矛盾の呪いをかけられて 作:ブリッジ
作者のモチベーションや本編の進行に合わせて書きますが、基本不定期更新となるのでご注意ください。
あと処女作で駄文です…。
「黒魔道士ゼレフ?」
ハイターはかつての冒険の仲間であるフリーレンから思わぬ問いかけを受けていた。
死者の蘇生や不死の魔法が描かれていると噂の魔導書を手に入れ、その解読を彼女に頼んでいた際の出来事だった。
「そう。ハイターなら何か知らないかと思って。」
「…一度だけ、記録を見た記憶があります。」
記憶の奥底に残っていたのか、彼女の質問に少し時間をかけながらもハイターは答えた。
その返答を聞いたフリーレンは表情を変えず、ハイターの様子を伺い続けていた。
「教会にいた頃に?」
「ええ。神すらも慄く大罪を犯したために神から呪いを受けた大魔法使い、それこそが黒魔道士ゼレフだと記録が遺してありました。」
「神すらも慄く大罪…。」
「失礼ですが、フリーレンは何故そのような太古の人物の事を?伝承では人間なので、あなたが神代から生きていない限り会うことは無かったと思うのですが。」
「流石に私も神話の時代にはまだ生まれてないよ。でもゼレフは死んでない。今も人間でありながら生き続けているよ。」
「本当ですか?ですが仮に事実だとして、その黒魔道士は既に何万年も生きていることになりますよ。そんな、エルフの長老じゃあるまいし…。」
「いいや、ゼレフは間違いなく神話の時代から生き続けている。彼が受けた呪いのおかげでね。」
「大罪の罰として神から下された呪いですか…。フリーレンは呪いの効果について、何か知っているんですか?」
「うん、一応知ってはいるよ。」
「お聞きしても?」
「構わないよ。呪いの名前はアンクセラムの呪い。矛盾の呪いとも謂うね。」
「矛盾の呪い…。聞かない呪いですね、どのような物なのですか?」
「生命を尊く思うほど死のエネルギーを放出して周りの命を奪ってしまい、逆に尊く思わなければ命を奪うことはなくなる。これに掛かった者は不老不死にされ、断食・斬首などあらゆる方法を用いても死ぬことはできない。傷を負っても時間の経過で完治してしまう。そして自分の考えていることすら矛盾していく。
ようは不老不死でゆっくりと精神が壊れて行く中、自害もできず彷徨い続ける哀しい呪いだよ。」
「…恐ろしい効果ですね。ゼレフはどのような大罪を犯してこの呪いを?」
「死者の蘇生。」
「…まさか。」
「そう、ゼレフは死んだ家族を蘇らせて神の怒りを買ったんだ。」
「死者の蘇生…。まさか実在していたとは。」
「うん、だからこの話を聞いてもまだ本気でこれを解読して欲しいか聞きたくて。」
「……その魔導書に本当に書かれているかを確かめなければなりません。」
「そっか。いいよ、やってあげる。」
「感謝しますよ、フリーレン。」
「いいよ別に。でも今更こんな物解読してどうするのさ。死ぬのは怖くないんじゃなかったの?」
「理由は二つあります。ひとつはあなた達の手前恰好を付けていたから。もうひとつは前より死ぬのが怖くなったからです。」
自身の恐怖を打ち明けたハイターはその後、真顔のフリーレンに向けはにかんで続けた。
「まあ、不死とはいわずほんの少しだけ時間が欲しいと思っていたらとんでもないものが出てきてしまいましたが。いやはや、聖典にある健やかに生きよという文言を遂行するのは簡単ではありませんね。」
「…生臭坊主。」
少し間を空けてから、ハイターはなんでもないかのように追加の提案をした。
「───それと解読の片手間で構わないので、フェルンに魔法を教えてあげてはくれませんか?
私は僧侶なのでどうも勝手がわからないのです。」
「まあ、そのくらいなら。」
フリーレンはいつも通り感情が読みにくい表情でそう言い残すと、立ち去るハイターを尻目に賢者エーヴィヒの魔導書を開いて軽く中身の解読を開始した。
恐らくここに記されているのは死者蘇生の魔法ではない。
フリーレンの知識と理性がそう告げていた。
しかしフリーレンは実際にゼレフに会った事があった。
死者蘇生の魔法を生み出した張本人と面識があるだけに、彼女はこの魔導書にその魔法と同様のものか類似する魔法が記されていないと断言する事ができなかった。
それに死者蘇生の魔法を知る事ができれば、もしかしたら…。
もしかしたら、先生と出会う遥か昔、短い間だったが幼い自分に魔法を教えてくれた人を地獄から解放する何かの助けになるかも知れない。
だから彼女は偽物である可能性が高いと思っていても、仲間からの頼みを断る事は出来なかった。
こうしてフリーレンは四年半の歳月をかけて解読に成功し、仲間の遺した弟子のフェルンを連れて旅に出た。
ハイターの最後を看取り、彼の墓に酒を飲ませてからの旅立ちだった。
馬車に揺られながら過ぎゆく景色を尻目に、フリーレンは自分が解読した魔導書について思い出していた。
エーヴィヒの書に記録されていたのは死者の蘇生や不老の魔法ではなく、エーヴィヒ自身が師事した魔法使いとその教えについて書かれたものだった。
その事実にフリーレンが気付いた時、彼女は運命のいたずらではないかと考える程に出来すぎた偶然と巡り合った。
エーヴィヒの師は件のゼレフであり、幼い頃に兄弟子の魔導王オーガストと共にゼレフの従者として世界を巡った事が綴られていた。
その指導法についても記されており、フリーレンが千年近く慣れ親しんだ先生の魔法体系とは全く違う考えに基づいた魔法と事象の数々が記録されていた。
この事実は魔法収集家であるフリーレンの好奇心を大いに刺激し、彼女の気分を高揚させるには十分なものだった。
故に彼女は思ったのだ。ヒンメルの後は、ゼレフの事も知らないとな。
フリーレンはかつて故郷の森で出会った変な黒魔道士の少年の事を思い出し、少しだけ微笑んだ。
この物語は、エルフが悠久の時を生きる黒魔道士を送り出す物語である。
短いプロローグですが、読んでいただいてありがとうございました。