というわけで大変長らくお待たせしました。今年最初のお話です!
「……アリシア、俺の聞き間違いか?お前、今何て言った?」
驚愕と困惑の感情を同時に抱きつつ、グリムロックは尋ねる。
「あれ、聞こえなかったの?私も戦うって言ったのよ」
そんなグリムロックに対し、あっけからんと言った様子で答えるアリシア。
そんなアリシアに対し、グリムロックは聞き分けの悪い子供に諭すように話す。
「分かってるのかアリシア、相手は仮にもサーヴァントなんだぞ?魔術師であるお前では奴に敵わない。ここは俺たちに任せて、お前は下がっててくれ」
実際、グリムロックの言葉は間違っていなかった。
グリムロックが与えられた知識では、聖杯戦争におけるマスターというのは、基本的に自身のサーヴァントの支援、または相手サーヴァントのマスターである魔術師と戦うのが常識だ。魔術師自身がサーヴァントと戦うなど、普通ならばあり得ない話だ。少なくともグリムロックはそう思っている。
「ええ、もちろん分かってるわ。分かった上で言ってるのよ?」
「なーーーッ!?」
やはり何でもないという風な口調で言うアリシアに、グリムロックは思わず言葉を失う。その口調からは冗談のそれは感じなかった。彼女は明らかに本気だ。
「だったら何故……?」
「だって、嫌だから」
「何?」
アリシアの言葉の意味が分からず、オプティックを細めるグリムロック。見れば、アリシアはいつの間にか真剣な表情で自分を見つめていた。
「確かに、私達魔術師がサーヴァントと戦うなんて、普通はあり得ないかもしれない。だとしても私は、誰かに任せて自分だけ安全な場所にいるなんてのは出来ない。これこら一緒に戦う以上、私も貴方の隣で戦いたいの」
「アリシア……」
アリシアの言葉に、しかし未だに不安の入り混じった表情を浮かべるグリムロック。それに対し、アリシアはニッコリ笑って答える。
「大丈夫!こう見えて私、結構強いから!」
「……!」
その一言を聞いた瞬間、グリムロックは不思議な気持ちに襲われた。
何故かは分からない。具体的な根拠も何もない。にも関わらず、グリムロックはアリシアが発したその一言を、信頼に足るものだと感じたのだ。もしも、彼女以外の魔術師がこの一言を発したとして、自分はそれを信じられるだろうか?恐らく、無理だろう。何故こんな事を考えてしまうのか、グリムロック自身にも分からない。しかし、アリシアの言葉には、口先だけのものではない、信頼に足る『何か』があったのだ。
そして数秒の沈黙の末、グリムロックは観念したように大きく排気する。
「……分かった。ただし、危なくなったらすぐに後ろに下がるんだ。分かったな?」
「そうこなくっちゃ!」
明るい声でそう言うと、アリシアは目を瞑り、呪文を紡ぐ。
「光よ、剣となれ」
その一言と共に、アリシアの身体から黄金の光が放たれ、彼女の全身を包み込んでいく。
そして光が消え去ると、そこには光で形成された鎧を身に付け、同じく光で形成された剣を握りしめたアリシアの姿があった。
「ーーーッ!!」
その格好を見た瞬間、しかしグリムロックは思わず顔を手で覆い、天を仰いでしまった。と言うのも、それはあまりにも破廉恥にすぎるものだったからだ。
そもそも今のアリシアは鎧の下には何も身に付けておらず、素肌の上にそのまま鎧を身に付けている状態なのだ。しかも鎧自体はまるで不完全であるかのように左右非対称で、豊かに実った左胸や、一見すると魅力的なお尻など、覆うべき場所を全くと言って良いほど覆い切れていないのだ。
「これで準備完了、と。あれ、どうかしたの?」
戦闘準備を整えたアリシアは、グリムロックの様子を見て不思議そうに尋ねる。その口調から考えても、彼女自身は自分の格好に何の疑問も抱いていないようだ。
「い、いや、何でもない、何でもないんだ」
金属で出来た自身の顔が熱くなっていくのを感じながら、グリムロックは答える。チラリとマシュや立香達の方へ視線を向けると、彼らは諦めろと言わんばかりに苦笑し、首を横に振る。
それを見たグリムロックは、再び大きく排気し、何とか気持ちを落ち着かせる。
こうなったら是が非でも慣れるしかない。グリムロックはそう決意するのだった。
「……よし、行くぞ!」
「ええ!」
「はい!」
その一言を合図に、鋼の竜騎士と光の鎧の少女、そして盾の少女は同時に血を蹴り、駆け出した。
「ーーーッ‼︎」
最初に仕掛けたのはシャドウサーヴァントだった。腰まで伸びた髪が一瞬蠢いたかと思うと、まるで獲物に喰らいつく蛇のように三人目がけて襲い掛かってきた。
それらをグリムロックはメイスを振るって弾き、アリシアは光の剣で切り落とし、マシュは盾で防ぐ。
「ぬぅんッ!!」
そしてシャドウサーヴァントまで一気に間合いを詰めると、グリムロックはメイスを上段に構え、敵目掛けて振り下ろす。衝撃で瓦礫が破片となって飛び散る中、シャドウサーヴァントはギリギリ跳躍してグリムロックの一撃を回避する。
しかし、そこにアリシアの光の剣による一斬が迫っていた。
「はあっ!」
「ーーッ!」
放たれた一閃はシャドウサーヴァントが防御に繰り出した鎌を物ともせず、その脇腹を見事に切り裂いた。
苦悶に顔を歪めながら地面に着地するシャドウサーヴァント。斬られた脇腹からは、真紅の血が流れ落ちていた。
「ほう」
それを見て、グリムロックは感心したような声を上げる。
先の一言を信じてアリシアの共闘を許した訳だが、いざ実際に彼女の戦闘を見てみると、なるほど『とっても強い』と言ってのけたのも分かる。同時に、内心驚いていた。まさか仮にも魔術師である彼女が、サーヴァントに一太刀浴びせる事が出来るとは。もしかしたら魔術師の常識というのは、自分の考えているような常識とはまるで違うのかもしれない。サーヴァントと普通に戦闘できる魔術師というのは、意外といるものなのかもしれないと、グリムロックは思うのだった。
激昂したシャドウサーヴァントは、地を蹴って駆け出し、アリシア目掛けて鎌を振り下ろす。
「やらせません!」
しかしマシュがアリシアの前に躍り出て、手に持った巨大な盾で鎌により斬撃を防ぐ。そして力を込めてシャドウサーヴァントを押し返すと、返す形で、盾の側面部分でその腹部を切り裂く。
腹部から血を流し、よろめくシャドウサーヴァント。そこへすかさず、グリムロックのメイスによる一撃が飛んでくる。アリシアとマシュ、二人の攻撃を受けてダメージを負った上に、体制の崩れたシャドウサーヴァントにそれを回避する術はなく、そのまま炎を纏ったメイスの一撃を受けて大きく吹き飛ばされる。
「ーーー」
うつ伏せの状態で倒れたシャドウサーヴァントは、それでもなお立ち上がろうと上体を起こすが、糸の切れた人形のように倒れ込む。
そしてその身体が崩れていったかと思うと、やがてその全身は黒い霧のようになって消えていった。
「終わったようだな」
シャドウサーヴァントの消滅を見届けた後、グリムロックは小さく排気しながらメイスを消す。
勝負は思いのほか早く着いた。これはもちろん自分達の実力があのサーヴァントよりも上だったからというのもあるだろうが、それ以上に、あれのサーヴァントとしての質が落ちていたというのも理由の一つだろう。
その事実に、グリムロックは何とも言えない気持ちになる。どんな形であれ人理にその名を刻んだ者が、あんな力の劣る亡霊のような存在に堕ちてしまったのだから。
「ねえ、グリムロック。どうだった、私の戦いぶりは?」
と、不意にアリシアから尋ねられ、グリムロックは慌てて我に帰る。見れば、アリシアはにこやかな笑みを浮かべがなら自分を見つめているのに気が付いた。それも、まだ光の鎧を纏った状態で。
「あ、ああ、そうだな……」
アリシアから少し目を逸らしつつ、グリムロックは答える。
「まあ、魔術師にしては上出来だ。まさかあそこまでやれるとは思わなった」
「ふふ、でしょ?」
そう言って嬉しそうに微笑むアリシア。
「お疲れ様です、アリシアさん、それにグリムロックさん」
「お前もな、マシュ」
駆け寄りながら労いの言葉をかけるマシュに対し、グリムロックもまた朗らかな声で労う。
『……す、凄いものを見た気がするよ』
「ええ、ホントにとんでもないサーヴァントを引き当てたわね、あの子……」
「……」
と、呆然としながらそんな事を話し合うロマンとオルガマリー。立香に至ってはもう言葉すら出てこないようだ。
兎にも角にも敵の排除に成功し、ようやく場の空気が落ち着きかけた、その時だった。
「「ーーーッ!」」
突如、消していたメイスを再び実体化させ、構えるグリムロック。アリシアもまた同じく真剣な表情で光の剣を構えた。
「ど、どうしたの、アリシア、グリムロック?」
戸惑いながら尋ねる立香を尻目に、グリムロックはゆっくりと口を開く。
「何者だ、出てこい」
その声に応えるかのように、不意にどこか抜けた、あるいは呑気な口調の声が聞こえてきた。
「おお、怖え怖え。流石は鋼の竜騎士様、野生のカンって奴が働いたのかな?」
そう言いながら姿を現したのは、フードで顔を隠した、水色のローブに身を包んだ男だった。ただしそのローブは、アリシアのものに比べるとまだ動きやすそうな作りをしていた。
「まあ落ち着け。俺はお前さん達の敵じゃあねぇよ」
その言葉通り、男は降参の印として両手を挙げていた。しかし、それでもグリムロック達は警戒心を緩める事が出来なかった。
「それで、お前は何者だ?」
グリムロックの質問に対し、しかし男は答える事なく話す。
「しっかし驚いたねぇ。盾の嬢ちゃんは良いとして、そっちの嬢ちゃん。格好は兎も角、まさかランサー相手にマトモに戦えるたぁな。中々のべっぴんさんだし、俺のマスターに欲しいくらいだぜ」
「どうもありがとう。それより聞こえなかったのかしら?こっちは貴方は何者なのかって聞いたんだけど」
地味にナンパされてるのにも気付かず、アリシアは棘のある口調で尋ねる。
それに対し、男は相変わらず飄々とした態度で応える。
「おっと悪りぃ悪りぃ、自己紹介がまだだったな」
そう言って、男はフードを取り払う。そこから現れたのは、青色の髪に、燃えるような真紅の瞳が特徴的な、野生味を感じさせる顔だった。
「俺の名は『クー・フーリン』。不本意ながらも、キャスターのクラスで召喚された者だ」
今回はここまでです。