魔族転生   作:ゆうたんたん

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悋気

 ソリテールの提案でヴァイゼを目指すことにした。最近はソリテールの機嫌がよくて、なんだか俺も嬉しくなる。

 

 人類以外の研究テーマや、他の研究方法を勧めてはいるけれど、あまり関心を持ってはくれない。ソリテールに人を殺して欲しくないなんて、今更過ぎたな。

 

 前世の知識をいくらか話してみたけれど、それには興味を持ってくれた。

 

 

 最近、ソリテールから離れていられる時間が増えたので、一人で人間の街の調査を行った。中規模の、結界のない街。俺の書いた本が広まっていることが確認できた。

 

 魔族の生態全般と、強力な魔族の名前と身体的特徴、魔法、さらに性格まで書いた本。当たり前だが、他のどの本よりも詳しいので、かなりの名著として名を馳せていた。著者名なしなので、誰が書いた本なのか色々な説があるらしい。人間に対して友好的な魔族が書いたものなのではないかという説もあった。

 

 

 あと、俺の作った脳を溶かす蛇の血清はかなりメジャーな存在になっていた。手遅れだった人は毎年出ているみたいだし、地方へは広まっていないみたいだけれど、大きな都市には置かれていて、多くの人命を救ったらしい。

 

 

 やはりしばらく一人になっていると震えが止まらなくなって、急いでソリテールのもとへ帰った。

 

 

 

 ヴァイゼはもう、すぐそこだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 どうやら魔法協会的な感じの組織が、ヴァイゼを管理しているらしい。

 

 マハトはヴァイゼを全て黄金に変えた。その後、魔法協会によって結界を張られて、マハトはそこに閉じ込められているわけだ。

 

「助けに行くんだね?」

「……ええ、そうね」

 

 なんとなく違和感。首を傾げているとソリテールにキスをされた。やっぱり大好きだと思うけれど、俺だってそこまで馬鹿じゃない。何か誤魔化そうとしたんだと気が付いて。

 

「ソリテール。ちゃんと話を」

「…………私を疑っているの? 悲しいわ」

「あ。違うの……そうじゃなくて……ごめんね。なんでもない」

 

 

 まあ、今のやり取りでもソリテールの行動は読めるし、俺なりに出来ることをやるか。

 

 

 

 聞いていた通りにヴァイゼは得体の知れない結界が張られていて、俺には全く理解のできない術式をしていた。ソリテールは解析を開始して、もう結界の近くにいなくて良いらしい。森の奥へ向けて歩きだした。

 

 少し考えて、俺は紙に文字を書いて結界の中に投げ入れてみる。通り抜けた。紙には「一月後、本を送るから読んで欲しい」と書いた。

 ソリテールは解析完了まで二か月くらいと言っていたから、一か月で、俺の感じた罪悪感の全てと気が付いたきっかけを記そう。

 

 

 

 ■

 

 

 

 一か月。一千年以上は生きた俺からしたらあっという間の時間なのに、明確な目的があれば長く感じる。特に、罪悪感について記す事は、俺に精神的苦痛を与えた。それでも、俺の知る全てをマハトに伝えたいと思った。博愛と言えるかもしれない。いや、もしかしたら、ソリテールの為の行動なのかもしれない。

 

 本を投げ渡す。結界の近くまで来て受け取ったマハトはパラパラとページをめくると、こちらに視線を送る事すらせずに結界の奥へと戻っていった。読んでくれるかな。何か、マハトのためになると良いな。

 

 

 

 

 

 ソリテールのもとに戻ると、真剣な表情で解析に取り組んでいた。軽く声をかけて、髪に触れていいか尋ねる。ソリテールは無言で頷く。彼女の横に座って、髪を梳く。それから彼女の中できりが付くのを待って、キスをして、ごはんの準備をした。火を使わずにとなると、魔法で熱を伝えて茹でたり蒸したりするか。

 

「ごめん。えっと、近くに魔法使いがいるんだよね? なら、あまり火を焚いたりは出来ないからさ。ちゃんとしたご飯は用意できなくて」

 

 俺はソリテールに言われて魔力探知をしていないし、そもそも普段からあまり気にしていない。ソリテールから聞いた限りだと、近くに魔法使いがいるらしい。おそらくマハトを殺しに来た人間だと。そんな恐れ知らずなことをする奴がいるとは思えないが。

 

 

 

 …………いや、フリーレンなわけがないか。マハトにやられそうになって結構怖がってたし、勝算の無い戦いをする人じゃない。

 

 隙を見て、探ろうか。

 もし来ていたとしても、大魔族三人揃っているところに喧嘩を売るほど短絡的ではないはずだ。なるべくソリテールと一緒に行動していれば、二人とも守れる。

 

 考えながらご飯を準備していると、ソリテールが俺の手を抑えて。

 

「別に無理に用意する必要はないわ」

「でも……」

「もしかして、ドロール。あなたは私に人になって欲しいと思っているの?」

「え? いや……そんなことは……」

 

 ない……はずだ。

 

 前はともかく、ソリテールにそれを押し付けることはもうしないつもりだ。

 俺の中の常識では、毎日ちゃんとご飯を食べるべきだと思っているから、それだけの事。

 

「でも、もしもソリテールが不快なんだったら――」

「好きにしたらいいと言ったのは私よ? 別に気にすることは無いわ。聞いただけだから」

「ソリテール……好き、好き、大好き。愛してる」

 

 ソリテールに抱き着くと、やっぱり彼女は俺を受け入れてくれた。頭を撫でて、キスをしてくれて、きっとそれ以上の事もしてくれる。でも、今は解析に集中してもらうことにした。

 

 

 

 

 

 待っている時間は退屈だけれど、時間を無意味に浪費することには慣れている。もう一か月はあっという間で、ソリテールは解析を終えて明日結界を解除しに行くと言った。どうして明日なのかと尋ねると、久々に俺との時間を作りたいのだと言ってくれた。

 

 本当にうれしかった。

 向かい合って、ゆっくりと体を重ねて。ソリテールは俺の顔をしっかりと掴んで眼を覗き込み。

 

「ごめんなさい」

 

 

 精神魔法をかけられたと気が付いた時には遅かった。

 

 

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

 結局マハトは殺さないことにしたソリテールは、マハトと連れ立ってフリーレンのもとへ向かう。すでにフリーレンの弟子とは戦ったが、良い所で黄金になってしまった。

 フリーレンは、案の定マハトの魔法を解除して平然と立っている。

 

「潜伏が通用しないほどの手練れでは久々かな」

 

 なんて、格好付けたことを言うフリーレンに苛立ちを抑えながら、ソリテールは自己紹介をする。

 

 

 

 

 しばらく会話をして、少し戦って。

 気が付いた。

 フリーレンはマハトを殺すことに躊躇いの様な感情があって、それを押し殺して対峙している。先ほどは堂々と殺すと宣言したのに。いや、あれは迷いを拭うために強い言葉を使ったのか。

 

「やっぱり。フリーレン。君はドロールを知っているんでしょう?」

 

 フリーレンはちらりとソリテールを睨んだだけで、あからさまな反応を見せることは無かった。

 

「もしかしたらマハトが、これ以上人を殺すことなく共存の道を見つけられるのではないかという考えから抜け出せないのね?」

「そんなつもりはないよ。マハトはここで殺す」

 

 ちらりとマハトがこちらを見て、デンケンという魔法使いも動きを止めた。

 

「君とドロールの関係を聞いてもいいかしら? 友達?」

 

 なぜかフリーレンは動揺を見せて、小さな声で肯定した。

 

「そう。ドロールは寝ているとき寝言で時々君に謝るの。そのことがどうにも許せなくて、私は君を殺しに来たの」

 

 

「……ドロールは元気にしてる? 眠れない時とか話しかけてくるからうるさいでしょ」

 

 関係性のアピールだろうか? フリーレンなりの精一杯の舌戦だと思えば、寧ろ可愛らしかった。いや、嫉妬するか試しているのかもしれない。

 冷静に対応して、さらにフリーレンを煽って戦意を削ごう。

 

 ソリテールから零れたのは冷静な…………

 

「……どういう意味かしら? まるでドロールと寝たみたいね」

「? うん」

「は?」

 

 

 

 

 

 ■ ■ ■ ■

 

 

 

 

 デンケンにマハトを任せて、フリーレンはソリテールに集中する。

 

 

 ドロールほどではないが、精密な魔力コントロール。フリーレンと比べても別格だ。高密度の魔力を直接ぶつけられそうになるのを避けて攻撃を加えているが、やはり同じく高密度の魔力に阻まれる。もしもドロールと本気で殺しあったら、こんな感じなんだろうと余計な考えが生まれた。

 

 対面した当初のお喋りは鳴りを潜めて、ソリテールは凝縮された殺意をフリーレンにぶつけるだけだ。いったい何がそんなに癪に障ったのか、フリーレンにはわからなかったが。

 

 可能な限り捌いたが、それでも二、三発は直撃を貰う。当たり所によっては即死だ。

 汗か、もしかしたら血かもしれない。冷たいものが背を伝った。

 

 

 ソリテールに倣って、隙を見て魔力をぶつける。直撃。ただ、フリーレンが喰らったものに比べれば大したダメージにはなっていないだろう。やはり彼女の魔力がフリーレンの攻撃を阻む。

 

「……ふっ、ふふっ……素晴らしいわ。フリーレン」

 

 派手に吹き飛んで、傷からは血を流し、ソリテールは笑う。

 調子を取り戻すように、ソリテールは再び喋りだした。

 

「お話や実験は、数えきれないほどやってきたけれども、殺し合いをするのは、生まれて初めてかもしれない」

 

 言いながらまたソリテールは肉薄し、魔力を放つ。半身で避けて、フリーレンも同じように攻撃。そういったやり取りが続くが、この攻撃の仕方にいくらか慣れている方が、そもそも単純に魔力のコントロールからして、ソリテールに分があった。

 

「そうそう。一つ君に伝えておきたいことがあるのだけれどもいいかしら?」

「本当によく喋るね……ドロールに似たの?」

「元から…………でもそうね、彼と話して人間の事がずっと分かってきた。私は人類の脅威を一番知っている魔族と共にいる。彼の前世の知識は特別だわ。彼は魔法研究にそこまで力を入れていなかったけれど、それを補うのは私たちなんて及びもつかないイメージによるもの」

 

 フリーレンも、ドロールの魔法が彼の前世で得たイメージから来ていると理解している。

 昔は他の魔族と違って飛行魔法すら使えていなかったのに、失敗したとはいえ魔族を蘇生させるような魔法を使えたその理由。大魔法使いフランメの結界を抜けて攻撃が出来ると言えるその知識。漠然と話してもらえた、魔法が存在せず、代わりに人類は知性だけでどこまでも発展したという、その世界の知識だ。

 それらはフリーレンには想像すらできないもの(イメージ)を、ドロールに与えている。

 

 誇張なしに、最も人類の可能性を知っているのはドロールだとフリーレンも同意できた。

 

「私もきっと、いつか人類に狩られてしまう。その時が来たら、泣きながら命乞いをしようと思っているの。ごめんなさい。改心します。死にたくない。私は貴方達と仲良く成りたかっただけなんです。ただやり方が分からなくて――そんな感じの言葉を」

「……」

「でも、君に殺されるつもりだけは無いわ」

 

「そう。お前に対してはあまり心を痛めずに済みそうだ」

 

 ソリテールは強い。けれど、殺し合いをした回数に関してはフリーレンの方にずっと分がある。油断しない魔族との戦いも、つい最近に経験した。

 

「随分なことを言ってくれるわ。私はこれでも、ドロールの恋人なの」

「……魔族にそんな概念があったとは驚きだね」

「言葉の割にはあまり驚いたようには見えないわ。私も愛情を理解しているわけではないけれど」

 

 またも接近。ソリテールの攻撃を避けて、フリーレンも可能な限り魔力の密度を上げて打ち出す。

 

「ドロールの恋人と言ったのは嘘。本当は彼を上手く利用して、人類を効率的に研究しているの」

 

 遭遇した当初と同じように、また言葉を使い始めた。アウラのそれと比べても、会話という感じはない。いや、人間と会話をしているような感覚は僅かにある。冒険を再開してそれほど多くの魔族を見たわけではないけれど、やはりアウラとソリテールは異端に分け入れるべきだった。

 

 フリーレンは、ソリテールがこちらを煽っているように見せかけて、本当は自分とドロールの関係性を探ろうとしているのだと気が付いた。

 

 そんなことをする理由。ソリテールが怒りを見せた理由。

 

「嫉妬?」

「ん-? 何か言ったかしら?」

「いいや。お前を殺したらドロールがどうなるかと思ってね」

 

 ソリテールを殺すことに僅かな迷いがある。ドロールと知り合いなのは本当だろう。ならば、彼女を殺せばドロールとの関係は完全に終わり、フリーレンには彼を殺す以外の選択肢がなくなる。

 それでも、この残虐な魔族を放置する選択肢はフリーレンになかった。

 

「ひとまず。お前は殺すよ。ソリテール」

「あら? ドロールの事はいいの? 私が死ねば彼が悲しむのは本当よ?」

 

「別に……もうすでにドロールには恨まれているだろうからね」

 

 

 魔力の打ち合いを続けては消耗戦だ。勝ち目はないが、これを続ける。こちらの狙いに気づかせないよう注意して、黄金郷の解析を進める。一気に黄金化を解除して、ソリテールの口から一度も言及されていないが、フェルンが無事ならば。

 ソリテールが自分で言うように、人間に対しての慢心があまりない魔族だけれど、代わりにフリーレンに対して執着がある。フェルンが黄金化されているだけならば、こちらが勝つ。

 

 

 狙い通りソリテールの猛攻を防ぎつつ解析を完了させ、マハトの黄金化を解除する。

 

「……ドロールが言っていたわ。人間は意味のない事ばかりするって」

「そうかもね」

「でも……君は違うように思う」

 

 

 

 遥か上空からフェルンが放った魔法は、ソリテールに直撃する――直前に。

 勢いよく振り返ったソリテールはとっさに手を伸ばした。左腕に魔力をずっと高密度に集めて、攻撃魔法を散らす。

 

 ただ、不意打ちが決まったことに変わりはなく、その隙をフリーレンは突いた。

 

 同じく魔力で防ごうとしたソリテールだったが、逸れた魔法は細い線となって、ソリテールの眼から入り頭を貫通した。

 

 

 ぱたりと倒れた。まだ息はある。

 

「……ふ、ふふっ……ドロールは、一人で平気かしら」

 

 言いながらちらりとフリーレンを見るのだから、こちらの罪悪感を煽ろうとしているのだろう。残虐な魔族の中でも、かなり人間心理を理解しているソリテールだからこその最期。

 ただ、もしかして別の可能性もあるだろうかと疑問を持った。

 

「命乞いをするんじゃなかったの?」

「……そうね。フリーレン。一つ教えてあげる」

「なに?」

「ドロールは君の事を恨んでなかったわ……本当よ。これが私なりの命乞い」

 

 

 

「…………そう……」

 

 

 杖を構えて、ソリテールにとどめを刺す。その直前に。

 

 

「今度は間に合った」

 

 

 ドロールの声が聞こえた。すぐ近くに来ていたのに気が付かなかった。

 

 ドロールはフリーレンの横を通り抜けて、ソリテールに触れる。

 時間が遡るように、周囲に散らばっていた魔力が集まりソリテールの身体が回復していく。感じられるソリテールの魔力すらも、いくらか回復していた。

 

 アウラの時のように蘇生は駄目でも、回復なら本当に可能らしい。

 

「……」

 

 フリーレンは、なるべくまっすぐにドロールへ視線を向けた。




 なんかあとちょっとくらいで終わります。
 
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