※2024年 1/24
故あって祖父の表記を『おじいちゃん』に変更しました。
「怒る気持ちは分かるけど、何も追い出さなくても良いじゃない」
アリシアはそう言いながら、ため息をつきながらルデア内に用意されたマイルームに入る。
時は数十分前まで遡る。
マシュや立香達と一緒に管制室に入ると、そこにはすでに四十六人の魔術師達が椅子に座って待機していた。とりあえず一番後ろの席が二つ空いていた為、そこに座る事にした。
そうしてしばらくすると、ここカルデアの現所長である『オルガマリー・マニムスフィア』によるブリーフィングが始まった。
曰く、ある時カルデアの発明の一つであり、地球のライブラリとして機能する擬似天体である『カルデアス』に異常が発生し、2016年の人類滅亡が証明され100年先の未来の保障がなくなったという。情報の洗い出しの結果、2015年までの歴史には存在しなかった『特異点現象』を発見する。
その特異点へとレイシフト、つまりタイムトラベルし、それを破壊して未来を修正する為に、自分達48人の魔術師がレイシフト適性者として集められたらしい。
アリシアは彼女の話す内容にしっかり耳を傾けていた。しかしその途中、隣に座っている立香がウトウトと眠ってしまっている事に気付いた。おそらくまだシミュレートの影響が残っているのだろう。
オルガマリーに見つかる前に急いで立香を起こそうとするアリシアだったが一足遅く、見事彼女にバレてしまった。
この時、アリシアは雷が落ちる音が聞こえたような気がした。
「大事なブリーフィング中だと言うのに、何呑気に寝ているのよ貴方ッ‼︎」
立香の頬に見事な平手打ちを喰らわせたオルガマリーは、まさに怒鬼にも勝る表情で立香を睨みつけていた。
アリシアは入館時のシミュレートの影響だと、立香を弁護したが聞き入れてもらえなかった。それどころか、彼女の怒りの矛先はアリシアにも向けられた。
「貴女も貴女よ!何なのよその格好!何で支給された礼装を着てないのッ‼︎」
そう、ここにいいる魔術師達は全員立香が来ているのと同じ白のジャケットに黒のパンツ、またはスカートと統一された格好をしている中、アリシアは空色のローブ姿という、明らかにこの中では浮いた姿だった。
そこでアリシアは思い出す。確かここに着く前に、彼らと同じ礼装を渡されていた事を。しかし、うっかりそれをここに持ってくるのを忘れてしまった事を。
「……アレって必須でしたか?」
「必要不可欠よ‼︎」
結果、アリシアと立香は仲良く管制室から追い出され、マイルームでの待機を命じられて今に至る。
ちなみに、アリシアのマイルームは立香が与えられたマイルームから少し離れた場所にある。
「………まあ良いわ」
こうなってしまった以上は仕方がない。素直にここで待機しておこう。
部屋に設置されている冷蔵庫から、一切れのケーキを取り出す。昨日、ここの医療部門のトップであるDr.ロマンこと『ロマニ・アーキマン』から貰ったものだ。
袖で隠れたままの手で器用に掴んだフォークでケーキを切り分け、口に運ぶ。クリームの濃厚な甘さと、スポンジケーキの柔らかい食感が、口の中に広がっていく。
そういえばと、ふとアリシアは思う。
確か立香に用意されたマイルームは、確かロマンが自分のサボり場として使っていたそうだ。もしかしたら、立香と鉢合わせしているかもしれない。
「でも、分からなくもないわね……」
そう呟くアリシアの脳裏に浮かんだのは、オルガマリーの顔だった。
これはロマンや他のスタッフから聞いた話だが、彼女は数年前に父親にして、ここカルデアの創設者でもあるマリスビリーを亡くし、彼の跡を継ぐ形で所長になったのだが、カルデアそのものの維持で精一杯だったという。そこへ追い討ちをかけるように、今回の異常事態が発生し、スポンサーからの非難の声が多く届いたのだという。
そんな状況に立たされたのだから、彼女のプレッシャーは相当なものなのだろう。だからこそ、彼女はあれ程ピリピリしていたのだろう。彼女にとって、これが所長に就任して事実上初の大仕事なのだから。
そんな事を考えながら再びケーキを口に運ぼうとすると、不意に部屋の電気が消えた。
停電かとアリシアが思った、その直後だった。
ドゴォォォンッ!!
突如轟音と共に、凄まじい衝撃が部屋を襲った。
「ッ⁉︎何⁉︎」
只事ではないと直感したアリシアは、急いで部屋を出る。
見れば、通路内に設置されていたサイレンのランプが赤く光り、火災を知らせるアラートがけたたましく鳴り響いていた。
「今の音、確か管制室の方から聞こえたような……」
と、そこでアリシアは思い出した。今管制室には誰がいるのかを。
「まさか……マシュッ‼︎」
そうしてアリシアは、急いで管制室の方へ向かった。
ようやく管制室に辿り着いたアリシア。
そこで彼女の眼下に広がっていたのは……
「こ、これは……!」
それはまさに地獄の光景だった。
先程までは美しい青の色に照らされていた管制室は、今は炎に包まれて赤く染まっていた。周囲の熱気は凄まじく、立っているだけでも燃やされてしまいそうだ。
辺り一面は瓦礫だらけであり、さらにもう手遅れであろう人達が何人かいる。
この状況を見て、アリシアはすぐに理解する。これは事故などではない、誰かがここを爆破したのだと。それも規模から見て計画的に。
そこで彼女は見知った顔が二つ見えた。
一人は瓦礫の下敷きになったボブカットの少女。もう一人はその瓦礫を何とかどかそうと足掻いている黒髪の少年。
「マシュッ!立香ッ!」
急いで二人の元へ駆け寄るアリシア。
「あ、アリシア……さん……」
「アリシア!どうしてここに?」
「さっきの爆発音を聞いてここに来たの。貴方もあの音を聞いて?」
「ああ、そしたらマシュが……!」
下敷きになったマシュを助けようと、必死に瓦礫を持ち上げようとする立香。しかし当然ながら瓦礫は上がらない。
「立香、下がって!」
アリシアが叫ぶと、立香は咄嗟に後方へ下がる。するとアリシアの右手から光弾のようなものが数発放たれ、マシュを下敷きにしている瓦礫を破壊した。
これはルーン魔術の一種である『ガンド』を、より攻撃に特化させたものであり、彼女を育ててくれた『おじいちゃん』が教えてくれたものだ。
「マシュッ!しっかりしてッ!」
瓦礫を取り除くのに成功したアリシアは、すぐにマシュの元に駆け寄り、彼女の状態を確認する。
「ひどい……」
思わずそう呟いてしまう。下半身の骨は完全に砕けており、夥しい量の血が流れている。心拍数も段々落ちてきている。
兎にも角にも、急いで治癒の魔術を彼女に掛ける。
「マシュは助かるの⁉︎」
切羽詰まった表情で尋ねる立香に対し、アリシアは苦い表情で答える。
「……ダメ、傷が深すぎる。このままじゃ……」
アリシアの顔には徐々に焦燥の色が浮かび始める。このままでは、マシュの命の灯火が消えてしまうのも時間の問題だ。
一体どうすればと悩む二人に対し、マシュは弱々しく口を開く。
「………先輩、アリシアさん。もう……良いんです。私はもう、助かりません。だから……せめて、お二人だけでも、逃げてください」
「な、何言ってるんだよマシュッ!そんな事出来るわけないじゃないかッ‼︎」
「そうよ!貴女を見捨てるぐらいなら、ここで一緒に死んだ方がマシよッ‼︎」
アリシアは治癒の魔術をかけ続け、立香はマシュの手を強く握りしめる。
そう、私達は絶対に諦めない。だから……だから貴女も……!
「貴女も諦めないでッ‼︎」
アリシアが叫んだ、その時だった。
突然アリシアの右手の甲に、何か焼けるような痛みが走ったのは。
「熱……ッ⁉︎」
思わず袖をまくり右手の甲を確認する。するとそこには、見たこともない真紅の紋様が刻まれていた。まるで一振りの槍のようにも、鞘に納められた剣のようにも見える紋様だ。
「これは……?」
それが何なのかはアリシアは知らない。いや、これと同じようなものを、『おじいちゃん』が残した書物で見た事がある。確かサーヴァントと呼ばれる者達への命令権にして、マスターの証。確かその名は……『令呪』。
すると突然管制室内にアナウンスが響き渡る。
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます』
『近未来百年までの地球において、人類の痕跡は発見できません』
『人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』
淡々と、絶望的なアナウンスが流れる。見れば、擬似天体のカルデアスはまるで灼熱の太陽を彷彿とさせる、真紅の色に染め上げられていた。
そして、アナウンスは続く。
『レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中……発見しました。適応番号47 アリシア・ウィンドネラ、並びに適応番号48 藤丸立香の両名をマスターとして 再設定 をします』
『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を 開始します』
『3 2 1 全工程
アナウンスが終わった瞬間、それが何を意味するのかをアリシアが理解するより先に、
光が彼女達を包み込んだ。
今回はここまでです。
今後の一話における文字数は?
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もう少し短く
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これくらいで良い
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作者の自由に