大変申し訳ありません……
「はぁ……はぁ……」
「ここまで来りゃ大丈夫だろ」
「ふぅ。……それじゃ、説明してもらうわよ。アンタら2人がどういう関係なのか!」
「夫と不倫してる女に詰め寄る嫁みてぇな言い方だな」
「は、はぁ!?誰がアンタのお嫁さんよ!」
「ツッコむ所そこじゃ無いと思うな〜」
セリカに詰められ、ヒフミとトウコはこれまでの事を説明する。つい先程出会った事、ヒフミがチンピラ達に追われていた事、チンピラ達をボコボコにした事、そしてアビドスがそこに駆け付けた事。
話を聞けば聞くほど、アビドス一行は「あちゃ〜」といった感じの表情を浮かべていき、最終的には早とちりで攻撃しようとした事を詫びた。
「ご、ごめんなさい……勘違いしちゃって……」
「ん、ごめんなさい」
『本当にすみませんでした……』
「まぁこっちがなんか損したってわけでもねぇ。気にすんな」
「攻撃されたってわけでもありませんし、私も全然大丈夫です!」
「うへ〜、心遣い痛み入るよ〜」
もしオマエらが金持ちの大人だったら遠慮せず金ふんだくってだけどな、とトウコが冗談めかして言う。しかし、彼女の醸し出す雰囲気のせいで全然冗談には聞こえない一同だった。
「んで?こっちが色々喋ったんだから、そっちも当然話す事あるよな?」
「うわ、嫌な言い方するねぇ」
『それは私から説明します!』
今度はアヤネがアビドスで起きた事を話す。アビドスが莫大な借金に悩まされている事、以前からヘルメット団という武装集団に襲われていた事、便利屋68に襲撃された事、そして……その際に使われていた武器がブラックマーケットから入手した物である事。
アビドスが砂漠に飲まれ、廃校寸前であることはトウコも知っていた。だが、思っていたよりも事態は緊迫しているようだった。
彼女達の置かれた状況。それは、まだ子供である彼女達にとってあまりにも過酷な物であり、ブラックマーケットで生きてきたトウコでさえ心苦しく───
「へー」
「淡白!」
思ったりなどはしないようだった。
トウコは、金銭関係でのトラブルや確執をブラックマーケットで飽きるほど見てきた。アビドスの現状もまた、トウコにとってはありふれたもの。借金に苦しむ彼女達に優しく手を差し伸べるような、憐れみを抱き同情するような事はしない。
ただ……トウコの中には、苛立ちがあった。
思い出すのは、このブラックマーケットに辿り着いてすぐの事。ここでの生き方を知る前の、何も知らなかった数ヶ月間。
トウコは産まれた時より強者だった。
───しかしそれは、肉体面での話。
精神面や思考回路はまだまだ幼く、そこに付け込み、トウコを利用しようとした大人達が彼女の周りに群がった。
トウコはほんの数ヶ月間で、この世が如何に汚れているか、如何に闇に塗れているかを思い知らされた。
それと同じだ。今トウコの目の前にいる少女達は、かつての自分のように、ただ大人達に利用され、消費されようとしている。
「そこのオマエ」
「えっと、私ですか?」
「十六夜ノノミだっけ?オマエ、ネフティスの関係者だろ」
「は、はい。それがどうかしましたか?」
「"まさか……"」
「あぁ、そのまさかだ」
トウコは、少女達を憐れむ事はない。それが、かつての自分を憐れむ事だと知っているから。
だが、それでも───目の前の少女達に降りかかる不条理を、覆してみたくなった。
「テメェらに雇われてやる。上手く使え」
「んなっ!?」
「そう来たか〜」
伏黒トウコは、今日1番の悪い笑みを浮かべていた。
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トウコが初めに目を付けたのは、対策委員会が何故そこまで狙われているのかと言う理由だった。ヘルメット団を雇い、ブラックマーケットから武器を仕入れ、更には便利屋68まで使う徹底ぶり。
そこまでする程に、アビドスをどうしても手に入れたい理由がある。
しかもそれだけでは無い。ここまで幾つもの手を打ってきた何者かは、徹底してその尻尾を出さなかった。
「オマエらを狙った奴らは、ブラックマーケットを主体に置いてる企業じゃねえ。ここにいる奴は、どうせ連邦生徒会は手を出せないって腹で好き放題やってる。逆に正体を隠すって事は、バレたらマズイ立ち位置にいるって訳だ」
「な、なるほど……?」
「正体を隠す必要がある。そんでちゃーんと正体を隠せる巧さがある。更にはブラックマーケットと仲良しで、ヘルメット団や便利屋まで使える資金力。それが出来る企業なんざ、このキヴォトスで一個しかねえ」
「……カイザー、コーポレーション」
「の、下っ端だろうな」
「カイザーコーポレーション?」
キヴォトス最大の企業であり、多くの事業に手を出す多角化企業。それがカイザーコーポレーションである。全ての自治区で目にする事が出来るその規模から、キヴォトスの経済を牛耳っていると言っても過言では無いだろう。
「そんな……」
『ど、どうしてそれ程の大企業がアビドスを……』
「そ、それってホントなの!?適当な事言ってないでしょうね!?」
アビドスの面々は、裏に潜む余りに大きな闇をどうにも信じられないようだった。勿論今トウコが口に出したのは推測の域を超えない。だが、その推測が当たっていると言う確信が、トウコの中にはあった。
「まだ話は終わってねぇよ。今言ったのはあくまで推測だ。もしかしたら全然カイザーとは関係ねえ可能性もある」
「まぁでも、カイザーが関わってるのが最悪の場合でしょ?最悪の場合は常に考慮しとかなきゃだからね〜」
「は、はい。カイザーコーポレーションはとにかく巨大な企業です。私の通うトリニティでもかなり進出していて、生徒会であるティーパーティが目を光らせる位ですから……」
「あぁ、だからそれが事実かを確認しようっつー話だ」
カイザーコーポレーションは幾つもの事業に手を出している。それはつまり、幾つもの傘下を抱えていると言う事。その傘下の一つに、カイザーローンというものがある。金融関係を取り扱う高利金融業者であるカイザーローンと、アビドスの抱えた借金。この二つがどうにもきな臭いとトウコは感じていた。
「もし、オマエらを狙ったのがカイザーなら、アビドスの借金もカイザーが関わってる。徹底的に回りくどい事すんのがアイツらのやり方だ」
「でも、どうやってそれを確認するのよ?」
「カイザーローンってのはブラックマーケットとも関わりを持ってる。それが……闇銀行だ」
「や、闇銀行!?」
ブラックマーケットにおいて最大の銀行、それが闇銀行である。トウコは、その闇銀行とカイザーローンが繋がっている事を知っていた。そして、闇銀行が行なっている犯罪も。
「闇銀行は、キヴォトスで起きた様々な犯罪で得た資金を使って、違法な武器や兵器を流し、また別の犯罪に使用させると聞いた事があります」
「そんなの、銀行が犯罪を促しているようなものじゃないですか……!」
「そりゃあ闇銀行がそもそも犯罪組織だからな。そんで、カイザーもその違法な武器を購入してる。これは紛れもない事実だ。カイザーに雇われた時に、その武器使ってたからな」
「えぇ……」
「そ、それはともかく、今回アビドスを襲撃したヘルメット団も、カイザーから違法な武器を渡されていた……という事でしょうか?」
『ちょ、ちょっと待ってください!それはつまり……私達が返した借金が闇銀行に流されていたという事じゃないですか!?』
アビドスがもしカイザーに狙われているとしたら、彼女達が苦労して集めた資金が、カイザーから闇銀行経由で違法な武器の購入に使われた可能性もある。それは、彼女達にとって信じたくはない話だった。
「ま、それが事実かどうかは闇銀行に行って確かめるしかねぇって訳だ」
「"でも、どうやって……?"」
「銀行ってのは、何処から金を受け取ったか、何処に金を貸したかってのを記録してるもんだ。そのデータなら十分な証拠になるだろ」
「ん、成る程……」
「……え、ちょっと待って?」
今トウコが話したのは、銀行の記録がこちらの手にあるのが前提の話である。しかし、銀行───しかも犯罪組織である闇銀行───がそのデータをハイどうぞと渡してくれる訳がない。
つまり、そのデータを手に入れる為には……
「あれしか……ありませんね〜」
「あれしかないのか〜」
「"あっ……"」
『ま、まさか……』
「え?えっ!?」
「ちょっ、ちょっと?も、もしかして私が思ってるあの方法じゃないよね!?」
「ん、銀行を襲う」