少しづつではあるものの、この作品を評価してもらえて嬉しいです。
「ギャラハッド…それが私と融合した英霊……」
ポツリと、マシュがそう言う。
ギャラハッドに関しては勿論アリシア達は知っている。
先程グリムロックが言ったように、彼と同じ円卓の騎士の一員にして、『湖の騎士』の二つ名でも有名なランスロットの息子である。『アーサー王伝説』において、彼は聖杯探索を成功させた騎士としてその名を残している。
そうだと言って、グリムロックは続ける。
「アイツは……ギャラハッドは父のランスロット卿に似て、騎士として本当に優秀だった。その実力は俺やガウェイン卿、トリスタン卿とも肩を並べるほどで、他の騎士達からも一目置かれる存在だった。そして何よりもその盾を用いた防御はまさに鉄壁だった、アイツのお陰で命を救われた事も何度かあったのを、俺は今でも覚えている」
そこまで言うと、グリムロックはマシュの肩に手を置いて、
「だからマシュ、お前なら絶対に出来る。ギャラハッドと融合し、その力を宿したお前なら、必ず騎士王の宝具を防げるはずだ」
「グリムロックさん……」
グリムロックの言葉をゆっくりと呑み込むと、自身の掌を見つめる。
そして強く握りしめると、顔を上げてグリムロック達の前に立ち、アーサー王と対峙する。
「……分かりました。やります!」
そう決意の一言を口にしたマシュ。その瞳には、もはや一切の迷いは無くなっていた。
「マシュ……」
「大丈夫です、先輩。どうか私を信じて、私の後ろにいてください」
その言葉に、先程まで不安げな表情を浮かべていた立香も、決意を宿した瞳で自分のサーヴァントの背中を見据える。
「……分かったよ、マシュ。俺は君を信じる!」
「ーーッ!はい!」
立香の言葉を受け、改めて決意を宿した顔で盾を構えるマシュ。そしてそんな彼女の姿を見て、フッと笑みを浮かべるアーサー王。
「どうやら覚悟が出来たようだな、少女よ。では今こそ貴様の力、見せてもらおうか……!」
そう言うと、アーサー王の剣から放たれる漆黒の魔力が、先程よりも増大し始めた。いよいよその宝具が放たれようとしているのだろう。
「『卑王鉄槌』、極光は反転する……」
今まさに騎士王の最大の一撃が迫ろうとしているその時、マシュは盾を構えたまま静かに目を瞑り、心の内へと語りかける。
ギャラハッドさん、私の命を救ってくれた、偉大なる円卓の騎士の一人よ……ほんの少しで構いません。どうか、どうか私に力を……
「光を呑め!『
「大切な人達を守るための力をくださいッ‼︎」
アーサー王の剣から漆黒の魔力が放たれたのとほぼ同時だった。
マシュと、マシュの後ろに立つグリムロック達の眼前に、蒼く輝く巨大な魔力障壁が出現したのは。
「ーーッ!」
「これは……」
「マシュの……宝具……?」
出現した魔力障壁は、やがて迫り来る漆黒の奔流と衝突、拮抗する。
「ぐ、うぅぅッ……!」
歯を食いしばりながら、必死にその奔流に抗うマシュ。少しでも気を抜けば、一瞬で呑み込まれてしまいそうだ。
しかし、彼女の中にそのような選択肢は存在しなかった。何故なら今自分がここで手を抜けば、自分だけでなく、後ろにいる立香やアリシア達をも死に追いやる事になってしまう。何より、自分を信じてくれたグリムロックの気持ちを裏切る事になってしまう。
だから、だからこそ……
「私は……負けない‼︎」
確かな意志を宿した彼女の叫びに応えるかのように、蒼き盾はより輝きを増し、遂にアーサー王の漆黒の魔力を完全に防ぎ切ったのだった。
「何だと……!」
「や、やった……!」
自分の宝具を防がれ、目を見開くアーサー王。それに対しマシュは、自分の大切な人達を、自分自身の手で守り切ったという事実に喜びと興奮が入り混じった表情を浮かべていた。
「よくやった、嬢ちゃん!後は俺に任せろ!」
と、聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、大きな影が一つマシュの前に降り立った。
「クー・フーリン!」
「クー・フーリンさんッ!」
そこに立っていたのは、先程アーチャーの相手を単身引き受けた、クー・フーリンその人だった。上半身が裸の状態になっているが、それ以外は目立った外傷は見当たらない。
そして彼がここに来たという事は即ち、彼がアーチャーとの戦いに勝利したという事だろう。
「焼き尽くせ、木々の巨人、炎の檻となりて……
クー・フーリンが詠唱と同時に杖を振るうと、彼の足元に魔法陣が出現、更にそこから巨大な何かが姿を現す。
それは巨人だった。全身が無数の木の枝で構成され、灼熱の炎を纏った、全長約十数メートルはあるであろう巨人だった。
巨人は地響きと共にアーサー王へ近付くと、その巨大な手でアーサー王を掴み取る。
「ぐ、うぅ……ッ!」
そしてもがく彼女をそのまま胸部にある檻の中に放り込む。瞬間、巨人の全身がより激しく燃え上がり、檻の中にいる騎士王を容赦なく焼き尽くす。グリムロックには、何故かその様がまるで火炙りによって処刑されたという、フランスの英雄ジャンヌ・ダルクの最期の姿にも見えた。
……それから数秒が経過した後。巨人の炎は少しずつ収まっていき、やがて巨人は炎と共に消えていった。後に残ったのは、全身を焼かれた漆黒の騎士王のみだった。彼女は今、身体のあちこちから煙を発しながら、うつ伏せの状態で倒れていた。
「た、倒したのでしょうか……?」
「さあな……」
不安げに尋ねるマシュにそう答えつつ、油断なくアーサー王を見据えるクー・フーリン。勿論それはグリムロックとアリシアも同じであった。
と、その時、アーサー王がゆっくりと立ち上がった。
「そんな……!」
「まだ倒れないっていうの……!」
その姿にマシュは戦慄し、アリシアは歯噛みしながら剣を構える。が、グリムロックがそれを「待て」と言って制する。
「グリムロック、どうしたの?」
「………もう構えなくても良い。決着は着いた」
「え?」
見れば、アーサー王の身体を構成する霊子が少しずつだが消え始めていた。つまり、もはや彼女にはこの世界で現界できる力が残されていない。消滅しようとしているのだ。それでも尚立ち上がったのは、彼女の中にある王としての矜持故なのかもしれない。
「……見事だ。その力、確かに見極めさせてもらったぞ」
そう語るアーサー王の顔には、最早一才の敵意も無かった。
「フ、知らず、私も力が緩んでいたらしい。全力を出そうものなら、いつでも出せたというのに。聖杯を守り通す気でいたが、私情を優先した結果敗北してしまった」
「王、やはり貴女は……いや、そもそも貴女は一体……」
彼女の言葉に何かを感じ取ったのか、アーサー王に歩み寄ろうとしたグリムロックを、しかし彼女は無言で制した。
「いずれ貴方にも分かるはずだ、グリムロック卿。そして、アイルランドの光の御子よ」
「何?どういう意味だ?」
突然自分の名前が出た事に疑問を感じたクー・フーリンは、眉を顰めながら尋ねる。しかし、騎士王はそれに答える事なく言葉を紡ぐ。
「……グランドオーダー……聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」
そう語るアーサー王の身体は、今やそのほとんどが消えかかっており、完全な消滅もすでに秒読みの段階に入っていた。
と、その時アーサー王は不意にああ、と何かを思い出したかのような表情を浮かべると、
「グリムロックのマスターとなった少女よ、最後に一つ、貴女の名前を教えてくれないか……?」
「え……?私の……名前……?」
突然の事に一瞬戸惑うアリシアだったが、すぐに気を取り直してアーサー王の瞳をまっすぐ見据えながら答える。
「……アリシアよ。アリシア・ウィンドネラ」
「アリシア、か。そうか……とても良い……名前だな……」
その一言を最後に、セイバーは、漆黒のアーサー王は消えていった。
その時アリシアは、何故か騎士王がとても温かく、穏やかな表情を浮かべているように見えた。
「おい待てよセイバー、そいつは一体どういう意味ーーーってクソ、ここで強制帰還か!」
そう言うクー・フーリンの身体も、今し方消滅したアーサー王同様、すでに消えかかっていた。
「チッしょうがねぇ、おい、嬢ちゃん達、後の事は頼んだぜ!それと、次に俺を召喚する際はランサーで頼むぜ!じゃあなッ!」
そう言い残すと、今回キャスターとして召喚されたクランの猛犬、クー・フーリンもまた、アーサー王と同じように消滅、英霊の座へと戻っていったのだった。
「これで、終わったのでしょうか……?」
「ああ、この冬木に残ったサーヴァントは全員消えた、後は……」
『ああ、あの聖杯を回収すれば、恐らくこの特異点は消滅するだろう』
そうマシュとグリムロック、そしてロマンが話をしている中、一人オルガマリーは難しい顔をして、何か呟きながら考え事をしていた。
「……
「所長?どうしたんですか?」
「何か気になる事でも?」
そんな彼女の様子が気になったのだろう、アリシアと立香が尋ねてくると、オルガマリーは我に返って顔を上げる。
「あ……いえ、何でもないわ。それより良くやったわ、アリシア、立香、マシュ、それにグリムロック卿も。まだ不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。取り敢えず、最後にあの聖杯を回収して、一度カルデアに帰還しましょう」
「はい!」
「ああ、分かった」
ーーーと、その時だった。突如高台の方から声が響き渡った。
「いやはや驚いたよ。まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」
「ーーえッ!?」
「この声は……まさか……!」
その声を聞いた瞬間、アリシアや立香、そしてマシュやロマンにオルガマリーらは驚愕に目を見開いた。何故ならその声は、彼等にとって最も聞き覚えのあるものだったからだ。
「47人目と48人目のマスター適性者。変わり者の少女と、何の見込みもない少年だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」
そう言いながら姿を現したのは、緑色のスーツとシルクハットに身を包んだ、英国紳士風の男。
……そう、カルデアの管制室の爆破によって死んだと思われていた、レフ・ライノールその人だった。
今回はここまでです。