キヴォトスではゴリラ力こそ正義   作:砂巴羅

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アビドスとトリニティとシャーレとゴリラ

 

 

 アビドス高等学校。

 

 広大な敷地を有し、所属する生徒数は数千を超える。

 非常に大きな力を持った、キヴォトスでもトップクラスのマンモス校。

 

 

 

 ───それも今は、遠い過去の話。

 

 

 自然災害。

 アビドスを追い詰めたのは、そんなどうしようもない物であった。

 突如として発生した砂嵐とそれに伴う砂漠化により、アビドスは急速な衰退を迎える事となったのだ。

 

 どうしようも無く、どこまでも無慈悲で残酷な、自然の摂理。

 アビドスに所属する生徒達は、砂に埋もれゆく母校を見捨て、他校への転入を選んだ。

 

 生徒のいない学校など、もはや学校ではない。

 アビドスは廃校となる───筈だった。

 

 

 アビドスに残った僅かな生徒達が、母校の廃校を防ぐために、自分の青春さえかなぐり捨ててアビドスを守ったのだ。

 否、それこそが彼女達の青春だった。

 

 対策委員会。

 現在アビドス高等学校に所属するたった5名の生徒からなる、生徒会の権限さえ有したアビドス最後の委員会である。

 

 

 

 

「え〜っと……これはどう言う状況でしょうか〜?」

「見て分かるでしょ!あそこに立ってるなんか怖い人があの子を襲ってるのよ!」

 

 現在の状況を端的に説明しよう。

 

 地面に倒れ伏す数人のチンピラ。

 あたふたと狼狽えているいかにも善良な見た目の少女。

 

 そしてその側には……三節棍を携えたやけに背の高い不審者の姿。

 

 

 完全に事案である。

 

 

「ん、待ってて。今助ける」

「ちょっ、シロコ先輩!?」

『し、シロコ先輩!今私達だけで戦うのは危険です!ホシノ先輩と先生が合流するのを待ってから……』

「でも、相手が何かしてからじゃ遅い」

 

 シロコ先輩と呼ばれた、狼のような耳を持つ銀髪の生徒が臨戦体勢を取る。どうやらあらぬ誤解を受けているようだ。

 猫のような耳が生えた生徒と、遠隔通信から聞こえる声がシロコという生徒を制止するが、言われた本人は今にも戦闘に移りそうな状態である。

 

「え、えっと、皆さん何か誤解をしているような……」

「何処の誰かと思えば、オマエらアビドスか?」

「ん、だから何?」

「まぁ落ち着けよ。そんな眉間に皺寄せてたら将来シワシワになっちまうぞ?」

「んなっ!?余計なお世話よ!」

『なんでセリカちゃんが怒ってるんですか!?』

「うへ〜、セリカちゃん、普段から眉間に皺寄せてるもんね〜」

「う、うるさい!……って、ホシノ先輩!?いつからそこに!?」

 

 セリカと呼ばれた生徒の後ろに、いつの間にか桃色の髪をした小柄な生徒が立っていた。彼女が、つい先程も名前の出ていたホシノという生徒なのだろう。

 

「ついさっきねー。それにしても皆急ぎすぎだよ〜。おじさんには全力疾走はちょっとキツイかな〜」

「同年代でしょ……それと、先生は?」

「先生もあと少しで到着すると思うよ〜。今頃ヒーヒー言いながら走ってるんじゃない?」

「せ、先生……」

 

 どう見てもおじさんではないが、自身をおじさんと呼称するホシノ。更に、初めて聞く先生という単語。

 これらの事から、トウコはある結論に至る。

 

 

 

「成る程な。お笑いグループか」

「違うわよ!!」

 

 

 違ったようだ。

 しかし、口ではそんな事を言うトウコだが、心の中では彼女達──更に言うなら、ホシノと言う生徒に対して警戒を強める。

 

 

 長くブラックマーケットで戦いの日々を送ってきたトウコだからこそ分かる。

 

 巧妙に隠されているが、しかし決して隠し切ることのできない、ホシノという生徒から感じ取れる───

 

 

 

 

 強者の圧。

 

 

 そしてそれは……ホシノもまた、同じだった。

 

 

「……ハッ」

「……うへ」

 

 

 全くの同時。

 2人が武器を構えた、その瞬間───

 

 

 

 

 

「"待った!"」

 

 

 発せられた“大人の女性”の声が、2人の動きを止めた。

 

「先生!」

「あぁ?大人?」

 

 肩で息をしている先生と呼ばれた女性を、トウコは観察する。

 身長は160前後。サイズの合っていない大きな白いスーツの下には、ヨレヨレの黒いシャツ。

 腰まで伸びている黒色のロングヘアーは少しボサついており、それだけで少しだらしない人物である事がわかる。

 しかしながら、目元の隈と曇った眼で分かりにくいが、よく見ると顔立ちは整っている。

 

 このキヴォトスにおいて、人間の姿をした大人は非常に珍しい。

 大抵はロボや犬、猫のような見た目をしており、生徒達に近しい見た目の大人は、トウコでも見た事がなかった。

 

「そういや、シャーレとやらに先生が赴任したとか何とか聞いた覚えがあるな。オマエがその先生って訳か」

「"はぁっ……ふうっ……うん、私が先生だよ。よろしくね!"」

「伏黒トウコ。シクヨロ〜」

「あら?」

「うへ?」

「伏黒トウコって、どっかで聞いたような……」

「ん、アヤネは知ってる?」

『えぇっと、噂程度でなら……。確か、ブラックマーケットのとんでもなく強い傭兵?か何かだったような……』

「ええ!?じゃあやっぱり滅茶苦茶やばい奴じゃない!」

「ん、危ないから先生は下がってて」

「……成る程ね〜、道理で」

 

 悪名高き天与の暴君といえど、閉鎖的なアビドスにまでは正確に情報が伝わっていないらしい。そのせいで余計に誤解が深まり、再び騒がしくなるアビドス一行。

 そろそろ本気でウザくなって来た……とトウコがヤケクソになりかけたその時、先程まで空気だったヒフミが声を上げた。

 

「み、皆さん聞い「いたぞーーー!!アイツらだーーー!!」えぇっ!?」

 

 と思いきや、彼女が言い終わる前に割り込む声。

 その声の出所を見ると、大勢のチンピラ達が押し寄せる姿が目に飛び込んできた。

 先程トウコが蹂躙したチンピラの仲間が、連絡を聞きつけて集まって来たのだ。しかも、その数は先程の数倍である。

 

「あ、あわわ!さっき倒した人達の仲間が……!?」

「"倒した……?"」

「あ、いえ!倒したのは私ではなくて……」

「あぁもう!詳しい説明は後で聞くから、とにかく今はアイツらを倒さないと!」

「先生、指示を!」

 

 先生が、その手に持っていたタブレットを操作し始める。すると、突如として数枚のホログラムが空間に映し出された。どうやらアレはただのタブレットでは無いらしい。

 

「指示ねぇ……悪ぃが、俺は好きにやらせてもらう。誰かに従うってのはどうも気に食わねえんでな」

「は!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「"いや、セリカ。それでいい"」

「先生!?」

 

 

「"なんとなく、そっちの方が良い気がするんだ"」

「〜〜〜っ!分かったわよもう!連携ミスっても知らないから!」

 

 

 瞬間。

 その場からトウコの姿が消え、チンピラ達が吹き飛んだ。

 先程ヒフミを助けた時にも見せた超高速移動に、アビドス一行もまた驚愕し、その体を硬直させる。

 

 

 小鳥遊ホシノを除いて。

 

 

「うへ〜、やるねトウコちゃん」

「ちゃん付けはやめろチビピンク」

 

 ヒドイな〜、とボヤきながら次々とチンピラを薙ぎ倒していくホシノだが、その心の中は穏やかではない。

 

 

 いくら何でも速すぎる。

 

 

 ホシノは今、人生で初めて『速すぎて目で捉えられない』という経験をしていた。

 捉えられないと言っても、完全に見失う訳ではない。

 ほんの一瞬だが動きは見えているし、実際に戦う場合、何処に攻撃が来るかを予測すれば、相手の速さなどホシノにとっては関係ない。

 しかしながらその異常なまでの身体能力は、要塞の如き強さを誇るホシノを持ってして尚、驚嘆に値するものであった。

 

 

『す、すごい……』

「私達の出る幕もありませんね……」

「"いや、どうやらそんな事もないみたいだよ?"」

「えっ?」

「ひっ、ひぃい!何だあのバケモンどもは!?」

「お、おい!テメェらあの2人の仲間だろ!?まずはテメェらから倒して人質にしてやる!」

 

 トウコとホシノは、全くもって連携を取っていない。それ故、どうしても撃ち漏らしが出てしまう。そうして、運のいいチンピラ達がまだマシな方へと避難して来たのだ。

 どうやら、シロコ達を倒して人質にするつもりらしい。

 しかし、それがチンピラ達の運の尽きだった。

 

 確かにホシノとトウコは抜きん出た強者だ。キヴォトス広しと言えど、この2人に勝てるものなど片手で数える程しか居ないだろう。

 そんな2人と比べれば、シロコ達が戦力的に劣っているのは紛れもない事実だった。

 

 だからと言って、それがチンピラ達がシロコ達に勝てる理由にはならない。

 

 数分後、チンピラ達は呆気なく全員戦闘不能となったのだった。

 

「ハイお疲れっと」

「うへ〜疲れた〜」

「も、もう全員倒しちゃった……」

「ホシノ先輩と渡り合える人、初めて見ました……」

 

 トウコとホシノの蹂躙の末、チンピラ達の脅威は去った。ならば後は、両者が戦うのみ……

 

「あの、すみません!!」

 

 そんな時、今度こそと言わんばかりにヒフミが声を上げた。

 

「色々と誤解をされてるみたいなので、取り敢えず銃を降ろして話し合いましょう!!……の前に、一旦ここを離れましょう!」

『え?それは一体……?』

「治安組織だ。アイツら一人一人は大して強くはねえが、なにせ数が多い。今戦ってもジリ貧になる」

 

 ブラックマーケットの規模は、連邦生徒会の手が届かない程に巨大なものである。更に、裏組織との繋がりを持つ、もしくは裏組織そのものである複数の企業がブラックマーケットに介入している。

 つまり、その企業の持つ兵力がそのまま、ブラックマーケットを守る兵力となるのだ。

 

 当然、トウコであれば逃げるのは余裕だ。なんなら勝つ事だって出来てしまうだろう。

 しかしトウコは、コイツらに付いて行った方が面白い事が起きそうだと、無意識の内にそう判断していた。

 

「は、はい!ですので、ここで戦っちゃダメなんです!!」

「ちょっと!アンタそこの伏黒トウコって人に襲われてたんじゃないの!?」

「そ、その説明も移動しながらしますから!とにかく急ぎましょう!」

 

 走り出したヒフミを追いかけるアビドスの生徒達。

 また走るのー!?と項垂れる先生。

 

 どうやら暫くは退屈しないで済みそうだと、トウコは彼女達の後を追うのだった

 

 

 




先生の見た目は便利屋日誌の先生をまんま女性に変えた物だと思ってください。
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