キヴォトスではゴリラ力こそ正義   作:砂巴羅

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陸八魔アルという少女

 ブラックマーケット、闇銀行内にて────

 

 一人の少女が、随分と苛立った様子でカウンターの椅子に座っている。そんな少女に、奥から現れた銀行員が声を掛けた。

 

「お待たせいたしました、お客様」

「何がお待たせしました、よ!本当に待ったわよ!何で融資の審査に6時間も掛かるの!」

 

 声を荒げる少女の名は、陸八魔アル。

 便利屋68の若き社長にして、キヴォトス屈指のアウトロー

 

 

 ……を夢見て、所属していた高校を飛び出した、とびっきりの健康優良不良少女である。

 

 彼女は今、融資を受けるために遥々闇銀行まで足を運んだのだが、その融資の審査に長時間待たされていたのだ。

 他に客が大勢いるわけではないのにも関わらず、ここまで待たされたのだから、彼女が腹を立てるのも頷ける。

 

「うちの連れは待ちくたびれて、そこのソファーで寝ちゃってるし!」

「私どもの内々の事情でして、ご了承下さい」

 

 陸八魔アルが経営する便利屋68は、四人の社員からなる小さな会社である。

 社長である陸八魔アルをトップに、室長の浅黄ムツキ、課長の鬼方カヨコ、平社員の伊草ハルカというメンバーで構成されており、これまでに幾つもの苦難に見舞われ、その度に四人で見事突破してきたという(誰も知らない)実績を持つ。

 

 しかし今、陸八魔アルを除いた三人は、銀行内のソファーでぐっすりと眠ってしまっていた。

 

「所でアル様、貴方はそんな態度を取れる状況ではないと思いますが?」

「うっ!」

「当方の助けが必要なら、辛抱強くお待ちいただく事も大事かと」

「ううっ!」

「あ、それとお連れの方ですが、そちらでお休みになられては困ります」

「ううぅ……」

 

 銀行員に次々と注意され、みるみるうちに背を丸めていく陸八魔アル。威勢が良いのも最初だけだったようで、今はもう、銀行員が呼び出したガードに叩き起こされる部下達を、悔しそうに見る事しか出来ていなかった。

 

「さて、それではご確認を。お名前は……陸八魔アル様。ゲヘナ学園の2年生ですね」

 

 

 ゲヘナ学園。

 キヴォトス三大校の一つにして、その名を世間に轟かせるキヴォトス最大級のマンモス校。

 

 ただし、世間に轟かせているのは、名声ではなく悪名の方である。

 

 所属する生徒のほぼ全てが、野蛮で乱暴な不良少女達であり、その治安はキヴォトスにおいて最低最悪。

 裏社会の闇を詰め込んだブラックマーケットと比較しても、どちらが勝るとも劣らない危険地帯。

 

 

 それが、ゲヘナ学園である!

 

 

 ……のだが、陸八魔アルはそのゲヘナで数多くの問題行動を起こしたせいで指名手配を受けており、それが理由でゲヘナを飛び出してここまでやって来たため、殆どゲヘナ所属ではないようなものだった。

 

 

「現在は便利屋68の社長……ですか。この便利屋68、ペーパーカンパニーではありませんか?書類上では財政が破綻しているようですが……」

「ちゃ、ちゃんと稼いでるわよ!……まだ依頼料を回収出来ていないだけで……」

 

 痛い所を突かれた陸八魔アルは、額に冷や汗を浮かべながら言い訳を絞り出す。

 彼女はその後も、従業員が少なすぎるだの、肩書の無駄遣いだの、オフィスの賃貸料が稼ぎに見合ってないだのと言われ放題になってしまい、その度に苦しい言い訳を続けるのだった。

 

 

 

「アル様。これでは融資は難しいですね……」

「え、えーっ!?」

 

 一通り言い終えた銀行員が、目の前の縮こまる少女に、無情にも融資が出来ないことを告げ、今度は別の職に就くことを勧める。

 

 

 しかし、もっと安定した職に就けば融資が出来るなどという提案は、陸八魔アルにとっては地雷もいい所だった。

 

 

(ムカつく……いっその事、武力行使に出て銀行のお金を無理やり持ち出しちゃおうかしら?なんか、そこまで大した奴らじゃなさそうだし……)

 

 

 実際、便利屋68はキヴォトス屈指の実力派である。よっぽどの事が起きなければ、この銀行内の戦力程度に負ける事などないだろう。

 

 だが、その次もまた勝てるかは分からない。

 なにせ、闇銀行を敵に回すという事は、ブラックマーケットを敵に回すという事と同義なのだから。

 

 それが分からないほど、陸八魔アル(便利屋68の社長)は馬鹿ではなかった。

 

(はぁ……やっぱり無理。ブラックマーケットを敵に回すなんて、そんな勇気はないわ……。それに……)

 

 

 

 思い出すのは、キヴォトスにてまことしやかに囁かれる、『ブラックマーケットのとある傭兵』の噂。

 

 

 

 曰く、とんでもない身体能力を持ち、標的は逃れる事はできない

 曰く、報酬に納得が行かなければ、依頼主の方が始末される

 曰く、冷酷無慈悲で、一度敵と見做されれば命は無い

 曰く、最強

 

 

 ────名を、『天与の暴君』伏黒トウコ

 

 

(もし、もしあの『天与の暴君』に目を付けられたら……考えただけでゾッとするわ……)

 

 僅か数年。たったそれだけの時間で、裏社会の伝説となった女。

 どんな依頼も達成し、ブラックマーケットの全てを恐怖のどん底に陥れた暴君。

 もし、ブラックマーケットの誰かが、伏黒トウコに「便利屋68を始末して下さい」などという依頼を出したら……

 悲惨な未来は、想像に難くなかった。

 

 

 

(で、でも……)

 

 

 

 ここで改めて、もう一度言おう。

 陸八魔アルという少女は────

 

 

 

 

 

 

(でも……いつか、会ってみたいわ!!!)

 

 

 

 

 

 ───キヴォトス屈指のアウトローを夢見る少女である。

 

 

(だって、格好良すぎるじゃない!銃を使わずに三節棍と刀だけで戦う所とか!冷酷無慈悲なんて言われてるけど、決して無作為に命を奪ったりしない所とか!まさに私の憧れるアウトローそのもの!)

 

 

 陸八魔アルは知っている。

 伏黒トウコという人物が、誰かを殺害した事など無いという事を。

 依頼の対象を徹底的に痛めつけ、暫く再起不能の状態にして依頼主に届ける事が殆どであり、そのせいで余計に恐れられているだけであるという事を。

 

 

 伏黒トウコに関する情報は、ブラックマーケット内外を問わず、非常に高く売れる。だからこそ、裏の世界の情報通は伏黒トウコの情報を掻き集めているのだ。

 

 アルが偶然その情報を耳にした時から、彼女は伏黒トウコという存在に憧れを抱くようになった。

 

 キヴォトス中から畏怖される傭兵。しかしその実、決して一線を越える事はない。

 そんな伏黒トウコ(アウトロー)という存在が、陸八魔アルの抱く(アウトロー)に、多大な影響を及ぼしたのは言うまでもなく───

 

 

 『伏黒トウコに会ってみたい』

 

 

 それが、誰も知らない(と、本人は思っている)彼女の積年の夢だった。

 

 

(それなのに……何よこれ、情けない……あの人に会って、あの人に負けないくらいのアウトローに、キヴォトスいちのアウトローになるって心に決めたのに、私は……) 

 

 

 

 陸八魔アルは知らない。

 今自分のいる銀行が、先日自分達が襲撃したアビドスから借金の利子を受け取り、その金を裏社会に流している事を。

 そのアビドスが、自分の憧れの人物と共にこの銀行へと辿り着き、今まさに銀行強盗を敢行しようとしている事を。

 

 

(融資だのなんだの……こんなつまらない事にばかりに悩まされて……。私が望んでいるのはこんなものじゃない。何事にも恐れず、何者にも縛られない、ハードボイルドなアウトロー……)

 

 

 

 

 

 陸八魔アルは知らない。

 

 

 

 ───自分の夢が、あと数分と経たずに叶おうとしている事を。

 

 

 

(そう、なりたかったのに……)

「……ル様、アル様!」

「わわっ!はっはい!?何か言ったかしら!?」

「残念ながら融資の承認は下りませんでした。お力になれず申し訳ありません……」

「えぇっ!?ちょ、ちょっと待っ───」

 

 

 瞬間、銀行が闇に包まれる。

 

 

「な、何事ですか!停電!?」

「一体誰が!?って、パソコンの電源まで落ちてるじゃないか!」

 

 突然の事に慌てふためく銀行の職員達。しかし、息つく間もなく、闇に紛れた銃弾が彼等を襲う。

 狙われたのは、室内に配備されたマーケットガード。

 次々に倒れていくマーケットガード達の悲鳴に、混乱の渦は広がっていくばかりだった。

 

 

 そうして、マーケットガード達の悲鳴が鳴り止んだ時、銀行の照明が復旧し、再び室内を照らしだす。

 

 そこには、覆面を被った五人の姿。

 そして───

 

 

「えっ、う、嘘でしょ……あの人、は……」

 

 

 

 ───不敵に笑う、『天与の暴君』(憧れの人)の姿があった。

 




作者は ルビを 覚えた !


伏黒トウコは、原作のパパ黒と違って誰も殺めてはいません。
私が、そこまでの罪を生徒に背負わせられる程、強い心を持ち合わせていなかったからです。
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