鋼の竜騎士   作:バイス

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これが今年最後の投稿となります


アーサー王を知る男

 

 「美味しい!」

 

 そう言ったのはアリシアだった。

 その目は星が瞬いているかのように輝いており、特徴的なくせっ毛もフルフルと揺れているように見える。

 

 ここはカルデアの食堂。

 あの英霊召喚の後、エミヤは厨房へと足を運んだかと思うと、早速アリシア達に自身の料理の腕を披露したのである。

 その腕前は見事としか言いようがなく、事実アリシアだけでなくグリムロックや立香、マシュ達もまたエミヤの料理に舌鼓を打っていた。

 

 ちなみにメニューとしては、アリシアはオムライス(エミヤ特製ソース掛け)、グリムロックはミートパイ、立香はハンバーグ、マシュはカルボナーラ、ロマンは親子丼、そしてクー・フーリンはサバ味噌定食というラインナップである。

 

 「確かに、これは見事な腕前だな」

 

 ミートパイを頬張りながら、感心したように頷くグリムロック。実際、彼もエミヤがこれ程の技術を持っているとは思っていなかったのだ。

 召喚が終わった後に聞いた事だが、何でもエミヤはグリムロック達とは違い、未来から召喚された英霊なのだという。

 これに関しては、グリムロック達は特に驚きはしなかった。

 英霊の座には時間の概念が存在しない。故にそこから未来の英霊がサーヴァントとして現界しても不思議ではない。

 

 「それにしても料理の腕は勿論だが、まさかこれほどレパートリーが豊富だとはな。生前は料理人もやっていたのか?」

 「そこまでの腕は持ってないさ。ただ強いて言うなら、調理実習では三年間誰にも負けた事がないって事ぐらいかな」

 

 それは今自慢して言う事か?と内心思うグリムロックであったが、ひとまずその言葉は呑み込んだ。何故なら、エミヤからは他に聞かなければならない大事な話があるからだ。

 少し間を置いた後に、改めてグリムロックは口を開く。

 

 「エミヤ、もう一つお前に聞きたい事がある」

 「ん?何かね?」

 「お前は……アーサー王を知っているんだな?」

 

 と、その一言をきっかけに、先程までエミヤの料理を堪能していた面々の視線が彼の方へと向けられる。

 それを見て適当な言い逃れは出来ないと思ったのだろう。エミヤは観念したように苦笑いを浮かべながらため息をつく。

 

 「やれやれ……どうしてそう思ったのかね?」

 「お前がアリシアの顔を見た時の反応が、俺と全く同じだったからな」

 

 それで得心が入ったとばかりに、なるほどなと小さく頷き、ゆっくりと語り始めるのだった。

 

 「……そうだ。アンタの思っている通り、私は生前にアーサー王と会った事がある」

 

 自分とアーサー王の、一つの物語を。

 

 

 「君達が先のレイシフトで訪れた、日本の冬木市。私はそこで暮らす魔術師の一人だったんだ」

 

 魔術師といってもちょっとした強化魔術程度しか使えない、三流魔術師だったがね。と自嘲気味な笑みを浮かべながらそう付け加えると、更に続ける。

 

 「当時の私は丁度立香やアリシアと同じぐらいの歳の学生だったんだが、ある日私はちょっとした用事があって学校に残っていた。そこで私は目撃してしまったのだよ、聖杯戦争……魔術師同士によるサバイバルゲームをね」

 

 淡々とした調子で語りながら、エミヤは当時の記憶を…自分自身の運命を変えたあの日の出来事を思い起こしていた。

 

 「そして私は証拠隠滅のために、とある槍兵のサーヴァントに命を狙われてね」

 「へいへい、その件は悪ぅございましたね」

 

 と、意味ありげな目を向けるエミヤに対して、不機嫌そうな態度で適当に謝るクー・フーリン。その様子を見てグリムロックは、この二人は想像していた以上に複雑な因縁で結ばれているのかもしれないと考えた。

 

 「ともかく、サーヴァントの襲撃を受けた私は必死に抵抗したのだが、当然敵うはずもなく、呆気なく追い詰められた……私が彼女を召喚したのはその時だったんだ」

 

 そう語るエミヤの顔は、アーサー王の姿に思いを馳せているのか、心なしか穏やかに見えていた。

 

 「なるほどね……それで、貴方から見てアーサー王ってどんな人だった?」

 「む、そうだな……」

 

 少し思案した後、エミヤは再び口を開く。

 

 「まあ、有り体に言えば、彼女は強く、美しく、そして誰よりも気高い人だった。彼女の戦う姿を見て私は、「ああ、これが数多の騎士を束ねた王の姿なのか」と思っていたよ」

 

 その言葉に、グリムロックは内心納得した。それは生前の自分自身も抱いてた、アーサー王に対する印象だったからである。

 しかし、次にエミヤの口から紡がれた言葉に、彼は驚く事になる。

 

 「だが、そんな彼女も可愛らしい部分を見せる事があってね。私の作る料理を、アリシアと同じような顔をしながらいつも美味しそうに食べていたよ」

 「それは本当なのか……!?」

 

 思わず身を乗り出すグリムロック。それに少し驚きながらも、エミヤは淀みなく答える。

 

 「ああ、良くご飯のおかわりを頼んだり、私にぬいぐるみを買ってもらって喜んでいたのを今でも覚えているよ」

 「アーサー王が、そんな一面を……」

 

 グリムロックは驚きにオプティックを見開く。

 

 

 思えば自分の記憶にあるアーサー王は、自分達家臣の前では一度もそんな顔を見せた事がなかった。常に凛々しく、冷静で、まるで感情など持ち合わせていないかのように振舞っていた。

 確かにそれは騎士達を束ねる長としては相応しいものなのかもしれない。

 ……しかしグリムロックは生前、時折思う事があった。自分達が見ているのが彼女の全てなのだろうかと。泣いたり、笑ったり、怒ったり………一度でいいから、そう言った人間が持って当たり前の感情を自分達の前で見せて欲しい…と。

 

 そんなアーサー王が、しかし当たり前の感情を曝け出したのだ。たった一人の魔術師の前で。嬉しいと思う反面、少し複雑な気持ちをグリムロックが感じている中、再びアリシアがエミヤに尋ねる。

 

 「でも、よくアーサー王なんて召喚できたよね。何か触媒を持っていたの?」

 

 アリシアの疑問は最もだった。英霊というのは、それが有名であればあるほど召喚するのが困難な存在であり、それを確実にするために魔術師達が用意するのが触媒…すなわちその英霊にとって特に縁のある品々である。

 例えば1990年ごろに行われた第四次聖杯戦争において、当時の『遠坂』の当主であった男は『この世で最初に脱皮した蛇の抜け殻の化石』を使い、バビロニアの英雄王を召喚したという。

 しかし、そういった触媒というのは簡単に入手できるものではない。入手するにはそれ相応の財力か、何かしらのコネが必要である。

 それ程のものを、果たして当時のエミヤは持っていたのだろうか?というアリシアの疑問に、エミヤは少し複雑な表情を浮かべながら答える。

 

 「いや、生憎当時の私は触媒に該当するような品は”持っていなかった”。ただ、ずっと”自分の中にあったんだ”」

 「中にあった……?それは一体……?」

 「単刀直入に言うと、当時の私の身体の中にはアーサー王の剣、つまりエクスカリバーを収める鞘が埋め込まれていたんだ」

 

 エミヤの衝撃的な事実に、一同は息を呑む。特に驚いていたのはグリムロックであった。

 エクスカリバーの鞘についてはもちろん良く知っている。それは彼女が常に携えていた聖剣を収めるものであると同時に、彼女に永遠に近い命を与える代物でもあった。

 しかし、それが何故エミヤの中に埋め込まれていたのだろうか?その疑問に答えるかのようにエミヤは続ける。

 

 「私がまだ幼い子供の頃、ある大災害が冬木市を襲ったんだ。確か君達は最初の冬木の特異点は、炎に包まれていたのだろう?あれと同じ大火災が、街全体を飲み込んだんだ」

 「まさか、そんな事が……」

 

 アリシアはあの時自身の眼前に広がる地獄のような光景を思い出し、あれと同じ現象がエミヤを、否、当時冬木市に住んでいた多くの人々を襲ったのかと戦慄した。

 

 「両親が死に、私ももう助からないと思っていた時、あの人が助けてくれたんだ。衛宮切嗣という人が……」

 

 エミヤ曰く。どうやら切嗣という人物は第四次聖杯戦争にセイバー…つまりアーサー王のマスターとして参加していたらしい。その時アーサー王を召喚するための触媒として彼が使ったのが、エクスカリバーの鞘であったという。

 そして切嗣はその鞘を命の危機に瀕していたエミヤを救うために、その身体へと埋め込んだのだそうだ。

 

 「そうして私は切嗣に救われた私は、そのまま彼に引き取られたという訳だ」

 

 長いようで短い自身の物語を語り終えたエミヤは、ゆっくりと息を吐き出した。

 

 「……それじゃあ、本当の両親の事は覚えてるの?」

 

 アリシアの少し意味深な質問に眉を顰めつつ、エミヤは首を横に振りながら答える。

 

 「……いや、両親の事はもう覚えていない。どんな顔だったのか、どんな名前だったのか……何もね」

 

 それを聞いて、アリシアはどこか複雑そうな、あるいは寂しげな表情を浮かべる。

 

 「そっか……私と同じだね」

 「アリシア?」

 

 その顔に何かを感じ取ったグリムロックはアリシアに声を掛ける。思えば冬木で召喚されてからというもの、彼女がこんな表情を見せるのは初めてかもしれない。

 そんなグリムロックの気持ちを察したのか、アリシアはゆっくりと話し始める。

 

 「私もエミヤと同じ。自分の本当の両親の事を知らないの」

 

 その言葉に、グリムロックは驚いてオプティックを丸くした。いや、グリムロックだけではない。立香もマシュも、ロマンも、エミヤもクー・フーリンですら彼女の口から紡ぎ出された発言に大なり小なり驚かされていた。

 皆の予想通りの反応に対し、アリシアは複雑な笑みを浮かべながら続ける。

 

 「私はね、まだ産まれて間もない赤ん坊の頃にお爺ちゃんに拾われたの。そこで私は魔術の基礎や文字の読み書きとかを教えてもらったってわけ。聖杯戦争に関する知識も、お爺ちゃんが持っていた手記から知ったわ」

 「……そのお爺ちゃんといのは、誰なんだ?」

 

 グリムロックは尋ねる。先程までの会話の流れからして、血の繋がった家族でない事は明白だ。

 その上、魔術に関する知識や聖杯戦争の事も把握しているとなると、その人は魔術師である事は間違いない。

 グリムロックの質問に、アリシアは淀みなく答える。

 

 「うん、お爺ちゃんの名前はジェームズ。ジェームズ・ウィンドネラよ」




今回はここまでです
次回からは再び本編に戻ります
それでは皆さん、良いお年を!
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