希望の血戦   作:HIMAZINBOOK

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出会い

 希望の儀式。それは、人生をもう一度やり直すために人間が人霊(じんれい)兵霊(へいれい)という過去の世界に存在した者達をこの世に使い魔として召喚し、最後の一人になるまで戦う儀式の事。そして、この儀式で生き残った一人の者だけが、「神の肉」という戦利品を手に入れる事が出来る。それを自分と使い魔の体内に入れる事で、新たな人生を歩み出せるというわけだ。

 ◇

 滋賀県の地方都市、春木市。

 この都市は元々、電気もガスも通っていないような超がつくほどの田舎町だったが、二〇一〇年代からは政府や市長がこの街をもっと発展させようと躍起になり、今でも田舎町ではあるものの、数十年前と比べると、大型の商業施設が建設されたり、小学校や中学校、高校などの教育施設が多く建ち並んでいる。また、マンションやビルといった高層建築物も増えてきているため、国内海外問わず多くの観光客がこの街を観光するためにやって来ている。そして、この地域の住居は基本的に家賃が安価ということもあり、学生や外国人労働者には人気なのだ。

 春木市郊外。

 その場所は未だにあまり開拓されておらず、住んでいる人も少数だ。そんな事もあり、その地域に住んでいるのは昔から住んでいる老人ばかりだ。

 しかし、数カ月前にこの地に一人の高校生が引っ越してきた。

 のどかな田んぼが広がっている道路の脇に、一軒の家……いや、お屋敷というべきだろうか。とにかく、少し大きめの家が建っていた。

 その家の周りには数軒の家しか建っていなく、都会の人間が見たら幻想的に思うだろう。

 その屋敷のとある一室。タンクトップに短パンというラフな姿の少年がベッドから起き上がろうとしていた。

 ◇

 遠宮恭平(自分)は少し前にこの街へ移住してきた十七歳の若者、つまり高校生だ。高校生で一人暮らしとは変わっていると思われるかもしれないが、近所に親戚が数人ほど居るので、実質家族と一緒に暮らしているようなものだ。それに、近所のおっちゃんやおばちゃん達が野菜やら牛肉やら、色々な食べ物を持ってきてくれるので、この生活が不便だと思った事は今のところ一度も無い。むしろ、この生活が気に入っているほどだ。

 「はあ、起きるか」

 俺は昔から朝が大の苦手で、早く目覚めたとしてもそのまま二度寝……いやそんなものではないか。四度寝ぐらいするので、俺に早起きというものは必要ない。あと、今みたいに布団から出るにも十分は掛かるので、いい加減この朝の弱さをどうにかしたいと思っている。

 「やばっ、早く朝飯食わねえと!」

 今日は月曜日。しかも、今日から一週間、期末テストが実施されるのだ。遅れる訳にはいかない。幸いにも、自分は国語と社会、それから英語がそこそこ得意なので、今日から始まるテストには絶対に遅れてはいけないのだ。寝坊で成績が下がるなんて、あまりにも恥ずかしいことだ。

 「先に制服着替えた方がいいか」

 そこらへんに投げ捨てられた学校の制服を掴み取る。

 ズボンは黒色で、上は純白のシャツというシンプルなデザインなものだ。そして、シャツの上に羽織るブレザーは紺色の今どきの若者が好きそうなデザインをしている。まあ、自分もこのデザインは割と好きだけど。

 「うわっ、最悪。ボタン外れたし……」

 ズボンを履き終えたので、シャツのボタンを締めようとしていたとき、三番目のボタンがポロリと外れ、床に落ちてしまったのだ。

 一人暮らしを始めてから、裁縫は少し練習したのである程度は縫えるようになったが、それでもまだ素人だ。だから、短時間でシャツのボタンなど縫えるはずがない。

 どうもこうも出来ないので、俺は誤魔化して着る事にした。

 「まあ、ブレザーで隠れるしいいかな……」

 通っている高校は持ち物検査や身だしなみチェックなどはないので、クラスに居る委員長や教師にシャツのボタンが外れている事はバレないだろう。

 時計を見ると、すでに七時五〇分。

 いつもはもう少し早く起床しているので、自分で簡単な料理を作っているが、今日に関しては時間がない。そんなことしてたら学校に絶対に間に合わないだろう。

 「なんか食い物あったかな」

 ドアを乱暴に開け、小走りで居間に行く。

 「お、ラッキーだ。せい兄のサンドイッチだ」

 せい兄とは、自分の親戚に当たる人物の一人の事であり、本名は村岡聖介だ。彼は料理人を目指しており、今日みたいに俺が寝坊した時は、こうやって食べ物を作り置きしてくれているのだ。何とも親切な男なので、近隣住民からも頼りにされている。

 「家で食ってる暇はないよな」

 自分はマイペースな人間なので、何かを食べるのにも時間が掛かってしまう。なので、このサンドイッチは学校まで歩きながら食べる事にした。

 顔を適当に洗うと、今日学校で提出する課題をリュックサックに詰め込んだ。ワークが四冊もあるので、重量感は結構ある。でも、この重さにもすっかり慣れてしまった。

 恭平はリュックサックを背負うと、玄関に向かった。

 「間に合ってくれよ……」

 そう呟きながら、彼は急いで靴紐を結ぶ。

 こんな状況なので、ものの数十秒で靴紐を結ぶ作業が終わった。

 「よし、行くか! じゃあな!」

 恭平は一人暮らしだが、今住んでいるこの家には何だか愛着が湧いているらしく、どこかに行くときはこうして声を掛けている。

 家から出ると、俺は急いで学校まで走る事にした。

 「サンドイッチうめえな」

 本当はせい兄が作ったサンドイッチはあの(  自  宅)家で朝のニュースを見ながらゆっくりと食べたかったが、自分が寝坊したせいで走りながらモグモグと食べている。喉に詰まらない様に気を付けないと。

 走る事数十分、学校の近くの信号までやって来た。

 この信号がある交差点は、車通りがとても多く、同時に自分が通っている高校の学生もよく利用している。そのため、朝はとても混んでいるのだが……

 「あれ、何かあったのかな」

 今日も今日とて混んでいるが、何だかいつもとは混んでいる理由が違うみたいだ。

 交差点の中央にはパトカーが二台停まっており、警官も数人いるのが確認できる。そして、パトカーの横には不自然なブルーシートが設置されていた。交通事故だろうか?

 そんな事を思っていると、近くに居たサラリーマンのおっちゃんがこんな事を言った。

 「聞いたか? あれ、殺人事件らしいぞ。しかも、ノコギリで頭部を切断されているらしくて……」

 ……朝から気分が悪くなる事を聞いてしまった気がする。それにしてもノコギリとは。犯人はとんでもない狂人に違いないだろう。

 こんな事は滅多に起きないので、一瞬吐き気を催したが、気を取り直して学校に向かった。

 校門に着くと、前に立っている体育教師の厳ついオッサンが俺に向かって、

 「遠宮、急げ!」

 と叫んできた。

 「はい、分かってます! あと、おはようございます!」

 朝の挨拶が適当になってしまったが、とりあえず遅刻せずに済んだようだ。

 校庭を本気で走り、校舎に入る。

 「ふう、疲れたな……」

 下駄箱に手を置きながら言う。

 靴を履き替えると、この高校指定のシューズに履き替えた。

 「サイズ、ちょっと大きいな……」

 そんな事を言いながら、俺は自分の教室がある三階の校舎まで走って向かった。

 息を切らせながら階段を爆速で駆け上がると、自分の教室の前に着いた。

 「早く入って!」

 クラスの学級委員長に教室の中から呼びかけられたので、適当な返事をしつつテストが行われる教室へ入って行った。

 「はあ~今日からテスト期間か」

 荷物をロッカーに入れると、自分の席に座った。そして、テスト前に道具などを準備する為の時間のチャイムが鳴った。

 「んまあ、いっちょやりますか」

 筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出し机に置くと、俺はそうやって意気込んだ。

 ◇

 三時間後、テストが終了した。今日の科目は社会、国語、理科だったのでそこそこ点数は稼げたと思う。ちなみに、数学は大の苦手で、いつも赤点しか取っていない。一応、赤点を取っても補修があるのでそれさえキチンとやっていれば、退学という最悪の事態は回避できる。

 テスト期間中ということもり、下校する時間は通常の学校よりも早い。ただ、早いからと言って遊びまくるわけじゃない。家に帰って、少しは勉強するつもりだ。

 ……が、自分は一人暮らしをしているので、勉強する前に食材の買い出しに行かなければならない。

 「昼は弁当でいいか」

 今から食べる食事は適当なコンビニ弁当で済ますとしよう。

 「さて、コンビニに行くかな」

 学校から数百メートル進んだ地点には、コンビニがある。この地域に引っ越して来てからは、あのコンビニによくお世話になっている。

 「昼は弁当にするとして……夜はどうしようかな。流石にお惣菜とかっていうわけにはいかないしな」

 弁当ばっかりじゃ、体に悪いだろう。それに、やっぱり手料理の方が美味しく感じる。

 今日の夕飯の事を考えながら歩いていると、例のコンビニに着いたが……

 「あれ、またパトカーだ」

 ブルーシートとパトカー、そして数人の警察官。

 今日の朝に見たような光景が、コンビニの横にあった。

 その周りには、今日の朝みたいに野次馬の連中が集まっていた。

 このコンビニはいつもお世話になっているので、その出来事について気になってしまった俺は、近くに居た作業員のおっちゃんに訊いてみることにした。

 「あのー、何かあったんですか?」

 おっちゃんは俺の声に反応して、こちらの顔を見る。

 「お巡りさんのオッサンが言うには、何か殺人事件らしいぞ。確か、刃物で殺されたとかな。この辺りも物騒になったもんよ全く」

 殺人事件に刃物が使用される……やっぱり、この事件は今朝のものと同じように思える。あくまで個人の推測にしか過ぎないが、今の事件と朝の事件は、同一人物による犯行かもしれない。

 つい、そんな事を考えてしまうが、これ以上ここに居るのは気分が悪くなると思い、そそくさとコンビニに入って例の弁当を買う事にした。

 「なんか……治安悪くなったのかな」

 春木市は昔と比べて、様々な国や地域から色々な人間が移住者として移り住んできたが、外国人による犯罪行為は近年問題視されている。だが、これはあまりにも物騒すぎないだろうか。

 「まあ、俺には関係ない事だよな……」

 事件現場を横目で見ながらコンビニの自動ドアを通った。

 数分後買い物が終わると、次は夕飯の食材を買うためにスーパーへ向かった。

 ◇

 スーパーに入る直前、演説を行っている政治家とその政治家が乗っていたであろう選挙カーを見かけた。

 「げっ、あれって極左の奴じゃん……」

 マイクの前に立っている政治家を知っている。

 「今の日本には革命が必要です! そう、ロシア革命のような!」

 スーツを着て、眼鏡を掛けた中年の男が民衆に向かってそう叫ぶ。

 「どうか、この岸部文蔵に力を貸してください! 皆さんのご協力が……いえ、力が必要なのです!」

 彼、岸部文蔵(きしべふみぞう)は日本共産党に所属する政治家であり、根っからの社会主義者だ。岸部はロシアに留学していた過去があり、それであんな思想を持つようになったのだろう。

 自分はあまり政治に詳しくないが、一般人に危害は及ばしてほしくないと思っている。

 そんな社会主義者の演説を無視し、スーパーに入店した。

 スーパーで買い出しを済ませると、店から出た。 店から出た時には、あの政治家は選挙カーに乗ってどこかへ向かおうとしていた。

 選挙カーの横を通った時、岸部と一瞬目が合った気がした。

 その眼は、人間のものではない、獣のような感じがした。

 やはり、社会主義を唱える人間は恐ろしい奴らなのだろうか。政治に詳しくない俺は分からない。でも、直感でそんな気がしたのだ。

 「まだ一時だし、ちょっと寄り道しようかな」

 この街には商店街があり、その商店街には飲食店や服屋、小さいがゲームセンターまである。

 そして俺は最近、新しい趣味を見つけたのだ。それは、骨董品集めだ。と言うのも、商店街に初めて足を踏み入れた際、看板のインパクトがあまりにも強すぎる骨董品屋を見つけたのだ。自分は何かを集めるという行為は嫌いでは無いので、その骨董品屋に入ったのだ。その骨董品屋は小さい店舗だったが、所せましと壷や絵が置かれていた。そんなロマン溢れる物を見てしまったからだろうか、俺はすっかり骨董品マニアになったのだ。

 「金は結構あるし、何か買えたら買おうかな」

 財布の残金を確認し、その商店街の方へ歩き出した。

 ◇ 

 商店街に到着した。

 今日は平日だが、この商店街は活気で溢れていた。行き交う一般人、野菜の安売りをしている店主、店の開店準備をしている人など、多様な人々が商店街という空間で過ごしていた。

 「今日も開いてるかな」

 商店街に入るなり、俺は早速お気に入りの骨董品屋さんに足を進めた。

 その骨董品屋は、そこまで遠くない。すぐに着く。

 数分もしない内に、その骨董品屋に着いた。

 早い時間なのでまだ開いていないかと思ったが、すでに営業しているようだ。

 「さて、時間を潰すか」

 骨董品屋が開店している事に喜びを感じつつ、店内に足を踏み込んだ。

 店内は、至る所に価値のありそうな物がズラリと並べられていた。本棚には昔の書物があり、壁には江戸時代や明治時代あたりの絵画が掛けられていたり、また、マニアックなものだと第二次世界大戦中に使用されたであろう銃や砲弾の薬莢に、将校が持っていたとされる軍刀まで置いてあった。

 そんな武器関係の物もこの店にはあるので、単純なミリオタの男性も多く来店している。ちなみに、自分も銃や刃物は結構好きだ。まあ、世の中の男子はこういうものが好きだろう。だって、ロマンがあるから。

 「あ、恭平君、来ていたんだね」

 そう呼び掛けるのはここの店主の丸井達也だ。恭平は愛称を込めて「丸さん」と呼んでいる。

 「丸さん、何か面白い物とかないか?」

 「面白い物か……ヴィンテージ品とか興味あるかな?」

 ヴィンテージとは、昔に作られた価値のある物の事で、元々は上等なワインなどの酒を指す言葉だったが、今では古着やアクセサリーにもこの言葉は使用されている。

 「まあ、あるっちゃあるかな」

 「それはいい。実は最近、ここに永倉新八の子孫を名乗る人が来たんだけど、その人がね、かつての新撰組の隊士達が着ていた羽織を持って来たんだよ。しかも、かなりの美品なんだ」

 ちょっと待ってくれ。あまりにも情報量が多すぎる。

 永倉新八って、新撰組の二番隊隊長を務めていた人だった気がする。そんな人間の子孫が、ここに来ていたと言うのか。それはあまりにも凄いことだ。

 「で……その羽織を、見てみないかい?」

 「うん、お願いするよ」

 本当に、あまりに情報量が多すぎるので、未だに脳がぼんやりとしているが、丸さんが店の奥に進んでいたのでそれに続いて俺も後を追った。

 この店は狭いので目的地までは一瞬だった。

 店内の端っこに行くと、丸さんの言っていた新撰組の羽織がハンガーに丁寧に掛けられていた。

 その浅葱色の羽織には白色のギザギザとした模様があり、裏側には「誠」という文字が刺繍されていた。まさに、教科書やニュースで見たことがある新撰組の羽織だった。

 そして、その羽織は昔の物なのにも関わらず、まるでついさっき作られたかのようにとても美しかった。

 しかし、これほど保存状態がいいと、値段は馬鹿みたいに高いだろう。

 そう思いながらも、丸さんにこの羽織の値段を聞いてみる事にした。

 「ちなみに……これって、いくらするんだ?」

 それを聞いた丸さんは値札を手に取って俺に見せてくれた。

 「え? じゅ、十万もするのか!?」

 十万円は、貧乏高校生には厳しいお値段だ。

 「まあそりゃ、こんな美品だからね」

 丸さんは苦笑の表情を浮かべる。

 「ところで、これ欲しい?」

 「欲しいのは欲しいけど、値段がな……」

 暗い表情を思わず浮かべてしまう。すると、丸さんが笑顔になって肩をポンと叩いた。

 「どうせこれを買う人なんてほぼ居ないだろうし、高校生の恭平君には大サービスしてあげるよ」

 「さ、サービス?」

 きょとんとしていると、丸さんがボールペンを胸元のポケットから取り出して、値札を羽織から外すと、その値札に何やら書き始めた。

 丸さんの作業が少し続いた時、その作業が終わったのか、丸さんは値札を渡してきた。

 「ほら、五千円でいいよ」

 「ご、五千!? 本当にいいのかよ」

 サービスしてくれるのはありがたいが、ここまで過剰なサービスをしてしまうと、この店は赤字になってしまうのではないのだろうかと思ってしまった。

 「別に構わんよ。だって、この店だって遊びでやってるもんだし」

 明るい笑顔を浮かべる丸さん。その目は、経営者の目ではなく、若くて逞しい少年のように見えた。

 「で、買うの?」

 「う、うん、買おうかな……でも、本当にそんなに負けてくれて良いのかよ?」

 「だから赤字に関しては大丈夫だって。それに、恭平君は高校生だからそんなにお金は無いだろ?」

 「そうだけど……」

 「なら、早速その羽織を持ってレジにおいで!」

 そう言うと、丸さんは上機嫌でレジに向かって行った。

 「まあ、甘えるのもいいか」

 俺は笑みを浮かべると、十万円から五千円の価値になった浅葱色の羽織を手に取って、丸さんが待つレジへ行った。

 羽織をレジ台に置き、財布から五千円札を取り出して丸さんに渡す。

 「五千円ピッタリだね」

 丸さんは手慣れた手つきでその五千円札をレジに入れた。

 「はい、これは羽織を入れる袋だよ」

 袋と言われて、よくある安っぽいレジ袋かと思ったが、

 「これ……鞄じゃん」

 それは袋というよりかは、上品な布で出来た手提げバッグだった。

 「まあまあ、気にしないで」

 「今日は本当にありがとう、丸さん」

 「良いって事だよ」

 その言葉を聞くと、俺は格安で購入した羽織を丁寧に折り畳んで、おまけで貰った手提げバッグにそっと入れた。

 「気をつけて帰るんだよ」

 退店する間際にそんな言葉を掛けられた。それに対してこちらは笑顔で微笑みかけ、店を後にした。

 ◇

 色々やっていたので、家に帰った頃にはもう四時前になっていた。

 「遊びすぎたかな……」

 この家には自分一人しか居ないので、夕飯はのんびり作れるが、テスト期間中にこんな事をしながら過ごすとは、なんて怠惰な学生だろうか。学校の真面目野郎が見たら、大声で怒鳴り散らしてくることに間違いないだろう。

 「ついでに今日は魚でも食うか」

 さっきスーパーで買い物を済ましたが、買ったのは野菜だけだ。しかし、魚は買っていない。

 どうやって魚を食べるのか気になる人も多いだろう。その方法は……

 「(釣り)に行くか」

 ずばり狩猟だ。狩猟と言っても鹿や猪を狩るのではなく、魚や鳥などの比較的小さい生物を捕えるだけだが。

 バイト代で購入したそこそこ高いサバイバルナイフと弓、そして数本の矢を矢筒に入れると、帽子を被った。これでいつでも猟に行ける状態だ。

 ……と。その前に、あの羽織をどうしようか。自室に飾るのもいいが、今の自分の部屋はそれほど綺麗ではないので、せっかく美しい状態で手に入れた羽織が埃だらけになってしまうかもしれない。

 「なにかいい方は……」

 何か案がないか考えていると、ある一つの考えが頭に思い浮かんだ。

 「そうだ、俺の住んでいる家にはガレージがあるんだったな」

 この家は家賃が安いのにも関わらず、ガレージがあるのだ。もちろん、家賃の値段の安さも相まってそのガレージは普通のガレージと比べて少し面積が小さい。しかし、それでも車を持っていない自分からするととても広く、豪華なオマケだと思うのだ。

 あそこ(ガレージ)なら特にこれといった物は置いていないので、さっき格安価格で購入した羽織も綺麗な状態で保管出来る事だろう。

 「そうと決まれば、早速行くか!」

 羽織を手提げバッグからゆっくりと取り出すと、簡単に畳んだ。そして、両手でしっかりと持った。これで、あとはガレージに羽織を保管するだけだ。

 「これをガレージに置いたら狩に行くか」

 羽織を持ったまま、俺はガレージへと向かった。

 ◇

 ガレージに無事、羽織を保管出来たので、今は狩猟をするための準備をしている。準備と言っても帽子を被ってナイフの鞘をベルトに通すだけだが。

 「いやぁ、あの羽織は一生の宝物だな」

 あまりに嬉しすぎて、何だか自宅が博物館になった気分だ。

 「まあ、誰にもあの羽織は見せないけどな!」

 友達とかに見せて汚されたりしたら嫌なので、あの羽織は自分だけの秘密にしておくことにした。

 「よし、ちょっと遅い様な気もするけど、食材を調達しに行くか」

 狩猟に必要な道具を一式持つと、玄関に向かって行った。

 ◇

 家から出ると、裏にある山というか森林に入つた。この森林は自然が豊かで、様々な動物や虫の鳴き声が聞こえたり、都会では見られない植物などが見られる。まさに自然という存在が生み出した宝庫と言えるだろう。

 さらに、この森林には川底まで透き通った綺麗な川があるのだが、そこではなんと鮎が取れるのだ。

 今日食べようと思っている魚も、鮎を狙っているのだ。

 「山菜も取りたいけど……今は鮎の気分だよな」

 地面に生えている舞茸を見て呟く。

 この季節は少し肌寒いので鍋も悪くない。しかし、今は魚の塩焼きを食べたい気分なのだ。なので、山菜は無視する事にした。

 しばらく歩くと、目的地である川に到着した。

 川はいつも通り、底の方まで透き通っていた。泳ぎたと思ったが、今は冬に近付いているのでそんなのは自殺行為と言っていいだろう。

 「お、ちゃんと居るな」

 川底には何匹かの鮎が居た。休憩しているのか、こちらの存在には全く気が付いていないようだ。

 鮎が無警戒だと分かったので、俺は弓に矢を通して構えた。

 使用する矢は、先端を通常の矢よりも尖らせている。自分で元の矢を加工して作製したのだ。そのため、魚などの獲物を殺すには性能が良く発揮されるのだ。

 「そこだ!」

 狙いをしっかりとつけ、弓の弦から手を放し、矢が勢いよく飛ぶ。

 パシュッ。

 そんな音がしたかと思うと、矢は鮎の腹に突き刺さっていた。しかも、反対側に居た鮎にも貫通して刺さっていたので、一本の矢で鮎を二匹も獲れたのだ。

 貫通はただの偶然ではなく、俺がしっかりと計算しているのだ。だって、矢を無駄に消費したくないからだ。

 この方法でどんどんと鮎を獲っていく。

 そして、鮎を六匹獲る事に成功した。今夜は満腹になることだろう。

 持ってきた籠は鮎でパンパンだ。これ以上は獲ったとしても入りきらないだろう。

 「こんだけいりゃ十分だよな」

 籠に蓋をする。

 死んだ鮎を見て嬉しそうな表情を浮かべているが、別に動物を殺すのが好きな訳じゃない。逆に、争いとか戦争とか殺し合いはあまり好んでいない。特に、力のある者が弱者を侮辱したり差別したりするのは大嫌いだ。

 「……さて、帰るか」

 籠を手に持って帰宅する事にした。

 「ん?」

 その時、何かの音が聞こえた。

 どんな音かと言えば説明しづらいが、何かの物体を切断しているような音だ。チェーンソーで木を切断するような音ではなく、柔らかい何かを切断しているような音だ。

 「猟師が動物を解体してるのかな?」

 この辺にはイノシシやシカが多く生息しているので、もしかしたらそう言った動物を地元の漁師が捕獲し、その場で解体しているのかもしれないと推測した。

 しかし、今は猟の季節じゃないと地元のハンターが言っていた事を思い出す。だとすれば、この音は一体何なのだろうか。

 不審に思った自分は、音のする方へ行くことにした。

 音が聞こえる場所は、ここからそう遠くは無い。だが、草木や地面に露出している岩が激しいので、慎重にその場へ行った。

 「草が邪魔すぎるな……」

 サバイバルナイフで草木や細かい枝をかき分けながら音のする方へ行く。

 「鉈も持って来たらよかったかも」

 今日は魚を釣る予定だけだったので弓と止め刺し用のサバイバルナイフしか持ってきていない。そのため、草木を払って進むのに苦労している。だから、鉈を持って来た方が良かっただろう。しかし、今起こっている事態は予想外なので仕方ない部分もあるが。

 鉈を持ってこなかった事に後悔しながら進んでいると、少し開けた場所に出て来た。

 開けているので、生い茂っている葉の間から夕陽の綺麗な光が差し込んでおり、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。

 そして、例の音もこの空間から聞こえて来る。

 「あれは……子供か?」

 大きい木の横で自分よりも年下であろう子供達が数人いた。手には子供が持つには大きいサイズのノコギリを持っていた。

 「遊んでるのかな?」

 そう思ったが、どこか様子がおかしい。何というか、その子供達の表情は薄暗く、何かに怯えている顔だったからだ。それに必死に作業しているようだったので、遊んでいるというよりかは、仕事をしているようだった。

 「良く見ると、服も何か変だな」

 木の裏側に隠れながら彼らの服装を見る。

 ノコギリを持った子供達の服は普通の小学生や中学生が着ている私服ではなく、深い緑色をした軍服のようなものだった。まるで、国に奉仕している軍人のようだ。

 この光景はまさに、異様と言えるだろう。

 すると、子供二人が力を合わせて何かを引きずって来た。

 「あ、あれ……!」

 その引きずっているものを見て、俺は顔が青ざめた。

 子供が引きずっていたもの、それは人間の死体だった。しかも、その死体は全身に打撲傷が多くあり、交通事故などの事故死ではないことは明らかな事だった。

 そして、その死体を地面に置くと、少しガタイの良い子供がノコギリを持って、その死体の腕に押し付け、前後に動かし始めた。

 ノコギリで人間の身体()を解体する……この光景は、今日の朝と学校の帰りに見た事件現場と合致しているように見えた。いや、間違いなく犯人は死体を解体している子供達だろう。しかし、彼らの表情は嫌々やらされている様に見える。

 すると、恐ろしい光景が広がる解体現場にスーツを着た男性と、黒色の作業服のようなものを着た男性が二人現れた。

 その二人の男性はどうやら知り合いのようで、仲睦まじい姿で楽しく会話していた。解体している所を見ながら。

 そんな狂気じみた光景を見ていると、ある事に気が付いた。

 その事実に、俺の背筋は凍り付いた。

 「スーツのやつ……岸部だよな!?」

 作業服を着た奴は知らないが、スーツ着ている男には見覚えがあった。それは、さっきスーパーの前で演説を行っていた極左の共産党議員、岸部文蔵だった。

 今の岸部は、人間というより、獣みたいな目をしていた。そして、それは隣に居る作業服を着た奴を同じだった。

 あまりに恐ろしいと感じてしまい、俺は大きな声が出てしまった。

 そして、二人の視線はこちらに向いた。

 「誰か居るみたいだぞ」

 岸部が隣の男の告げる。

 岸部の声を聞いた男はニヤリと口角を上げ、自分の方に指をさしてきた。

 「これはこれは……このポル・ポトがしっかりと指導しないとな……思想を赤に染め上げるんだ」

 作業服を着た男は、自分の事をかつてのカンボジアを支配していた独裁者、ポル・ポトと名乗った。

 「これ、本当に、ヤバい……!」

 国語は得意な方だが、この状況に命の危険を感じたので、語彙力がいつもよりも低下していた。

 いや、それどころじゃない。早くこの場から逃げないと……!

 しかし、目の前で起こっている事が恐ろしすぎて、足が全く動かない。

 そして、ポル・ポトは声を張り上げた。

 「兵士よ、あいつを捕縛しろ!」

 そう言うと、地面からアサルトライフルで武装した子供が木の様に生えて来た。その子供達の姿は、顔こそ全員違うが、さっき人間の身体を解体していた者達と同じに見えた。

 同じに見えたとは、どういうことかと言うと、それは「生きていない。この世に存在していない者」と思ったからだ。それと、あのポル・ポトと自称した男も人間に見えない気がする。見た目や声は人間なのだが、何かが人間と違う気がする。でも、未確認生物でも幽霊でもないのだ。とにかく、人間では無い事は確かだ。

 そう思っている内に、一人の子供が発砲しかけた。数メートル離れた場所にその子供は居るが、小さな指でトリガーに指を掛けようとしているのがはっきりと確認出来た。

 それを見て、俺はようやく足が一歩動いた。

 とにかく、早くアイツらから逃げないと。

 「死んで、たまるか!」

 そう思った瞬間、俺は来た道を大急ぎで走った。しかし、相手はアサルトライフルを所持しているため、こちらに向かって躊躇う事なく発砲してきた。

 「うっ、当たったか……」

 そして、運が悪い事に銃弾はふくらはぎに当たってしまった。走って逃げるとなると、当然足を使う事になるので、これは絶体絶命と言えるだろう。

 「動けない……」

 頑張ったら動けるが、走る事は出来ないだろう。どんなに頑張って足を動かしたとしても、早歩きぐらいしか出来ないだろう。

 銃を持った一人の少年兵が接近してくる。

 未だにこの状況を理解しきれてないが、これでは殺されてしまうだろう。

 そして、その少年兵が木にもたれかかっている俺に近付くと、頭部に冷たい銃口を密着させた。

 この瞬間、俺は死というものを覚悟した。

 今から自分は目の前の少年兵に殺されるんだと思い、静かに目を閉じた。

 ◇

 ……死ぬどころか、発砲音すら聞こえなかった。

 「……え?」

 勇気を出して目を開けると、周りには腹部や頭部を切断された少年兵達の死体が転がっていた。だが、その死体からは血液が流れていなく、代わりに透明の液体が流れ出ていた。

 「これは……?」

 すると、少し離れた所で銃声と金属音が聞こえた。その音は、自分の手前で発生していた。

 「槍ではキツイか!」

 「アーサー! カリバーンの方を使って!」

 少年兵達の前には、時代遅れな西洋の甲冑を身に着けた中年の男の騎士がシルバーと黒で統一された槍を持って少年兵と、そしてその後ろに居るポル・ポトと岸部に向けて退治していた。

 その騎士の横には、コートとウシャンカ帽を着込んでいる金髪の白人の女性が立っていた。

 「アーサー……お前は資本主義の人霊だな? ならば、私が貴様を処刑してやる。私は、お前みたいな独裁者が嫌いなんでね」

 「独裁者はお前の方だ! 子供に銃を持たせて戦わせるとは、あまりに外道だ!」

 騎士は槍を背中に着いている鞘に納めると、今度は腰に装着しているシルバーの鞘から黒と黄金が混ざったブレードの西洋剣を取り出し、それを構えた。

 「どうやら、やる気の様だな……ポル・ポト、手加減はしなくていい。この犬を徹底的に痛めつけるんだ」

 岸部はポル・ポトの肩を優しく叩く。それに応えるように、ポル・ポトという独裁者を頷き、自身が従えている少年兵に指示を出した。

 「やはり、この場で射殺しよう。やれ!」

 少年兵達が一斉に騎士と女性に向けて発砲する。しかし、その銃弾は騎士の剣によって叩き落された。その行動に少年兵達は思わず驚いた表情を浮かべる。そして、その瞬間を騎士の男は見逃していなかった。

 「あまり子供を殺したくはないんだけど、これは仕方ないことだ……!」

 騎士は剣を横に振りかざす。その瞬間、数十人居た少年兵達の身体が一気に燃え上がった。そして、その数秒後に破裂した。

 「くっ、これがアーサー王の力か……!」

 「これは、逃げた方がいいかもな」

 騎士の力に怖気付いたのか、岸部とポル・ポトは撤退しようとする。

 だが、それは騎士が許さなかった。

 「逃げるな! 人霊なら殺す覚悟も、死ぬ覚悟も出来ているだろう!」

 その声が、森に響き渡る。

 「さあ、ここで決着を……」

 再び剣を振りかざそうとする騎士。

 しかし、その剣が振られることは無かった。

 「待って! あそこに一般人が……」

 そう、騎士の背後に居た女性が俺に気が付いたのだ。

 人間の解体現場、銃を持った少年兵、突如現れたアーサーという騎士。起こっていることが多すぎて、脳がパンクしそうだ。

 しかし、足の痛みは少し和らいでいるように思えた。血は垂れ流れているが、ここから自宅までなら走って逃げる事は可能だろう。

 そう思った時には、俺は走っていた。

 「何がどうなってるんだよー!」

 発狂に似た感情になりながら、声を上げて家の方角へ走った。

 それに気づいた騎士が声を掛ける。

 「待ってくれ! 何もしないから……」

 そんな言葉を掛けてきたが、その言葉を無視し、俺はがむしゃらにこの森から出ようとした。

 「あ……ポ……が」

 遠くまで走ったが、かすかにあの騎士の横に居た女性の声が聞こえた。そんな声も無視し、必死に家まで走り続けた。

 ◇

 死に物狂いで家に帰宅……いや避難すると、家の中で一番頑丈なガレージに身を隠した。商店街から帰って来た時にあの羽織を保管した場所だ。

 「俺、死なないよな……?」

 ポル・ポトという独裁者とアーサーという騎士。あの二人は見た目こそ人間だったが、中身は明らかに人間とは別物だった。例えるなら、怪物だ。

 さっきの光景が脳に焼き付いてしまい、身震いしながらガレージの隅に座り込んでいると、自分が今居るガレージ全体がカタカタと動き出し、一分も経たない内に大地震が起こったかのようにガレージが激しく振動しだした。しかし、この揺れはガレージだけで起こっているようで、それ以外の部屋は揺れていないように思えた。

 そして、揺れが最高潮になった時、丁度羽織を置いている辺りから爆発音が聞こえたかと思うと、直視出来ない程の光がガレージ全体を包み込んだ。

 「な、なんだ!?」

 反射的に、手で目を覆い隠す。あの光は、直視してしまうと失明するのではないだろうか。

 どのくらい経ったか分からない時、俺は目を隠している手を下げた。

 光は収まり、ガレージの壁には所々ヒビが入っていた。さらに、煙の臭いがこの空間に充満しているため、思わず息を止めた。

 しかし、すぐに息が出た。

 ガレージの中央には、黒と茶色、そして今日商店街で購入した新撰組の浅葱色の羽織を着た女性が立っていた。

 その女性は二十代ぐらいで、黒髪のショートヘアが似合う美人な女性だった。しかし、左腰には刀が入っているであろう鞘が着けられていたので、先程の独裁者《ポル・ポト》や騎士《アーサー》と同じように、彼女もまた人間ではないことは明らかだった。しかし、ポル・ポトとは違い、優しいオーラを漂わせていた。

 そんな美人で優しそうな女性に見惚れていると、その女性が口を開けた。

 「人霊、永倉新八――――希望の儀式により、この世に現界した。今から戦いに身を投じると共に、貴方の武器()となります」

 目の前に居る女性は、落ち着いた口調で永倉新八と名乗り上げた。

 そんな姿の女性を、俺はただ見つめていた。そして、彼女も俺の事をじっと見つめていた。

 これが、人霊「永倉新八」との出会いだった。




作者のHIMAZINBOOKです。中学生の頃にプレイした「Fate Stay Night」がきっかけで、このFate風の小説を書くことにしました。初めて書いたのですがどうでしょうか?初めてなのでおかしい所や誤字脱字があるかもしれませんので、そのような箇所があったらコメントしてくれると嬉しいです。あと、この小説はほぼほぼFateのパクリのようなものなので、不快に思われた方が居たら申し訳ございません。
では、またお会いしましょう!
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