キヴォトスではゴリラ力こそ正義   作:砂巴羅

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今回から独自解釈がかなり多くなっております。


ゴリラVSホシノ

 

 

───小鳥遊ホシノは強者である。

 

 

 その皮膚はどんな凶弾さえ通さず、その銃はあらゆる敵を粉砕する。

 キヴォトス最大の神秘を秘めたその肉体で、果たしてどれほどの困難を乗り越えてきたのだろう。果たしてどれほどの敵を討ち倒してきたのだろう。

 

 

 ───小鳥遊ホシノは強者である。

 

 

 かつて共に歩んだ先輩の遺志。

 今も前へと進む後輩達の未来。

 そんな重責を一人で抱え込んでなお、ホシノが折れる事は無かった。

 

 

 ───小鳥遊ホシノは強者である。

 

 

 

 

 そんな彼女でさえも、神秘の檻からは逃れられない

 

 

 

 

 これまでに複数回、轟音が鳴り響いた。

 途轍もなく大きい物体が衝突したかのような音が砂漠に響く度に、ホシノの顔が苦悶に歪められる。

 

 

 キヴォトスを覆う神秘。その因果さえ置き去りにして、伏黒トウコ(天与の暴君)は躍動する。

 

 

 

 正に───規格外!!

 

 

 

「ぐっ──ぁぁあああ!!」

 

 三度、赤い三節棍がホシノを強襲する。

 瞬時に盾を滑り込ませ、なんとか直撃を防ぐ事に成功するが、それでもなお強烈な衝撃が全身へと襲いかかり、ホシノはたまらず唸り声を上げる。

 

 直後、ホシノの体から砂の大地へと伝った衝撃により、半径十数メートルの範囲内の砂が上空へと吹き飛んだ。

 

(なんて重さだ!ふざけやがって……!)

 

 ホシノは、トウコのあまりのゴリラ力に心の中で悪態をつく。

 あのホシノが、だ。

 それ程までに、今の一撃は人のカタチをしている者が繰り出していい威力ではなかった。

 

 

(あり得ない……これだけのパワーには、何か秘密がある筈だ……恐らくは、あの三節棍!)

 

 

 ホシノの推測は当たっている。

 トウコがこれ程の破壊力を生み出せた理由は、トウコの持つ三節棍にあった。

 

 赤き三節棍。

 その名を、『游雲』

 持ち主の膂力に応じてその威力が変化するという、不可思議な特性を持った『古代の遺物』

 山海経にて大切に保管されていたが、その所有権をめぐって大規模な争いが起こり、広がりゆく戦火と共に紛失してしまった……筈だった。

 

 偶然か必然か、游雲は導かれるようにトウコの手へと渡った。

 純粋な力の塊。かつて山海経にて語り継がれた伝説の武具は暴君の愛用品となり、周囲に破壊を撒き散らす暴風と化す!

 

 

 因みにだが、トウコは游雲を誰かに渡した事などない為、持ち主の膂力に応じて威力が変化するという特性を理解していない。

 つまりトウコもホシノも、なんとなくの雰囲気で游雲の特性を把握しているに過ぎなかった。 

 

 

(あの盾……游雲を何度ぶつけても傷一つ付きやがらねぇ。破壊とは別のアプローチで攻めた方がいいな)

(この速度に、この威力。まともに食らえば仕切り直しは不可能……だが!)

 

 ホシノが、鋼鉄の盾を眼前に構える。

 先程までは、トウコが何かしらアクションを起こした後に攻撃を予知して盾を構えていた。

 

 その行動は、今までの戦闘方法とは異なるもの。

 それ即ち……

 

 

(誘ってやがんな……いいぜ)

 

 

 天与の暴君への、挑発。

 

 

 トウコはとんでもないスピードで、砂に飲まれたビルをピンボールのように飛び移っていく。

 もはやホシノは、目で追う事を放棄していた。

 

 

(予測しろ……攻撃が来る箇所は……五時の方向!)

 

 

 

 

 ……トウコは、盾を破壊するのではなく、ホシノの手から無理やり離す算段で攻撃を仕掛けていた。

 ホシノの肉体がどれだけ頑強だろうと、握力まで人外じみたものではないと当たりをつけていたからだ。

 

 しかし、その予想は外れる事となる。

 

 神秘を捨て去り、極限まで強化されたトウコの目に写り込んだのは、鋼鉄の盾ではなく───

 

 

「マジか」

 

 

 ───Eye of Horus(ショットガン)───!

 ホシノは、盾でトウコの攻撃を防ぐのではなく、攻撃をするという行動そのものの隙をついたカウンターを狙っていたのだ。

 

 

 すでに振り抜かれていた游雲がホシノの腹部へ直撃する。

 それと同時、ホシノの放ったショットガンの銃弾が、雨の如くトウコへと降り掛かった!

 

 

 触れ合えるほどに接近していた二人は、お互いの体が大きく吹き飛んだ事で再び距離を取る事となる。

 

(チッ……カウンターで威力を多少殺されたとはいえ、游雲が腹に直撃してんだぞ)

(散弾銃は、完全な至近距離ではその威力を発揮しきれない。とは言え、全弾命中でもすればただでは済まない筈……だが)

 

 

 攻撃が防がれる事なく命中したのだ。本来であれば、どちらかが倒れていてもおかしくはない。

 しかし、ここにいるのは『本来』などという言葉が到底似つかわしくない、例外中の例外。

 

 

((……アイツ硬すぎだろ))

 

 

 両者共に、ピンピンしていた。

 

 

「ふー……」

 

 トウコが溜息を吐く。お互いのあまりの頑丈さに、もう既にやる気を失いかけている。

 それもその筈。これは依頼ではないのだから、タダ働きを嫌うトウコにとってこの戦闘は無駄なものでしかなかった。

 

「さっさと終わらせんぞ」

 

 そう言いながら、トウコは游雲をベルトの右側に仕舞った。

 そして、今度はベルトの左側から鍔の部分がぼんぼんのようになっている刀を取り出す。

 

(刀?不気味だな……いや、それよりも)

 

 先程の攻防で、ホシノは気になる事が一つあった。

 トウコに銃弾が直撃する寸前、体を斜めにズラしたのだ。

 

(あの三節棍で攻撃する為の動きじゃなかった。アレはまるで……何かを庇う動きだ)

 

 そこに弱点があるのか、はたまたポケットの中に大切なものでもあるのか。

 ホシノは、そこに天与の暴君の攻略法を見出した───!

 

(まずは、それを確かめる!)

 

 

 ホシノが、待っていた盾を地面に突き刺す。

 そして、盾の裏側に入り込んだ砂をトウコに向かって投げつけた!

 

 即席の目潰し。

 トウコがそれに対処より早く、ホシノは移動していた。

 ホシノはトウコほどではないにせよ、かなりのスピードで動く事が可能だ。ショットガンが最大威力を発揮する位置に移動するのに、そう時間は掛からない。

 

(アイツが庇ったのは体の左側。この距離、この角度なら───当たる!)

 

 

 『戦術的鎮圧』

 

 

 ホシノの愛用する銃から、今一度銃弾が発射される。

 交わしきれず、トウコは何発か被弾してしまった。

 

「チッ───あ?」

 

 反撃を仕掛けようとした次の瞬間、彼女の脳を強烈な眩暈が襲う。

 

(効き目が薄い……化け物め)

 

 それは、弾丸が当たった相手を約一秒程度気絶させる銃弾。しかしトウコは、持ち前の肉体強度でただ眩暈がするだけに抑え込んでいた。

 だが、ホシノは気絶させる事を目的としていない。

 

「やっぱりだ。お前は今、そのポケットに何かを隠している」

「……ま、そりゃあ気付かれるわな」

 

 先程の攻撃で、やはりトウコは左のポケットを庇うような動きを見せた。

 

 ホシノは確信する。

 

(そこを攻め続ければ、勝機がある──)

「ここを攻め続ければ、勝機がある……って思ってんだろ」

「───ッ!」

「させねぇよ。次で終わりだ」

 

 

 トウコが、笑みを深めながら再び刀を構える。

 

 

「……ふぅー」

 

 

 先ほどとは違い、今度はホシノが息を吐く。しかしそれは溜息というよりも、集中力を高める為の深呼吸のようであった。

 

 

 ───ホシノが、盾を地面に置く。

 あまりにも優しく……死者に花を手向けるように。

 

「へぇ」

「昔は、盾は使ってなかった。“コッチ”の方が性に合ってる」

 

 

 決着の時は、近い。

 

 

 

 

 

 ───小鳥遊ホシノは強者である。

 

 

 莫大な神秘でもなければ、強靭な肉体でもない。

 大切な人を失い、母校は砂に飲まれ……それでもなお後輩達を想うその意志が、彼女を強者たらしめていた。

 

 

(伏黒トウコ……いや、トウコちゃん。君がいてくれたら、私が居なくなった後もきっと皆無事でいられる。……先生はちょっと頼りないし。その為には、トウコちゃんをアビドスに縛り付けなきゃいけない……だから)

 

 

 小鳥遊ホシノ(暁の少女)の銃口がついに、伏黒トウコ(天与の暴君)を捉える───

 

 

 

(……勝つ)

 

 

 引き金に指をかける。何千回、何万回と繰り返してきた。

 狙うは、左ポケット。

 

 

 その、筈だった

 

 

(……なんで、庇わない……!?)

 

 

 まるで()()()()()()()()()()かのように、トウコは左ポケットなどお構いなしでホシノの元へ一直線に向かってくる。

 当然ホシノが放った銃弾が命中し、強烈な眩暈がトウコを襲う。

 だが……

 

 

 それだけでは、天与の暴君は止まらない!

 

 

(まさか、釣られ……まずい!避けッ──)

 

 

 

 一閃。

 トウコの持つ刀が、ホシノの右手首を切り裂いた。

 

 

 

 

「ぐっ!?〜〜〜っ!!」

 

 ホシノは、目の前の光景が信じられなかった。これまでどんな攻撃さえ通さなかったホシノの皮膚が、まるで紙切れのようにあっさりと切断されたのだ。

 恐らくは刀の能力───そこまで考えて、ホシノは自身の右手首に走る激痛を自覚した。

 経験した事のない燃えるような痛みに、ホシノは慌てて自身の右手を押さえる。

 

 

(繋がっ……てる。手首の関節あたりで裂傷は止まっている……だが、これでは)

 

 

 暫く、銃を握れない。

 

 

「まだ続けるか?」

「…………………」

 

 

 

「……うへ、おじさんもう限界」 

 

 

 そう言ってホシノは、勢いよく仰向けに倒れた。

 まだ体は動く。右手さえ動かさなければ、戦闘自体は可能だろう。

 だが、普段なら引っ掛からないあからさまな釣りに引っ掛かってしまうほど、今の自分が冷静でない事も自覚していた。

 

 このまま続けてもいたずらに傷が増えるだけだと、ホシノはそう判断した。

 

 

 

 ───戦いは、トウコの勝利で幕を下ろした。

 

 

 

「参ったよ〜……降参降参」

「性格変わりすぎだろ。二重人格か?」

「……おじさんはおじさんだよ〜」

 

 ホシノの瞳に、いつもの暖かさが戻っていく。

 否、もしかしたら先程までの鋭さこそが、ホシノの本当の姿なのかもしれない。

 ふと、トウコはそんな事を考えて、んなもんどうでもいい事だ、とその考察を頭の隅へと追いやった。

 

「やられたよ〜……強いね、トウコちゃんは」

「あ?」

「あ」

 

 気が抜けたのか、ホシノがついトウコの事をちゃん付けで呼んでしまう。

 ……もう、する事はないと思っていたのに。

 

「あちゃ〜、ごめんごめん」

「次はねぇぞ」 

「……?」

 

 次、とトウコは言った。

 一瞬、その言葉の意味がホシノは分からなかった。

 だってホシノはもう、トウコと会う事も……

 

 

「えっ……と」

「“次”またちゃん付けしたら、オマエの頭と足引っ掴んで雑巾絞りみてぇに捻る」

 

 

 刀を肩に担ぎながら、ぶっきらぼうにトウコが言う。

 彼女の黒く短い髪を、乾いた風が揺らしていた。

 

 

「それが嫌なら精々鍛え直しとけ。今度は、俺に負けねぇくらいにな」

「……あぁ、そっか……ふふ。ふふふふっ」

 

 

 

 遠回しで曲がりくねったその言葉が、どうしようもなく不器用で

 ホシノは思わず笑ってしまった。

 

 

 

「うん、頑張ってみるよ」

 

 

 

 どこまでも穏やかに

 でも、どこか寂しく……ホシノは笑った。

 

 

 




今後の展開に行き詰まってしまったため、暫くの間投稿を停止させていただきます
本当に申し訳ありません
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