鋼の竜騎士   作:バイス

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お待たせしました。
私自身、戦闘描写はあまり得意な方ではないので、ご了承ください。


黒き騎士の王

 

 「そんな、あれって……!」

 

 セイバーの姿を完全に視認した途端、立香は驚愕に目を見開いてそう口にする。そして、アリシアもまた同じ気持ちだった。

 髪や瞳の色こそ違うが、目の前に立つ黒の騎士は、間違いなく自分と同じ顔だった。まるで鏡に映った自分を見ているような気分だ。

 と、そこでアリシアは思い出した。グリムロックが召喚された直後、彼が自身に対して言った事を。

 自分はアーサー王に良く似ていると。

 

 その言葉と、今のグリムロックの動揺。この二つが意味する事は、恐らくただ一つしかない。

 

 「……グリムロック、もしかしてアイツーーいや、あの人は……」

 

 アリシアの言葉に、グリムロックはゆっくりと頷く。

 

 「ああ、姿は違うが間違いない。あれは……アーサー王その人だ……!」

 

 その名前を聞いて、この場にいる皆の間に衝撃が走る。

 

 アーサー王。現代において、その名を知らぬ者は恐らくほとんどいないだろう。

 聖剣エクスカリバーを手に、数多の名のある騎士達をまとめ上げたとさせる、偉大なるブリテンの騎士王。同時に、グリムロックが生前円卓の騎士の一人として支えていた主人でもある。

 そのアーサー王が、目の前にいる英霊だと言うのか。

 

 「ほう、どうやら見知った顔がいるようだな」

 

 ゆっくりと、そしておもむろに、セイバー……アーサー王が口を開く。その一言には、王の名に恥じない威厳と、しかし心を黒く塗り潰すかのような恐ろしい何かを感じ取った。

 

 「アーサー王、まさかこのような形で貴女と再会する事になるとは」

 「当然だな。それが聖杯戦争というものだ」

 

 グリムロックの苦悩の混じった言葉に、しかしアーサー王は変わらず淡々とした口調で返す。

 

 「さて、まずはここまで辿り着けた事に対して、素直に貴公等を賞賛しようではないか」

 

 と、少々芝居がかった口調で言うと、不意にアーサー王はマシュの方へ目をやる。

 

 「……ほう、面白いサーヴァントがいるな」

 

 その一言と共に、彼女は薄く笑みを浮かべた。それはグリムロック達にとって、初めてこのアーサ王の表情に変化が現れた瞬間だったと言える。

 

 「……なるほど、面白い。その宝具は面白い。だがその力、どうやらまだ使いこなせていないようだな」

 「ーーッ!」

 

 アーサー王の言っている事に心当たりがあるのか、沈痛な面持ちで手を握り締めるマシュ。

 

 「良かろう。貴様のその盾でどれ程の者が守れるか、この剣をもって確かめようではないか」

 

 言うや否や、アーサー王はその手に握った漆黒の剣を構えたかと思うと、まるでジェット噴射の如くの勢いでマシュの眼前にまで接近すると、その剣をマシュ目掛けて振り下ろす。

 

 「クッ‼︎」

 

 咄嗟に盾で防御するマシュ。しかしアーサー王の剣の一撃の重さは、彼女が想像していた以上に重く、徐々に押され始めていた。このままでは完全に押し切られてしまう。内心マシュが焦りを感じていると、

 

 「させないッ!」

 

 アリシアが光の剣を振り上げ、アーサー王に切り掛かる。しかし、騎士王の行動は早かった。咄嗟にマシュを盾ごと蹴り飛ばして大きく後退させると、すぐさまアリシアの斬撃を受け止めたのだ。

 

 「……?貴様は……」

 

 と、アリシアの顔を見て、微かに眉を顰めるアーサー王。その一瞬の隙を突き、アリシアは剣を握る手に力を込めてアーサー王の剣を払い上げると、横一文字に剣を振るう。それに対し、しかしアーサー王は後方に跳ぶ事で、アリシアの一撃をギリギリで回避するのだった。

 

 「うおぉぉッ‼︎」

 

 そこへグリムロックの炎を纏ったメイスによる一撃が放たれる。アリシアの一撃を回避したばかりのアーサー王にそれを防ぐ事はできず、モロに直撃を喰らい、吹き飛ばされる。

 しばしの間空中を舞ったアーサー王は、しかしそのまま倒れる事なく両の足で地面へと着地する。その姿を見て、オプティックを細めるグリムロック。無論グリムロックとて、あの程度の一撃でアーサー王に有効打を与えられるとは思っていなかった。

 

 「見事だ。流石だな、グリムロック卿。なるほどランスロット卿が認めただけの事はある」

 

 口から流れる血を指で拭き取りながら、不敵な笑みを浮かべるアーサー王。それに対し、グリムロックは一切の油断なくメイスを構える。そのオプティックにはもはや、先程までの迷いや戸惑いは無かった。

 

 確かに最初にアーサー王と対峙したとき、グリムロックの中には大きな迷いの感情が芽生えていた。目の前にいる騎士王は、自分の知っている騎士王ではないという事は、頭の中では分かっていたのだが、どうしても行動に移る事が出来なかった。

 そんな彼にきっかけを与えたのが、アリシアだった。あの時、マシュがアーサー王に押されていた時、彼女は危険を顧みず真っ先にアーサー王へと切り掛かった。そんな彼女の姿を見て、ようやくこのままではいけないと、自身の気持ちにある程度の折り合いを付ける事が出来たのだ。

 

 目の前にいるのは自分の知っているアーサー王ではない。何より自分のマスターであるアリシアが戦っているというのに、そのサーヴァントである自分が何もしないわけにはいかない。

 そうしてグリムロックは、何とか自身の気持ちにある程度の折り合いを付ける事が出来たのだ。それもこれも、全てはアリシアのお陰だった。もしも彼女が動いてくれなければ、自分は今も動く事が出来なかっただろう。

 

 「なるほど、貴様がグリムロックのマスターか。魔術師自らがサーヴァントと戦うとはな」

 「あら、やっぱりおかしな話かしら?」

 「……いや、そうでもない。聖杯戦争とは何が起こるか分からないものだからな」

 

 どこか意味深なセリフを口にするアーサー王に、一瞬不思議そうに眉をひそめるアリシアだったが、すぐに真剣な表情に戻り、光の剣を構える。先程のグリムロックの一撃が騎士王にどれだけのダメージを与えたのかは、あの様子ではイマイチ分からない。だが、楽観視してはいけないのは確かだろう。何にせよ、次はこちらから仕掛ける番だ。

 そんなアリシアの意志に気付いたのか、グリムロックが地を蹴ってアーサー王目掛けて駆け出し、後に続くようにアリシアとマシュも駆け出すのだった。

 

 

 まず、グリムロックは上段からメイスを振り下ろすが、アーサー王は横へ跳ぶ事で回避する。しかしそれを予測していたかのように、グリムロックはモーニングスター状の形へと変形させた片手を次いで叩きつける。これに対しアーサー王は漆黒の剣で受け、常人離れした腕力でこれを押し返す。そこへ狙い澄ましたかのように、アリシアの一斬が飛んで来る。流石のアーサー王も回避が間に合わず、腹部を大きく切られる。

 

 「グ……ッ!」

 

 顔を顰め、よろめくアーサー王。

 

 「そこですッ!」

 

 さらに追い打ちをかけるように、盾を眼前に構えたマシュが突っ込む。しかしアーサー王はすぐに体勢を立て直したかと思うと、あえてその一撃を受け止めたのだった。

 後方にある程度下がりつつも、騎士王はマシュの攻撃に耐え切ったのだ。

 

 「そ、そんな……!」

 

 目を見開いて動揺するマシュに対し、アーサー王は冷徹に告げる。

 

 「動き自体は悪くない。特にあの魔術師の少女には驚かされた。瞬時にこの私の隙を見つけ、見事に傷を付けたのだからな。しかし貴様は……力、経験、全てが足りない」

 

 言うや否や、アーサー王はマシュの盾を払い上げると、彼女の腹部目掛けて強烈な蹴りを浴びせる。

 

 「あぐ……ッ!」

 

 そのまま後方へと飛ばされ、地面を転がるマシュ。やがて動きが止まると、腹部を押さえ、苦しげにうめく。

 

 「マシュッ‼︎」

 「ちょっと、待ちなさい藤丸ッ!」

 

 そんなマシュの姿を見て居ても立っても居られなくなった立香は、オルガマリーの静止を振り払い、自分の後輩にしてサーヴァントである彼女の元へ駆け寄る。

 

 「そんな、マシュッ!」

 「よくもッ!」

 

 マシュの姿を見て逆上したグリムロックとアリシアは、同時にアーサー王へと躍り掛かる。メイスと光の剣から繰り出される連撃を、しかしアーサー王は漆黒の剣を巧みに操る事で、その全てを捌いていく。

 

 「小賢しい」

 

 アーサー王の持つ剣から漆黒の魔力が溢れ出し、巨大な刃を形成すると、それをグリムロック達目がけて振るう。

 

 「ぐあッ‼︎」

 「ううッ‼︎」

 

 騎士王の漆黒の斬撃によって肩から腰を切られた二人は、それぞれエネルゴンと血を流しながら大きく飛ばされ、マシュや立香達の元へと転がる。

 

 「ふむ、丁度いい」

 

 そんな彼らの姿を確認すると、アーサー王はそう呟く。

 

 「盾の少女よ、今の貴様の力でどれ程の者が守れるか、今こそこの剣をもって確かめようではないか」

 

 そう言うと、アーサー王は剣を斜め下へと構える。瞬間、剣から先程とは尋常じゃない量の魔力が溢れ始めた。

 

 『ーーーッ!アーサー王の剣から膨大な魔力を検知!!こ、これは……!』

 「宝具か……!」

 

 ロマンの言葉を、グリムロックが引き継ぐ。その言葉を聞いた瞬間、その場にいる皆の間に緊張が走る。

 

 宝具とは、その英霊が持つ有名な逸話や伝承を具現化したものである。特殊な能力や一種類の攻撃手段など、その形は様々だ。しかしどんな形であろうと、共通している点がある。それは、その宝具の一つによって戦局が大いに変化するという事だ。

 

 その宝具を、アーサー王が放とうとしている。あの様子を見た限りだと、彼女の宝具は恐らく必殺技と呼ぶに相応しいものなのだろう。

 そして、その宝具がどれ程の威力を秘めているのかは、何よりも生前の彼女に仕えていたグリムロックがいち早く気付く事になった。

 

 「ーーーッ!」

 

 一瞬傷の痛みを堪えながら動こうとしたグリムロックは、しかし何故かその動きを止めてしまう。

 そしてマシュの方へ視線を向けると、おもむろに口を開いた。

 

 「……マシュ、よく聞け。これからアーサー王が繰り出すであろう一撃。それはお前が止めるんだ」

 「えッ⁉︎」

 

 グリムロックの意外な言葉に目を見開いて驚くマシュ。しかし、グリムロックのオプティックから、彼が冗談を言ってる訳ではない事をすぐに理解する。

 

 「そ、そんな……私にあれを止めるなんて、そんな事……!」

 「そ、そうだよグリムロック!いくら何でもそれは無茶だよ!」

 

 弱気なマシュに、反対の意を示す立香。それに対し、グリムロックは首を横に振りながら答える。

 

 「いいや、マシュなら出来る。何故なら……マシュは『彼』の霊基を宿しているのだからな」

 

 その言葉に、マシュや立香、そしてアリシアやオルガマリーも驚く。

 

 「ぐ、グリムロックさん、まさかそれって……!」

 「ああ、最初に召喚された際、お前の盾を見てすぐに気付いた。マシュ、お前と融合したという英霊は……俺と同じ円卓の騎士の一員にして、ランスロット卿の息子、ギャラハッドだ」




今回はここまでです。
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