魔族転生   作:ゆうたんたん

7 / 20
打ち上げ花火とソリテール。あるいは、全知のシュラハトとシャチへの愛。

 ソリテールが帰るというので、俺もそれについて行くことにした。アウラには別れのあいさつ代わりに花畑を出す魔法が使えるようになったのを見せて、ソリテールと少しだけ旅をする。

 存外すぐにソリテールが利用しているという造船所にたどり着いた。

 

 俺もしばらくそこにお邪魔することにして、ソリテールに様々なことを話した。アウラと一緒にいた時にも話したような文学や物語が特に好まれ、ソリテールはすさまじい速度で、これまで以上に人間心理を理解する。もしも彼女が本気で欺こうとすれば、誰もソリテールが本当に人の心を持っているのか疑いはしないだろう。

 いや、死臭で気が付かれるか。そもそもソリテールの性格的に、人間を騙すよりも煽るのに使うだろうし、そういう事は起こらないな。

 

 アウラと一緒だった時には不思議と話題に上がらなかった、魔王様の話もした。

 

 ソリテールから聞いた話では、俺は随分と魔王様を立腹させたらしい。約束した待ち合わせ日に、現在進行形で数百年遅れているから当たり前と言えば当たり前だ。

 しかし、じゃあ今から会いに行こうとは思えなかった。なぜならば、

 

「まるで人間を裏切っているみたいだから?」

「……そういうのもちょっとはあるかな。別に俺はまだどっちにつくか決めてないし、良いかなとも思うけれど。それ以上に面倒なだけだよ」

 

 魔王様とはどうにも感性が合わないから、というのが一番大きな理由だ。

 

 ソリテールの言う通りに、やっぱり人間として生きます! よろしくお願いします! ちなみに魔王様と仲良しです! とかいう事になってしまうのもちょっと問題ではあるが。

 もっとも、それを言い出すと、アウラを育ててソリテールと仲良くしている時点でアウトだ。魔王よりかは幾分かましなだけで。

 

 

 前世人間、今世どっちつかずな俺に言わせてみれば、その後の行動次第で人間は許してくれそうな気もする。個人個人を見れば、永遠に魔族を許さない人もいるだろうけれど、魔族に恨みがない人たちは、俺をうまく利用できる方が得だと考えるだろうし。

 人間のために身を粉にして働いて、それを贖罪の証として赦しを請うのだ。

 例えば、魔族を殺しまくるとかで。

 

 少し話は変わるのだが、実は、魔族を片っ端から殺して回るという計画を立てたことがある。

 魔族と人間が共存するのに、一番可能性が高かったからだ。

 

 俺の仮説では、魔族は自らの意思で進化した生き物だ。つまり、必要に迫られた時に進化できる生き物ではないかと考えている。生き物はたまたま環境に適応した結果進化するわけだが、この世界には魔法がある以上、それ位の事は出来るだろう。

 

 この仮説が正しいとすれば、魔族全体に人間の心をさらに理解しなければと危機感を与えれば、善悪や罪悪感、そして愛情を理解するようになっても可笑しくはない。

 

 ただ、仮説の上の計画だし、うまくいかなかったら取り返しがつかないのでやってないが。

 

 

「ところで……あのシャチ? それと、サメの骨格標本。綺麗だね」

 

 天井からぶら下がっているシャチとサメらしき生き物の骨格標本を指差すと、ソリテールは何度か目を瞬かせた。可愛い。

 

「シャチって言うの? 哺乳類の方?」

「そうそう。シャチの生態は知ってる?」

「知らないわ」

「意外と人類と共通点が多い生き物なんだ。子育てをするし、高い社会性もある。高度な知性を持った生き物だよ」

「あっちの魚類は?」

「サメも案外知能が高いけれど、シャチには及ばないかな」

 

 そういえば、今更だけれど、ソリテールの中で俺はどちらだと思われているのだろうか。

 どうにも人間であるという前提を持ったうえで俺に接している気がするのだが、果たしてソリテールは人間だと思った相手とこんな風に会話をするのだろうか。

 

 魔族同士の会話は、案外普通の会話だ。お互いが詐欺師だと理解したうえで騙しあおうとすることは無い。便利な道具として、人間と同じように言葉を使う。

 俺とソリテールのそれは、どちらかというとただの会話に思える。

 

 俺を魔族だと思っているのなら不思議ではないけれど、人間だと思っていた場合はどうして一緒にいてくれるのだろうか。俺と戦うのを恐れているのか、研究材料として上質だと思っているのか。

 あるいはもっと別の、俺が考えつかないような理由があるのかもしれない。

 

 

 まあ、別にどっちでもいいか。

 フリーレンには悪いが、俺は魔族と一緒に過ごした時間の方が長いし、どっちか決められずに生涯を終える可能性の方が高いだろう。

 とっても卑怯で、我ながら不快だけど。

 

 

 魔族との日々もまた楽しいのだ。

 

 

 

 その後、ソリテールに収斂進化の別の例を見せた。

 この世界に生まれ変わってから一度も見ていなかったが、土の中を探るとケラもモグラもいた。どちらも土を掘るために似たような進化をしている。

 

 機能という意味では、蝶と鳥の”はね”もそうだった。

 

 花畑を出す魔法を使う。しばらくすると何頭か蝶がやってきた。

 雲の切れ間から日が差して、花畑と蝶とソリテールを照らした。

 ソリテールが手を差し出すと、彼女の細い指先に蝶が止まった。

 

 綺麗だった。

 

 

 

 ■ ■

 

 

 

 最近出来ていなかったので、少し遠出して研究を再開した。

 誰かと一緒に行動することが多かったから、すぐに寂しくなってしまって、バラを採集してからソリテールの造船所に戻ることにする。

 

 バラと言っても、前世にあったようなものではなく、なんとなくそれっぽく見える赤い花があるのだ。ちょうど俺の今いる地方の植物なので、造船所に戻る前に見つけたいのだが、全くない。

 

 やっと見つけたと思っても、花だけがすべて落とされている。

 散らされた花弁を一枚摘み上げると、ある方から強大な魔力を感じた。一瞬だけ。もう一度、一瞬。明らかに誰かを誘っているものだ。

 

 そちらの方へ行ってみることにした。森の中に入るので、飛んで行こうか悩んだが、慎重に歩いて向かう事にした。

 数時間ほどかけて、広い空間に出る。何本か切り倒された木があって、錆びたのこぎりが切り株に刺さっていた。数年前まで人間がここを何かに利用していた形跡が、あちこちにある。倒壊した小屋を見て。

 

「お前が何かしたのか? シュラハト」

 

 その空間のちょうど中心辺りに、会うのはいつ振りだろうか、魔王様の腹心である全知のシュラハトが立っていた。

 

「いいや違う。森の中でも構わなかったが、ちょうどいい場所があったからな」

「そう。で、何の用…………」

 

 一応警戒してはみるが、もしもシュラハトが俺を殺すつもりでこの場に立っているのなら、もう詰んでいる。

 

「少し訳があってな。ソリテールのもとへ帰るのを遅らせてもらった。お前が戻るのは、一週間後になるだろう」

「……」

「マハトがソリテールを訪ねている。お前をマハトと会わせるわけにはいかない。今回以外は構わないが、今だけはマハトと会話されると困る」

「マハト……黄金郷のマハトか。それが、魔族のためになるわけ?」

「そうだ」

 

 シュラハトの狙いを読むのは不可能だ。正確に言えば、こうして俺の目の前に現れた時点で、彼の狙いは達成されている。この後俺が、何を考えてどう行動するのかだって既に知っているだろうから。

 ならば深く考えずに、以前から言ってみたかった事を言ってみよう。

 

「前から思っていたんだけれどさ、魔族のみんなのために行動するって言うのは良い行いだ。善悪で言うところの、善」

 

 人間の視点からすればとんでもない悪行かもしれないが、魔族という種族の立場からすれば、魔族のために行動するのは善行と言えるだろう。

 

「らしいな。お前から何度も聞いた。予知した未来で、何度もな」

「何度も、ねぇ。それで、感想は?」

「理解はできない。お前がよく分かっているはずだ」

「うん。でも、人間的価値観で言うところの”善”の行いを取れる種族がいるのは朗報だ。まだ希望を捨てなくていいらしい」

 

 魔族にも、種族のために行動するという意識がある。意外なことに、ソリテールもそれが強い。命を懸ける事はしないだろうけれども、魔族のためにちょっとした行動を取る必要があるのなら、喜んでするだろう。ひょっとしたらそこら辺の人間の持つ、人間という種族への”愛情”よりも、ソリテールが魔族に持つ”愛情”の方が強いかも。

 

 

 魔族の大きな謎の一つだと思う。もしかしたら本当に、脳に特定の感情を感じないようなフィルターがあるのかもしれない。種族の……仲間のために行動できるのなら、愛情だって理解できそうなのに。少なくとも人間は、その行動を愛によるものだと定義しがちだ。

 

 魔族に理解の浅い人間がシュラハトを評すると、同族に強い愛情を持っている魔族だという表現が出てきそうだ。

 

 もしかしたら魔族は魔族に対してだけなら、愛情に近いものを抱くことが出来たりしないだろうか。もしそうだったら、魔族に転生した意味もある。

 

 

 

 なんて。

 

 昔、そう考えていたことを思い出した。

 

 

 愛情や善悪を理解する魔族は千年間現れなかった。もう無理な気がする。アウラも、ソリテールも、どうせ駄目だと思う。

 ソリテールが魔族のために行動する理由は、結局のところ保身のためだ。魔族全体を危険に晒せば、自分も危険に晒されることになるから。

 他の魔族もそうだ。うん、やはり魔族は愛情を理解できない。

 

 そう思っているのに、いまだにだらだらと魔族と過ごしているのは、諦める踏ん切りがつかないだけだった。

 どの魔族も結局は、自身を…………?

 

 

 あれ? じゃあシュラハトは何なんだ? 未来を見通す力を持っていて、その力を魔族のために使うのはなぜだ?

 

 

 

「ドロール……お前の存在は邪魔だった」

「え? ああ……まあ、そうだろうね。 ……殺しに来たの?」

「その方法を探し続けたが、無駄だった。そもそもお前を殺せないというのもあるが……そうだな、七崩賢で囲もうとした時、アウラが裏切った。ならばと他の魔族を招集したら、ソリテールがお前を庇って敵に回った。命懸けでな。随分と…………愛されているな」

 

「は? あいさ…………はは、そんなわけが、そんな嘘に……」

 

 脳を握りつぶされたみたいだ。たっぷりと水気を持った脳から、溢れるように出てくるのは、なぜか恐怖だった。

 

 呼吸が滅茶苦茶になって、心臓が激しく鳴っているのか、あるいはまったく止まってしまったのかわからない。

 

 それでも、どこか冷静な思考も後ろで行われていて、魔族はうそつきだと警告してきた。そもそも、シュラハトに愛情なんて理解できるはずがない……本当に? 彼ほど魔族を”愛”していて?

 ダメだ、怖い、怖い、怖い。

 

「私の言葉を信じるかはお前次第だ。お前に適当なことを言って、魔族の未来のために布石を打っただけかもしれん。人間以外に、無意味な嘘をつくことは無い。お前がどちらかは、そのうち分かるだろう」

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、ひとり、立ち尽くしていた。

 

 シュラハトが嘘を言っただけという可能性もある。

 それにしてはお粗末な嘘だ。

 

 アウラが俺の事を愛していると言っただけなら、信じたいと思って、騙されたかもしれない。でも、ソリテールだけはあり得ない。そんな都合のいい事が、あり得て良い筈がない。

 

 シュラハトは魔族のために行動する。わざわざお喋りするためだけに来たのか? そんなはずはない。

 魔族が人間の言葉を使うのは、人間を騙すためだ。

 

 ……いや、考えても意味がないのか。シュラハトが意味もなく俺に会いに来たという事はない。さっきの話を聞いた時点で、俺はもう彼の望んだ未来をなぞる事になるのだろう。シュラハトの言葉を聞いて、俺は魔族に傾きそうになった。この後俺が何を考えてどう行動するかだって、もう既に彼は知っている。

 

 ならば、もう、今あったことはなるべく忘れるようにしよう。

 

 もう疲れた。何も考えずに、流されていたい。

 

 

 

 

 シュラハトが立っていた位置には、俺の探していた花が、束ねられて置かれていた。

 

 

 

 

 

 ■ ■

 

 

 

 結局、俺がソリテールのもとに帰り着いたのは、シュラハトと会ってから一週間後だった。帰る途中にある橋が落ちてしまっていて、しかも今の時期は風が強く、歩いて山を越える必要があった。その山の中でも、ドラゴンの縄張りを避けて。なるべく急いだのに、一週間もかかってしまった。

 

 その間、シュラハトの言葉を何度も思い返した。

 やはり彼の発言の真意を考えるのは無駄だ。シュラハトは魔族のために行動しているから、もうすでに俺は魔族にとって利になる未来にしか行けない可能性の方が高い。

 予知した未来で何度も俺の発言を聞いたと言っていたし、あそこで会話する内容も、シュラハトに都合のいい結果になるものを何度も探った筈だ。

 

 でも、少しだけ楽だった。いろいろと疲れてしまった。もう何も考えたくない。

 俺がどちらかを選択しなくても、勝手に流れが決めてくれるのならそれでいいや。

 

 俺では、どちらかを選べない。

 

 フリーレンは俺の大切な友人で、アウラは俺の大切な家族で、そしてソリテールは――

 

 

 造船所に戻ると、ソリテールは本を読んでいた。少し前に最後の一勝負と思って、なるべく簡単な道徳に関するお話や、少し高度な人間心理を描いた文学を、魔族向けに一部改変して配ったものだ。ソリテールは、それをもうすでに何度か読んでいた。今もまた読んでいるのは、読み返してさらに人間の事を学びたいのかも。

 

 とりあえず、シュラハトとの話はきっぱり忘れるように心掛ける。

 彼が俺の事を魔族だと思っているのなら、もしかしたら純粋な善意……気遣いはあっても、善意なんて持ってないか。とにかく、ただ事実を言っただけかもしれない。

 人間だと思っているのなら、嘘を言って魔族に味方させようとしたのかも。殺したいとか言っていたし、後者の方がずっと可能性が高い。

 なら、今まで通りに過ごしていれば何も変わらないはずだ。魔族は愛情を理解できない。善悪もまた理解できず、罪悪感を抱くこともない。それが結論のはずだ。それを十分知っていてもなお、まだ魔族と過ごし、起こらない奇跡を待ち続けるのだ。無意味に希望に縋って、地獄を揺蕩う方が心地いい。何かを捨てるのは怖い。

 

 

「花? 摘んできたの?」

 

 ソリテールは本を閉じて俺の近くに来て、手に持っていた花を見た。

 

「ああ……ある地域にしかないものなんだ。三本だけ……乾燥標本にして渡そうと思ったんだけど、ここで作業させてもらおうかと」

 

 花を差し出してみると、ソリテールは匂いを嗅ごうとして、垂れた髪を鬱陶しそうに耳にかけた。少し尖った耳の先が、その時に手と擦れたのか、わずかに赤くなっていた。

 

「あまり香りはしないのね」

「これはあまり匂いはないかな。いい香りの花も、いつか君に贈るよ」

 

 

 

 

 

 ■ ■

 

 

 

 

 

 ソリテールに頼んで、剣を出す魔法を使ってもらった。ソリテールの周りに浮いていた剣は高速で木に突き刺さる。すぐに魔力の粒子として散り散りになり、消えた。

 

「こんな感じかな」

 

 逆算して、改変して、再現。

 

 次の瞬間には、ソリテールの魔法で現れるものとまったく同じ形の剣が、木に突き立っている。鉄の剣として生成されて。

 発生した魔法を再現する段階を超え、別の形で復元することができるようになった。ソリテールの剣みたいな、形を作るものに限定されるけれど。

 

「うん。ここまでの事が出来るのなら、魔族の治療には十分使えるだろうね」

 

 ちなみにどこから鉄が来たのかと言えば、空気だ。花びらを金属に変えたり、人間の腕を黄金に変えたりできるのだから、原子は突然変わるものなのだ。

 

 

「素敵な魔法ね」

 

 どこか関心がなさそうな言い方だけれど、こうしてわざわざ実験に付き合ってくれるのだから、ソリテールもまた魔族を回復できる魔法に興味はあるのだろう。

 

 

 

 

 今日の夜はついに打ち上げ花火を上げる予定だ。

 

 

 以前、聞かせた物語の中で花火が出て、彼女はそれを知らなかった。近いうちに見せると約束してから、ずっと準備をした。難しかったが、やはり魔法は便利だ。なんだかんだ形になった。

 

 

 

 ソリテールは、俺と過ごすときは人間が取るのと変わらない料理を食べる。アウラにもずっと手料理を作っていたので、だいぶ慣れたものだ。才能は無かったが、数百年間慣れに任せずに常に改善しようと心掛けたこともあって、かなりの自信がある。

 その日は海でとれた魚を使ったアヒージョを振る舞った。

 

 食べ終えると、ソリテールと海岸に来て、打ち上げ花火を準備する。

 

 俺が花火をセットしている間、ソリテールは夜空を眺めていた。前に俺が名前を付けた星を、いくつか話してみたことがある。意外なことに、ソリテールは俺の話したそれらを覚えていた。いったん手を止めて空を見上げる。シリウス――海のように青く輝く星が、やけに眩しい。

 

 準備を終え、ちょうどいい高さの倒木の表面に棘がないか確認して、そこに魔法で作った布を敷いてソリテールを座らせた。俺もその倒木に座る。

 

 そこから、小さな火を矢のように打つ。打ち上げ花火の導火線に引火して、一発ずつ打ちあがっていく。

 青、緑、黄色。

 

 そのタイミングで横滑りをして、不自然に思われない程度にソリテールと距離を詰めた。

 花火よりも、ソリテールの横顔を見てしまう。本来は明るい水浅葱の瞳が、夜の暗さに深みをもっていて、それが花火の打ちあがるたびに様々な色に輝いて見えた。

 やっぱり、綺麗だった。

 

「一つ聞いていいかしら」

「ぅぇ!? あ、え? な、なに?」

「ドロール……君は、シャチとサメ、どちらの方が好き?」

「え? シャチとサメ……? うーん……どっちだろう。あまり考えたことが無いし……」

 

 サメは獰猛で猟奇的なイメージ。シャチは残忍だけれど賢い。

 社会性の有無とか人懐っこさとかは、俺的には好き嫌いの判断に入れる必要はないしなぁ。

 うーん。あまりどちらが好きとか、簡単には決められないな。シャチの方が可愛いとは思うけれど。

 

 

 

 

 赤い大きな花火が四発上がって、俺の準備した花火は終わった。立ち上がろうとするソリテールに手を差し出す。立ち上がったソリテールをしばらく見つめて、なんとなく抱きしめた。

 戦いに慣れた人間はソリテールから死臭を感じられるらしいけれど、俺はそういうのが分からない。長く一緒にいて、感覚がマヒしているというのもあるのかもしれないが。柔らかい感触と共に、どこか刺激的な、甘い香りがした。

 

「人間は、これで幸福ホルモンとかが……あー、えっと……脳が幸福を感じるんだよ」

「……分からないわ」

「まあ、それもそうか」

 

 そもそも、好きな相手以外からハグされても脳内物質って出るんだっけ? 出るのだとしても、魔族の脳の構造が人間のものと違うなら、脳内物質の種類も違ってくるかもしれない。

 

 いや、でも一応俺は今、幸福を感じているわけだから……うーん、やはり科学的な研究には設備がいるよな。

 

 もしも魔族にも人間と同じ脳内物質が効果を示すのなら、フェニルエチルアミンを直接脳にぶち込んだりしたら魔族も恋に落ちるのだろうか。

 

 俺の方は、先ほども言った通りに、脳内に幸福を感じる何かが溢れているように感じる。不安が少しだけど解消されて、ずっとこうしていたいと思う。

 しかし、そういうわけにもいかない。残念だけれど。

 ソリテールから離れて、髪に触れた。ソリテールは嫌がらなかった。

 

 

 花火も終えたことだし、ゴミを回収して造船所の方に戻ろう。

 

 

「……?」

 

 しばらく歩いてもついてこなかったので振り返ると、ソリテールは胸に手を当てつつ首を傾げていた。

 

「ソリテール? どうかしたの?」

「……なんでもないわ」

「? まあ何でもないならいいか。あ、そうだ。さっきの質問の答えなんだけれどさ」

「さっきの質問?」

「ああ、俺は、シャチの方が好きだよ。サメも好きだけれど」

 

 

 

 

 

打ち上げ花火とソリテール

 

あるいは、

 

全知のシュラハトとシャチへの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

「そういえば、あなたの前世? あなたの日記に書いてある言葉を知りたいわ」

「日本語を……? えぇ、でも……読まれると困るからなぁ……」

「なら、会話だけでも構わない」

「そうなの? 別に役立つものでもないけれど……興味あるの?」

「ええ。とても興味深いわ」

 

 

 




 なんだかどんどんソリテールの出てくるお話し増えてて嬉しいです。可愛さを強調したソリテールも、原作み強めの(血で)しっとり可愛いソリテールも好きです。

 
 人間との共存を目指していた魔王。その腹心であるシュラハトが、実は人間心理を完全に理解してたり、彼の言う魔族の未来が共存だったりするのではという考察が自分の中でありますが、今回は魔族っぽく書きました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。