禪院甚爾に「私で童貞捨てたくせに」って言いたい欲求がある   作:らっきー(16代目)

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なんか家がお悩み相談所として知られてた

 私達の所に持ち込まれる仕事というのは、基本的には高専では手に負えない、或いは、わざわざしっかりとした呪術師が出張るまでもない呪霊、呪詛師を相手にしたものだ。つまり、ピンとキリの極端なものを相手にしている。具体例としては、領域展開を使える呪詛師から、その辺の学校に自然と湧いてきたなんでもない呪霊相手まで。

 

 ピンにしろキリにしろ、大体誰かしら被害者が体調不良を訴えるところから始まる。学校で体調を崩す生徒が大勢出たり、肝試しに行ったグループが謎の体調不良に見舞われたり、恨みを買うような人が大病を患ったり。

 

 なんで急にそんな話をしたのかというと、とうとう私達の所に直接依頼が持ち込まれたからだ。

 

 伏黒と名乗ったその女性の悩みは、ここ数日変な夢を見るという、呪霊の影響を受けている人間にはありがちなものであった。

 

「夢? 内容を詳しく聞いてもいいか?」

 

「はい、勿論です」

 

 夢の内容はそこまで珍しくはないものだった。電車に乗っていると周りの乗客がアナウンス通りの殺され方で殺されていく。あわや次は自分の番かというところで目を覚ます。そんな夢を繰り返してみるうちに、目覚める時のアナウンスが『次は無い』と言われ……なんて。悪夢で片付けてもおかしくは無いし、霊だとかそういうものを疑ってもおかしくない、要はよくある悪夢だ。

 

 悪夢を見るというのは、何の変哲もないつまらない呪霊被害の一つ……ではあるのだけど。

 

「話は分かった。で、アンタはどこで俺達のことを聞いたんだ?」

 

 甚爾君の言う通りで、別に私たちは怪しげな霊能事務所を建てているわけでもないし、悪夢の相談に乗るような心療内科でもない。もちろん呪霊の相談に乗りますなんて看板を掲げたこともない。普通に2人で住んでいる安めの賃貸だ。そもそも看板を掲げたところで一般人に呪霊とか伝わらないだろうし。

 

「えっと……友達が以前、貴方達のお世話になったらしくって。そこからの紹介で」

 

「友達……ねぇ」

 

 友達からの紹介と言われても、そもそも私達は仲介してくれる業者みたいな人から仕事を貰っているから、その友達とやらも別に私達と縁がある訳でもないのだが。私達を利用した友達が居たとして、その人が私達の住所だとか連絡先だとかを知っているはずがないのである。考えられる可能性としては……

 

(甚爾君、甚爾君。最近誰かに尾けられました?)

 

(あ? そんなヘマすると思うか?)

 

(割と……あ、叩くのは無しですよ!)

 

 小声でそんな会話を交わす。甚爾君、こう見えて……なんて言葉が成り立たないぐらいには顔がいいから、時々依頼解決後に熱っぽい目で見られることもあるのだ。そんな熱狂的なファンがとうとう家を突き止めでもしたのかと思ったのだけど……この態度、有り得ないとも言いきれない。何かあっても何とかなるという余裕は警戒心を無くすのだ。特にこういうギャンブラーみたいな人は。

 

「あの……」

 

「あ、すみません。それで、依頼でしたね」

 

 単なる悪夢、で片付けるにはこの依頼者からは呪力の匂いが強い。多分呪霊に憑かれているか呪詛師にでも呪われているか。恨みを買うような人には見えないけれど……まあ、逆恨みなんて言葉もあるし、あてにはならないか。

 

「ええと……先に確認したいんですけど、恨まれるような心当たりとかあります? それか心霊スポットにでも行ったとか、誰かを看取ったとか」

 

「え? いえ、特には……あ」

 

「あ?」

 

「その……お付き合いを申し込まれたのを断って……すみません、そのぐらいのことは関係ないですよね……」

 

 甚爾君と顔を見合せて頷く。多分それだろう。恋愛の逆恨みは呪いとしてよく聞く話だ。まったく、その辺の悪感情での呪いより愛とか綺麗な名前のついた呪いの方がよっぽとタチが悪い。

 

「まあそれなら話は簡単だ。そいつを痛めつけて呪いだかなんだかを止めさせりゃいい」

 

「それか悪夢を見せてる呪霊を祓うかですね……まあ、呪霊じゃなくて術式だったら本人を止めないと無理ですが」

 

 悪夢を見せる術式なのか、呪って呪霊を取り憑かせでもした結果なのか、はたまたたまたまタチの悪い呪霊に憑かれただけなのか。よくある依頼であるけど、情報を集めるところからとなると実に面倒である。

 

「とりあえず今日は泊まってけ。こっちの知らない間に夜に呪い殺されてても後味悪いしな」

 

「あ、甚爾君にもそんな人間的な感性が──痛っ! 叩かなくてもいいじゃないですか!」

 

 依頼に来た彼女……伏黒さんに、大丈夫だろうか、という目で見られているためコホン、と咳払いして話を戻す。

 

「ともかく。伏黒さんは数日間ぐらいは私達の目の届く範囲に居てもらうとして……手分けしましょうか。伏黒さんを守る方と、原因を探る方。後者は場合によっては空振りになりそうですが」

 

「そんなところだろうな。で、どっちがどっちをやる?」

 

「女同士ですし私が伏黒さんについてた方が……とは思うんですけど。甚爾君、捜索活動とか出来ます? すぐ手出して台無しに──痛い! ほら! 向いてない!」

 

「お前が馬鹿にしてくるのが悪い」

 

 最近叩くことに遠慮が無くなっている気がする。距離感が縮まったと言えば聞こえはいいけど、なんか犬か猫かそのあたりへの躾のような気もする。もっと丁寧に扱ってもらいたいものだ。私で童貞捨てたくせに。

 

「……ということで、伏黒さんが良ければこのゴリラに護衛させて、私が原因を探してこようと思うんですが……心配しなくてもこの人最強なので、彼がいれば何か起きたとしても安心ですよ」

 

 男がそばに居る事に不安を覚えなければ、という但し書きは着くが。

 

 少々迷った様子を見せていたけれど、結局伏黒さんはお願いしますと頷いてくれた。

 

 

 

 さて、呪霊やら式神やらが取り憑いた結果での不調なら甚爾君に任せておけば問題無い。夜寝ている時にノコノコやってきたソレを甚爾君がぶった切って終わりだろう。家出する時に持ってきたナントカとかいう凄い呪具もある事だし。

 

 問題は呪詛師あたりが何らかの術式で影響を与えていた場合なのだけど……正直、これはあまり考えなくていい気がする。恐らく今回のコレは、振られた腹いせによくある呪いのおまじないを試してみたらたまたま上手くいってしまったとか、その程度だろう。

 

 根拠は勘でしか無いのだけれど……なんというか。あの伏黒という女性はそんな誰かから恨みを買いまくるような人間だとは思えないのだ。今日一日で何がわかるのかと言われれば返す言葉も無いのだが、上手く言えないけれど……善性の匂いがするタイプの人間だ。

 

 家でずっと見ていたような傲慢さとか、陰険さとか、そういうのとは縁遠いタイプ。過剰な善性は得てして反感を買うけどそういうものも感じない。普通の、どこにでもいる優しい人。そんな印象だった。

 

 まあそんな私の所感は一先ず置いておくとして、告白して振られた、暫定逆恨み君の写真を使って聞き込みを行っていたのだけど、特にこれといった情報は得られない。

 

 強いて言うならその人がいわゆるイケイケ系のイケメンだったとか、自意識が強いタイプだったとか、そのぐらい。これはほんとに腹いせでの呪いかもしれない。

 

 人を呪うとしたら……それも呪術的な知識が無い人が。これは逆に素人の方が色々思いつくかもしれない。私とか甚爾君がこの手のことを考えると、相手の一部を手に入れてだとか、ある程度知性のある呪霊と縛りを交わしてだとか、そういう話になってきてしまう。今回のこれはもっと一般人が思いつくようなことのはず……まあそもそも、不調は単なる呪霊の仕業で暫定逆恨みさんは何も関係ないのかもしれないのだけど。

 

(素人……神頼みとか、お参りとか、神社ですかね)

 

 そんな思考の元、市街地から離れた人気のない神社に行ってみる。まさかそんな典型的なおまじないを信じる人が……結果から言えば、居た。

 

 神社の木に……多分、藁人形を釘で打ち付けている様は、正直ドン引きしてしまった。こういうの、まだヒステリックな女の人がやるならイメージもつくのだけど、振られた男がやっているというのは滑稽なことこの上ない……というか、色々と夢が崩れる。私だってカッコイイ男の人に夢を見たりはするのだ。甚爾君がカッコイイの最低ラインではあるけど。そう考えると別にこの逆恨み君はかっこよくも無いな。どうやら私の夢は無事に守られたようだ。

 

「すいませーん、そこの人ー!」

 

 声をかけたらギョッとした様子で振り返ってきた。いやまあこんな人気の無い神社でしかも夜中に声をかけられたらそれは驚くのも当然だろうけど。

 

「ああ、驚かせてすみません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど……この人、知ってます?」

 

 懐から伏黒さんの写真を見せてやれば、効果? は覿面。露骨な動揺を見せてくれた。

 

「な、なんだよ。……お前、伏黒とどういう関係だ? お前みたいなやつ僕は知らないぞ?」

 

 うーん典型的なストーカーの反応。別にお前が知らない関係ぐらいあったっていいだろうに。もはやこれは黒よりのグレーではないだろうか。

 

「話進めたいんですけど……なんかした覚え、あります? ……そこの木に打ち付けられてるのが答えな気はしますけど」

 

 丑の刻参りとはまた随分古典的な。きちんとした呪術的知識があれば呪殺ぐらい出来そうな儀式ではあるけれど……まあ、素人だなあ……

 

「うるさい! 彼女が悪いんだ! 僕というものがありながら他の男にも優しくして……」

 

「あー、もういいです。とりあえず、二度とこういう事しないって約束してくれません? ついでに二度と近寄らないまで言ってくれればいいんですけど」

 

 思い込みの激しいストーカーと会話をする方が土台無理な話だろう。まあ当然是という答えが返ってくるはずもなく……

 

「──痛ぁぁあ! ぼ、ぼくのゆ、指ィ! お前! なんて──」

 

「面倒なんですよ。それと、私貴方みたいな人本当に嫌いでして……こっちの要求を飲んでくれるまで、指1本1本折らせて頂こうかと」

 

 小枝を折るより楽な作業だったのだけど、3本目で見事ギブアップしてくれた。縛りを結べれば良かったのだけど、一般人相手では無理だろう……けど、こんだけ痛めつけとけば十分かな。

 

「あ、甚爾君? こっちは多分終わったよ。素人のちゃちな呪いだったみたいだけど……そっちはどう?」

 

 とりあえず電話で報告。報連相、大事。

 

「お疲れクウ。こっちは……少しだけダルかったな。時間をかけて夢を見せる縛りと1人ずつしか殺せない縛りを使った猿の呪霊。まあ俺らに領域は無意味だから大したこと無いが……護りながらってのがな」

 

「それは……お疲れ?」

 

「まあ大したことねえよ。とりあえずこれでお互い解決だな」

 

「そうだね。おつかれ〜解散解散」

 

 これにて事件は解決……なのだけど。

 

 この後で、実に微笑ましい問題が発生することになった。

 

 

 

 

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