キヴォトスではゴリラ力こそ正義   作:砂巴羅

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12月31日、大晦日は伏黒甚爾の生まれた日。
何とかこのめでたい日に投稿できて良かったです……


ゴリラと『依頼料』

 

 アビドス高等学校校舎。その一室にて───

 

 

 

「"……ん、うーん……ハッ!ここはどこ!?私は先生!!"」

「あ、起きた。おはよー先生」

「ここはアビドスですよ〜」

 

 前日にしっかりと睡眠をとっていたのが功を奏したのか、数分と経たずに先生は目を覚ました。ただ、かなりの衝撃が頭に響いたためか、まだ少し混乱しているようだった。

 

「チッ……もう起きたか」

「"トウコ……?あぁ、そうだった。私はトウコに膝枕してもらって……それで、なんで今地面で寝てるんだろ?"」

 

 寝てる、とはとても言えないような姿勢だったが、なんとか立ち上がる先生。だんだんと明瞭化してきた意識の中、取り敢えずトウコに膝枕の礼を伝えた。

 

「礼はいらねぇ。そういう依頼だったろ?」

「"うん!……ん?あれ、そうだったっけ……"」

「ああ。でだ、先生。俺は膝枕してくれっつう依頼に完璧な仕事で応えたわけだが、そんな俺に対して払うべきもんがあるよな?」

「"へ?……え、えっと、依頼……料?"」

「500万な」

「"へぁあ!?!?"」

 

 先生の記憶が混濁しているのを良い事に、好き放題言うトウコ。

 教師と生徒のするものとは到底思えないような会話が、教室の中で堂々と繰り広げられていた。

 

 因みに先生はこの後、なんとか貯金から500万を掻き集めて見事依頼料の支払いを達成するのだが、その事がかの冷酷な算術使いことミレニアムの大魔王こと体重100kgの女こと太ももふっと……こと某セミナーの会計にバレてしまい、鬼のように詰められる事となるのだが、それはまた別のお話である。

 

 とかなんとか言っているうちに、先程までノノミの膝枕を堪能していたホシノが、おじさんのような声を出しながら起き上がった。

 

「よいしょっと……ふぁあ〜、みんな朝早くから元気だな〜」

「のんびり出来るのは久しぶりですから……今はみんなやりたい事をやっているんでしょうね」

 

 シロコは趣味のトレーニングを、アヤネは真面目な見た目通り勉強を、そしてセリカはいつも通りアルバイトに精を出しているのだろう。

 そう言うノノミも、既に他のメンバーが来る前に教室の掃除を終わらせていた。

 

「で、オマエはぐーたらしてたと」

「うへ〜、ご明察ぅ」

「"ホシノは何か趣味とかやりたい事とかあるの?"」

「シロコちゃんと一緒に筋トレとか、セリカちゃんと一緒にアルバイトとかやってみるのもいいかもしれませんよ?」

「無理無理〜。おじさんはもう、皆みたいに新しい事に挑戦できるような体じゃなくなっちゃってねー」

「俺とタメだろうが」

「私とほぼ変わらないじゃないですか」

「"私を見てもそれが言えるかな?"」

 

 怒涛のツッコミにも、いつも通りの飄々とした態度で返すホシノ。一名ほど悲しき自虐をかます者もいたが、それを無視して話を続ける。

 

「うへ〜、とにかく先生も来たし、他の皆もそろそろじゃない?そんじゃあ、わたしゃこの辺でドロンさせてもらうね〜」

「"わぁ、懐かしい事言うね。父さんがよく言ってたよ……"」

「ホシノ先輩が外出なんて珍しいですね。一体どちらへ?」

「うへ〜、今日おじさんはオフなんでね。テキトーにサボってるから、なんかあったら連絡ちょーだ〜い」

 

 どうやら別の場所で休憩をしてくるようだ。ホシノにとって何時がオンで何時がオフなのかサッパリ分からないが、彼女には彼女なりの区別があるのだろう。

 ノノミも、アヤネがいれば会議もちゃんと進むだろうからと、ホシノを止める事なく教室に残るのだった。

 

 

 

「……俺もパス。寝るためだけにわざわざ会議するなんて回りくどいこたぁごめんなんでね」

「"か、会議を睡眠用のものとしか認識していない……"」

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 アビドス高校から少し離れた、とあるビル群。

 その中でも頭一つ高いビルの一室に、小鳥遊ホシノはいた。

 

「これはこれは」

 

 顔を顰め、不機嫌そうに振る舞う彼女に、1人の『大人』が声を掛ける。黒いスーツを身に纏い、ひび割れた頭部からは、黒いモヤのような何かが立ち上っている。

 先生とも、キヴォトスのどの大人達とも違う、異形の姿。

 

「お待ちしておりましたよ。暁のホル……いえ、小鳥遊ホシノさん」

 

 

 名を───黒服

 

 

「失礼しました。いやはや、キヴォトスにはまだ馴染めておらず……こちらへどうぞ、ホシノさん」

 

 そう言って、黒服はホシノを案内する。

 ホシノを別の名で呼びかけた事といい、キヴォトスの外から来たことを仄めかす発言といい、立ち居振る舞いの全てが不気味な怪しさを感じさせる。

 

「……黒服の人、今度は何の用なのさ」

「ククク……状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」

 

 二人の話ぶりからして、どうやら二人は過去に何度か会って会話をしたことがあるらしい。

 黒服の狙いは、ホシノの肉体に込められた強大な神秘にあるようだった。

 

「提案?ふざけるな!!それはもう……!!」

 

 ホシノが激昂する。いつも穏やかな彼女にしては珍しいその荒ぶりが、黒服の発言が如何にホシノを憤慨させるものなのかを物語っていた。

 

「まあまあ、落ち着いてください」

「……」

 

 しかし、そんなホシノの怒りもどこ吹く風の様相で、黒服はホシノを宥める。数秒の後、ホシノが落ち着きを取り戻したことを確認し、そのまま黒服は話を続けた。

 それは正しく、『子供』に対する『大人』の態度であった。

 

「お気に入りの映画の台詞がありましてね。今回はそれを引用してみましょう」

 

 そう言いながら、黒服は窓際の椅子に腰掛ける。

 

「あなたに、決して拒めないであろう提案を一つ。興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください」

 

 

 

 ───逆光が、不気味な影を落としていた

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 黒服との話し合いから数刻後。

 ホシノは、どこか憂鬱な面持ちでアビドスの帰路へとついていた。

 そんな彼女に、再び声を掛ける影が一つ。

 

 

「サボるにしちゃあ随分金臭え場所だな」

「と、トウコちゃん!?」

 

 天与の暴君、伏黒トウコである。

 どうやら、黒服の元へ向かうホシノを尾行していたようだ。トウコは、ホシノでさえ勘付かないほどの尾行能力を有している。そのステルス性能は、かの生徒会長直属の特殊部隊育成高校に所属する、とある狙撃手に匹敵するほどである。

 

「で?こんなとこ、わざわざ何の用で来たんだよ?」

「トウコちゃんには関係……」

 

 関係ない、と言いかけて、ホシノは口を噤む。

 思い出すのは、銀行強盗を終え、アビドスへ共に帰ったあの時の言葉。

 

 

『当たり前でしょ!ここまで来たら最後まで付き合って貰うんだから!』

『うへ、もう一蓮托生だよ〜』

 

 

 こちらから巻き込んでおいて、今更関係ないなんて───言える筈がなかった。

 

「……はぁ、そうだね〜……。おじさんの体は、どうやら特別みたいでさ、こんなでもかなりの研究の価値があるんだって」

「あーなるほどね。大体分かったわ。オマエの体を差し出せば、借金を肩代わりしてやる……とか、どーせそんな感じだろ?」

 

 アビドス───否、キヴォトスの全体を見渡しても、ホシノに並び立つ程の特別な肉体を持つものはいない。黒服は、ホシノの持つ神秘が、アビドスの莫大な借金を肩代わりしてでも手に入れるべきものだと判断したのだ。

 

「流石トウコちゃん。話が早いね〜」

「ちゃん付けやめろチビ」

 

 

 ホシノとトウコが出会ってから、すっかり定番となった会話の応酬。こんなくだらない会話も、もう交わすことはない。

 

 

 ───ホシノは、アビドスから去ることを決意していた。

 

 

「……うん。もう、しないよ。それでね、君に頼み事があるんだ」

「頼み事、ね」

「うん、決して悪い話じゃないと思うよ……おじさんが居なくなった後、アビドスの皆を、私の代わりに守って欲しいんだ」

 

 絞り出すように、ホシノは言葉を紡ぐ。決して表情には出さない。いつも通りの穏やかな顔で……その声に潜む、どうしようもない寂しさを無視して。

 

「皆、良い子なんだよ。アビドスの未来を取り戻す為に、一生懸命になれるんだ。皆がいれば、借金さえ無くなったアビドスはきっと前へ進める」

 

 ホシノは知っている。自分の後輩達の強さを。

 だって、右を見ても左を見ても砂しかないような、こんなつまらない高校に残って、今もなお、アビドスの復興を目指しているのだから。

 

「でも、そんな時に悪い大人達に目をつけられれば、あの子達だけじゃアビドスを守りきれないかもしれない。だから……」

 

 大切な思い出を……

 大切な私の『特別』を……

 

 

 

 どうか守ってほしい

 

 

 

「良いぜ」

「おお!そう言ってくれておじさんも──「ただし」──え?」

 

 トウコの肯定に、安堵の表情を浮かべるホシノ。しかしその表情は、トウコの遮りによって崩される事となる。

 

「その話を受けるのは、依頼としてだ」

「依頼……?」

「依頼料を払ってもらう。先払いでな」

「い、依頼料って……おじさんあんましお金持ってないんだけど……」

 

 

 ホシノは忘れていた。

 今、自分の目の前にいるのは、ブラックマーケットさえ恐怖のどん底に陥れる、恐ろしき『天与の暴君』なのだと。

 

「依頼料は───」

 

 

 

 

 

 

「───10億だ」

 

 

 

 沈黙が、あたりを包み込む。

 

 

 

「………………うへ〜、よく聞こえなかったな〜。おじさんもう耳が遠くなっちゃってね〜」

 

 たまらず、ホシノが冗談めかして言う。

 今トウコが口にした言葉は、自分を揶揄うためのおふざけなのだと、そう思い込む為に。

 

「冗談は、やめて欲しいんだけど」

「冗談?ハッ、冗談なワケねぇだろ。10億払えねぇってんならこの話は無しだな」

 

 

 ひどい話だ。10億円なんて大金を持っていたのなら、そもそもアビドスの抱えた借金なんてとっくに返済し終えていると言うのに。

 

 分かっている。ホシノも、トウコも。

 それを分かって、目の前の暴君はホシノにふっかけている。

 

 トウコの浮かべる軽薄な笑みが、ホシノの神経を逆撫でする。

 ホシノはもうとっくに、笑顔を浮かべる余裕など無いというのに。

 

「……一応聞くけど、なんで依頼料が必要なのさ」

「タダ働きはゴメンでね」

 

 あっさりと、何でもないかのように、トウコは答えた。

 

 あぁ、そう言うと思った。

 トウコなら、そう答えると分かっていた。

 それでも、ほんの一瞬だけ心に悲しみを宿して……対策委員会の委員長は、顔を俯かせた。

 

 

 

「そっか。そう、だよね……うん。それなら、それならさ……」

 

 

 

 ────空気が揺れる。

 ビルを飲み込む砂の大地さえ、今はただ震えることしか出来ない

 

 

 

()()()()()

 

 

 普段は眠たげに目尻を垂らすホシノの瞳が、冷たい鋭さを帯びていく。

 それはまるで、空を支配する猛禽類のように

 

 

「力尽くで、お前にハイと言わせてやる」

 

 

 美しささえ覚えてしまうほどの

 

 

「ハッ……いいぜ、前は邪魔が入ったからな。あん時の続きといこう」

 

 

 

 ───強者

 

 

 

「とことんまで付き合ってやるよ───()()()()()()

 

 

 

 アビドス高校の生徒会。最後の()()()が、そこに立っていた。

 

 

 

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