魔族転生   作:ゆうたんたん

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ソリテール:日記4

 ×月△日 生まれ変わって八百五十年目。

 

 

 俺の育てていた魔族の子が独り立ちしていった。結局彼女は俺に対してひとかけらの愛情を示すこともなかったけれど、俺としては悪くない日々だった。

 

 

 というわけで改めて研究再開だ。最近は噛まれたら脳みそ垂れ流して死ぬやばい蛇の養殖に成功した。前世の世界での具体例はあまり思いつかないけれど、自然界にはあふれるくらいいるのにいざ人工下で繫殖させようとすると難しいタイプの生き物だったのだ。

 

 そんなわけで町の地下牢に忍び込んで、死刑囚たちを探して回った。理想としては、げへへもっといっぱい人ぶっ殺させろー! とか言ってくる奴を実験台にしたいのだが、中々いない。ふつうに俺に対して命乞いして来るので困った。

 なんか凶悪犯が分かる魔法とかないかな。

 

 しばらく探しても見つからなかったのだが、ようやく一人を見つけて、そいつから明らかに血の臭いもしたし、サクッと攫ってきた。

 

 

 動物実験の3Rというのがあって、まあ簡単に言えば、高度な動物は使うな、種類は少なくしろ、苦しめるな、だ。

 

 人間ってだいぶ高度だけれど、まあどうせ処刑される人間だし苦しめなければセーフだろう。

 

 

 昏睡させてから蛇に噛ませて、申し訳ないが今回は経過観察だ…………うわぁ、やっぱグロい……怖い。

 

 

 毒の分析装置とかないけれど、養殖できる以上はいくらでも解析できるし、のんびり解毒魔法を考案する。

 

 

 

 

 人間の町に行って一つ気が付いたことがあるのだが、思った以上に文明の発展が遅い。もちろん現代人の基準からすれば、この文明レベルの世界での発展なんて遅すぎると思うだろう。俺の前世基準で言うと、百年前はせいぜいラジオを聞いてるくらいだったのが、スマートフォンやら人工知能やらで盛り上がっている。

 百年という時間の重みはとても大きい。ただ、例えば紀元前二百年と百年で、ラジオから人工知能レベルの技術革新があったかと言われると否だ。

 

 産業革命以降爆発したが、それ以前はゆったりとした発展の仕方をしている。アリストテレスの影響から二千年間抜け出せなかったわけだから。

 

 

 ここに突然俺の知っている現代知識をぶち込んだらえらいこっちゃ。いい方向に転ばない事だけは確かだ。

 

 間違っても俺が育てていた魔族が人間に何か教えることは無いだろうし、人間に配っている本はこの世界の基準で研究した内容を伝えているだけだ。具体的な何かを作らない限りは、大きな影響を与えないと思いたい。結局工業力がないと始まらないし。

 明らかに影響を及ぼしそうなもの以外は、あまり気にしなくてもいい気がする。

 

 銃とか作って、もしも流通したらやばい。ドワーフとかが再現するかもしれないし、やはりモノ作りは当分先の未来だな。

 

 

 ただ、魔法がある以上この世界は科学文明がなかなか発展しないだろう。

 何かを解決するときに、魔法を使えばいいという考えが生まれる。

 

 フランメの事を尊敬しているのはその辺りの事もある。フランメが正式に魔法研究を認めさせたからこそ、この世界は前世と別の道を歩み始めたように思う。まあ、魔族やらエルフやらがいる時点で全然違うけれども、魔法中心の世界にならなかった可能性もゼロではない。

 

 科学はある程度諦めるとしても、それでも医学関係の知識は人間にも与えていいだろう。経験で身につけられることもあるし、衛生状態の改善くらいは手を入れたい。

 

 とはいえ、俺は全く医学の知識なんてないわけだから、最近は医者ごっこをやっている。村の僧侶が匙を投げた時に、一応見るだけ見せてもらうという立場から始めて、徐々に知識が身についた。それまでに何人殺したか分かったものじゃないけれども。殺そうと思ってやったわけじゃないのでセーフだ。

 

 

 論理よりも先に勘が来て、なんかマジでどうしようもない患者と、何とかなりそうな患者とで区別がつくようになった。次は、マジでどうしようもないと思った患者を治す方法の考案をしなければならない。

 

 

 

 

 〇月×日 九百年目。

 

 

 最近研究内容が散らばってきたので、整理することにする。

 

 生物学――最近はドラゴンの生態を調べている。結構死にかけた。

 天文学――とりあえずいくつかの星に名前を付けてみた。未だに超新星爆発を観察できていないが、長く生きていれば見られそうだからワクワクしている。

 医学――一応手術はなんとかできるようになった。魔法で頑張れば、細胞単位で精密に操作できるのだが、よくわからないときも多い。

 料理――既存のものをブラッシュアップして、レシピを広めてみたりはした。結構おいしいものが出来たと思う。

 政治学――介入していないし、具体的な研究はしていない。実際の政治形態についてはなるべく記録している。

 歴史学――最近興味が湧いてきたが、俺がまさしく生き証人なので、あまり研究しようとは思わない。エルフについては調べた。よくわからなかったけれど。

 

 あとは魔族と魔法と人間。

 

 魔族については、それほど研究が進んでいない。やはり俺の思った通り、人間の感情を敢えて理解しないような変化をしているとは思うけれど。それを証明することは難しい。脳科学をするにしても、解剖で分かる事には限界がある。科学的な設備か、それに準ずる機能の魔法が必要だ。

 

 そういえば魔王様にはエルフの件を許してもらえた。最近は人間との共存について意見を求められている。シュラハトが、なんかすごい睨んできたからあまり魔王城にはいきたくないけれど、結局数年に一度は行くようになった。

 結構生物学とかのお話もできてうれしい。

 

 

 人間の研究という意味では、やはり医者としてしばらく過ごしていたのが役立った。いろんな人間を見てきたし、中には魔族みたいな思考回路の奴もいて面白かった。

 

 もう一つ、面白いと言っていいのかわからないが、人間はどんな世界でも変わらないらしい。

 

 魔族や魔物という共通の敵がいてもなお、人同士での殺し合いをやめはしないのだ。

 魔族は同族での殺し合いはそうそうない。利害の一致で協力することや、不一致で敵対することはあるけれど、魔力量で上下がある程度決まることもあって、不毛な殺し合いはあまりないのだ。

 

 むしろ魔族の方が賢いのでは? 傲慢さが欠点だけれど。そんなことを書くのも傲慢だったな。最近は魔族の方が好きになってきたし、でもやっぱり人間の方が好きなような気もするしで、自分でもよくわからない。

 

 

 そんなことを思いながら日々を適当に過ごしていると、またもやうっかりフリーレンと遭遇した。あいつマジでまた魔法ぶっ放して、やばかった。軽く情報交換する程度に話してくれたけれど。

 最近は医者をやっているという話をしたら、呆れた様子だった。

 フリーレンは魔法を集めたりしながら、魔族を殺したりしているらしい。ちょっとドキリとしてしまったけれど、詳しい話は聞かないことにした。もしも俺の知っている子とか殺されてると、整理がつかないかもしれないし。仕方ないとは思うけれどね。

 

 やはりどんどん魔族贔屓になっている気がする。

 だからこそ、魔族の研究を進めなければならない。俺は魔族の事を好きになってしまった。

 人間の事は良く知っている。きっと将来的に人間は魔族を滅ぼす。

 

 それまでに、魔族に悪意と愛情を学習させる方法を見つける。どうやっても不可能ならばまた別の対策を考えなければならないので、早いうちに。

 

 

 

 最後に、魔法についてだが――――

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 日記を書いていると、誰かが訪ねてきた。

 

 

 俺はここ数年間、ボロボロになっていた山小屋を修繕して勝手に住んでいる。長年の経験からそろそろ人間が討伐に来る頃だ。何もしていなかったとしても討伐しに来るのだから困る。

 最近は警戒していたから気が付いたのだが、魔族が近づいてきている。

 

 向こうも俺に気が付かれたことに気がついて、まったく存在を隠そうともしなくなった。

 

 敵意は感じないけれど、これだけ強大な魔力を持っている相手となるとさすがに緊張するな。

 

「とりあえずお茶出さなきゃ」

 

 コーラとかも用意できるのだけれど、やはり来客には紅茶だろう。

 

 

 

 

 山小屋の近くにやってきたあたりで迎えに出る。

 

「こんにちは。どうぞよろしく」

 

 と、親しみやすい笑顔で。

 

「こんにちは。ソリテールよ」

 

 やってきた魔族の少女――ソリテールは手を差し出して、握手をした。

 

「あ、俺は」

「ドロール。たまに、フィロゾフっていう名前で本を配っている魔族」

「……一応隠してたんだけれどな」

「かなり有名みたいだけれど?」

 

 とりあえず家の中に招き入れて、お茶を出す。ソリテールの対面に座る。ソリテールはしばらくあたりを見渡してから、面白がるように小さく笑った。優しそうに微笑んでいるけれど、だいぶ人を殺している感じの子だ。

 角は俺より少し大きいくらいで、他の魔族と比べても小さめ。翡翠に近い明るい色の長髪を耳に掛けて、紅茶を一口含み、こちらに笑いかけた。

 

「まるで人間のお家ね。人間として生活しているのが伝わってくるわ」

「え?」

「ドロール。君の書いた本を読んだわ。『読書について』は考えさせられたし、私も改めるところがあると思った。研究も、数よりも質を優先した方がいいのよね。人間向けに書いたのももちろん読んだ。さすがに名前は頻繁に変えてたみたいだけれど、すぐに分かったわ」

「そ、そう……?」

 

 なんだか不穏な気配が漂い始めたように感じる。

 山小屋の隙間から風が入ってきて、ソリテールの髪が揺れた。

 

「私は昔から人間とお話をするのが大好きなの」

 

 ソリテールは胸元に手を当て、大切な何かを話すように、滔々と語る。

 

「深い情をもって、魔族も人間も理解して、痛む心を持っている……ぜひ、あなたの話を聞きたいな」

「俺は、人間じゃないけど?」

「そう? 本当にそう思ってるの?」

「…………」

 

 

 そのことについて苦悩はない。魔族である自分と人間である自分との間に矛盾を感じていないし、そもそも最近は魔族よりの考えを持っている。

 しいて言うならば、まだどっちでもいい。どっちか決めるのはまだ早い。まだ全然試してないことはいっぱいあるし。

 

「別に俺は――」

「そう」

 

 

 視界がぶれた。

 

 

 

 

「は? いっ、てぇ」

 

 肩に剣が突き刺さっている。攻撃してくる可能性は感じていたが、まったく見えなかった。

 

「さあ、聞かせて?」

 

 

 やばいので壁を破壊して逃走する。戦っても勝てるかどうか怪しい相手だし、命乞いが通じそうな感じじゃない。

 魔力を完全に隠して、木の陰に隠れようとするより先に、空から何本もの剣が降ってきた。とっさに転がって躱して、空に向かって攻撃を放つ。一応当たったが、魔力に防がれて効果はなさそうだ。

 

「ひとまず両腕を切り落としてから、お話ししましょう」

「ふつうのお話なら大歓迎だけれどね」

 

 普通に戦えば俺に勝ち目はないか。俺が火力を出せる魔法は基本的に溜めが長いか、溜めが短い自爆技かの二択だ。なるべく溜めが短くて威力を出そうとすると、結局シンプルなものに落ち着く。

 

 

 魔力の密度を高めて打ち出す。

 

「……魔力制限――」

 

 俺の打ち出した魔力がソリテールの肩を掠める。魔力制限をやめて、一瞬だけ隙を作って、そこを撃ち抜いた。

 

「俺は魔力制御に関しては世界一位だから」

「その傲慢さは魔族みたいね」

「傲慢? これは師匠が言ったことだから……絶対に事実だよ」

「ふぅん?」

 

 より魔力を纏めて、練って、細く。

 その溜めを隙だと判断したソリテールが、すぐに接近してきた。引っかかってくれた。

 すぐにある物質を作る魔法を放つ。

 

C3H5(ONO2)3(ニトログリセリン)

 

 

 

 俺の使える魔法で火力が高いのは、溜めが長いか、自爆技かのどちらかだ。これは後者。かなり魔力をつぎ込んでニトログリセリンを生み出して、先ほどから準備してた魔力を盾にして。

 

 

 

 

 

 

 ■ ■

 

 

 

 結果としては痛み分けに終わった。

 

 森が燃えて、たまたま俺を討伐しに来ていたらしい人間達が逃げられなくなって焼かれているのを可哀想に思って、サクッと殺してあげたところで、ソリテールから休戦の打診があった。

 命を懸けようとは思わなくなったらしい。よくわからん。

 

 

 折角なので、いくつか研究の共有を申し出たところ、受け入れてくれた。しばらく活動を共にすることになった。普通なら殺そうとしてきた相手と一緒に過ごすとか常軌を逸しているだろう。ただ、俺にとってその常識は、ただの知識でしかなかった。

 

 別に、今殺そうとしてこないのならどうでもいい。もしかしたら研究が大きく進むかもしれないし。

 

 

「ところで、人間に魔族との戦い方の本を配っているのはなぜ?」

「え? 特に意味なんてないけれど? 別に共有されても困らない内容ばかりだし。そもそも、どうせ大差ないからね」

 

 

 いくら魔族の知識があっても殺せない奴は殺せない。普通の女の子の見た目で、命乞いされて、平然と殺す方がどうかしているだろう。殺せる奴は平気で殺すので、そもそも魔族の知識は関係ない。

 魔族が愛情や罪悪感を理解できないのは悲劇的なことだと思う。人間と同等以上の知性をもって、人間的な情緒が理解できないなんて。

 

 ただ、悪意を抱けないのはそれほど悪くないような気もする。

 悪意を持って女子供を殺す人間の方が、俺は余程恐ろしく、憎い。

 

 

「それに、お前だって何か意味があるから人類の研究をしているんじゃないだろ?」

「そうね。確かに言う通りだわ。ドロール」

 

 俺は一般的な魔族とはだいぶ違う。魔族から人間扱いされるほどには。

 ただ、研究に人生をかけて取り組むその性質は魔族的な気がする。多くは自分の魔法を研究するみたいだけれど。

 

 習性、にしては祖先と思われる魔族にそんな傾向はない気がするしなぁ。魔族固有のものだと言われればそれまでだが、何か理由があるのかな。

 

 

「さてと、誰かのせいでマジでボロボロだ。もう今日は寝よう。ほら」

「……? ほら?」

「……あっ、アウラの感覚が抜けてなかったわ」

 

 久々に魔族と交流したので、なんとなくアウラに接する気分になってしまっていた。




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