というわけで、お待たせしました。
英霊召喚(冬木編)
グランドオーダーが発令されてから2日が経過した。
その日、グリムロックとアリシアはカルデア内のシミュレーションルームにて軽い模擬戦を行っていた。
模擬戦を提案したのはアリシアだった。あの冬木の特異点で、初めて己の力不足を痛感した彼女は、二度と同じ気持ちを味わない為にと、グリムロックに頼み込んだのだ。
グリムロックはアリシアの為ならばと、快くこの提案を承諾し、今に至るという訳である。
「ーーフッ!」
光の武具を纏ったアリシアが裂帛の気合いと共に放った剣の一閃を、しかしグリムロックは片手でガードする。そのまま腕を振るってアリシアを払い除けると、手にしたメイスを振るう。咄嗟にアリシアは剣でその一撃を受け流すと、そのまま地面へと着地。再びグリムロックへと突進する。
グリムロックはメイスの石突部分を彼女の眼前目掛けて振り下ろすが、アリシアはそれを瞬時に横に跳んで回避する。しかしそれを読んでいたかのように、片手をモーニングスター状に変形させたグリムロックの第二撃が飛んで来た。
が、アリシアもまたそれが来るのが分かっていたのか、剣を上空に放り投げて跳躍、グリムロックの一撃を回避する。そして中空に浮いていた剣をキャッチし、上段から唐竹割りの要領でグリムロック目掛けて振り下ろす。
「ムンッ!」
「ウソッ!?」
アリシアの一撃を、しかしグリムロックは白刃取によって受け止めてしまう。予想だにしなかった防御法に、アリシアは思わず目を丸くして驚いてしまう。そんな彼女を尻目に、剣共々アリシアを放り投げるグリムロック。
アリシア咄嗟に空中で体勢を立て直し、何とか地面に着地する。
そうしてしばしの間、両者は武器を構えたまま睨み合っていたが……
ジリリリリ!というアラーム音が、シミュレーションルーム内に響き渡る。
「……よし、それじゃあここまでにしよう」
「ええ、そうね」
そう言うとグリムロックはメイスを霊体化させ、アリシアもまた元のローブ姿に戻る。
「それでどうだった、私の実力は?」
室内に用意されていた椅子に腰掛けながら尋ねるアリシアに、グリムロックはふむ、と少し考え込んだ末に口を開く。
「まあ、悪くなかった、とだけ言っておくか。魔術師でありながらここまでの動きが出来るなんて、中々やるじゃないか」
「ホント?嬉しい!」
グリムロックの言葉に、無邪気に喜ぶアリシア。
こうして見ると、彼女がまだうら若い少女なのだという事を、グリムロックは改めて理解する。
「おや、今終わった所だったのかい?ちょうど良かった」
と、シミュレーションルームの扉が開いたかと思うと、ロマンが中に入ってくる。
「どうしたの、ロマン?」
「ああ、実は英霊召喚システムがようやく稼動の目処に立ったんだ」
「ほう、完成したのか」
「ああ、だから君達にも管制室に来てもらおうと思ってね」
そうして、二人はロマンと共にシミュレーションルームを後にするのだった。
管制室に着くと、そこにはまだ立香達の姿はなかった。
「おや、今回はアリシアちゃんとグリムロックが先だったようだね」
代わりにそこにいたのは、ウェーブがかかった黒髪と、右腕を覆う籠手、そして星を象ったような杖が特徴的な美女であった。
彼女の名は「レオナルド・ダ・ヴィンチ」。かの有名な「モナ・リザ」を描いた芸術家にして、博学、化学、占星術といった様々なジャンルの学問にも精通した、「万能の天才」と称された人物である。同時に、このカルデアにキャスターのクラスで召喚されたサーヴァントでもある。
初めてダ・ヴィンチに会った際、グリムロックとアリシアはアーサー王と同じように、後世では男性として伝えれているが、実際は女性だったのだろうと思っていたが、実際はモナ・リザに憧れる余りに自らもモナ・リザとなっただけで、中身は男なのだという。
これを聞いた時、芸術家の考える事は分からないと、グリムロックは内心呆れて排気したのである。
「ダ・ヴィンチか。英霊召喚システムが完成したそうだな」
「ああ、これを使えば古今東西あらゆる時代の英霊を複数召喚する事ができるという訳さ!」
と、自信満々に答えるダ・ヴィンチ。
この英霊召喚システム……正式名称『守護英霊召喚システム・フェイト』は、具体的には先の冬木の特異点でグリムロックを召喚したのと同じ理屈で機能するものだ。マシュがデミ・サーヴァントととして使用するギャラハッドの盾は、実はグリムロック達円卓の騎士が集った円卓でもあり、その縁を用いる事で数多の英霊召喚を可能としているのだ。
つまり、これにより先のグランドオーダー発令時にロマンが言っていた戦力不足を解消できるという訳である。
「すいません、遅れました!」
「あ、アリシアさんにグリムロックさん!すでに来ていたんですね」
と、そうこうしている内に立香とマシュもようやく管制室へとやって来た。
「よし、みんな揃ったね。それじゃあ改めて説明するけど、今日カルデアが開発していた英霊召喚システムが、ようやく起動できるようになったんだ。これで僕達は数多の英霊を呼び寄せる事が可能となり、同時にこれからのミッションをより効率よく進める事ができる筈だ」
「と言っても、冬木での君達が残した軌跡を鑑みても、恐らく今回召喚できる英霊は二体が限界だろうけどね」
ロマンの言葉に、ダ・ヴィンチがコンソールを操作しながらそう付け加える。
「よし、準備完了だ。それじゃあマシュ、盾を設置してくれ」
「分かりました」
言われた通りマシュが盾を設置する。すると、盾から青白い光が放たれた。
「さあ、立香君」
「は、はい!」
立香は令呪が刻まれた右手を差し出すと、英霊召喚のための言葉を詠唱する。
以前からの話し合いの末、今回英霊を召喚し、彼らのマスターになるのは立香という事になっていた。
確かに彼にはマシュというサーヴァントがいるが、彼女のクラスはシールダー、つまり基本的に防御を主体としたサーヴァントであるため、白兵戦には向いていない。故に彼女一人ではマスターである立香を守るにはある種の限界がある。
だからこそ、今回の英霊召喚で、少しでも戦力を増やし、マシュの負担を減らそうという訳である。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よッ!」
立香が詠唱を終えると、盾を中心に十の光が輪を描きながら回り始める。そして輝きが強くなっていくと、盾を中心に光の柱が立ち上る。
そして光が消えてそこから姿を現したのは……
「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上した。テメェが俺のマスターか?」
ボディスーツを思わせる青い装束に身を包み、真紅の槍を肩に担いだ、野生味を感じさせる青髪の男だった。
「クー・フーリン!また会えたね!」
嬉しそうに男…クー・フーリンに話しかける立香。
それに対しクー・フーリンは、しかし訝しげに眉を顰めるのだった。
「ああ?テメェとは面識はねぇ筈だが…どこかで会ったか?」
「え?…あ、そうか」
そこで立香は、マシュやロマンから教わった事を思い出した。
英霊というのは、基本的に本体は『座』と呼ばれる、所謂巨大なデータバンクのような場所に存在しており、現世に召喚されるのはそんな英霊の写身、コピーのようなものである。つまり、その英霊本人であって決して本人そのものではない、少々矛盾した存在なのである。
そのため現世でどれ程の時間を過ごしても、英霊の座に戻るとそういった経験はあくまで『情報』として座に登録されるため、決して『記憶』として残るわけではない。
故に目の前にいるクー・フーリンは、厳密に言えば冬木の特異点でアリシアや立香達が出会ったクー・フーリンとは別の存在なのである。
「ま、兎にも角にもよろしくな、俺のマスターさんよ」
立香の事情をある程度察したのか、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべながら、改めて立香への簡単な挨拶を済ませるクー・フーリン。
そうこうしている内に、二人のサーヴァントの姿が見え始めた。
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した」
そう言って姿を現したのは、黒いボディアーマーの上に赤い外套を羽織った、日に焼けたように浅黒い肌に白髪が特徴の男である。
このサーヴァントに関しては、アリシア達もそこまで接触はしてないが知っていた。冬木の特異点で、黒いアーサー王を護っていたシャドウサーヴァントの一人だ。
今回もまたアーチャーとして召喚された彼は、クー・フーリンの姿を確認すると不意に意味ありげな笑みを浮かべる。
「おや……どうやら懐かしい顔も一緒にいるようだな」
「何だ?俺はテメェみたいな奴とは……イヤ、何となく覚えてるぜ。お前、”あの”アーチャーだな?まさかこんな形でまた会えるとはな」
最初は怪訝そうに眉を顰めていたが、やがて何かを思い出したのか獰猛な笑みを見せるクー・フーリン。それに対し、外套のアーチャーもまた歩的な笑みを浮かべながら肩を竦める。
「全くだ、どうやら我々には切っても切れない縁があるようだな」
「ハっ、違いねぇ」
まるで昔を懐かしむかのように話す二人に対し、オズオズとマシュが手を上げて会話に割って入る。
「えっと、すみません。お二人はどこかでお会いになった事があるのでしょうか?」
それに対し、二人は少々複雑そうな表情を浮かべる。
「まあ…生前会った事はねぇんだが……こいつとは以前にも刃を交えた経験がある、そんな感じがするのさ」
「私も同じだ」
そういえば、とグリムロックは思い出す。
冬木の特異点で出会ったクー・フーリンはアーチャーに対し、少しばかり因縁がある言っていた。あれはあの特異点における聖杯戦争での事を言っていると思っていたが、もしかしたらこの二人はそれ以上の関係なのかもしれない。
それこそお互いの霊基に強く刻み込まれる程に。
「とにかく、これで英霊召喚は済んだという事だな」
そう言うとグリムロックはクー・フーリンの前に出て手を差し出す。
「偉大なるクランの猛犬クー・フーリンよ、俺はグリムロックだ。これからはよろしく頼む」
「おお、アンタがあの鋼の竜騎士か!なるほど二つ名に恥ねぇ姿をしてやがるぜ!」
そう言うと、クー・フーリンはグリムロックが差し出した手を握る。
「ほう、貴公がかの有名なグラムロック卿か。私も生前貴方の伝説には目を通した事があるから、こうして会えるとは実に光栄だ」
そう言うアーチャーの顔は、まるで童心に帰ったかのようだった。
「それじゃあ貴方は、グリムロックよりも後の時代の英霊という事ね?」
「ああ、私のいた時代ではーーー」
と、尋ねてきたアリシアの方へ顔を向けた瞬間、アーチャーに異変が起きた。
目を大きく見開き、驚いたような、戸惑うような表情を浮かべ、そのまま硬直してしまったのだ。
その様子に何か既視感を感じつつ、アリシアが尋ねる。
「えっと…大丈夫?」
アリシアの一言で我に返ったアーチャーは、ゴホンと咳払いをすると、
「あ、いや、済まない。何でもない。では、改めて自己紹介しよう。私のクラスはアーチャー、真名は……エミヤと呼んでもらえれば良い」
話を逸らすようにアーチャー…エミヤはそう言うと、立香の方へと顔を向ける。
「それで、私とこのランサーを召喚したのは君で間違いないね?」
「あ、うん。俺は藤丸立香!よろしく、エミヤ、それにクー・フーリンも!」
立香の言葉に満足したのか、ああ、と微笑みながら頷くと、改めてエミヤは周囲を見渡す。
「……さて、これで契約は完了した訳だが、ここの責任者は誰かね?」
「ああ、それなら僕だよ。と言っても臨時のようなものだけどね」
そう言って、ロマンが手を上げながらエミヤの前に来る。
「ふむ、名前は何という?」
「ロマニ・アーキマン。気軽にDr.ロマンと呼んでくれ」
「ああ、ではDr.ロマン、早速サーヴァントとしての仕事をしようと思うのだが…………
ここにキッチンはあるかね?」
今回はここまでです