キヴォトスではゴリラ力こそ正義   作:砂巴羅

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結成!覆面水着団+ゴリラ!!─参─

 ───少女は語る。

 

「今までも、そしてこれからもきっと、波乱万丈の毎日なのでしょうね。それでもやっぱり、あの日が私の人生最大の転機だったのは間違いないわ」

 

 まるで昨日の出来事かのように鮮明に思い出せる。

 少女は黒いロングコートを翻しながら、誇らしげに笑った。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 照明が七人の影を照らし出す。

 一人は、白いスーツを見に纏った、どこか不安そうな大人の女性。

 他の五人は覆面で顔を隠しており──体格と服装から恐らく生徒だろう──1から4の数字が割り振られた覆面と、一人だけ5の数字が書かれた紙袋を被っている。

 

 

 そして、最後の一人。

 銀行内部にいる者達は、この一人の正体を嫌というほど知っている。

 

 故に、その対応は余りにも迅速だった。

 

 

 

「全員その場に伏せ……え?」

 

 なんと、シロコが銀行員達に命じるよりも早く、その銀行員達は、既に降伏の姿勢を取っていたのだ。

 そして、その中の銀行員の一人が、肩を震わせながら前に出てくる。

 

「お、お願いします……っ!そちらの要求はなんでも聞きます!だ、だからどうか、い、命だけはぁっ!」

「えっ、えぇっ?」

「な、何が起きてるんですか……?」

 

 銀行員は、どうやらトウコに向けて話しかけているらしい。その尋常ではない怯え様から、過去に、トウコから何かトラウマを植え付けられる様な出来事があったと伺える。

 

 それは間違いではない。

 かつてトウコは、実際にこの闇銀行と同規模の銀行を物理的に潰した事がある。それを知っている銀行員達は、今度は自分達が潰される番だと勘違いしているのだ。

 

「あー、そういや昔そんな事したような、してねぇような……」

「あ、あはは……」

「でも、これは好都合ですね!」

「それもそうだな。んで?どうするよ、リーダー?」

 

 トウコが、紙袋を頭に被ったヒフミの肩に、ポンと手を乗せる。

 それはまるで、トウコが言った「リーダー」がヒフミの事を指しているかの様な物言いだった。

 

 

「……へっ?」

「おぉ!そうだね〜。折角あっちから降伏してくれてるんだし〜?リーダーのファウストさ〜ん、指示をお願い!」

「えっ、えっ!?ふぁ、ファウストって私のことですか!?リーダーですか!?私が!?」

「はい、リーダーです!ちなみに私は……覆面水着団のクリスティーナだお♧」

「な、何よその覆面水着団って!?いつからそんな名前になったの!?ダサすぎるでしょ!」

「そんな〜……♧」

 

 ビクビクと怯える銀行員達をよそに、謎の盛り上がりを見せる覆面集団。だが、その間にもトウコが目を光らせている為、銀行員達は身動きを取ることもできない。

 しかし、そんな正体不明の強盗団、『覆面水着団』と名乗った彼女達の正体に気付いた者達がいた。

 

「あれ……?あいつら……」

「あ、アビドス……?」

「だよね、アビドスの子達じゃん。知らない顔もいるっていうか、なんかヤバそうな人もいるけど。ここで何やってるんだろ?それも覆面なんかしちゃって……」

「ね、狙いは私達でしょうかっ!?迎撃しますか!?」

 

 陸八魔アルの部下、便利屋68のメンバーの三人である。彼女達は、当たり前の様に覆面水着団の正体を看破していた。

 

 

 リーダーである陸八魔アルを除いて。

 

 

「いや、ターゲットは私達じゃないみたい……あの子達、どういうつもり?まさか、ここを……?」

「もー、アルちゃんは何してるのさ」

 

 ムツキがリーダーの方を見ると、そこには雷に打たれたかのように硬直している陸八魔アルの姿があった。

 そんな彼女を置いて、事態は動き始める。

 

え、えーっと、取り敢えず集金記録の方を……

ん、了解。そこの貴方。このバッグに、少し前に到着した現金輸送車の……」

「わっ、わかりました!なんでも差し上げます!現金でも債券でも金塊でも、好きなだけ持って行って下さい!」

「え、そうじゃなくて……」

「ど、どうぞ!これでもかと詰めました!だからどうか、命だけはっ!!」

「あ、あぁ、うーん……」

 

 シロコが訂正するよりも早く、差し出されたカバンに金を詰め込んでいく銀行員達。そのあまりの早業に、声を掛けることさえ出来なかった。

 そしてそのまま、シロコは現金でパンパンになったカバンを受け取るのだった。

 

 

 今のこの状況を冷静に俯瞰すれば、トウコを見て勝手に勘違いした銀行員が、勝手に大金を差し出してきただけという奇妙な状況だと言うのは簡単に分かる。

 

 だが、それを見ていたアウトローを夢見るクールビューティー風ポンコツ女社長は一味違った。

 

(や、ヤバーい!この人達何なの!?ブラックマーケットの銀行を襲うなんて!それも、ただ襲うんじゃなくて、あの伏黒トウコを仲間に引き入れて、一瞬で銀行を制圧してから金を奪う手際の良さ!まさに超プロフェッショナル!まるでこの為だけに生まれてきたみたい!ものの五分でやってのけたわ!かっ、カッコいい……!シビれるっ!これぞまさに真のアウトロー!うわぁ……涙出そう!)

 

 それは陸八魔アルにとって、まさに青天の霹靂。ブラックマーケットという大きな力を恐れることなく、己を通すそのやり方は、彼女の目指すアウトローそのもの。

 今、陸八魔アルは、人生で一番と言っていいほどの衝撃と興奮を覚えていた。

 

「全然気付いてないみたいだけど……」

「むしろ目なんか輝かせちゃって!」

 

 どうやら感極まっているらしい自分達のリーダーを見て、何か手出しをするのは悪手だと判断した便利屋の面々。彼女達は、参謀を担っているカヨコの提案で一旦身を隠すことにした。

 

 

 それを知る由もなく、カバンの中にちゃんと銀行の集金記録が入れられている事を確認した覆面水着団の面々は、早々に撤収を開始する。

 

 一人、伏黒トウコを置いて。

 

「それじゃ、後はよろしくね〜」

「頑張って下さいね、トウコさん!」

「やられちゃダメだからね!」

「あ?誰に言ってんだ。オマエらこそヘマすんじゃねえぞ?」

 

 こうして二手に分かれるのは、銀行に突入する前にトウコが提案した作戦だった。

 

 銀行の外と中、その両方に大量の兵士達がいる。これを逃げながら同時に相手するとなると、必然的に挟み撃ちの形になってしまう。

 その為、顔が割れており、情報が漏れるリスクの少ないトウコが殿を務める事で、より確実に撤退ができると踏んだのだ。

 

 そして、銀行の外と中に配置されている兵士は、それぞれ性質が違う。

 当然守るべきは銀行の金庫なのだから、内部に配置された兵士の方が質は高い。しかし、銀行の敷地に収めるために、その数は少なくなってしまう。

 逆に銀行の外は、質の低い兵士が大量に配置されている形となっている。

 つまり、質の高く数の少ない兵士をトウコ一人が、質は低いが数は多い兵士を他のメンバー全員が相手した方がやりやすい、とトウコは判断した。

 

 覆面水着団に逃げられると分かるや否や、奥から兵士達がゾロゾロと現れてくる。

 

 もうやるしかないと、銀行側も腹を括ったようだ。

 

「くっ、クソ!天与の暴君め、いつの間に覆面水着団とやらの仲間に……!」

「何バカみてえな勘違いしてんだオマエ。俺はあくまで雇われたから同行してんだよ」

 

 トウコの優れた聴覚が、遠くで銃弾が放たれた音を捉える。どうやらアビドス一行は、もう外の兵士達との戦闘を開始したらしい。

 しかし、銀行内の兵士達は未だに動く素振りを見せない。

 

 

 否、洗練された兵士たちでさえ、動く事が出来ないでいた。

 それ程までに、彼らにとって伏黒トウコという存在は恐ろしかった。

 

 

 

「来ねぇのか?……んじゃ、こっちから」

 

 そう言いながら、足を高く上げていき、I字バランスのような姿勢を取るトウコ。

 銀行員達がその行動に困惑する最中、トウコは、高く上げられた足をとてつもない勢いで床に叩きつける!

 

 地震もかくやという揺れが発生するほどの衝撃を受け、空中に飛び上がる床の破片。

 そして、その破片が地面に落下するよりも早く、トウコは手に持った三節棍をバットのように振るう。

 

 赤い三節棍により生み出される強烈な風圧。

 

 それを受けた空中の破片が、そこらの銃を上回る高威力の散弾となって、兵士達へと襲い掛かった!

 

「ぐわあぁぁっ!!」

「な、何が起きたっ!?」

「ば、バケモノめ!」

 

 今の一撃で、その場にいるほぼ全ての兵士が戦闘不能となった。かろうじて攻撃から逃れた兵士も、何をされたか理解できず狼狽えるばかり。

 

 

 ───もはや、勝負は決まっていた。

 

 

「ま、こんぐらい倒しときゃ充分だろ」

 

 この状況を作り出した当の本人は、これが当たり前といった態度のまま、もう既にその場から去ろうとしている。

 

 これが天与の暴君。

 ブラックマーケットに名を轟かせる闇銀行でさえ、彼女の前ではちっぽけな存在に成り下がってしまう。

 一瞬にしてほぼ全ての戦力を失った銀行員達は既に戦意を失っており、その場に居合わせた者もまた、震えて蹲ることしか出来ずにいた。

 

 

 一人の少女を除いて。

 

 

「まっ、待って!い、いえ……待ちなさい!伏黒トウコ!!」

 

 顔を強張らせ、両手を強く握りしめ、両足を震わせながら、一人の少女が恐ろしき暴君へと近づく。

 その背後には、不安そうな顔で自分達のリーダーを見つめる三人の部下。

 

「貴方に……いっ、言いたい事があるの!!」

 

 

 名を、陸八魔アル。

 

 キヴォトス一のアウトローを目指す便利屋68の若き社長。

 顔を強張らせ、両手を強く握りしめ、両足を震わせながら、それでも……

 

 

 ───その瞳だけは真っ直ぐに、伏黒トウコを見据えていた。

 

 

 

  ──────────────────────

 

 

 

 闇銀行から遠く離れた場所。人通りも少ないその場所で、大きなカバンを囲みながら、少女達が話し合いをしている。

 その大きなカバンの中には、溢れそうなほど詰め込まれた大量の札束

 

「何してんだオマエら」

「あっ!トウコさん!」

 

 なにやら揉めているその集団……銀行強盗帰りのアビドス一行に、近づいて来たトウコが声を掛ける。

 

「無事……というか、ピンピンしてるわね……」

「遅かったね〜、何かあった?」

「あー……オマエら、何日か前に便利屋68に襲撃されたとか言ったよな?」

「うん。それが結構強くてね〜。先生が来てくれなかったらヤバかったかも……。で、その便利屋の子達がどうかしたの?」

 

 聞くところによると、どうやらその便利屋68の社長である陸八魔アルから伝言があるらしい。銀行を襲った時は気付かなかったが、その時に便利屋も同じ銀行内におり、戦闘を終えたトウコに接触して来たと言うのだ。

 

「それで、そのアルちゃんって子はなんて言ってたの〜?」

「オマエらの事ベタ褒めしてたぞ。なんでも、稀に見るアウトローっぷりに感激したんだとよ」

「え!?」

「え、えぇ……?」

「んで、オマエらみたいなアウトロー目指して自分も頑張るから名前を教えて欲しいって言われてな」

「な、何よそれ……っていうか、本名教えてないでしょうね!?」

「言うかボケ。覆面水着団……だったか?そっちの方教えといた。良かったじゃねえか、早速ファンゲット出来て」

「よ、良かった……のでしょうか?」

「ま、まぁ別に悪い気はしないけど……」

 

 自分達のようなアウトローを目指す、などと言われたのは、当然ながら人生で初めての事だった。

 何が何やらよく分からないアビドス一行だったが、尊敬されて悪い気はしない彼女達なのであった。

 

「で?そっちもそっちで何かあったんだろ?」

「あっううん、それはもう解決したから大丈夫です」

「そ、そうよ!ちょっと残念だけど……」

「……ふーん、あっそ」

 

 トウコは、彼女達の足元に置かれているカバンとその中身を見て、何となく何が起きたか察するが、特に何か言うでもなく会話を終える。

 下手に首を突っ込んでトラブルになるのは、トウコも避けたい所だったからだ。

 

「よーぅし!集金記録も無事手に入れたし、学校に帰るとしますか〜」

「あ、あうう……もうヘトヘトです……」

「"皆お疲れ様。取り敢えず学校で一休みしようか"」

「ん、皆油断しちゃダメ。強盗は帰るまでが強盗!」

「何言ってんのよシロコ先輩……」

「いや、あながち間違ってねえ。こう言うのは緊張が緩んだ瞬間が一番狙われる。俺ならそうするからな。せめて索敵だけでもやっとけ」

『は、はい!』

 

 思えば、長い二日間だった。

 ブラックマーケットを歩き回り、チンピラに襲われていたヒフミを助け、またブラックマーケットを数時間歩き、そして最後には銀行を襲った。

 それでも、疲れ切った彼女達の心には、どこか達成感があった。

 

「帰ろう、あの夕陽に向かって!」

「夕陽、まだですけど……」

「"青春、だね!"」

 

 そんな事を喋りながら、彼女達は、帰るべき場所(夕陽)に向かって歩いていくのだった。

 

 

 

「え、これ俺も付いていく感じ?」

「当たり前でしょ!ここまで来たら最後まで付き合って貰うんだから!」

「うへ、もう一蓮托生だよ〜」

「マジか」

 

 

 

 

 

  ──────────────────────

 

 

 

 

「あれが、伏黒トウコ……まだまだ遠いわね……」

「アルちゃん良かったの?サインとか貰わなくて」

「はっ、忘れてた!……って、ちっ、違うわよ!別にファンとかじゃないから!!」

「え〜ホントに〜?」

 

 便利屋68、その拠点にて。

 銀行から帰宅した彼女達は、その日起きた事を思い出していた。 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「貴方に……いっ、言いたい事があるの!!」

「あ?誰だオマエ?」

「えっ!?えっと……わ、私の名前は陸八魔アル!便利屋68を経営しているわ!」

 

 便利屋68と言う名前には、トウコも聞き覚えがあった。なんでも、金さえ払えばなんでもする、言葉通りの便利屋なのだとか。

 

 詰まるところ、伏黒トウコにとっての商売敵である。

 

「へぇ……で、その便利屋68が俺に何の用だ?宣戦布告か?」

「そ、それは……その……」

 

 暫しの沈黙。

 俯いてしまった陸八魔アルに、用がねぇなら帰るぞ、と声を掛けようとしたその時。

 俯いていた頭を勢いよく上げ、彼女は宣言した。

 

「わ、私と、どちらが真のキヴォトス一のアウトローに相応しいか……勝負よ!!」

「アウトロー?勝負?あー……今からか?」

「いえ、今は貴方には勝てない……でも、いつか必ず、キヴォトス一のアウトローになってみせるわ!貴方を超えて!だ、だから……その時まで、待っていて頂戴!!」

 

 勝負。

 目の前の少女は、無謀にも天与の暴君に勝負を挑んだ。

 なんて命知らずなのだろう。伏黒トウコがどう言った人物か、それも知らずにここまで来たというのか。

 

 

 

 ───否。トウコは、自分を真っ直ぐに見据えるその瞳に、確かな覚悟を見た。

 

 

 

「そもそも、キヴォトス一のアウトローなんて名乗った事ねえけど……一応言っといてやる。そのままじゃ、キヴォトス一のアウトローなんてのは夢のまた夢だろうな」

「えっ?ど、どう言う事よ!」

「アウトローは、なりたくてなるもんじゃねえだろって事だ。オマエの頭ん中の教科書に、どんな『アウトローのなり方』が書いてんのか知らねえけどな、そんな教科書通りに生きてる奴がアウトローな訳ねぇだろ」

「うぅっ!?た、確かに……!」

「まぁ、まずはその理想ってのを捨てる事だな。そんで、自分の好きなように生きりゃあいい。……いつかテメェの生き様が、アウトローって言われるようになるまでな。もしそれでアウトローって言われねぇなら、それまでだったって事だろ」

 

 

「…………ま、敗けたわっ!!!」

 

 陸八魔アルが、その場に崩れ落ちる。

 トウコが言ったアウトロー、それが果たして正しいアウトローなのかは、きっと誰にも分からないのだろう。

 だが、トウコの言葉を聞いて、納得してしまった自分がいた。

 それに気付いた時には、既に完敗だった。

 

「流石は……私の認めた、キヴォトス一のアウトローね……」

「そんなもん名乗った事ねえっつってんだろ。……ただ、まぁ」

 

 頭を掻きながら、トウコは項垂れているアルに声を掛ける。

 

 

 

「俺に勝負を挑んでくる奴なんざそうはいねえ。折角だし、待っといてやるよ。オマエが、自分に満足するまでな」

「っ!……ありがとう。そう言ってくれて」

 

 少女は、ゆっくりと立ち上がる。

 その目にはもう、迷いはなかった。

 

 

「また会いましょう!」

「おー、じゃあな。精々頑張れ」

「あっ!それと、もう一つ聞きたいんだけど!貴方と一緒にいた人達って……」

 

 

 

 

  ──────────────────────

 

 

 

 この日、少女はまた一つ成長した。

 自分の憧れ、自分の理想。それに辿り着く道が、ハッキリと見えた気がした。

 

 

「ふふふ……待っていなさい、伏黒トウコ!そして、覆面水着団!!」

「が、頑張りましょう!アル様!」

「いいね〜ノリノリだねアルちゃん!あっそう言えば、その覆面水着団なんだけどね〜?あいつらって多分……」

 

 

 

 

「な、な、なあああにいいいいい!!??覆面水着団がアビドスだったですってぇぇ!?」

「あはは!アルちゃんショック受けてるー!超ウケる!」

「はぁ……」

 

 

 どうやらその理想までの道のりは、まだまだ長く続いているらしい。

 




伏黒トウコの影響で、銀行の警備が数倍近く強化されています。
というか、大体の組織が原作よりも強化されている前提で書いています。

また、一億円は便利屋の手には渡る事なく、ノノミがしっかりと処分しました。
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