【書籍化】残影の英雄 ~俺が死んだらみんな曇るとか聞いてない~ 作:龍川芥/タツガワアクタ
《保健室 (ほけんしつ)》
学園内における医療施設。災玉国防学園には一棟まるごと保健室である『保健室棟』まで存在し、破格の施設面積と最新式の医療設備を完備している。所属する異能者は回復系が多いが、医療知識のある非戦闘系異能者なども一定数おり、希少な回復系異能者を支えている。
負傷したキャラクターのHPを素早く回復させることが出来る。保健室で同時に回復を行える枠には限りがあるが、保健室強化イベントをクリアすることで枠を増やすことも可能。
アイツと初めて会った時の第一印象は最悪だった。
父は「人を見る目」で成功した起業家、母は「情熱的な演奏」で有名なヴァイオリニスト。そんな2人の間に産まれた娘のアタシには、その目と心が受け継がれていた。
主に人の本質を見通す『審美眼』は、アタシに正しい友人を選ぶ力をくれた。
そしてどんな激情をも宿せる『強い心』は、アタシに異能が宿った日、この力を正義の為に使うための決意を抱かせた。
どちらもアタシの誇りだった。人が褒めそやす容姿や家の財力じゃない、この魂に結び付いた資質。
アタシの心は、感情をエネルギーにして撃ち出す異能〈
アタシの目は、学園において最高の友であり人生においてもそうなるだろう友人・
人を見る目には自信があった。
だから、私の『アイツ』に対する第一印象は最悪だった。
「俺はただの一般星三生徒だよ」
その男、
「ふぅ。死なないって分かってる戦いは気楽でいいな」
そんな彼が自分を下したとき、私は一瞬己が間違えたのだと思った。
ヒカリがあそこまで入れ込んでいるのは、その実戦的な強さのせいなのだと。
「あんまり期待しないでくれよ。俺は自分が死にそうになったら真っ先に逃げるタイプだから」
だがその後の言動を見て、その考えも改めた。
彼は別に強くも正しくも無かった。星四には絶対に及ばない異能出力、卑屈で排他的な性格、そして明らかにこちらと一線を引いた態度。
「正義とか弱者を護るとか、まあ良い事だと思うよ? 『
口を開けば己の意志の弱さを表明し、二言目には「死にたくない」。積極性もなく才能も努力も見られず、ただのらりくらりと此方の叱責を躱してくる。
こいつは駄目だ、と思った。何故ヒカリや
そう思うとアタシの激情家の部分が燃え上がって、どうしてもアイツにきつく当たってしまった。
「影宮、報告やっときなさいよ。一番役に立ってなかったんだから」
「アリサちゃん、そんな言い方って!」
「いやいいよ九瀬、事実だし。俺今日討伐数ゼロだからなー」
アイツは別に強くもないし。
「うわー、ついに来たか星四任務。俺欠席出来ない?」
「他の前衛を連れてきてくれるなら良いけど」
「……頑張りマース」
正義感も責任感も皆無だし。
「いてて……」
「かげみや、だいじょう、ぶ?」
「はぁ? この任務の何処に怪我する要素があったのよ」
「……いや、転んだ。マジで転んだだけだ」
やっぱり、ヒカリがアイツを頼ってる意味が分からなくて。
人を見る目には自信があった。
激しい性格がその判断を後押しした。
だから――あの時、アタシの体は動かなかった。
「
「しまっ――」
戦闘タイプの魔塵による一撃。前衛が他の敵を抑えている間に隙を縫って接近して来たソイツは、殺意を宿した刃をアタシに振り下ろす。
回避不能。迎撃も間に合わない。
アタシが覚悟を決めたとき。
「双咲ッ!」
刃が振り下ろされ、鮮血が舞った。
魔塵の鋭い一撃は――割り込んで来た影の刀を砕き、影宮エイトの肩を切り裂く。
影宮の背に押され、アタシごと倒れこむ。
「エイトくんっ! アリサちゃん!」
ヒカリの悲鳴に似た声。それを聞いてか、影宮はすぐさま立ち上がった。
「――ッ、痛ぇなクソ! 〈
彼は普段出しているよりも刀身の長い武器で魔塵へ反撃すると、アタシの方を振り向いて叫ぶ。
「双咲、援護を――」
その声に。
アタシは動けなかった。影宮エイトと目が合っていた。
そのとき、アタシの頭にはどうしようもない困惑が合って。
彼はそれを一瞬で察したようだった。
「ッ、ナナ子、頼む!」
言うや否や。
ずあ、と禍々しい瘴気が解放される。
「第五門解錠、
門から出て来た、体高3mはありそうな人面鳥の群れ――炎の翼を持ち溶岩を涎のように垂らす怪物の群れが魔塵を殲滅する。
そこから戦闘が終了するまではそれほど長くなかった。
ただその間、アタシは地面に尻もちを付いたまま動けなかった。
学園に帰投して。
ヒカリは報告に、漆門寺は別の任務に向かい、必然的にアタシが影宮を保健室に連れて行くことになり。その最中、アタシは気付けば謝っていた。
「……ごめんなさい」
そういうと、彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。
「は? いやまあ、良いよ別に。俺を斬ったのはあんたじゃなくて魔塵だしな」
……それはアタシを攻める言葉じゃ無かったのに、アタシは何故か納得いかなくて。
「……なんで、アタシを庇ったの?」
「いや、俺前衛だし。後衛守るのは義務みたいなもんだろ……まああの魔塵を通しちまったのも俺だから、そこは悪かったと――」
「そうじゃなくて!」
気付けば、熱い涙と共に叫んでいた。
「別に、見捨てれば良かったじゃない! アタシ、アンタにずっと酷い態度取ってたのに! なんでアンタが、命懸けでアタシを助けるのよ! 死にたくないってあんなに言ってたのに、なんで……!」
それは酷い言葉だったと思う。
だってそれは怒りの発露だったのだから。自分の見立てと違うことをしたアイツに苛立ち、そしてそんな感情を抱いてしまう己に憤り。
それでも、やはり。その男はいつものように、プライドなど無いと言わんばかりに苦笑する。
「そんなこと考える余裕なかったんだよ。星四のおまえと一緒にすんなよな」
様々な感情が溢れてしまい、保健室に連れて行くという役目さえ果たせなくなったアタシをベンチに座らせ、血に濡れた包帯まみれの彼は隣に座る。
暫くの沈黙の後、彼は静かに言った。
「……そうだな。別に、おまえに思う所が無かった訳じゃない。結構気難しいタイプっぽいし、星四と星三ってのを加味しても、まあ、あんまし良い印象は無かったよ。それでも、おまえを『3人目』にするのは嫌だった。あの場で俺が思ってたのはそれだけだ」
涙を拭い顔を上げれば、アタシの疑問を感じ取ったかのようにその横顔は続けた。
「俺は、今まで仲間を2人見殺しにしてる。きっとそいつ等が言ったのさ、『次は許さない』ってな。だからまあ、気にすんな。この怪我は俺への罰みたいなもんだ」
そのとき。
アタシの目が映したのは、いつもの卑屈で責任感の無い星三級男子の姿ではなく。
己の犯した過ちを静かに背負う、いやに大人びた少年の顔。
「2人、って……アンタ。いったい、いつから、ココに」
「ん? 俺は学園が出来たときからここに居るぜ。10年前の当時、学園の前身施設は災害孤児の受け皿みたいなもんだったしな。そのまま8年前に学園が出来て、エスカレーター式に俺も国防官予備軍の『異能者』さ。ほんとクソみたいな人生だよ」
彼の発言、態度、行動。
『取るに足らない星三級』の域を出ないその全ては、偽りの姿という訳ではないのだろう。けれど一枚うわべを剥がせば、その下からは8年間対魔塵侵略戦争の最前線で生き延び続けた歴戦の兵士の顔が覗く。
第一印象は最悪だった。でも、今は全く違う印象を抱いている。そんなこと、アタシの人生では初めての経験で。
そんな事があった次の日。
「……今まで悪かったわ。改めて、ヨロシク……何よその顔」
「いや、双咲が殊勝だと違和感が凄いなぁと」
「なっ、バカにしてるのアンタ!?」
「いやだって、普段がそんな感じじゃん双咲」
「~ッ、分かった分かりました! こっちで良いのね! じゃあ別にアタシも態度変えたりしないから!」
「げ、これ俺選択肢ミスった?」
そこから、アタシたちの関係は良い方向に変わっていった。
それは、戦場に2人だけで取り残されたとき。
「エイト、そっちの足止め頼んだ! こっちはアタシが!」
「分かった。ヤバくなったら言えよ!」
「誰に言ってんの! さっさと片付けてヒカリたちと合流するわよ!」
それは、ヒカリの目を盗んでの会話。
「アンタさ、ヒカリのことどう思ってんの? 実際のとこ」
「『どう』ってなんだよ」
「……まあ良いわ。なら好きな異性のタイプは?」
「うーん……考えた事無かったな。こちとら毎日生き残るのに必死だし」
「……はぁ。アンタ、ヒカリを泣かせたらマジ殺すからね」
「はぁ!? 今の話からどうしてソコに繋がったんだよ!?」
それは、2人で行った任務に失敗したときの帰り道。
「まさか納品用の荷物が壊れるとはな……」
「……なによ。アタシのせいってワケ?」
「まあ荷物を吹っ飛ばしたのは確かにおまえのビームだが……俺ら敵を倒すので必死だったしなぁ」
「そうよね。じゃあ違約金は折半で良いわよね」
「俺に全部吹っ掛けようとしないとか、丸くなったなー双咲」
「……よろしい。アンタがその気ならクライアントには『全部こいつのせいです』って報告してやるわ」
「おい待て、冗談だって冗談!」
その関係に名を付けるなら『悪友』だろうか。
ヒカリとのような純粋な友人関係ではない。
時に軽口を叩き合い、時に背を預け、時に喧嘩未満のやり取りをする。
そんな『悪友』。良い意味でも悪い意味でも気安い存在。早い段階で他人を見限っていたせいで友人の少なかったアタシが人生で初めて得た、どうにも言語化に窮する不思議な存在。
……そして、もしかしたら。
「ところでアンタ、ホントに恋愛話のひとつも無いの?」
「あ? ねーよそんなの。俺がモテると思うか?」
「それはない」
「ちえっ。じゃあ聞いてくんなよな……」
「うん。アンタはモテないわよ、大衆受けしないタイプね。めんどくさい女なら沢山寄ってきてるみたいだけど」
「? おまえ、まだナナ子と仲悪いのか?」
「……国語が苦手とは聞いてたけど。アンタ、ホントに馬鹿ね」
「はぁ!? 俺この前の中間赤点回避しましたけどぉ!?」
「そういう意味じゃないわよこの
お互い異能者でなかったら。
「……ほんと、馬鹿みたいね」
そんな仮定に意味など無いのに。想像してしまった「もしも」は、中々消えてくれなくて。
「そこまで言うこと無いだろ……」
「冗談よ。それよりヒカリが呼んでたわよ、次の任務があるって」
今日も笑って誤魔化した。
今のままで良いのだと、このままの距離で良いのだと己に言い聞かせるように。
まるでその『今のまま』が永遠に続くとでも錯覚して。
アタシはそのときになって初めて、自分には後悔する資格すらないことを知ったのだ。
◆
【Tips】
《学生食堂 (がくせいしょくどう)》
学生寮に併設された巨大な学生食堂。全校生徒の食事を賄うため、沢山の料理人・従業員が働いている。生徒は星の数に応じた割引を受けるので安価に食事を楽しむことが可能。
学生食堂では、お金を消費して食事を摂ることが出来る。食事には「獲得経験値上昇」「スタミナ回復速度上昇」など様々な効果があり、中には低確率で獲得できるレアな隠し効果も存在するので沢山食べて探してみよう。
◆
さて。
そんな俺は未だにしぶとく生き残っていた。いやまあ当然っちゃ当然ではある。確かに任務の難易度は上がったが、それを補って余りあるほど味方が強いからだ。
防御に回復、強化と超万能の異能〈
超火力の遠距離レーザーの火力枠〈
更には門による防御と一撃必殺級の火力を持つ〈
俺は前で耐えてればいいし、それも九瀬の盾と回復付き。正直星四任務ですら死ぬ気がしない。
……問題は俺がゲームで言う所の寄生プレイヤーもしくは要介護キャラのポジションに納まってるところだ。ただまあ、双咲の知り合いに星四の前衛職がいるっぽいので、俺は彼が怪我から復帰するまでの繋ぎ役なんだということで辛うじて納得している。
まあそんな感じで色んな任務を3人ないし4人でこなし。命を預け合うのだから否応なしに仲良くなって。
結果仲の良い友達グループみたいになった女子3人……と次の任務も一緒の俺は、学生食堂で4人用席を埋めて昼食を摂っていた。
「ほらナナちゃん、あーん」
「……ん」
九瀬が持ったスプーンの先が、ナナ子の口に吸い込まれる。
弱視のナナ子は基本手で持てるゼリーやエナジーバーしか食べて無かったのだが、それを見かねた九瀬は積極的に彼女の食事をサポートし始めた。今ではナナ子の方も一緒に食事する機会を楽しんでいるようだ。なんとなくそんな表情に見える。
まあそれは良いのだが。
「おい。俺は次の任務のミーティングがてら一緒に食事しようって聞いたから来たんだぞ。一向に作戦会議的なのが始まる気配がないんだが?」
俺が食べ終わったハンバーガーの袋をくしゃりと丸めながらぼやくと、サラダをつまむ双咲が反応する。
「うるさいわね。細かいことばっか気にしてるからモテないのよアンタ」
「……おまえだって言うほどモテないだろ。双咲って怖いし。九瀬以外の友達居るのか?」
「ええ。アタシ、ナナとも仲良くなったし」
「じゃあ九瀬とナナ子だけなんじゃねぇか……」
がやがやと騒がしい広い学食の片隅で、とりとめのない会話は続く。
「そういえばナナ、アンタとエイトってどうやって知り合ったの? 接点が想像できないんだけど」
「それ、私も気になる! ナナちゃん、教えてくれる?」
「……かげみやが、ね。ころんだとき、たすけて、くれて。うれしかった、から」
「そうだっけ? あんまし覚えて無いな。俺的には、なんか気付いたら星四任務のバックアップ要員にされてたって感じなんだが……なんだよその目は」
「かげみや、わすれ、た。つめたい」
「うーん、ちょっと酷いんじゃないエイトくん。そんな印象的な出会いを忘れられたら私だって悲しいよ」
「忘れちまったもんはしょうがねぇだろ……」
俺は不利な話題を逸らすため、ナナ子が被っている真っ黒なフード付きマントを指さす。
「そういやどうだ、その装備。九瀬がくれたんだっけ?」
普段真っ白なナナ子だが、今は黒いフードでその特徴を消していた。フードは魔鋼から作られた防御力の高い装備で、見る限り重さも無さそうだ。
「もんだい、ない。でも、ふしぎな、かんじ」
彼女が『不思議』と言うのは、きっと周囲の人間が逃げて行かないことだろう。学食内をきょろきょろと見回すナナ子だが、その視界内には悲鳴を上げる者もそそくさと場を離れる者もおらず、普通の日常風景が広がっている。
「アンタ、真っ白じゃなかったらそこまで目立たないものね。というより『全身真っ白の中等部女子』っていう見た目が有名過ぎるからバレないのかしら」
「髪の色が奇抜な人とかいっぱい居るからね、
九瀬が苦笑しながら、その天使の輪を思わせる一部だけ白金色に変色した黒髪をつまむ。と、ここで思わぬところから慰めの声が。
「くぜ、の、かみ、きれい。わたし、すき」
「え……えぇ~!? ありがとうナナちゃん、私もナナちゃんの髪好きだよっ!」
「わぷ。くる、しい……」
「あら。そういう割には嬉しそうに見えるケド」
……なんかほのぼのして来たな。
俺はごほんと咳払いし、ここに付いてきた理由である本題を尋ねる。
「ていうか『次の任務』ってマジで何なんだ? まず誰が受けたヤツだ?」
「えっとね、私とアリサちゃん、それにナナちゃん全員なんだけど。それがちょっとヘンなんだよね」
3人を代表し、双咲がスマホを見せてくる。そこには任務を通達される生徒専用アプリの画面が。
「生徒会から連絡が来たのよ。『5人までのメンバーを募って学園内で待機』ってね。しかも全員同じ内容。こんなこと初めてだし、学園歴が長いアンタに訊こうと思って」
任務の名前も無い、簡潔なメッセージ。任務コードは……E-000?
「……まさか」
「エイトくん?」
俺が
『ザザ――昼休み中すまない、生徒会長の八重桐テンカだ。任務コードE-000を待機中の生徒は、即座に高等部中央棟1階・作戦説明室Aまで集合してくれ。繰り返す――』
間違えようもないテンカ
「なに、これ」
明らかに異常な光景に、九瀬も双咲も動けずにいる。ナナ子も2人が動かない限り動かない。
そんな3人を前に、俺は急いでナナ子の手を取り歩き始めた。目的地は当然、周囲と同じ。
「エイトくん……?」
「放送は聞いたな? いいから付いてこいっ」
「それは良いけど、何か知ってるんでしょ!? 説明しなさいよっ」
人混みの中、俺は3人に語る。
「……任務コードの大別は普通A~Dまでの四種類。順に学園からの任務、生徒会からの任務、民間依頼任務、そして保健室駐在などの補助系任務。俺が五種類目の『E』を聞いたのは一度だけ、2年前の大規模瘴気災害――旧都周辺都市が前触れなく大型魔塵群の襲撃を受けた、『怪獣事件』と呼ばれてるあの大災害のときだけだ」
「『怪獣事件』……アタシが異能者になった、あの事件のときだけ……?」
思い出す。あの時もたしかこうだった。当時の生徒会長が自らアナウンスし、沢山の生徒が動員され。俺はテンカ
「これは『緊急任務』。なにかヤバいことが起きたときに大量の異能者が収集される、絶対に碌なことにならない最悪の事態だ……!」
冷や汗を流す俺の袖を、九瀬の手がぎゅっと掴んでいた。
◆
【Tips】
《千刃瘴魔研究大学 (ちばしょうまけんきゅうだいがく)》
千刃県と旧都・東凶の県境にある、国内の瘴気研究の最先端を走る研究施設兼教育施設。国防三校の中でも瘴気及び魔塵の研究を最も重要視しており、強力な異能者こそ少ないものの先進的な兵器で魔塵を撃退する手段を持つ。これには千刃県へ侵攻する魔塵の勢いが災玉・神亡川と比べると弱いことも関係している。
大学付属高校が存在し他国防二校からの生徒の引き抜きも盛ん。また国防三校の中で唯一中等部以下が存在しない学校でもある。
◆
災玉国防学園、高等部中央棟1階・作戦説明室Aにて。
高低差のある巨大な室内。地図が映された巨大なスクリーンの前で、
「急に集まって貰ってすまない。だが緊急事態だ……災玉国防学園生徒会は、ここに『緊急任務』の発令を宣言する」
軍服じみた改造制服を纏う彼女は、学園に4人のみの星五級異能者にして災玉国防学園第8代目生徒会長・
彼女は集まった作戦説明室Aの想定収容人数を大きく超える3000人を前に、彼等を呼び出した理由を説明する。
スクリーンに映し出されるのは、旧都の地図とそこからポップアップされた何かの動画。
それが旧都内で撮られたものだとはその場の全員に分かった。空には陰鬱な瘴気の雲、壊れかけの建物と這いまわる魔塵たち。だがその動画の中心に映されたものの正体を知る者は居なかった。
それは、黒い球体。縮尺的に半径10メートルはありそうな黒い球体が、廃墟と化した街の中で胎動している。
「今から12時間前、旧都内
その言葉にざわつく室内。
ある程度混乱が収まったことを見計らい、テンカは続ける。
「政府上層部はこれを『
「……国防官は?」
「国防官は動かせないと上は判断した。全国各地に広がる国防官を集結させれば、その分全国に暮らす一般市民の安全が疎かになってしまう。そもそも何故この地に我らが学び舎が建っているのかを思い出せ。旧都の異変に迅速に対応する為だろう」
誰かの問いにも素早く、威厳ある姿で答える八重桐テンカ。その言葉を唯一冷めた目で聴く少年、影宮エイトは九瀬らの横で静かに思う。
「(ま、そりゃこういう決死作戦に使われるのは俺ら学生だろうな。全国に散った国防官を旧都攻略に集結させるのは『国民の理解』が得られない。そうなるくらいなら最初から旧都対応係として建てられた国防三校がなんとかしろ、ってのが人情だ)」
彼がそうだったように、作戦説明室内に憤りや悲嘆の空気が広がりだす。
そんな空気を断ち切るように、生徒会長は強い力のこもった言葉を吐く。
「だが案ずるな。我々は強い。国防官に頼らずとも、必ずやこの任務を成し遂げられる」
その威厳に室内の空気は引き締まり、下がりかけていた士気は静かに高まった。
八重桐テンカ。『
そんな彼女は室内の真剣な空気に満足すると、生徒会メンバーの部下に指示して作戦説明を始めた。
「よろしい。それでは作戦を説明する」
スクリーンに改めて表示される、旧都の地図。そこにはいくつかの光点が点滅している。
「知っているものも多いと思うが、改めて。旧都内、特に旧
だからまず、このネームドたちを三校合同精鋭部隊で相手取る」
続いて映し出されたのは、魔塵らしき写真。
空を飛ぶ鯨に似た怪物、ビルに巻き付いた巨大な蛇、そして大量の軍勢を携えた人型の魔塵。
「ネームドにぶつける戦力は以下の通り。
旧
旧
そして旧
3つの写真が消え、新たに2つのポップアップが。
ひとつは写真……ビルらしき建物をすっぽりと覆う、目と口の付いた黒い影。
そしてもうひとつは……犯罪者の人相書きにも似たタッチで描かれたイラスト。描かれているのは……穴から出てくる魔塵?
「渋夜内に確認されているもう二体の星五魔塵、
〈監獄のジェイル〉の相手は『学院』の風神雷神兄妹が。
もう一体の〈無影のスルト〉は観測不可能のため、会敵した部隊は足止めを頼む」
その口ぶりからして、イラストの方が〈無影のスルト〉なのだろう。
そんな強敵たちだが、この場の大多数が相手するのは彼等ではない。
「以上の人員で星五級魔塵を足止めしている間に、なるべく大部隊で渋夜に突入。誰か1人でも渋夜最奥に辿り着き、異能もしくは支給される専用の魔鋼装備で『魔塵繭』を破壊するのが諸君らの任務となる。無論容易なことではないだろう。数多の魔塵と濃い瘴気が立ちはだかる危険な任務だ。突入部隊の細かい作戦は追って指示する」
ごくりと喉を鳴らす者、震える手を掴む者、そして重大な任務を遂行する覚悟を固める者。中には活躍の場を期待して笑う者も居た。
そんな生徒たちを前に、八重桐テンカは続ける。
「『魔塵繭』の孵化まで、予測ではあと8時間。それまでに我々は繭に辿り着き、これを破壊する。失敗すれば今までの比ではない脅威が――『星六級魔塵』とも言うべき怪物が誕生することになる」
『星六級』――途方もない、前例も無い、ただ凄まじい存在であることだけは分かる数字。
それを前に、災玉国防学園生徒のトップは告げた。
「これは戦争だ。敗北すれば日本の存続が危ぶまれる、1億人の命運を懸けた闘争だ。悪いがこの場の全員に、例外なく死力を尽くしてもらう」
そして、その言葉に。
九瀬ヒカリは恐怖に震え、影宮エイトはその手を静かに握って。
「これより『魔塵繭破壊作戦』の発令を宣言する。作戦準備時間は1時間。しかる
10年前から繰り返されてきた、人類と瘴気との戦争。
その新たな一幕が切って落とされた。
【Tips】
《研究部 (けんきゅうぶ)》
部活と学科が融合した特殊な部活動。所属する生徒は非戦闘系異能者が多く、魔鋼の研究・加工や瘴気の分析などを主な活動として行っている。
魔鋼の売却と加工が出来る。売却は一瞬だが、加工には作成難易度に応じた時間が必要。魔鋼を加工して完成した装備にはランダムな効果が付与され、キャラクターに装備させることで戦闘力が上昇する。