この小説を書くにあたり、FGO本編を見返しているのですが、ここは見返してて胸が痛くなりました……
「れ、レフ教授⁉︎」
レフの突然の出現に、マシュが驚愕と戸惑いが混じった声を出す。
「お前達、あの男を知っているのか?」
この中で唯一彼の事を知らないグリムロックがアリシア達に尋ねる。
ええ、と頷きながらアリシアが答える。
「レフ・ライノール。カルデアの技師の一人よ。前に話した管制室の爆破で消息が分からなかったけど……」
「あの男が……カルデアの職員だと……?」
改めてレフを見据えるグリムロック。確かに一目見ただけならば、彼は身なりの整った心優しい紳士としか写らないかもしれない。しかしグリムロックには、その微笑みの裏に、いや、あの男自身から、何か得体の知れない邪悪な気配を感じ取っていた。
いや、そもそも仮に無事だったのなら、何故今の今まで姿を現さなかった?言い寄れぬ不安が、グリムロックの胸中に広がっていった。
『レフーー⁉︎レフ教授だって⁉︎彼がそこにいるのか⁉︎』
と、モニター越しに聞こえたロマンの声に、レフはピクリと反応する。
「おや?その声はロマニ君かな?君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。全くーー」
言いながらレフは大きくため息を付き、
「どいつもこいつも統率の取れないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間というのはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」
それまで浮かべていた微笑みを消し去り、代わりに見た者を畏怖させるような、悍ましい表情を浮かべながら、自分の眼下にいる者達全員を見下すようなセリフを口にした。
それは、レフという男を知っている者達にとって、とても信じられない光景だった。
「ーーーッ!マスター、下がってください!あの人は危険です……あれは、私達の知っているレフ教授ではありません!」
「あ、ああ!」
レフの異質さを感じ取ったのだろう、マシュは咄嗟に立香の前に立ち、立香もまた警戒心を宿した目でレフを見ていた。
アリシアもまた、脂汗を流しつつも、レフから目を離さずに剣を構える。
と、その時、アリシアは先程からのレフの発言から、ある一つの考えに至った。いや、至ってしまった。
「……レフ、貴方に一つ聞きたい事があるわ」
アリシアの言葉に、レフは再び微笑みを浮かべながら応える。
「何かな?アリシア・ウィンドネラ」
挑発的な笑みを浮かべるレフの顔を見据えながら、アリシアは確信を持った口調で話す。
「カルデアの管制室を爆破したのは、貴方ね?」
「ーーーッ」
その瞬間、レフの顔から笑みが消える。
そして束の間沈黙の時間が流れたかと思うと……
「……ク、ハハ……ハハハハハハハハハッ‼︎」
レフが笑い出した。片手で顔を覆い隠しながら、まるで狂ったように、大声で。
「ハハハハ……いやはや、そこまで見抜かれてしまうとは。やはり君はあの時他の魔術師共々始末するべきだったね」
「レフ、ではやはり貴様が!」
レフのセリフから確信を得たグリムロックは、金属の顔を怒りに歪めながら詰め寄る。
それに対し、レフは凶悪な笑みを浮かべながら答える。
「ああそうだとも!カルデアの管制室に爆弾を仕掛けたのはこの私さ!今回のレイシフトが行われるずっと前に用意していてね、他の職員の目を盗んで仕掛けるのに少々骨が折れたよ」
そう笑いながら語るレフの顔には、もはやこれまでのような紳士然とした雰囲気は消え去っており、まるで悪魔のような狂気が宿っていた。
「れ、レフ……貴方さっきから何を言ってるの……?」
レフの姿にグリムロック達が戦慄する中、オルガマリーが震えながらそう呟く。
「あ、貴方……本当に私の知っているレフなのッ⁉︎」
と、オルガマリーの言葉に反応したレフは彼女の方へ顔を向け、
「おやおや、オルガではないか。驚いたな、まさか君がここにいるなんて思わなかったよ」
まるで本当にオルガマリーがそこにいる事に気付いていなかったかのようなリアクションを取るレフに対し、オルガマリーは思わず狼狽する。
「な、何を言ってるのよ!まるで私がここにいるのがおかしいみたいな言い草じゃない!」
「いやいや、当然じゃないか。だって……
爆弾は君の足元に設置したのだから」
「…………………………え?」
『ーーーッ⁉︎』
瞬間、周囲の空気が凍りついた。
「だから君が五体満足で生きていられる訳が無い。そもそも今こうしてこの特異点にいる事自体がまず無理な話なんだよ。君の肉体はもうとっくに死んでいるのだからね」
レフが淡々と告げてくる真実を、しかしオルガマリーは簡単に受け入れる事が出来なかった。顔をこわばらせ、彼の言葉を否定するように首を横に振る。
「う、ウソよ……そんな、そんな筈はないわ!だ、だって、だって現に私は今ここにいるじゃない!」
動揺するオルガマリーを嘲笑うように、レフは再び大声で笑い、そのまま言葉を紡ぐ。
「オルガ、あの爆弾の威力は管制室にいた者達を全員殺すか意識不明の重体にするほどのものなのだよ?そんな代物を直接足元から喰らった君が無事で済むなんて、どう考えてもあり得ないだろう?」
余程の例外さえなければね、と付け加えて一瞬チラリとマシュに目を向けると、再びオルガマリーの顔を見ながら続ける。
「良いかい?管制室が爆発して君が命を落とした際、トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ」
「ざ、残留思念……⁉︎」
「その通り。ほら、生前の君にはレイシフトの適性が無かっただろう?肉体があったままでは転移できない。分かるかな?君は死んだ事で初めて、あれほど切望していた適性を手に入れたんだ」
そこまで言うと、レフは再び醜悪な、嘲りの笑みを浮かべ、
「だから君はカルデアには戻れない。だってカルデアに戻った時点で、君の意識はそのまま消滅するんだから」
「しょ、消滅……?私が……?カルデアに……戻れない……?」
まさに死刑宣告とも言えるレフの言葉に、オルガマリーはただ戸惑い、恐怖し、絶望するしかなかった。
「さて、そんな君にせめてもの手向けとして、君が生涯を捧げたカルデアが今どうなっているか見せてあげよう」
そう言ってレフが指を鳴らす。すると聖杯から異様な光が放たれ、一瞬空間が歪んだかと思うと、そこにはこことは違う別の場所を映し出していた。そこにあったのは、まるで地球儀を思わせる巨大な物体が浮かんでいた。
それが何なのかは、グリムロックを除く面々は知っていた。
カルデアス。
この星の魂を複写した、擬似天体である。しかし、本来ならば澄み切った青に輝くはずのそれは、今は真紅に染め上げられていた。まるで星全体が何かに焼き尽くされたかのように。
恐らく空間同士を繋げてあれを見せているのだろう。聖杯を用いればあのような芸当が可能なのかと、グリムロックは内心その力に戦慄した。
「こ、これが、カルデア、今のカルデアなの……?」
「その通りだ。さあ、目を見開いてよく見たまえ。あれがお前達の愚行の末路だ」
もはや震えるしかないオルガマリーに対し、レフは容赦無く言葉を浴びせる。まるで死者の魂を刈り取る死神を彷彿とさせる、醜悪な笑みを浮かべながら。
「どうだい?人類の生存を示す青色は一片もありはしないだろう?あるのはただ、燃え盛る赤色だけだ。あれが今回のミッションが引き起こした結果だよ。良かったじゃないかマリー。今回もまた君の至らなさが悲劇を呼び起こしたと言う訳だ!」
と、不意にレフの瞳が一瞬輝いたかと思うと、オルガマリーの身体が突然宙に浮かび始めた。
「な、何をするつもり、レフ⁉︎」
「今そこはカルデアと空間が繋がっているんだ。セイバーを倒した褒美として、このままただ消滅するしかない君の最後の望みを叶えてあげようと思ってね。さあ、君の宝物とやらに触れるといい。遠慮する事はない、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」
レフが言うと、オルガマリーの身体はそのまま引き寄せられるかのように、カルデアスの方へと向かって行く。
「そ、そんな、やめて、レフ!カルデアスは高密度の情報体、次元が異なる領域なのよ⁉︎そんなものに触れたら……!」
「ああそうだね、人間がそれに触れれば、分子レベルで分解されてしまうだろう。まさに地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」
レフのセリフからこれから自分の辿る末路をイメージしてしまったのか、オルガマリーは涙を流しながら叫ぶ。
「いやーーいや、助けて、誰か助けて!私は、私はまだこんな所で死にたくないッ‼︎」
「ーーーッ!やめろォッ‼︎」
「グリムロック!」
瞬間、気が付いたらグリムロックはレフの元へと駆け出していた。
この状況をどうにか出来るわけではない。彼女を救う手段があるわけでもない。それでもグリムロックは動かずにはいられなかった。それは騎士としての矜持などではなく、感情的なものから来る行動だった。
地を蹴ってレフの頭上まで大きく跳躍すると、炎を纏わせたメイスを、渾身の力で彼目掛けて振り下ろす!
ガガアアァァンッ!という金属音が周囲に響き渡り、それと同時に強い衝撃がアリシア達を襲う。
そして衝撃が消えた先に見えたのは……
「なーーーッ⁉︎」
「えーーーッ⁉︎」
「そんなッ⁉︎」
グリムロックのメイスによる一撃を、片手で受け止めるレフの姿であった。
オプティックを見開いて驚愕するグリムロックに対し、レフはなんでもないかのように、呆れ顔でため息をつく。
「やれやれ、折角オルガの最期に華を添えてやってるというのに…………
邪魔をするな、英霊風情がッ‼︎」
地の底から響いてきたかのようなゾッとする声色でそう言ったかと思うと、レフは空いた片手で、グリムロックの胸部目掛けて掌底を叩き込む。
「グゴォッ⁉︎」
まるで大砲の直撃を受けたかのような衝撃が全身を襲い、グリムロックは口から多量のエネルゴンを吐きながら大きく後方へと吹き飛ばされる。
「グガ……アア……!」
吹き飛ばされてうめくグリムロックの金属の胸部は、まるで巨大なハンマーで殴られたかのように大きくへこんでいた。
「そんな……グリムロックッ‼︎」
咄嗟にアリシアが駆け寄り、彼に治癒の魔術をかける。しかしその顔には、信じられない、という思いで染まっていた。
グリムロックは円卓の騎士の中でもランスロットと肩を並べられる程の実力を持った騎士だ。その上、単純な腕力や頑強さだけなら円卓随一とも言われている。
そんな彼の一撃を生身の人間が受け止め、あまつさえここまでの傷を負わせるなんて。それも何の魔術も使わずに。一体あの男は何者だというのだ?
「さて、余計な邪魔が入って済まないね、マリー。さあ、改めて無限の死を味わってくれ」
そう言うと、オルガマリーとカルデアとの距離は徐々に近付いていく。
「いや、いや、こんな所で死にたくないッ!だって……だって私は、まだ誰にも褒められてない……!誰も私を認めてくれていない……!どうして⁉︎どうしてこんな事ばっかりなの!?一度で良いから、自分の力で何かを成し遂げたかったのに!皆んなに認めてもらえる存在になりたかっただけなのに!」
「所長ーーッ!」
恐らく初めて聞いたオルガマリーの心情に、アリシアは思わず身を乗り出したが、すぐに思い留まった。思い留まらざるを得なかった。グリムロックですら敵わなかった相手に、自分がマトモにやりあえるはずがないのだから。
この時アリシアは、初めて今の自分の無力さを呪った。
「イヤァァッ!いやいやいやいやいや、イヤァァァァァッ‼︎」
断末魔の叫びと共に、オルガマリーの身体は真紅のカルデアスに触れたかと思うと、そのまま溶けるようにカルデアスへと取り込まれ、消えていった。
その様を、グリムロックも、アリシアも、立香も、マシュも、ただ見ている事しか出来なかった。
今回はここまでです。
次回で序章は終了となります