魔族転生   作:ゆうたんたん

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魔族として:日記3

 〇月×日 フランメの死から百五十年。

 

 最近俺は、気候区分図を作るのにハマっている。自作の温度計を使って、ある特定の地域に数十年滞在して、記録していく。寿命の短い人間だと出来ない。こういう時に、魔族で生まれたことを嬉しく思う。

 

 一応俺だって、魔族とも人間とも分かり合えない自分の立場を寂しく思いはするのだ。まあ、魔族に生まれたのは、長い時間をかけて研究できるからプラスマイナスでいうとプラスだけれど。

 

 ともかく、温度計をどうやって作るか考えてだいたい数年。ある日ゆで卵を作っていると、沸騰するのは百度なんだから、これを基準に作れるじゃんと気が付いた。というか、温度の基準がそれだ。

 賢ければすぐに気づけただろうに、馬鹿だとこうなる。なんか脳トレとかないかな。質を生きてる量でカバーしている感じがパない。

 

 そんなこんなで、温度計を自作して、気候区分を作っている。

 生き物の調査に役立つと思う。

 

 ついでに、歩幅を完全に一定にする魔法を使って、地図の制作もした。これを本にして刊行していると、帝国から発禁処分になって、殺されそうになった。地図の重要性を軽んじていたが、軍事的にも重要なものだ。かなり正確な地図を、よくわからない奴が本にしてばら撒いてるとか、普通に狂気だ。以前も師匠にも怒られたし、本にして配る時はよく考えてからすることにしようと思った。

 

 

 

 追記。

 日記を読み返していると、なんか俺って、良く殺されそうになっている気がする。一度や二度ならまだしも、何回も起こっている以上は俺に原因があると思われるので、改善しよう。

 

 

 

 

 

 

 〇月×日 フランメの死から三百年。

 

 

 殺されかけた。

 

 というのも、フリーレンとばったり出くわしたのだ。あんな別れ方しといて恥ずかしいなと思ったが、二度と会わないだろうといったのはフリーレンだけなので、別に気にすることないやと普通に声をかけた。

 

 こちらを認識するなり魔法をぶっ放してきた。容赦なかった。怖い。一応兄妹(姉弟かもしれない)弟子なのに。まあ、フリーレンの事情も知っているし、魔族を恨むのもわかるけれども。

 魔族がいると思ったから魔法をぶっ放したと言っていたが、明らかに俺に気が付いてから撃った気がする。別にいいけれど。というかそのあとも普通に殺気立ってた。また今度会っても殺しにきそうなので、なるべく避けることにする。

 

 

 と、フリーレンと出会って、そういえば魔王様にエルフの集落を襲うように指示されて以降会ってなかった事に気が付いて、会いに行ってみた。

 

 

 殺されかけた。

 

 

 言われてみれば俺って、エルフを皆殺しにしろという魔王様の指示に逆らってエルフのフリーレンと仲良く(当社比)やっているわけだから、当然と言えば当然だ。むしろ遊びに来たよーっという感じでやって来た俺に、魔王様は面食らっただろう。

 

 

 

 うーん。前世の頃はここまで雑な感じではなかったのだが。魔族の種族としての傲慢さと、前世からの適当さがマリアージュして、ものすごい考えなしの行動ばかりする人になっている気がする。

 

 これからの座右の銘は計画性だ。

 

 

 そして最近、魔族の幼女を見つけた。

 

 生まれたばかりの魔族だ。可愛らしい子だった。最近は、男性型の魔族も女性型の魔族も、美形の姿で生まれがちな気がする。やはり進化にしては急激だ。

 

 しばらく前から住んでいた村に、俺はその幼い魔族を連れ帰った。魔族と人の距離が近くなるのは良くない。魔族と分かり合えるかもしれないと考えてしまえば、その人はあっさり騙されて殺されるだろう。

 その村は、魔族への警戒心を持ったまま、俺を例外として扱っていた。別の魔族を連れて帰った俺に警戒心を改めて持つ程度には、距離を保てている。

 

 

 その村で、拾った魔族を人間として育ててみることにした。家族という概念や愛情を教えることで、何か変化が起きるのか試す……という表現は使うべきではないか。実験するつもりで接していれば、家族にはなれない。まずは俺が彼女を家族として認めて、育てていかなければならない。

 

 なるべく前世の知識を人に教えないようにはしていたのだが、その魔族の少女には惜しみなく与えた。数学はもちろん、道徳や経済、この世界では考えられないような政治体制と、科学の知識。

 一応魔法優先で、科学的に説明できた方が威力が上がりそうな場合にのみ、科学を教えた。

 

 

 教えながら、俺も魔法を練習している。

 魔法を科学的に無理やり解釈して、使えるようになろうと頑張った。

 

 例えば、花畑を出す魔法。数千年後にこの辺りは森林になっているかもしれない。これはあり得ることだ。だから、それを強く意識したうえで使おうとしたのだが、結局失敗した。

 めしべとおしべがどうのこうの……と、具体的な繁殖方法を知っているのが、どうしても突然花畑を出すにあたって邪魔をするのだと思われる。別に数百年後この辺が花畑でもおかしくないし、今現れてもおかしくないよね、なんて考えても無理だった。

 

 

 なので、俺が拾った魔族には、人間以外の生き物は自然発生するのだと教えてみた。

 

 数十年間そうやって過ごしてきて、今になって生き物は交尾して繁殖するという事や、植物の種ができる仕組みや増え方を教えても、魔法は変わりなく使えているようだった。

 使えてしまえた以上は、イメージしやすいのだろう。

 

 そんな風に、俺の拾った魔族の子に魔法を教えて、花畑を出す魔法を使わせて、一つ発見があった。魔法で出した花も繁殖できるのだ。見せかけや張りぼてなどではなく、一つの生命を生み出している。これは、魔族が自らを魔法の力で進化させているという俺の仮説を、補強するものだった。無(魔力を使っているけれど)から生命を生み出せるのに、変化はさせられないなんてことは無いだろう。

 

 魔族の少女との日々は楽しい。

 

 

 夜寝るときは一緒に寝て、勉強は一緒に頑張って、近所の人間とも交流するようになった。

 親としての愛情を注げば、彼女もまた愛情を持つようになるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月×日 生まれ変わってから八百年目。

 

 

 ダメだった。

 

 俺としては、可能な限りの愛情を注いで、人間らしく育てたつもりだった。

 俺が育てた魔族の子は少し目を離した隙に村人全員を支配し、支配に抵抗できなくさせるという理由で、意志の強い人の頭は切り落としていた。

 

 その魔法の腕には正直嫉妬する。

 それ以上に、人として育てていたからショックが大きかった。理屈としては分っていたことなのに、人間と魔族は分かり合えないのだと見せつけられて。自分で何度も言っていたことなのに、馬鹿だった。

 

 この子を、殺した方がいいと思ったけれど、結局殺せなかった。

 

 

 中途半端な自分に嫌気がする。

 自分の事をまだ人間だと思っていながら、人間の脅威を生み出して。

 魔族だと思っていながら、情に深い。

 どっちつかずの半端者だ。

 

 

 まあ、それはそれとして、その魔族の子との関係は良好だ。さっきも一緒にボードゲームで遊んだ。

 

 今も「ごんぎつね」やらの物語を定期的に教えているのだけれど、やはり根底から人とは違う。上下関係を叩きこんで、人間を襲わないように教えた方がまだ可能性がある。俺と彼女との間で、魔族らしく魔力量で上下関係は出来ているけれど。道徳よりは魔力による上下関係の方をすんなりと理解してしまっていた。

 

 

 

 

 追記。

 

 

 魔族を人として育てるなんて、今思えば失敗して当然だ。

 

 代理母実験*1の例からも、そもそも愛というのは生まれ持ったものだ。教えるというのは無理がある。

 

 

 魔族が、可哀想に思えた。

 

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 

「随分なことを書いてくれるじゃない」

 

 アウラが俺の肩越しに追記の文章を盗み見た。

 日本語を教えたのも失敗だったな。どうしても高度な概念を教えるときに、こちらの世界の言葉では無理があったのだ。そもそも語彙がないのだから。

 自分で訳を作るという発想もあったのだが、万が一アウラから他人に知識が伝播したらまずいので、それを防ぐ意味でも日本語での教育を行った。

 

 

「実験ねぇ」

「一応言っておくけれど、俺はお前の事を実験動物だと思ったことは無いからな」

「私に愛情を感じているの?」

「……ああ。でも、娘にしては生意気だな。具体的な関係性は別として、とりあえず家族だと思って接しているよ」

 

 言いながら以前書いた日記を読み返す。書いた時はそこそこショックを受けていたみたいだが、今は別に起きたことだし別にいいかとしか思わない。村人には申し訳なかったなと思うけれど。

 

 ここまで切り替えが早いのは自分でも不思議だ。ただ最近は、これは俺が脳で考えている証拠ではないかと思うようになった。魂で人間的な思考をして、脳で魔族的な思考をしているのなら、切り替わるのではなくて同時に感じたり交互に感じたりする気がする。

 

 

「まあ、とにかく今日は寝よう」

 

 以前まではアウラと寝ていたけれど、成長してからは別々の部屋で寝ていた。だが――

 

「一緒に寝てくれるかしら?」

「え? まあいいけど……? 急になんで?」

「寂しいからよ」

 

 

 ベッドに寝転び、アウラを抱きしめる。顔を見て、淡い色の瞳を見つめた。アウラは俺の考えなど少しもわからないだろうけれど、俺はアウラの事がよく分かる。

 先ほど日記を盗み見た時に「殺した方がいいと思った」という文章を見たのだ。俺に殺されないように、情に訴えることで殺せなくなると知って、こんな行動を取っている。おそらく今この世界で一番人間心理に詳しいのがアウラだ。よく知っているのに、あまり理解していない。

 

 それでも、俺はまだ、アウラを愛していた。

 

 

 

 

 アウラは、魔族が人間と分かり合えない強固な一例となったが、そこで俺の研究が終わるわけではない。

 

 アウラは今後、何人も人を殺すだろう。それを分かっていても、俺は彼女を殺せなくなった。

 また別の魔族を同じように育てても無駄だろうし、何より今度こそ俺は実験と思うだろう。お互いに不幸な結果をもたらすに決まっている。

 

 

 

 今度はいったんいろいろ細かい事を忘れて、友達でも探すか。

*1
お猿さんの赤ちゃんを、お母さんと無理やり離した実験。子猿は針金の偽物ではなく、より安らぎを感じられる布製の偽物の母を求める。

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