【書籍化】残影の英雄 ~俺が死んだらみんな曇るとか聞いてない~ 作:龍川芥/タツガワアクタ
特に10年前の『大侵攻』と共に現れ旧都を死の街にした異能持ちの魔塵たち……のちに『星五級』と判定されたそれらは、未だ旧都に巣食い奥部の探索を試みた異能者たちを悉く殺傷・退けて来た。
無限に配下を生み出し旧
更地と化した旧
旧
どんな機器・異能でも観測できない怪物〈
そして最も危険視される、旧
彼等星五魔塵たちは縄張りを主張するかのように大きく移動せず、旧都から外に侵攻しようともしてこない。既に(公的には)住む者の居ない街に潜む『潜在的脅威』に裂くための余裕は未だこの国には無く、星五魔塵たちは長らく放置されてきたのが実情だった。
だがここに来て状況が変わった。
旧都の中心・渋夜に出現した『魔塵繭』の存在。それが孵化した時に起こるだろう魔塵と人類のパワーバランス崩壊を防ぐため、国防三校はその最高戦力・星五異能者を収集。これまで全国区に向けていたリソースを旧都に集中し、星五魔塵と『魔塵繭』の双方を叩くことを決定したのである。
◆
暗雲のように立ち込める瘴気が、真昼の街を暗夜の色に染めている。
重たい風は肺を侵す毒素を孕み、かつて人が往来した道路を蠢くのは
この街を作り出した人類の生存を赦さぬような廃墟の中を1人、その人影は立っていた。
住人が去って久しいビルの屋上。
魔塵だらけの眼下を見下ろし、彼は立つ。
一見すれば、それは廃墟の街に似つかわしくない学生に見えた。
黒い風に、長い尾にも似た髪が揺れる。
線の細い風貌、『少年的』と『華奢』の中間に立つかのような細身の体躯は、何処か猫科の獣を思わせた。ひとつに纏めた長い後ろ髪、美しいと形容して差し支えない整った顔立ちも、血統書付きの可憐な家猫のよう。
ただその表情……少年らしい楽し気な笑み、もしくは犬歯を晒す若獅子の笑みが、その少年に猛獣の風格を与えていた。
災玉国防学園の改造制服、胸元の星の数は五。
彼こそ学園最強と名高い高等部二学年男子、名を――
「アレが星五級魔塵・〈千里のオロチ〉かぁ。デケーなー」
少年らしい高めの声に気負いは無かった。
彼は視線の先……500m程先にある、過去は『
それは蛇のようだった。
だが『蛇』と呼ぶには余りにも巨大でもあった。
200mを超える巨大なビルに幾重にも巻き付き、更に隣のビルにまで尻尾を巻き付けた、全長何㎞あるのかも分からない長大な体。
そんな怪物の前身を覆うのは、鋭く尖った漆黒の甲殻。
蛇と言うよりも
全身から漆黒の瘴気を振り撒くその蛇――超大型の星五級魔塵〈千里のオロチ〉は、黄金に輝くふたつの
その威容を遠くから観察するヤイチの耳に通信音声が届く。
『……
「ふーん。倒せそうでも狙っちゃダメ系?」
『……〈千里のオロチ〉は接敵生存率0%。学園生徒に少なくとも13人の被害を出しましたが、その異能は判明していません。分かっているのは全長5㎞を超える巨体と、旧
「成程。じゃ、オレの役割は『時間稼ぎ』と『敵戦力分析』のふたつかな。生存優先で頑張るかー」
やはり少年に気負いは無い。右耳のインカムの音量を調節しながら、野良猫が伸びをするようにのんびり
しばらくそうした後、インカムから再び声。
『14:00ジャスト、時間です。作戦を開始してください』
「りょーかーい」
そして彼は、500m先のオロチを見て。
「行くか。『移動速度:
次の瞬間、その姿は
ヤイチは拳を構え、己よりも遥かに巨大な
「先ずは一発ご挨拶ってことで! 『攻撃力:9倍』!」
言うや否や、その拳を光属性の
爆発音にすら近い音と共に、『最強』の拳が〈千里のオロチ〉に突き刺さった。
オロチの頭がぐらりと揺らぐ。
だが。
「
ヤイチは空中で拳を摩った。己が殴った魔塵の頭は若干凹んでいるようにも見えるが、分かりやすい外傷は見られない。
その巨大な蛇の頭が持ち上がり、黄金の瞳が『敵』を睨む。
「さーて。一体どんな異能を――」
ヤイチは笑いながら拳を構え……その動きと言葉が止まった。
まるで全身が石になったかのよう。
「(なんだコレ。動けねぇ?)」
黄金の瞳が、人間を睨む。
未だ判明しない〈千里のオロチ〉の異能、のちに命名されるその名は〈
動けないヤイチを前に、蛇の王はがぱりと大口を開けた。
「
ずらりと口内に敷き詰められた、無数の大剣のような牙。奈落の穴を思わせる喉からは物理的破壊力さえある咆哮が放たれる。
そして千里のオロチは、その家ごと呑み込めそうな口でヤイチを噛み――圧殺するために渾身の力で顎を閉じた後、首をしならせて地面に投げ飛ばした。
ズガン! と建物ひとつを破壊しながら、200m以上の距離を1秒で落下したヤイチが地面に激突。更にオロチは直径10mはあるだろう尾を叩きつけて追撃する。
破壊音が街を揺らす。粉塵と瓦礫が吹き飛び、隕石が激突したかのようなクレーターが街に刻まれた。
そんなクレーターの中心で……何10tもある尾を持ち上げながら、その男は。
「……ふぅ。ヒヤッとしたぜ」
九々等ヤイチ、異能〈
彼は『移動速度:9倍』を発動させて、オロチの攻撃圏半径200mから瞬時に離脱。
1秒も経たない時の後。
廃ビルの屋上、貯水タンクの影でオロチの『視線』を切りながら九々等ヤイチは考える。
「(オロチの異能は『動けなくする異能』。発動条件は多分『視界に入ったら』だな。口の中に入った時と尻尾に潰されたときは普通に動けたし。……こりゃ接敵生存率ゼロも納得だ。とんでもない初見殺しだもんなー)」
〈
「(これから何時間か戦うんだ。一旦細かい仕様を知っとかないとなー)」
彼は周囲を軽く見分し……道路に放置されていた大型トラックを発見。50mを飛び降り、周囲の魔塵5体を3秒足らずで撃破した後、大型トラックを両手で持ち上げる。
「『――倍』」
彼は何かを呟き。
そして、そのまま全力で大型トラックを
「オラァ!」
瞬間、『移動速度:9倍』でヤイチは飛んだトラックの上に乗り、その荷台に触れ。
「トラックの『飛距離:9倍』!」
大型トラックが砲弾のように空を舞う。
そのまま5t近い質量は、200m先の千里のオロチの顔面へ。
「
鉄の砲弾を捉え、黄金の双眼が輝く。
それによりトラックの荷台を掴んだヤイチの動きは止まる――だが、トラックの飛翔は止まらない。
トラックはオロチの額に激突、大爆発を起こす。
だが硬い甲殻に覆われたオロチも、そして空中に投げ出されたヤイチも無傷。
「(俺の異能は『9倍』にしたものに
ヤイチは心の中で異能を唱え、後ろ髪の『長さ:9倍』を発動。尻尾のようなポニーテールが9倍の長さに伸びる。
「(慣性の法則・落下速度もある程度減衰してるな。だが異能の発動は止まらねぇ。止めれるのは『生物』だけかな?)」
すぐに『長さ:9倍』を解除し――回避できないヤイチの体に、オロチの頭がハンマーのように叩きつけられる。再び地面に激突し爆発のような土煙を上げたヤイチは、しかし一瞬でその場を離脱。
高速でオロチの頭の後ろ方向に回り込みながら思考を続ける彼の体に、やはり傷は無い。
「(視界が広いし、攻撃力も高い。蛇の体・飛び道具が無い都合上、攻撃後は敵の視界が切れて動けるようになるのは助かるな)」
そして出した結論は。
「相性が微妙だなー。オレより生徒会長の方が適正なんじゃね? コレ」
ヤイチの脳裏にあるのは生徒会長・
その八重桐テンカは、今は〈無尽のカイザー〉の相手中。そもそもヤイチに援軍が送られる予定は無い。
「ま、オレはオレらしく、いつも通りにゴリ押しで突破しますか!」
それでも、彼に悲壮感は無かった。
オロチの金眼が、高速で動き回っていたヤイチを捉える。
「『異能耐性:9倍』」
それはわざとヤイチが視界に入ったからだったが、彼の望みと違いその体は再び動かなくなった。軽く藻掻くも、結果は変わらない。
「(『身体能力:9倍』でも動けないんか……やっぱ力場じゃなくて概念干渉、対象に『動けない』という概念を付与する異能っぽいなぁ)」
尻尾の一撃で300mは飛ばされ、ビルの壁面に突き刺さる。
既に放棄された、そして今ヤイチが激突した衝撃にぐちゃぐちゃになったオフィスの中でぐーぱーと動きを確認する彼は、やはり無傷。
「よし。そろそろ良いだろ」
――『分析力:9倍』、解除。
九々等ヤイチはこの戦闘中、ほぼ常に『分析力:9倍』を使用しながら戦っていた。彼がそれを解いたのは、攻撃を喰らう時とトラックを投げたときだけ。それ以外はずっと『分析力:9倍』を使用し、相手の手の内を素早く・正確に分析していたのだ。
そして今、データは揃った。
九々等ヤイチ、異能〈
その異能は――
「(『身体能力:9倍』と併用……『移動速度:9倍』)」
瞬間、全てを吹き飛ばすソニックブームと共にその肉体は音を超えた。
人間の移動速度の最高水準をウサイン・ボルトの時速45㎞とするなら、星五級に相応しい身体強化を持つ九々等ヤイチの最高速度は時速約200㎞。
それを『9倍』すれば彼の体は音速を超え。
そして、それを更に『9倍』すれば、その肉体が宿す速度はマッハ10にも達する。
全てを追い越す速度で〈千里のオロチ〉の背後を取り、その首裏に肉薄した九々等ヤイチは獰猛に笑う。
「ブチ抜いてやるよ――」
彼が使うのは『身体能力:9倍』、さらに併用して『身体能力:9倍』。
「『身体能力:
それは、言ってしまえば簡単な話。『9倍を更に9倍すれば81倍になる』。
だが素のパンチ力3000㎏を超える彼が、その81倍の力を得れば――それは神をも慄かせる拳となる。
「――『
神殺の拳が神速で閃く。
81倍の膂力、81倍の速度で繰り出された一瞬のうちの9連撃。
ズガンッッッ!!!! と世界が揺れる。それは最早雷鳴だった。
凄まじい衝撃が街を駆け抜け、〈千里のオロチ〉の後頭部を吹き飛ばす。
巨大な首は殆どが抉れ、辛うじて頭と体が繋がっている状態。傷口から膨大な瘴気が漏れ、大蛇の体はぐらりと揺れる。生物なら例外なく死に至る致命傷。
しかし。
「あれ。手応えあったと思ったが」
金の瞳が、明確な殺意を宿して九々等ヤイチの姿を捉えた。
空中で動けなくなった彼の前で、オロチの巨大な傷口が再生していく。『気体であり固体』である魔塵だからこその再生能力。
だが再び『分析力:9倍』、更に併用して『思考速度:9倍』を使用するヤイチは違和感を抱く。
「(高位魔塵特有の超再生能力? 頭が半分潰れても死なない奴は今までも居たが、なんか違和感あるんだよなぁ。やけに再生も早いし……まるで
と、ここでヤイチは気付いた。
再生する後頭部、金の眼の後ろに……今までは無かった紅い光が形成されていることに。
「
「(眼が増えた……金に加え赤の眼か……!)」
本能的に『防御力:81倍』を使い――次の瞬間その体は爆発した。否、正確には、爆発と見まがうほどに素早く、全身を呑み込む巨大な炎に包まれたのだ。
「
そのまま炎は連続、動けないヤイチを幾重にも爆風が襲う。何度も、何度も。新たな紅蓮がヤイチの前身を焼き尽くさんと燃え上がる。
その衝撃で、彼は
だが今までと違うのは――金と紅の2対4個の眼が、瓦礫の山に半身が埋まった九々等ヤイチを凝視しているという事。
その体は未だ燃え続けており、また動かせもしない。
「(やけに透明度の高い炎……『視界に入れた敵の動きを止める』異能に『視界に入れたまま敵を焼く炎』ってほぼデスコンだなこれ。いやぁこりゃやべー、今はまだ無傷だがこのままじゃ一酸化炭素中毒で死ぬぜ……よし)」
瞬間。九々等ヤイチの姿がぐにゃりと歪み、オロチの視界から消滅する。
「『防御力:9倍』のまま、俺の前面に触れてた空気の『光の屈折率:9倍』」
光の屈折率が異常に高くなった結果、オロチの視線を遮ったのだ。
そしてヤイチは再び高速化して離脱。その肌の一部は、ほんの少しだけ
「――『戦術思考力:9倍』、『自然治癒力:9倍』」
異能を起動しながら考える。
「(オレの異能で同時に『9倍』化出来るのは
200mほど先では、怒り狂った〈千里オロチ〉が周囲の建物を片っ端から蹂躙している。その目は200m先のヤイチを捉えることは出来ないようだが、ビルよりも巨大な怪物が暴れ回るというのは単純に凄まじい被害を生み出していた。そしてその規格外のスケール故に、アレが渋夜周辺に被害を出すのは時間の問題にも思えた。
つまりここからが九々等ヤイチの仕事。見た者を停止させる眼と謎の火炎能力を持つ怪物を、神宿内に数時間足止めしなければならない。しかも単騎で。
……それでも。やはり彼に悲壮感は無かった。寧ろ若獅子の笑みはより凄みを増していた。
「こっからが本番か。そんじゃまぁ、しっかり時間稼ぎやりますかね!」
『移動速度:81倍』。
ぱしん、と拳を合わせ、学園最強は飛翔した。
◆
【☆☆☆☆☆ 九々等ヤイチ】
▶異能
パワーオブナイン
〈究ノ弐条〉
■性質:近接・概念干渉 ■属性:光
■ステータス
[基本六項目]
攻撃力 :★★★★★★
防御力 :★★★★★
機動力 :★★★★★
操作性 :★★★★☆
射程距離:★☆☆☆☆
効果持続:★★★★☆
[特殊二項目]
特殊技能:★★★★☆
身体強化:★★★★★
<総合異能ランク> ★★★★★
■概要
自分と触れたものに帰属するあらゆる要素……身体能力や物質の大きさなどを『9倍』にする概念干渉型の異能。同時にふたつのものまで『9倍』にでき、同じ概念に対してふたつ同時に使えば『81倍』にすることが出来る。
◆
同日、旧都内
ズズン、と地が揺れる音を聴きながら、その人物は瘴気渦巻く街の中で呟く。
「……あちらは始まったか。この派手な音は
黒い風に艶やかな黒髪が揺れる。
軍服に似た改造制服。怜悧な美貌を軍帽で隠し、腰には4本の
威風堂々たる立ち姿で廃都に単騎構える彼女の名は
そんな彼女の制服、ポケットの中で携帯が鳴った。
「む」
スマホを取り出し画面を見て……己を呼び出した者の名前を確認し、テンカはノータイムで電話に出た。
「エイトか」
電話先の『弟』は言う。
『テンカ
それは作戦について重要な情報。それを彼が己に持ってきたという事実に満足しつつ、彼女は答える。
「分かった、作戦参謀に話は通しておく」
と、ここで電話先の『弟』が通話を切ろうとしている気配に気づいたテンカは素早く「それと」という言葉を差し込んだ。
「死ぬなよ、エイト。もしも勝手に死んだら――」
『殺す、だろ。分かってるよ』
「ならば良い。また学園でな」
ふ、と笑いながら通話を切り、生徒会メンバーの後輩である参謀に今受け取った情報を送信する。
彼女は上機嫌だった。『弟』から電話をかけてくることなど滅多にないので、それが緊急時特有の事態だと理解していても口角が上がるのを止められなかった。
上機嫌に微笑み、ランウェイを歩くように一歩踏み出し。
「さて。では――こちらも始めるか」
眼前。
八重桐テンカの前には、道を埋め尽くすほど大量の魔塵が構えていた。
前列に構えるのは漆黒の鎧を纏った兵士。剣、槍、弓……その武器は多種多様で、無機質に武器を構える姿は彫像を思わせる。
その奥に並ぶのは、騎馬に似た
他にも錫杖を構え真っ黒な法衣らしきものを着た魔塵、短剣を構えた暗殺者じみた魔塵、重そうな鎧を着て大きな盾を構えた魔塵などその種別は様々だ。
極めつけは、体長5mはあるだろうひときわ大きな2体の魔塵。男性的なシルエットで大剣を構える右側と、女性的なシルエットで大鎌を携えた左側。その2体は他の魔塵よりも濃く禍々しい瘴気を纏っている。
そんな2体の間に君臨する魔塵――その頭には闇色に光る『王冠』が浮かんでおり、その個体こそがこの『軍』の指揮者であることを明確に物語っていた。
星五級魔塵、〈
そんな1000体は下らないだろう星五級魔塵の軍勢を前に、彼女はあくまで優雅に呟く。
「〈
八重桐テンカ、異能〈
即ち――自身が触れたことのある刀剣を、浮遊させ意のままに操る異能。
「征こうか、我が『軍勢』よ」
つい、とテンカは右手を前に上げた。舞いにも似た上品な仕草だった。
「
彼女の腰に下げていた4本の
当然、それだけでは終わらない。
剣は主の元は馳せ参じるため動き出す。
旧湊区にあらかじめ搬入されていた、自立走行可能な軍用運搬用装甲車12台。
その荷台に詰め込まれていた1000の剣が浮かび上がり、八重桐テンカの元へ飛翔する。
西洋両刃剣、片刃剣、青龍刀、日本刀。
レイピア、フランベルジュ、ソードブレイカー、バスターソード、クレイモア、グラディウス、エストック……多種多様な剣、剣、剣。
千の刃が、旧都の空を埋め尽くす。
それこそが八重桐テンカの『剣』。思うままに振るえるひとつの武器。
やはり舞うように、その手が振り下ろされる。その動きに追従するように千振りの剣は降り注ぐ。
「『
ザザザザザザザザザザ!! とこの世のものとは思えない異音と共に、千の剣は魔塵の兵団を打ち据えた。
正に鋼の豪雨。千の斬撃。
兵士、騎兵、僧侶、暗殺兵……魔塵軍の約100騎が剣に貫かれて消滅する。〈
だが、それだけでは終わらない。
テンカは手を開き、緩く回転させる。すると剣は敵軍の中でぐるぐると回転を始めた。
「『型式・
鋼鉄の竜巻、もしくは刃による洗濯機。
ミキサーの中に閉じ込められたかのような猛攻で、更に魔塵兵100体が消滅。
次にテンカはつい、と手を高く掲げる。すると剣は近くの魔塵を斬りつけながら上へ。
「『型式・
上空に集まる剣は、小魚の群れのように集まって鈍色の巨大な塊となる。
敵軍の頭上に現れた鋼鉄の暗雲。その支配権は、地上に立つ主の手の中に。
八重桐テンカは品のある仕草で、掲げたその手を下へ。
「『型式・
鉄の塊が地上に激突した。隕石でも降って来たかのような光景だった。
最低500の魔塵兵が崩壊・消滅する。
しかしテンカは眉を
「(……
敵軍、変わらず1000騎。
魔塵たちの陣の最奥、王冠を被った魔塵〈無尽のカイザー〉が両手を広げる。すると剣に倒れた魔塵たちが復活するように生成される。
「『型式・
千振りの剣を操り減らない敵軍を斬り刻みながらテンカは呟く。
「これでは決め手にならんか」
彼女の元に飛翔する矢、投げ槍、大砲の弾。
それを防御用に残しておいた4本の
「
装甲車の荷台から、更に100の剣が主の元へ。
その剣は形こそ様々だったが、例外なく『瘴気』を纏っていた。
〈
そして星四級以上の『魔鋼武器』は、その内に『異能』を宿す。かつての姿、魔塵であった頃に持っていた異能を。
それは例えば、『妖刀・
『月景』の刀身が騎兵魔塵の『影』を斬る。すると影の切り裂いた部分、騎兵の首がぽろりと落ちる。
『妖刀・
それは例えば、『魔剣バルムンク』という銘の西洋剣。
『バルムンク』が巨大化。5mを超す刀身が敵陣のど真ん中で振り回され、周囲の魔塵を吹き飛ばす。
『魔剣バルムンク』は異能の力により、そのサイズを元の5倍にまで巨大化できる。
それは例えば、『
『アビスソード』が兵士の剣と激突する……するとその兵士の剣はじりじりと漆黒の刀身に吸い込まれ、分解されて消えていく。剣が折れ、兵士本体がそうなるのは時間の問題だった。
『
または『
または『
または『ピアニッシモ・レイピア』という銘の、刺されれば仲間との意思疎通が出来なくなる剣。
または、または、または……。
星五異能者特権と生徒会長特権をフルに使い、集めに集めた魔鋼武器の数々。
戦場を炎が渦巻き、水が濡らし、氷が凍らせ、雷が流れ、風が切り裂き、そして鉄の刃たちが荒れ狂う。
幾多の魔塵兵が消滅して減り、また生成されて増え、そして再び減り……。そんな中、一度も死んでいない魔塵が居た。
一体は3mを超える長身で、大剣を振り回して剣の嵐を叩き落す男性型の魔塵。そしてその対となる、大鎌で魔鋼武器を叩き割った女性型の魔塵。そしてその2体に守られた、王冠を被った〈無尽のカイザー〉本体。
その3騎の姿を確認し、八重桐テンカは怜悧に笑う。
「さて。その『特別製』と『本体』が雑兵と同じように増やせるのか試してみるか」
彼女が虚空に構えるのは、一振りの剣。
その属性は光。
かつて『怪獣事件』と呼ばれた大事件で現れ、八重桐テンカに討たれた星五級魔塵〈巨剣のスサノオ〉の死骸から作られた、その剣の銘は。
「抜刀――星五級魔鋼武器、神剣『
神々しい光属性の瘴気を纏うその剣は、主の
「
『
大剣と大鎌が交叉し、神の剣を迎え撃つ。
だが。
「無駄だ」
大剣と大鎌は、最初から実態など無かったかのように一瞬で斬り裂かれた。慌てた2体がその巨大な体を挟み込むも、それすら一瞬で貫通する。
『
即ち――。
「『型式・
〈無尽のカイザー〉の首を、防御しようとした両腕ごと光の剣が斬り裂いた。
――星五級魔鋼武器『
「
ぽとり、と王冠の乗った首が落ち、その体が瘴気となって消滅する。
戦闘は終わった……かに思えた。
だが。
陣の中に居た魔塵兵のひとり。その頭上に、闇色に輝く王冠が出現した。
『王』になったその魔塵――〈無尽のカイザー〉は、異能を起動し3m級の魔塵を含んだ魔塵兵たちを異常な速度で生成する。
1秒後、そこには最初よりも多い2000騎の魔塵の軍勢が在った。
それを見る八重桐テンカに焦りはない。優雅な仕草で『
「成程。流石は星五級と言うべきかな。私1人では殺しきれない……上が10年も放置するワケだ。切羽詰まらなければこんな化物は放置しておきたいものな」
〈無尽のカイザー〉の異能〈
そんな相手を前に、しかし八重桐テンカは一歩も退かない。
「追加。千刃、抜剣」
今度は災玉国防学園の武器庫の中から湊区まで飛んで来た1000振りの剣が、テンカの『軍勢』に合流・加勢した。
〈
八重桐テンカが生涯で触れた剣の数は、総数にして3万325本。その全ては、例外なく彼女の支配下に。
「さて。私が精度を失わず操作できる剣の数
無限の剣を支配する女将軍は、無尽の兵を生み出す怪物と真正面から対峙し尚笑む。
彼女の目的はただひとつ。不死身に近い〈無尽のカイザー〉を作戦終了まで湊区に押し留め、『渋夜突入隊』の安全を確保する。それが生徒会長としての、星五異能者としての責務。
そして……個人としての八重桐テンカが思うのは、『突入隊』の中に居るひとりの少年の事。
かつて生涯共に在ると信じ、誓い。
そして瘴気災害によってその道を分かたれた愛しい弟分の少年。
『最後の家族』とも言える彼、
「〈無尽のカイザー〉、私とおまえ、2人きりでの『戦争』だ。とびきりのステップを踏もうじゃないか」
災玉国防学園の生徒会長による、世界で最も熾烈で優雅な『時間稼ぎ』が始まった。
【☆☆☆☆☆ 八重桐テンカ】
▶異能
ブレードルーラー
〈百剣繚乱〉
■性質:遠距離・物質操作 ■属性:土
■ステータス
[基本六項目]
攻撃力 :★★★★★
防御力 :★★★★☆
機動力 :★★★★☆
操作性 :★★★★★
射程距離:★★★★☆
効果持続:★★★★★
[特殊二項目]
特殊技能:★☆☆☆☆
身体強化:★★★★★
<総合異能ランク> ★★★★★
■概要
自身が触れたことのある刀剣を浮遊させ操る異能。操作可能な最大数は無限だが、数が多い程精密な操作が出来なくなっていく。集団戦・殲滅戦において真価を発揮。