※2024年 1/24
故あって祖父の表記を『おじいちゃん』に変更しました。
どれ程の時間が経っただろうか。気がつくと、アリシアは地面の上に倒れていた。
「う、ううん……」
未だボンヤリとする頭を押さえつつ、なんとか立ち上がる。そして眼下に広がる光景に、思わず息を呑む。
「何なの、これ……」
辺り一面は炎に包み込まれていた。建物という建物は倒壊し、元々あったであろう街の面影はまるでなかった。
これはまさに、先程の管制室とほぼ同じ、否、それ以上のものだった。管制室での光景が地獄への入り口だとしたら、ここは地獄そのものと言っていいだろう。
「……このまま突っ立っててもしょうがないわ。取り敢えずここがどこか調べないと」
と、気持ちを切り替えたアリシアが一歩踏み出そうとした時だった。
不意に背後からの気配を感じた彼女は、咄嗟に後ろを向く。そこには人ならざる異形の者達が十数体立っていた。
それらの身体には皮膚はおろか、肉すら付いていなかった。そこにあるのはただ骨のみだった。ボロきれだけを纏い、剣や槍を手にしたその姿は、まるで亡者の群れのようにも見える。
スケルトンだ。様々な創作物に登場する、生きた骸骨。それらが今、自分の前に立っている。まるで獲物を狙う狩人のように。
「見逃してはくれなさそうね」
戦うしかない。それを悟ったアリシアは目を瞑り、静かに唱える。
「光よ、剣となれ」
その瞬間、アリシアの身体から黄金の光が放たれたかと思うと、それが彼女の全身を包み込む。
そして光が霧散すると、アリシアの姿は先程とは全く違う姿でそこに立っていた。
ローブは消え去り、代わりに彼女が身に付けていたのは黄金に輝く光の鎧だった。そしてその手には、同じく光で形作られた一振りの剣が握られている。
自らの身体から光を生み出し、それを鎧に変えて纏い、剣に変えて振るう。これがアリシアの魔術である。
「さあ、行くわよ!」
そう言って地を蹴ると、アリシアは光の剣を振り下ろしてスケルトンの一体を両断する。それを合図にしたかのように、他のスケルトン達もまた一斉にアリシア目掛けて動き始めた。
次々に襲い来る骨の群れを、しかしアリシアは光の剣で難なくいなし、逆に切り伏せていく。最後に光の斬撃を放って数体を消し飛ばすと、もう彼女の周りにスケルトンはいなくなっていた。
「ふぅ……」
剣を下ろし、一息付くアリシア。取り敢えず目の前の脅威は排除したが、いつ同じようなものが現れるか分からない。ひとまずどこかへ移動しようと考えていると、ここから少し離れた方から、何か衝撃音のようなものが聞こえた。音の聞こえた方へ目を向けると、そこには巨大な盾を振るって先程自分が戦ったのと同じスケルトン達と戦う薄紫色の髪の少女と、後方でそれを見守る黒髪の少年と、銀髪の少女の姿があった。
少し遠いため顔はよく分からないが、しかしアリシアはその三人の顔に、見覚えがあるような気がした。
「まさか……」
そう言って、アリシアは丁度戦闘を終えた様子の彼らの元へ駆け寄る。
そしていざ近寄ってみると、その三人は確かにアリシアの見知った顔だった。
「やっぱり!マシュ!立香!所長!」
アリシアが呼びかけると、向こうもこちらに気付いたらしい。
「その声……アリシアさん!良かった、無事……だったんです……ね」
そう言ったマシュの身体は、最後に見た時と違って無事そのものだった。勿論それも気になるが、アリシアが一番気になったのは、マシュのその姿だった。
眼鏡をかけておらず、白衣も着ていない。その代わりに身に付けていたのは、黒を基調とした鎧であり、その手には彼女の身の丈の倍はある盾が握られている。
「マシュ、立香、貴方達もここに来ていたのね!それに所長まで!」
「あ、ああ……」
「ま、まさか貴女もいたのね……」
「?」
何だかマシュだけでなく、立香とオルガマリーの態度がよそよそしく見えて、アリシアは首を傾げる。
と、そこへ白い毛に包まれた何かが、アリシアの胸に飛び込んできた。
「フォウフォウフォウ、フォーウ!」
「あら、フォウ君!貴方もここに来ていたの?」
管制室にはこの子の姿はなかったはずだけど。本当に不思議な子だな、とアリシアは思った。
「……それで、色々聞きたい事があるんだけど、ちゃんと説明してくれるわよね?」
が、すぐに気持ちを切り替えて、現状の説明を求める。実際今は分からない事が多すぎるのだ。ここはどこなのか。何故こんな事になっているのか。そして、マシュの姿について。いや、姿だけではない。今のマシュには、何か人間以上の力が宿っているように感じるのだ。
「は、はい。分かりました。でもその前にアリシアさん……」
「ん?何かしら?」
マシュが立香とオルガマリーの顔を交互に見て、頷き合う。そして口を開く。
「ま、まずはその格好をどうにかしてください‼︎」
「え、ええッ⁉︎」
「別にそんなに酷いものじゃないと思うんだけど……」
そう呟くアリシア。その姿は、光の鎧から元のローブを纏った状態に戻っていた。
すると、彼女の呟きを聞いたオルガマリーが、鬼のような形相でアリシアに詰め寄る。
「酷い酷くないの問題じゃないのよ!何なのよあの格好は!左胸にお尻と、見えちゃいけない部分がほとんど見えていたじゃない!貴女の姿に比べれば、マシュの格好の方が十分健全よ!!」
「う……」
「せ、先輩。今の私の格好って健全ではないのでしょうか⁉︎」
「だ、大丈夫だよマシュ!全然そんな事はないから!」
オルガマリーの気迫迫る勢いに圧倒され、思わず後ずさるアリシア。
変な所でマシュにも飛び火しているように見えるのは気のせいだろうか。
「と、とにかく、そろそろ状況を説明してもらえませんか?」
そんなコント染みたやり取りを行う事数分、ある程度場が落ち着いた所で、アリシアは再び状況の説明を求めた。
「は、はい。分かりました」
少し頬を赤くしたマシュはコホンと小さく咳払いすると、早速話し始めた。
まず結論から言うと、ここは日本の『冬木市』、通称『特異点F』。つまり、自分達は当初予定していたレイシフト先に辿り着いたという訳だ。
冬木市については、アリシアもある程度知っていた。確か日本において特に高い霊脈が存在している霊地だと、過去に知り合った魔術師から聞いた事がある。
そしてマシュの姿についてだが、何でもマシュは『デミ・サーヴァント』と呼ばれる存在になったらしい。
デミ・サーヴァントとは、カルデアが行なっていた六つ目の実験であり、その内容はズバリ、人間と英霊の融合だ。その被験体として選ばれたのがマシュであり、当初実験は失敗と思われていたが、ここにレイシフトする直前、マシュは自身の内にいるサーヴァントにここの特異点の原因の排除を条件に、英霊としての能力と宝具を譲り渡し、彼女は見事蘇生した。そしてそんな彼女のマスターになったのが、藤丸立香なのだという。
「じゃあ、立香にも令呪が?」
「うん、気が付いたらこれが刻まれていたんだ」
そう言って立香が右手の甲をかざすと、確かにそこには真紅の紋様が、マスターの証が刻まれていた。
「先輩にも、と言う事は、もしかしてアリシアさんにも?」
「ええ」
マシュに尋ねられて、アリシアは袖をまくって自分の令呪を見せる。その令呪を、オルガマリーが興味深げに見つめる。
「ふ〜ん、貴女にも令呪がねぇ……変わり者でもちゃんと適性はあったという事ね」
「それ、どういう意味ですか?」
何となく馬鹿にされたような気がして、思わず不機嫌になるアリシア。が、ここで気を取り直し、マシュに向き直る。
「それで、これからどうするの?」
「はい、カルデアと連絡を取ろうと思っています。今私達がいるこの場所は魔力が収束する霊脈のターミナルのため、おそらく可能だと思われます」
「そういう事よ。じゃあマシュ、盾を地面に置きなさい。それを触媒にして召喚サークルを設置するから」
「はい、分かりました」
持っていた盾を地面に設置するマシュ。すると、周囲の景色が青みがかったものへと変化する。これで召喚サークルが完成したのだろう。
それを証明するように、電子音が響くと同時に、アリシア達の眼前に一人の青年の顔がスクリーン越しに現れる。
『シーキュー、シーキュー。もしもーし!よし、通信が戻ったぞ!』
ふわふわの髪をポニーテールにした、優しげな印象を受ける白衣の青年。間違いない、カルデアの医療部門のトップ、Dr.ロマンことロマニ・アーキマンだ。
「ドクター!貴方も無事だったのね!」
『あれ、もしかしてアリシアちゃん!?君もそこに来ていたのかい!?というか無事だったのかい!?』
アリシアの姿を確認すると、ロマンは目を丸くして驚いていた。
「ええ、立香と一緒に管制室から追い出されたおかげでね」
『そっか、でも君も無事で良かったよ』
そう喋るロマンの声には、確かな安堵の色があった。アリシアもまた、ロマンが生きていた事に少なからず安堵を覚えていた。
そんな二人の間に割って入ったのが、オルガマリーである。
「ちょっとロマニ!なんで貴方が仕切ってるのよ!?レフは!?レフはどこ?レフを出しなさい!」
『うひゃあぁあ!?』
彼女の姿を確認するや否や、ロマンはアリシアの時とは比べ物にならない、飛び上がらんばかりのレベルで驚いていた。
『しょ、所長、生きていらしていたんですか!?あの爆発の中で!?しかも無傷!?どんだけ!?」
「どういう意味よッ!いいからさっさとレフを出しなさい!」
ロマンのどこか不謹慎な発言に怒りつつ、レフを出すよう要請するオルガマリー、そんな彼女に対し、ロマンはどこか沈痛な面持ちで話す。
『ああ、その事なんだけど……』
その後、ロマンの口から現在のカルデアの状況が伝えられる。
それは酷いものだった。現在生き残っている正規のスタッフは、ロマンを入れても二十人にも満たないらしい。彼よりも上の階級の生存者がいないため、今はロマンが作戦指揮を担っている。レフは管制室で指揮を執っていた為、生存は絶望的だという。
しかも先の爆発の影響で、アリシアと立香以外の46人のマスター候補が全員危篤状態であり、満足な治療もできないそうだ。
それに対しオルガマリーは、レフの件で絶望しかけたが、何とか持ち直し、ロマンに彼らを冷凍保存に移行するよう命令する。
ロマンも『その手があったか!』とすぐに手配すると言った。
それからもカルデアの状況などを確かめ合ったあと、
『ああ、そうだ。ちょうど今君達がいる場所だけど、その霊脈地なら、この召喚サークルを使ってサーヴァントの一騎は召喚できるかもしれない』
「サーヴァントを……!」
ロマンの言葉に息を呑むアリシア達。
もしここでサーヴァントを召喚できれば、確かに十分な戦力になるかもしれない。そうなると問題は誰が召喚するかだが……
「アリシア、貴女が召喚しなさい」
「え?私が?」
突然のオルガマリーの言葉に、一瞬戸惑うアリシア。
オルガマリーは続ける。
「立香はマシュと契約しているから、経験値はともかく戦力的には十分よ。今サーヴァントと契約すべきなのは、彼と同じく令呪を宿した貴女だけなのよ」
そこまで言うと彼女は一旦魔を開け、
「これは所長としての命令です。アリシア・ウィンドネラ、貴女がサーヴァントを召喚しなさい」
静かに、しかし確かな威厳を感じる声でそう言った。
立香達の方に顔を向けると、二人はゆっくりと頷いた。自分達なら大丈夫だと言わんばかりに。
「……分かりました。やります」
ため息をついてそう言うと、アリシアは召喚サークルの前に立ち、詠唱する。
おじいちゃんの手記に書いてあった、過去の英雄を現在に呼び出すための言葉を。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
告げる」
その瞬間、召喚サークルが仄かに光り始める。
「汝の身は汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
アリシアが唱えるにつれ、召喚サークルはより輝きを増していく。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
そして詠唱を終えた瞬間、召喚サークルから一条の光が迸った。
やがて光が消えると、そこに立っていたのは……
「サーヴァント、バーサーカー。召喚に応じ参上した」
並の人間の倍以上はある体躯。全身鎧に覆われたかのような鋼の肉体。竜の上顎の形をした両肩。
それを一言で表すなら、竜騎士の如くの姿をした鋼の戦士だった。
「問おう、お前が俺のマスター……か……!?」
鋼の戦士は、しかし自身を召喚したアリシアの姿を確認した途端、息を呑み、全身を硬直させた。
そして戦士はゆっくりと呟いた。
「……アーサー王?」
今回はここまでです。
ようやくグリムロックを登場させられました!次回からは本格的に物語に絡ませる予定なので、お楽しみに!
おまけ
アリシアの戦闘形態、及び令呪のイメージビジュアル
【挿絵表示】
デザインコンセプトは『未完成の鎧を着た女騎士』であり、令呪の方は小説内にもあったように、槍と鞘に収まった剣をイメージしました。
今後の一話における文字数は?
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もう少し短く
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これくらいで良い
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作者の自由に