鬼武者 ~ 幕末伝 ~   作:ダイアジン粒剤5

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第九話 新選組屯所へ

 傷を負った阿倫を背負い、幻魔が蔓延る京の街を十兵衛は進む。

 その前方にはライフル銃を持った異国人ジョージが先行し、時折現れる幻魔を銃撃し排除していく。

 

 「それで、メリケンの間者っていうのは本当なのかい?」

 

 「……ステイツ、とイってくれ。そっちのホウが、トオりがイイ」

 

 刀を振り被り襲って来た幻魔の骸骨頭を吹き飛ばしながら、ジョージが阿倫の問いに答える。

 

 「ステイツのセイフは、カンタイをオソいグンカンをウバったカイブツをキケンシした。だがこのクニのジョウホウはスクなく、ジョウホウをエるためのツテもない。だからジョウホウをエるため、ワレワレをハケンした。それをカンジャというなら、オレはカンジャだ」」

 

 「――我々ってことは、一人じゃない?」

 

 小首を傾げて尋ねる十兵衛。

 

 「そうだ、カズはアカせないがオオゼイいる。このマチはカイブツにシハイされムセイフジョウタイ。だから、モグりこむのはムズかしくなかった。そしてオオゼイでシラべたから、イロイロわかった。カイブツのナが幻魔ということ、それとタタかう鬼武者というソンザイがいること。――そして、キミたちがその鬼武者だということも」

 

 「ふーん、それで? 幻魔のことを調べて、どう思った? あの坂本龍馬が言ってたように、ステイツの政府は幻魔の力を欲しがってるのかい?」

 

 「……ワレワレのシゴトは、シラべたジョウホウをウエにオクることだけだ。そのジョウホウをセイフがどうハンダンしているのか、ワレワレはシらないしシらされていない。ウエからも、ジョウホウをシラべてオクるイジョウのシジはない。だから、わからない」

 

 上空から現れた巨大な蟲のような幻魔を撃ち落としながら、硬い顔でジョージは答える。

 その顔に、阿倫はそれ以上の追及を止めた。

 恐らくだがステイツの政府にとって彼らは捨て駒に等しい存在であり、また彼ら自身もそのことを痛い程理解していると感じ取ったからだ。

 

 「そう、じゃあ幻魔の首魁が何処に隠れているかわかる?幕府の密偵は誰も帰ってこなくて、奴らが今日の何処を拠点にしているか分からないんだ」

 

 そんな感情の機微を理解しない十兵衛が、質問を投げかける。

 もっともその内容が良い方向に話題を変えるモノだったため、硬かったジョージの顔は和らいだが。

 

 「ああ、シっている。というより、イマこのマチにいるものはミナしっている。――アキらかに幻魔のカズがホカとチガうバショがある。マモりがカタめられ、そのマワに人はヨウイにチカづけない。鬼武者、キミがツヨいのはリカイしたつもりだ。だが、けっしてヒトリでムかうべきではない。カズだけではない、あのイゾウやシンベエよりツヨい人斬りも、あそこをマモっている」

 

 「……そいつの、名は?」

 

 「カワカミ、ゲンサイ。もうヒトではなく、幻魔になっている。オレのナカマも、オオくコロされた。センジツには新選組でイチバンつよいとイわれていたオトコも、やつにコロされたとキいた。いまこのマチで、もっともキケンなのはヤツだ」

 

 「河上彦斎、ね。名前は知ってるよ。異国人やそれに好意的な人間は、誰彼構わず殺して回る異常者だ。人間だったころから危険な殺人者として有名だったけど、もう幻魔になってたか」

 

 「――人に仇為す幻魔は、全て私が斬る。ジョージ、あなたの仲間の仇も必ず私がとってみせる。だから、安心して」

 

 強い意志を宿した紅い瞳を、十兵衛はジョージに向ける。

 

 「……そうか」

 

 その瞳に、ジョージは少したじろぐ。

 紅く光る異形の瞳に見られた恐怖からでは、ない。

 その奥にある幼く強い意志に、心の奥の何かを抉られた気がしたからだ。

 

 「だがイったとおり、ヒトリでウゴくのはキケンだからやめておけ。それがワカっているからこそ、おマエたちはこのサキの新選組のトンショにムかっているのだろう?」

 

 現在彼らが立つのは、京都洛中の南側。

 この幻魔京における唯二つの人の砦、新選組が本拠を構える西本願寺の近辺だった。

 

 「だがダイジョウブか? ヒトとはいえ、やつらはやつらでオソろしいアラクレモノのあつまりだ。オンナがフタリでいくには、キケンだぞ」

 

 「大丈夫だよ。新選組も幕府の傘下、将軍様直筆の連絡状を送ってっる以上無碍には出来ないはずさ。それに、これもあるしね」

 

 そう言うと阿倫は、懐から漆塗りの黒地に金箔を張った手のひら大の印籠を取り出す。

 その印籠に金箔で刻まれた葵の御紋を見せびらかしながら、阿倫は言う。

 

 「これを見せれば、幕府の威光が通る場所なら何処でも行けるし何でも命令できる。最近は効果の無い場所も増えたけど、松陰を追って全国各地を飛び回ってた頃は重宝したもんさ」

 

 「……そうか。オレにはヨくワからないが、おマエのコトバをシンじよう」

 

 そう言うとジョージは構えていたライフルを背負い、懐から紙を取り出した。

 取り出した紙を広げるとそこには京の街の地図が描かれており、その中の一点をジョージは指差す。

 

 「オレがキョテンとしているバショは、ココだ。ナニかヨウがあるトキは、ここをダズねてくれ。――そして、オレはココまでだ」

 

 地図を畳んで仕舞うと、ジョージは再びライフルを構え直す。

 

 「ココからサキは新選組のナワバリ、幻魔はデない。――そしてステイツのニンゲンであるオレが、ハイるわけにもいかない。新選組も、イコクジンはキラっているからな」

 

 「私たちと来れば、大丈夫だよ。共に幻魔と戦う者同士、一緒にいよう?」

 

 十兵衛の言葉に、ジョージは目を丸くしながらも頭を横に振る。

 

 「コンランは、サけたい。それにベツベツにウゴいたほうが、イいこともある。――またアおう、鬼武者」

 

 そう言うとジョージは手を振り、自らの拠点へと向かって歩いていく。

 その背を見送り、見えなくなったところで阿倫は十兵衛に声をかける。

 

 「初めて共闘した人間と別れるのは寂しいかい、十兵衛?」

 

 「うん、ちょっと。……ジョージ、また会えるといいなぁ」

 

 子供っぽく呟く十兵衛の姿に哀しみ感じる阿倫だったが、その感傷を振り切り十兵衛の背から飛び降りる。

 そして元気一杯、十兵衛の腕を引っ張った。

 

 「大丈夫、幻魔と戦ってればまた会えるよ! それに、共に戦う人間達にこれから会いに行くんだからさ!」

 

 「ちょっと阿倫、まだ傷が治りきってないんだから……」

 

 「大丈夫、大丈夫。 十兵衛がくれた薬のおかげで、もう治ったからさ。ほら、行くよ!」

 

 グイグイと十兵衛を引っ張り、街路を進む阿倫。

 ジョージの言う通り道すがら幻魔が現れることは無く、道中は平穏そのもの。

 その路を二人で歩いて進み、やがて見てくる。

 

 ――高い塀と深い堀で囲まれ物見の櫓が複数立った、巨大な寺院の姿が。

 

 寺の正面に立つ、鉄で補強された巨大な山門。

 その扉の両脇には浅葱色のだんだら羽織を着た男たちが複数人立っており、皆腰の刀に手を当て臨戦態勢を崩していない。

 太平の世に慣れ切り緩み切った他の幕府の侍達とは違う、絶えて久しく見なかった本物の戦闘者たる武士たちの姿。

 その姿には、数多の修羅場を超えてきた二人をして緊張を覚えずにはいられない。

 

 「――着いたよ、十兵衛。ここがこの幻魔京における二つの人界の砦の内の一つ。新選組屯所、西本願寺だ」

 




次回投稿予定は一週間後、11月23日木曜日を予定しています。
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