どうする?どうする?
頭の中で解決策が浮かんでは消えてを巡行していると、ふとバニタスの言葉を思い出した。
「それト、元に戻す方法はオマエの血にアル」
ジャックは自分の右手にある銃を注意深く見てみる。
その銃には弾倉ではなく透明な目盛りの容器があり、そこから妙な管の様な物が腕輪と繋がれていた。
アリスを元に戻すのが僕の血なら、この予想が正しければ、
もしかしたら————っ!
ジャックは何を思ったのか駆け出した。当然目の前にいたアリスはジャックの動きに釣られ追いかける。
どうやら近くにいた者から優先的に狙うらしい
「あはははははは——————っ!」
アリスからの攻撃を避け続ける
しかしこの先には道がなく断崖絶壁だった。
覗けば下はどこまでも何も無く、落ちたら絶対にもう戻れないだろうと示唆する。
(覚悟を決めろ。チャンスは一度きり…アリスを元に戻せる方法はこれしかない……)
するとジャックは剣を捨て手を広げた。
「ちょっとッ!なに考えてんのさ!?」
「…………」
そう叫ぶフードの少女。しかしそんな無防備な状態を狙わないアリスではなくすぐさま大剣をジャック目掛けて振るった。
このままではジャックは身体ごと両断されてしまうだろう
ガキィンッ!
しかし響いたのは、肉が斬れる生々しい音ではなく、金属同士が激突した音であった。
「は———?」
「ぐぅ……っ!なんと、かっ。耐え……た」
アリスは不思議そうに首を傾げた。
確かに両断されたと思われたがジャックの身体は別れておらず未だに繋がっている。たが流石に無傷とはいかず、受け止めた衝撃でさっきの傷が開き血がジワリと広がる。
思装の恩恵は服が増えるだけではなく、常人以上の身体能力が強化されている。
ならばさっき攻撃を喰らう時とは肉体の耐久度は以前より高いはず、ならば致命傷にはならない。
さらに斬られる前に腕とナイフで盾代わりに防御したおかげで、なんとかできた。
そしてこれがアリスを元に戻る最後の一手。それは———
この引き金を引く覚悟だけだ。
ドパン!
ジャックは右手にある銃をアリスに向かって引き金を引く。
「ジャック君!?」
まさかの行動に驚く望だったが、しかし銃から射出されたのは銃弾ではなく大量の血液だった。
バニタスが言った。
自分の血がアリスを元に戻せると、証拠も確証も無いが藁にもすがる気持ちでジャックはその言葉を信じて銃で撃った。チューブに繋がれた腕輪の役目はある液体を抽出すること、それ即ち———
自身の血であること
結果、この一瞬の無防備を逃さずアリスに大量の血を浴びせることができたのだ。
これこそがジャックの狙いだった。
しかし身体が急にフラつく、一度に大量の血が外に出たのだ。声も絶え絶えでアリスの両肩を掴み、呼びかける。
「……ア、リス、目を………覚まして…! アリス……!!」
すると血塗れのアリスに異変が起きた。
髪の色が白から黒へ、異形の両腕も普通の腕へと、学生服もいつの間にか戻っていった。そして最後はさっきまで共にいた姿へとなった。
アリスの瞳に意識の光が宿り目覚めた。しかし目の前の状況に言葉が詰まる。ジャックの姿はあちこちがボロボロになっていた。
「…ジャ、ック……?…ジャックっ………!!」
「うわっ!?」
そんなジャックを見てアリスは思わず抱きしめた。抱きしめられたジャックは思わず驚いた。
「嘘、戻った…?」
アリスが元の姿に戻ったことに驚くフードの少女。彼女からしてもブラッドスケルター化から戻るのはあり得ない事象のようだ。
「……私に、何が起こったの?」
「その話は別で。今はアリスは休んであとは僕がやる」
「でも———」
「大丈夫。僕は絶対死なないよ」
困惑しながら不安そうに聞くアリスだが当然だ。意識がない間、暴れ回ったていたとは信じ難いだろう。
しかし今は話している場合では無い、今は負傷者もいるので一刻も早く皆の安全を確保したい。
ジャックはレギオンを一体召喚した。どう云う原理か分からないが、どうやらジャックが念じるとレギオンが現れるらしい。
しかしこのレギオンの召喚は今のジャックには呼び出せるのはあと2〜3体が限界だろうと感じた。
「アリスをお願い」
レギオンにアリスを安全な場所で守るように指示した。レギオンはこくんと頷き。アリスを守るようにしながらカケル先生達がいる所まで移動した。
これで安心して戦える。ここら一帯を片付けたのかフードの少女が駆け寄って来た。
「———話、終わった?」
「……大丈夫です。それとありがとうございます」
「礼はいいよ。それよりも先にコイツら片付けよっか!!」
顔元が見えないが笑ったように見えた。
敵は未だ健在だがその数は前より少なく感じた。おそらく僕がアリスを止めている間に相手をしていたのだろう。
……きっと優しい人なんだ。
大量のレギオン達の前に、フードの少女は巨大な鋏を構える。
「そんじゃ。やるかっ!!」
「はいっ!!……って、えっ!?あ、あの作戦とかは……?」
「へ、作戦?いや無いけど?」
「ないんですかッ!?」
なんとこの少女。無策で敵陣の中にに突っ込むつもりだったようだ。
そんなフードの少女を急いで止めるジャック。
「えーっ?数は多いけど大したことないって私ならサクッと倒せるよ?」
「そういう問題じゃないですよ!?今は怪我人や戦えない人達がいるんです。守っている存在はいますけど、いつまで保つか分かりません…」
「つまり?」
「短期決戦かつ効率的に敵を殲滅します。———僕たち二人で」
︎
「そらそらそらそらそらあぁっ!!」
フードの少女がハサミをブンブンと振り回しながら敵レギオンを斬り或いは吹っ飛ばしながら駆け抜ける。
これにより敵レギオン達は一気に消滅した。
しかしまだ残っているのがいた。フードの少女は倒した勢いでそのまま爆走する。
「ほら!こっちこっち!!」
するとレギオン達は群れを成してフードの少女を追う。
その後、集団の先頭の数体だけを斬っては走りまた斬っては走りを繰り返した———そして
「おっとっと?」
断崖絶壁を背に追い込まれてしまった。
絶対絶命の状況だが赤いフードを翻し少女はニッと口元を吊り上げた。
「あちゃ〜、追い詰められちゃったかぁ。…………………なんつって♪」
「よーし、作戦どおり!」
そういうと巨大なハサミを大きく開く。
これまで固く閉じられていた双刃が大きく左右に開かれた。
ハサミを開いたまま腰を深く落とし構える。迎え撃つそれはまさに、獲物を待ち構える
逃げ場はない。
無数の敵レギオンは獲物を逃がすまいと雪崩のように押し寄せる。
剣を振りかざし、耳障りな骨の軋む音を響かせながら、一斉に少女へ飛びかかった。
「チョッキンっ!!」
踏み込んだ。
地面を蹴る爆発的な加速とともに、少女の姿が赤い閃光となって骸骨の群れへ飛び込む。
そして開かれた二つの刃が交差し重なった。
──ザンッ!!
鋭い切断音が響く
少女は骸骨の大群を一瞬で駆け抜け、そのまま群れの背後へと足を止めた。巨大なハサミを静かに閉じ肩へ担ぐ。
数秒の静寂が広がる。
骸骨たちは何事もなかったかのように立ち尽くしていた———だが次の瞬間。
パキッ——
一体の胴体が真横にずれ落ちる。
それを合図にしたかのように、二体、三体、十体と、群れを成していた敵レギオンが次々と横一文字に断ち切られていく。
「———……!」
時間差で崩れ落ち、上半身と下半身が滑るように分かれ、光の粒となって次々と消滅していった。
少女は振り返ることなく、その光景を背に笑みを浮かべる。
「へへっ、大成功!」
視線の先では、まだ残っていた骸骨たちが武器を構えこちらへ向かってきている。
少女は巨大なハサミを軽々と回して肩に担ぎ直すと、赤いフードを揺らしながら駆け出した。
「まだまだ終わりじゃないよ! まとめて相手してあげる!」
元気いっぱいの声を響かせながら、少女は残る骸骨の群れへ真っすぐ飛び込み、巨大なハサミを豪快に振るっていった。
「はあッ!」
一方ジャックはナイフで倒し損ねた敵レギオンを一体一体相手をしており、敵に取り囲まれないように動きながら立ち回っている。
そのおかげでジャックは初めての戦闘でも戦えていた。
一方敵レギオンはというと数は多いが一斉に攻撃できず数の利を活かせずにいた。
これがジャックの作戦。
ジャックの作戦通り、フードの少女が敵陣に突入、わざと袋小路になりそうな場所へと逃げ続け、かつなるべくアリス達がいる場所より遠くへ移動し、そして断崖まで誘導した所で一気に攻撃し一網打尽。
あえて追い詰めさせ形勢を逆転する。
これは先程アリスを助けた時と同じ作戦であった。
その後は残った敵をそれぞれが確固撃破する。もっともあの少女に加勢は必要なさそうだが
そうこうしている内に僕は最後の一体をすれ違い様にナイフで斬りつけた。
これで全ての敵レギオンは消滅した。
「……すごい…」
「…………」
全員が驚く中、バニタスが口(?)を開く。
「オマエ…中々スジがあるな……」
「まじでナンなのだオマエ……まあ、良かったな。これで元の世界へもドレルはずダゾ」
「あの…バニタス、まだ聞きたい事が———」
聞きたいことは沢山ある。
此処はなんなのか? 悪魔とはなにか?何故霧が出るのか?
少なくともバニタスが僕らより此処———『異界』を知ってるのは確かだ。
「…ギギ…断る。サラバだ!」
「え、あたしは!」
しかしバニタスは話は終わりだと言わんばかりに断る。するとフードの少女が驚きバニタスに抗議した。かなり…というか結構憤慨している。
「いやサラバだ!じゃないでしょ‼︎!アンタがいないとあっちに戻れないんだよ!」
「そのチカラとエゴで、この先の理不尽に抗って見セルとイイ……」
「はぁ!?こら!待てこのぬいぐ———」
少女が空しく叫ぶがもう遅く、グニャリと景色が、世界が歪み始め
僕達はまた意識を失った。
……目を覚ますと、見覚えのある廊下に倒れていた。床に突っ伏したのか身体が少し冷たい。
「……わたしたち、帰って来たんだ…。皆、大丈夫?」
「はい、大丈夫……だと思います」
「俺は傷以外なら」
「……私は、さっきまでの記憶があんまり覚えてなくて」
「わたしもだーいじょーぶっ!!」
どうやらアリスはブラッドスケルターとかになっていたことの間は覚えていないらしい。
あれ?なんか一人増えて………ん?
「ッて、ええぇ!?なんでいるんですか!?」
いつの間にか、ジャックと共闘していたフードの少女がいた。
先程まであった人の身の丈程ある巨大なハサミは手元にはなく、深く被り込んでいた赤いフードで全く見えなかった素顔が顕になった。髪の長さは肩に付くぐらいの短い茶髪で表情は活発そうな雰囲気を感じる。
全員が驚いているとあっけらかんとした態度で説明する。
「いや、ほら私の場合は君たちが異界に引き込まれた時にバニタスに頼んで一緒に来たんだけど、この通りまとめて送還されちゃって」
「なるほど、だからあの時急に現れたんだな…」
「———ていうか、やっぱり赭奈さんじゃないですかっ!?」
「あ、望ちゃんさっきぶり〜」
「二人は知り合いなんですか?」
「はい。彼女は『
すると途中でどもる望先輩。
「けど?」
「………その取り締まり方が豪快で、その度に周囲に被害を及ぼすこともあって問題を起こしているんです」
「それは……また豪快ね」
「そんでもって俺ら教師陣公認、校内の器物破損ランキングの堂々の第一位なんだよ……」
何処か遠い目をするカケル先生。
もうそれ風紀委員長という名のただの危険人物じゃないですか。一番風紀を乱してるのこの人でしょ。
カケル先生は露骨に話題を逸らした……よほど思い出したくないのか
「……………まぁ、その………とりあえずだ。アリスとジャック特にお前等は安静にな?」
「長谷川先生もですよ、校医が怪我なんて洒落にならないんですから」
「大丈夫だ。傷自体は見た目のほど大した事はない。……まぁ安静はしないといけないんだがな」
そういったカケル先生は斬られた所を見せた。応急措置をしたおかげか傷こそ大きいが、浅かったのか血もそんなに流れていなかった。
「つーかジャック。お前も負傷してんだろ俺よりもザックリと」
「いえ、僕も分からないんですが……怪我はもうほとんど治ってます」
気付くといつの間にか傷から血が流れなくなっていた。治癒能力にしては速すぎる。『思装』を纏った影響なのだろうか?それとも——
「あんだけ出血したのにもう治るとは…いやはや、もうこの学園じゃ常識が通用しないなぁ…」
「それ慣れちゃいけないやつだと思います」
感慨深く頷くカケル先生とそこにツッコむ望先輩。
「まぁ、とりあえずアリスちゃんは念の為、俺が保健室へ連れて行く。三人は先に下へ降りててくれ」
少し驚いたようにそう言うとカケル先生は保健室のある方へ向かった。
「分かりました。先に降りましょう……赭奈委員長、さっきでのことは色々教えてもらいますよ」
「は、はい…」
「りょーかーい」