「ふふふっ……はぁ……やっぱり少年は良い……暖かくて、とても安心するよ……」
「っとと、やっぱり"先生"だったらこっちに来れるか」
「当たり前だろう? 君のためなら私は『星』だって殺してみせるよ」
「冗談に聞こえないのが怖ぇなぁ……」
「流石に冗談に決まっているだろう? まぁ、この程度のお茶目は許してくれ給え」
「はいはい」
「ん……もっと撫でてくれ……数か月ぶりの再会なんだ……」
「ん……? は……? へ……?」
目の前で繰り広げられる光景に、2人を見ていたユエは脳が破壊されそうになっていた。
自身をあの牢獄から救い出してくれた命の恩人であり、好意を抱いている異性であるハジメ。
そんな彼にふわりと近寄った女性――『先生』は、何のためらいもなく彼の胸元に顔をうずめ、嬉しそうに頬ずりをしている。
そんな光景を見て、まるで恋人を寝取られたかのような感情がユエの思考の大部分を持っていった。
――『
しかし無情かな、ユエがハジメと過ごした時間よりも、"先生"とハジメが過ごした時間の方が圧倒的に長いのだ。
しばらくした後、イチャイチャしている自身達の姿を呆然と眺めていたユエの様子を見かねたのか、気まずそうに頬を掻いたハジメが話を切り出す。
「……ところで先生。ユエはなんか先生のことを知っているみたいな反応してたんだが、それに関してはどういうことなんだ?」
「ん~……ん? あぁ、すまないね。少し余韻に浸りすぎていた。それで、そこの吸血少女がなぜ自分を知っているかについてだね。これに関しては少女に話してもらった方がよさそうだ。だろう? 吸血少女?」
「……………………は! あ、あまりのNTR展開に、の、脳が破壊されるところだった……!」
「NTR展開て……なんでそれ知ってるんだ……? というより、俺はお前と付き合ってはないんだけどな……」
正気を取り戻したユエが変なことを口走ったりしたが、このままでは話が進みそうにないと思ったユエは話し始める。
「……えっと、彼女と出会ったのは私達でヒュドラを倒した後で……」
『ハジメッ、しっかりしてっ……!』
オルクス大迷宮の最深部にて激闘を終えた直後、重症のハジメを背負いながらユエは自動で開いた扉の奥へと足を踏み入れていた。
そこには先程までの"緑光石"によって辛うじて明るさが保たれ、規則的に柱が立ち並ぶような無機質的なフロアではなく、まるで太陽のようなものがフロアの天井で輝く幻想的な場所であり、外敵の気配もなかった。
そのフロアの一室には、神殿のような場所に豪奢なベッドが設置されていた。
そこにハジメを寝かせたユエは、ハジメが持っていたポーション――"
そんな時に、
――サンッ!
『ッ!』
どこからか何かを切るような音が響いたのである。
瞬時にハジメを守るように構えるユエ。
背後を振りむけば、そこには――
『ナイ、フ……?』
――空中からナイフが生えているというべき奇妙な光景があったのである。
思わず呆けるユエだったが、明らかに異質な存在を前にして臨戦態勢に切り替える。
今優先すべきなのはハジメの安全。例え自分の命がどうなろうと――
そんな考えがよぎったが、事態はユエの予想外な方向に転がった。
空中に生えていたナイフが滑るように移動したかと思うと、そこにまるで穴が開いたかのように切れ目が開き、一人の女性が飛び出してきた。
頭髪を全体的な黒髪で覆って、そこに色素の抜けた白髪を一房伸ばしたハジメと同じくらいの身長と、息切れを起こしているのか肩で息をし、フードから覗ける瞳は、角度によって色が無限に変わり続けるようなそんな不思議な瞳を持つ女性。
そんな正体不明な相手へ、先手必勝と言わんばかりに魔法を放とうとするユエだったが……
『ハジメッ! どこにいるんだっ!?』
『!?』
ハジメの名前を不安そうに叫びながら周囲を見回す女性の姿に虚を突かれる。
――ハジメの知り合い? でもハジメは異世界から来たって……
――こんなところに人がどうやって? というかハジメを知ってる?
――本当に誰? というか空間を切った?
追いつけない状況に疑問符が浮かび続けるユエを置き去りに、女性はベッドに寝かされているハジメを見つけた女性は、すぐさまハジメに駆け寄り、彼の体に手をかざす。
『ッ! 魔力で作られた毒かっ! ヒュドラの毒ほどではないがこんなものを誰がっ! フゥー……! 落ち着け、落ち着くんだ私、彼はまだ死んでない、まだ彼は生きている、いや死なせて堪るものか、そもそもこんな状況に引きずり込んだどこぞのクソ野郎には死なんて生ぬるい地獄を見てもらわなければなぁ……!』
『…………』
ハジメの容体を、おそらく魔法のようなもので診ながら女性は怒りを迸らせていた。
その様子にある程度冷静になったユエは彼女にある程度の評価を付ける。
――彼女は信頼できる、と。
『あ、あなたは……?』
『なんだい!? あ、あぁすまないね。正気を失っていたよ。少し彼の治療を手伝ってくれないか? いや、絶対に協力してもらうよ。君は少年の仲間だろう?』
『ん、そういうあなたは?』
『『魔女』とでも呼んでくれ。そこのエーテル結晶水……君達風に言うならポーションかな? 取ってくれないかい? 少し手が離せなくてね』
『ん』
そうして、突然の来訪客に謎を残しながらも、ユエはハジメの治療に協力し……
「……そして、今に繋がる」
「なるほど……」
現在へと戻る。
3人はベッドに腰掛けながら状況を整理していた。
「"先生"は俺とユエがここにたどり着いたことで、ようやく俺達が飛ばされた異世界の座標を捕捉。すぐに駆け付けてみれば俺がボロボロになってベッドに寝かされていたことに気づき、治療を始めた。ユエはそれを手伝っていたが、結局、"先生"の正体を聞けずじまいで、今に至る、と……」
「そういうことだよ少年。本当に……本当に、よかったよ……君が生きていてくれて……」
「すみません"先生"。報告が遅れて……」
「ううん、悪いのはこんなことを起こしたクソ野郎だよ。君は悪くない」
「先生……」
「少年……」
「……私だけ除け者」
話が終わったと同時に見つめ合って甘い空気を放ちだす2人を見て、また目が死んでいくユエ。
仕方ない、彼らの関係は数か月そこらのものではなく、ハジメがユエよりも身長の低い頃からの付き合いだからだ。
ハジメ自身、ユエと出会った時からユエを蔑ろにしているわけではないが、"先生"と接しているとどうしても二人だけの空間を作ってしまうのである。
色々と素性を知らないユエにとっては除け者にされていると感じても仕方が無いのだが……。
そんな2人を見て、ユエはふと思い出したように問いかけた。
「……そういえば、貴方は何者なの? ハジメの恋人?」
「ばっ!? んなわけな――」
「んふふっ……恋人、恋人か……そう言われると心地良いものだが、私は『まだ』だと思っているよ」
「……? その距離感で、『まだ』?」
「? そうだが? 何かおかしいかい?」
「……ちょっといいハジメ?」
「あ、あぁいいけど……」
2人の言葉に含まれる意味の差異に、何かを察したユエはハジメを呼んで部屋の端に移動して、"先生"に聞こえないような大きさで話し始める。
「……ハジメ、あの人のこと好き?」
「……たぶん……」
「あの人とどこまで進んだ?」
「……一緒に寝るところまで」
「……ちくせう……それで、あの人はなんて言ってるの?」
「『君のことは好きだよ? 何かおかしいのかい?』ってさ……」
「……無自覚というよりかは距離近すぎるのが普通だと持っている系ミステリアスお姉さんキャラ……強い……!」
ユエはハジメへの質問を行ったことである程度察する。
――『あの人、恋愛感情と距離感バグってる』と。
だが、ハジメとの接し方からしてどこかでハジメのことが好きではいる。
しかし、その感情に気づいてないだけで、愛ゆえの行動力は、世界を超えたということからいろいろと察せられた。
ということは、あの人は好きな相手のためだけに世界の壁すら超えるバケモン。
だからこそ、ユエはこう言ったのだ。
『強い……!』と。
「……強力なライバルが何周も先を行っている……負けられない……」
「え、なんだって?」
「……ハジメ、これは女の戦い……私はあの人を超えねばならない」
「いやだからどういう……」
ユエの何やら覚悟を決めたような表情に疑問符を浮かべるハジメを尻目に、ユエは"先生"の元へと近づいた。
「……私はユエ。貴女の名前は?」
「私の名前かい? 私の名前は――」
「『メアリー・スー』」
「人呼んで、"ご都合主義の魔女"さ」
こうして、運命は思わぬ方向へとずれていく。
・後書き
どうも皆さん初めまして、そうでない方はお久し振りです。
クラウディと申します。
本作「ありふれていない魔女は世界最強」は、あらすじにもある通りの私の性癖を詰め合わせた作品となっており、なおかつリハビリ作品となっております。
一応タグにある通り、Fate/要素も描写していきたいのですが、いきなりそれらを描写すると色々と違和感ありそう(というか今もありそう)なので、少しずつお出ししていきたいと思っています。
気長にお待ちくださいませ!
滅茶苦茶適当に書いてしまったのに評価もらえてウレシイウレシイ……
しばらく更新できるくらいモチベが高まったので別作品も含めて応援よろしくお願いします!
それでは皆様また次回~