【書籍化】残影の英雄 ~俺が死んだらみんな曇るとか聞いてない~ 作:龍川芥/タツガワアクタ
12月25日、災玉国防学園教員棟・地下会議室。
窓のないその部屋の中では、外部の者も招いた緊急の会議が開かれていた。
卓を囲むのはこの学園周辺における人類の代表ともいえる錚々たる面子。
災玉国防学園から、学園長と教頭、特務クラス顧問。
同施設研究部門のトップたる博士と、助手の科学者数名。
防衛省から幹部と防衛大臣、更に官僚も数人同席。
そして
重苦しい雰囲気の中、口火を切ったのは現防衛大臣。
「……それで、本当なのかね。『7番』が行方を眩ませたとは」
「ええ、残念ながら事実です」
「……」
学園長のにこやかな受け答えに、再び室内に沈黙が下りる。
沈黙を破るのは、次もまた防衛省から学園の駐留している自衛隊幹部。
「学園長。確認ですが、あくまで『失踪』であって『死亡』ではないと捉えて宜しいのですな?」
「ええ。7番の生死は異能で確認できるようになっていますから」
「ならば、その7番とやらは生きたまま姿を消したということか……目的は脱走、あるいは反逆か」
ここで、今まで会議の初動を静観していた県警サイドより千刃の本部長が挙手。
「失礼。7番というのは、例の星五級異能者の事で間違いありませんか?」
「その通りです、本部長」
「ということはこの大層な会議及び我々への緊急協力要請は、たったひとりの学生が脱走したことに端を発するものだと?」
声にはどこか呆れのような、そんなことで呼ばれたのかという軽視の気配があり。
それを咎めるように教頭が声を上げる。
「……どうもは警察庁は、軍部と違って事態の深刻さを理解しておられんようですな」
「なんだと?」
「7番がもし反逆など企てれば、誰にも止めることはできません。最悪の場合、学園は機能停止し、10年間国家を守り続けた防壁に穴が空きます。アレはそういうバケモノです」
「……学園長」
「ええ、教頭先生の仰る通りに捉えて頂いて構いません。そんな特級の戦力だからこそ、7番は最強の対人兵器足りえたのですから。アレが処理した賞金首の数は、本部長もご承知の上だと思います」
言われ、ようやく事態の深刻さを理解した本部長が黙り込む。普段から瘴気災害に触れることが少ない警察も、賞金首――異能犯罪者の恐ろしさは知っている。
沈黙した警察サイドより会議を本来の流れに引き戻すのは、学園サイド、どこかいい加減な特務クラス顧問の声。
「失踪か。そうならないよう、監視として
「相手はあの国戒議事堂爆破のテロリスト『灰かぶり』との話ですから。特務クラスの監視員が排除されるのも仕方ないでしょう」
「で、では、やはり裏は取れたんじゃな? 『灰かぶり』が漆門寺ナナを仲間に引き入れたという線は……!」
「いいや、ソイツぁまだですよ博士先生ぇ」
「じゃ、じゃが状況を考えればそれで間違いあるまい? な、7番は我々を恨み復讐を……」
「その考え方は早計に過ぎる! そもそもそういう事態を防ぐために、学園側に敵意を覚えないよう教育していたという話だっただろう!」
「ええ、そうしてきたつもりです」
「けれど事実として、今このような事態が起きてしまっているではないか! 陸軍一個師団さえ凌駕する個人戦力を野に放ったこと、どう責任を取られるおつもりか!」
「あー、まだ本人の意志と決まった訳ではないでしょう。何らかの異能によるものって線も……」
「あ、あの無敵の死神がか!? それこそありえんことじゃ!」
「いや、『灰かぶり』は確か、一度7番と接敵して逃げおおせてます。異能に絶対は無い、ってもんで……相性とか色々ありますからねぇ」
場はやにわに熱を帯びていた。
会議が混沌に呑まれるその直前、ぱんと手を叩く音が冷や水を浴びせる。
軽く手を叩くことで注目を集めた学園長は、にこやかなまま言った。
「状況はどうあれ、こうなれば『廃棄』しかないでしょうね」
それで場の流れは決まった。
「それしか、ないじゃろうな……しかし、まだ耐用年数は3年も残っているのに、惜しい……」
「『漆門寺ナナ』の名前は抑止力でもあった……関東での異能犯罪が活発化する恐れもあるが」
「いいえ。『六道會』が潰れ、国内最大の異能テロリスト『夜明けの団』が弱体化した今だからこそ『廃棄』に踏み切れるのですよ。今なら『漆門寺ナナ』が消えてもプラスとマイナスの均衡はとれ、国内の不穏分子たちはそれほど勢いづかないでしょう。逆に万が一でも『夜明けの団』が『漆門寺ナナ』を擁立する状況は避けなければならないと愚考します」
「では、
「ま、待ってくれい。7番は『人造異能者計画』唯一の成功例じゃ。廃棄処分にするにしても、せめて
「それは分かるが、ならばどうやって捜索する! 消息不明なのだろう!? 生死確認の異能で捜索できないのかね!?」
「残念ながら、その異能の生死確認は副次的な効果でして、ええ。そもそも補助系の異能じたい大変珍しく……魔塵の数や居場所ならともかく、他人の居場所を感知する類のものは、今のところ覚えがありません」
「ぐぬ……」
今度は難題に会議の流れが滞る。
それを見越していたように、学園長は初動以来沈黙していた県警サイドに話を振った。
「7番は檻から逃げ出した猛獣……いえ、モンスターパニック映画の
「……その為の我々か」
「ええ。無辜の住民の安寧を守る為、是非捜索に協力して頂ければ」
「……」
と、ここで県警サイド、神亡川の警務部長の携帯が鳴った。
学園長が微笑んだまま「どうぞ」と手で許可を出す。
「……失礼」
電話は部下からであった。その内容が会議に関わりがあるかもしれないと判断し、警務部長は言う。
「たった今通報があり……不審な船を一隻、神亡川の港で発見したとのことです」
「不審船?」
「……かなり年季の入った中型の貨物船で、密航というよりはただ漂着しただけのような有様らしく……正確な調査はまだですが、今のところ、船は無人の様子だと。確認できた船の名前は……『さかい』」
「ふぅむ。そりゃあ、作戦中に7番が配置されていた船と同一っぽいですなぁ、どうも」
「ということは、7番は神亡川に流れ着いた可能性が高いですね。丁度いい」
「は……丁度いい、とは?」
学園長の言葉の真意を量りかねる面々。
そんな彼等に対して、依然にこやかに学園長は続けた。
「今回の件でわが校の戦力も消耗しましたし、かといって
「あちら? ……まさか!」
「ええ」
学園長の真意に気付いた者の脳裏には、同じ言葉が落雷めいて閃いた。
瘴気に覆われた旧都、そこから魔塵が這い出して来るのを防ぐため建てられた『国防三校』。
最も生徒数が多く、戦力育成・研究両面で成果を上げるここ『災玉国防学園』。
保有戦力は低いが、対瘴気や対魔塵の研究・兵器開発に特化した『千刃瘴魔研究大学』。
そして三つ目、最も多くの星五級異能者を保有する、国防三校屈指の武闘派校の名を――。
「――『
追手は最強の異能者集団。
逃亡せし男女の影に、天災もかくやの脅威が迫る。
『漆門寺ナナ暗殺編・真』につづく……。
という訳で久しぶりの更新、お付き合い頂きありがとうございました。
評価・感想などもありがとうございます。これは紛れもなく皆様が繋いでくれた物語、皆様の反応のお陰で続くことができた世界です。
そして今後の展望はというと……当然続きも更新する意欲はありますが、カクヨム辺りに改訂版を出そうかななども考え中です。いずれも実行に移すのがいつになるかは未定ですが、また皆様にお会いできるよう、精一杯努力させて頂く所存です。
以下は自分の書いた別の小説のうち、それなりに自信あるやつの宣伝です。
暇つぶしくらいにはなると思うので、お時間ある方は是非~。
【二次創作】
9×9=
呪術廻戦のSS。本作のサブキャラ「九々等ヤイチ」が主人公(オリ主)。人間賛歌の申し子が死滅回游に挑む。ハーメルンの呪術廻戦原作の総合評価ランキング10位以内に入った奇跡の作品です。完結済。
【オリジナル】
ワールドエンド・クラッカー -電脳魔境戦線2075-
プログラムが魔法と近似した近未来における、フルダイブ系電脳世界舞台のSFバトルファンタジー。主人公の天才ハッカー・カギヤが、プログラムという魔剣を手に、凄腕プログラマー・最強ゲーマーと協力して電脳世界の悪を討つ。イメージは血界戦線。作者のお気に入り。今にわかに続きを書きたくなっている。
デッドエンド/アフター ~ラスボス系ヒロインと行く生き返り争奪戦~
剣と魔法の世界の『地獄』で、記憶喪失の主人公・レイワードが最強のラスボス系ヒロイン・アダマリアと出逢い、共に生き返りをかけたバトロワに挑む。イメージはFate。こっから面白くなる予定なので、取り急ぎ二章までは書き切りたい。
バグDバトル、ファイト!! ~正真正銘「言ったもん勝ち」カードゲーム~
ホビアニ冷笑に逆張りした王道ホビアニ熱血小説。デジモン的な仮想存在とTRPGにも似た言ったもん勝ちカードゲームを融合させた謎の作品。イメージはアニメ遊戯王。完結済。