矛盾の呪いをかけられて 作:ブリッジ
なんか書けてしまった
追記:バーに色ついててびっくりしてます。ありがとう!
加筆修正しました
気付いたら転生していた。
本当に唐突だったな。目が覚めると真っ暗な場所にいて、身動きも取れず永遠にも思える時間を同じ場所で過ごしていた。
自分が転生した事に気が付いたのは、自分の後頭部から誰かに話しかけられた時だった。
急に「早く会いたいよ、ゼレフ」だなんて話しかけられ、酷く混乱したのが懐かしい。
あの時は自分がゼレフと呼ばれたのではなく、自分の気が狂って聞こえてきた幻聴だと思っていたけど。
でも俺の名前はゼレフじゃないし、攫われて監禁され勝手に別の名前を付けられでもしない限り、別の名前で呼び親しまれる事なんてないだろう。
それに名前を呼ぶ声には慈愛を感じた。だから自分は転生したのかも知れないと考えた。
そして母親のお腹から出て、久しぶりに外気を吸い込んで初めて自分が子供になったのだとはじめて理解した。
だって仕方ないだろう?目が覚めると真っ暗な、水で満たされたどこかにいたんだ。
最初はSF物でよくあるカプセルの中で培養されてる実験体にでもなったのかと錯覚したりもした。
色んな最悪を想像していたけど、誰がもう一度赤ん坊からやり直すだなんて想像できるんだ。
完全に割り切れたのも、父親が記念写真のノリでやった「姿を写して記録する魔法」で記録された自分の姿を見たからだ。
それまでは悪い夢でも見ているのではないかと思っていたが、その魔法を見て実際に触れた時に自分が生きてここにいるのだと分かった。
そこからは激動の幼少期を過ごした。
魔法の存在や、まるで古代を彷彿とさせる身も周りのものに慣れるのに時間が掛かった。
言葉は胎児の頃から聞き続けていたため、習得するのにそこまで時間は掛からなかった。
子供の頃の方が新しい言語を覚えやすいのと同じ感じなのかな。
一番苦労したのは匂いとご飯の味だ。
魔法も中々に苦戦したのだが、そっちは慣れる事でなんとか出来た。
でも飯の味と匂いになれる日は来なかった。
いやだって、現代人にとっては人間の排泄物の臭いが四六時中するのは辛すぎるでしょ。
ご飯も味付けがほぼないし、最近の癒しは果物と焼いた肉くらいだ。
でもご飯を食べる時も排泄物の臭いがするし、癒しの果物を食べていても気分は最悪だ。
だから俺は魔法にのめり込んだので。自分で魔法を開発し、なんとしてでもこの悪臭を消し去ってやろうと。
後は食べ物の味を変える魔法とかも欲しい。
そうすれば最悪その辺の草や虫も、目を瞑れば御馳走として食べられる。
こうして三歳から魔法の基礎を父親から学び始めた俺は、七年の歳月を経て臭いの問題を解決する事に成功した。
ちなみに臭いを消す魔法は作らなかった。
え?問題が解決してない?
いいや、それがちゃんと出来たのだ。俺が作ったのは「物を素早く分解する魔法」である。
これで村の近辺の排泄物やゴミを分解し、コンポストのノリで堆肥として畑にまいてやった。
おかげで臭いの問題はある程度解決し、村の食糧事情も少し改善された。
成果が出た時の村長の顔が面白かったな。
他の畑と比較してうちの作物の方が出来が良かったのを目撃した時には飛び跳ねて喜んでくれた。
その功績のおかげでか、村長は俺に魔法の師匠をつけてくれると言った。
父親も村で随一の魔法使いなのだが、狩りなどで不在なことも珍しくないのと、脳筋気味でうまく指導できないからという理由で父親が自分から別の人をと言い出したらしい。
最初はわざわざ別の人から学ばなくてもと思っていた俺だが、父親と真面目に話し合った事で新しい先生の招聘を受け入れる事を決めた。
そしてこの時の話し合いを機に父親の事を父上と呼ぶ事にした。
理由は特にないが、心の中で父親よりかはいいのではないかと思う。多分。
新しい先生の到着までは半年はかかるとの事なので、それまでは今までと同じように父上の指導の下で魔法を教わり続けた。
それと俺も一応一人前の魔法使いだと太鼓判を押されはしているので、村の奥に広がる広大な森への立ち入りを許されている。
ここは本来村の狩人以外は立ち入らず、子供も入る事を禁じられているのだが一人前の俺は許された。
ただ森の奥深くへの侵入はまだ禁止とのこと。
まあ、魔法がある世界なのだから危険な魔物がうじゃうじゃいるんだろう。
俺も死にたくないので、素直に村の掟に従って入らない。でもいつか行ってみたいとは思う。
先生の到着までは父上の指導が続くが、狩りや村の人の護衛で不在なことも珍しくない。
だから俺は森に入って暇を潰しつつ、ここに生まれる前の世界ではもう見れないような大自然の中を駆け巡った。
森にいるのだから危険な捕食者に出会う自邪意も当然珍しくなく、戦う機会もあればやり過ごすこともある。
最近は気付かれずやり過ごすためにひたすらに気配を消し続けるなどしている。
自慢ではないが、父上ですら俺を見つけられない時があるほどに気配を消すのは上手くなった。
元からの存在感が薄い?分解するぞお前ら。
おほん。後は自分の魔力を相手から見えないようにしている。
これに関しては数秒くらいしかできないのだが、近付くと逃げていく動物に触れたりする時に使う技だ。
イメージ的には自分の魔力を大気に溶かし込む感じだろうか。瞑想とかして、その末に数秒できたりする。
はじめは魔物が死ぬと魔力に変換されて消えるのを目撃したので、俺もそのノリで疑似的な死でその場にいないように錯覚させて動物に触れられないか試したのが始まりだった。
これ何気に自分がやってる事結構すごいのでは?とか思ったら、ガキの厨二心か知らないがこっち方面の修行が進んでしまった。
とはいっても未だに動物に触れた試しがないのだが。だって数秒で探して撫でるとか、そんなの瞬間移動や時間でも止めない限り不可能だろう。
そもそも時間を止めたらこれをやる意味が消えるわ。
いや、時間を止めたら動物も動かないから撫でても剥製と同じようにしか感じられないか。
時間停止は無しだな。そもそも出来ないけど。
そんな風に森で過ごしていたある日、声が聞こえた。
何なのかは分からなかったが、村では聞いたことのない子供の声が聞こえた。
だから声のする方に向かったのだが、変な魔物に遭遇した。
声のする岩陰に寄ったら飛びかかられて、反射的に魔法で撃ち抜いてしまった。
最初はやらかしたと冷や汗を流したが、撃ち抜かれた子供(仮)を見ると魔力に還ったので魔物だと理解して安心した。
でもこんな魔物は初めて見た。子供の声を真似する魔物って…。
随分と賢いんだなこいつら。
その日はそのまま村に帰り、村長に魔物の話をしてから寝た。
それ以降何度か声真似達に遭遇する機会はあったが、特に問題は起こらなかった。
ちなみに村では、聞き慣れない声を森で聞いたら二人一組で確認するようにと狩人達に伝えられていた。
ただでさえ重要な食料確保をしてくれる熟練の狩人だからな。一人死ぬだけでも村にとっては厳しいのだ。
そんなこんなで、森で子供の声に注意しながら過ごすのが日常に定着し始めた頃、ついに俺の先生となる人が到着したのだ。
新しい先生の名前はローリエさんといって、まさかのエルフだった。
いや、存在する事は知っていたが生で見る日が来ようとは…。
ローリエさんは旅先で出会った父上から、俺の話を聞いたことで俺の新しい先生になる事を決めたらしい。
何を言われたのか非常に気になるところだが、聞く機会がなくて知れなかった。
それとローリエさん曰く、俺は結構筋がいいらしい。
彼女が好む理論的な魔法ではないが、それでも優れたものだと褒められた。
それと同時に脇が甘いとも言われてしまったので、当分は基礎を固める事に専念するらしい。
何でも、基礎が甘い状態で応用ばかりしていたとのこと。
これには父上もローリエさんに謝り倒していた。この時はまだ実感がわかなかったが、実際にローリエさんの指導を受けてから如何に父上が教え下手か実感した。
いや、比較相手のローリエさんが卓越しすぎているのか。
実戦的な技能では父上の教えはよかったらしいが、基礎を教える過程が下手くそすぎるとのこと。
だから父上も暇な時間に一緒にローリエさんの指導を受けている。ちなみに基礎固めに一年を費やした。
基礎固めがひと段落ついた時に、父上からは改めて半泣きで詫びられたので、とりあえず慰めといた。
母上は困ったように笑っていたが、俺が離れてから母上に出来る最も効果的な慰め方をしていたので父上は大丈夫だと思う。知らないけど。
それとローリエさんは一度も旅立たずに俺の指導をしているのだが、家に帰る必要はないのかと聞いたら100年程度帰らなくても問題ないと言われた。すげぇ、エルフの時間の感覚がバグってる。
そして100年という事は、俺が死ぬまで面倒を見てくれたりするのだろうか。師匠として。
聞き返したら「君は死ぬまで見届けたくなるくらい興味深い」とか言われた。
もうすぐ12歳になるのだが、まさかこの年で自分が死ぬ時の事を考えると思わなかった。
でも多分彼女は俺の死を嘆かないと思う。これまで見送ってきた、そしてこれから見送るたくさんの人間の一人だと思われている。勝手な想像だが、彼女の俺に対する態度で勝手にそう考えている。
もしかしたら人間とペットの関係に近いかも知れないな。俺はペットじゃないけど。
ペットじゃなけりゃモルモットみたいな感覚なのかも知れないな。
基礎固めが終わってからは応用編が始まった。
とはいっても、これは俺が師匠の来る前にしていた事に、師匠の知識を付け足してやっている感じだ。
ちなみに魔力を大気に溶かして気配を完全に断ち切るのを1年前に披露した時はドン引きされた。
地味に辛かった。だってお前頭おかしいよって、100年ここで過ごして死ぬの見てあげるとか平気で言う人に、君頭おかしいって言われるんだもの。
お互いの時間に対する認識を置いておいても、出会って一年のやつに要約して「君の死は見届けてあげる」とか言っちゃう人に常識を説かれるとか…。ただひたすらに遺憾だ。
あとストレートに「君って頭おかしいね」は傷付く。
三日くらい某忍びの神みたいにきのこ生やしてやろうかな。多分付き合わされる人は相当めんどくさいと思う。
でも師匠なら珍しいキノコだとか言って採取した後に、俺の飯に秘密裏に混ぜて食べさせそうだから嫌だな。
やっぱり某忍びの神ごっこは封印だな。さらばだ柱間。
俺のドン引き技術を知ってから師匠は、頭おかしいとか言いながら俺にそっち方面の修行ばかりつけるようになった。
俺が以前から行っていた事を書き出し、師匠の知識と合わせてより効果的だと思われる方法で修行を進めている。
たまに魔力が枯渇して死にかけると、無理やり回復させられて修行を再開させられるのだが、やっぱりこのエルフさん俺のことモルモットだと思ってない?
休憩する暇もなく、森に篭り続けて修行する日々。
エルフである師匠の時間感覚に付き合って修行していたが、いつの間にか3年が経過していた。
流石にあの時は何してんだと師匠に苦言を呈してしまった。
このままあの人の感覚に付き合っていると、気付けば死んでいそうなので村に帰る事にした。
もちろん師匠も連れて。
母上からは会いたかったと泣きながら抱きしめられ、父上からは早かったなと言われた。
早かった?気付けば3年も居なくなってたのに早かったとはどういう事だろうか。
反射的に師匠の方を見ると、そこには下手くそな口笛を吹いて明後日の方を向く師匠がいた。
問い詰めると、10年くらい森に篭ると伝えてきたらしい。何してくれとんねん。
思わず師匠の両頬を引っ張ってしまった。
せめて一言くらい欲しかった…。
いつものノリで出てきたのに、下手したら大人になるまであそこにいたのか…。
深い、本当に深いため息をつくと、師匠はビクッと肩を揺らし、小さな声で謝ってくれた。
まあ、謝られても両頬は引っ張るけどね。以降は互いにしっかり報連相をすると約束し、俺は師匠の頬を開放した。
涙目で腫れた頬を抑えていたが、鋼の意思でスルーする。
今回の件を有耶無耶にすると、さらにデカいことをやらかすのは想像に難くない。
なので俺は師匠の好物の甘いリンゴを酸っぱくするため、とりあえず「甘いリンゴを酸っぱくする魔法」を生み出した。
そして家で師匠が毎日食べるリンゴ達にこの魔法をかけ、再び涙目で抗議する師匠を見て溜飲を下げる。
しかしリンゴの怒りは大きすぎたのか、次の日の魔法の実戦形式の戦いを行い完膚なきまでに叩き潰された。
何度も死を感じる攻撃に晒され、最終的にリンゴの魔法を解除することで手を打った。
やっぱり人の人生の楽しみに手を出すのはいけないね。学習した。
師匠も俺がリンゴの味を変えられる事は理解しただろうから、コレからは報連相を怠る事はないだろう。
またやらかしたら命がけだが、リンゴの味を変えよう。うん。
密かな決意と共に、俺は庭先のハンモックで甘いリンゴを幸せそうにかじる師匠を見る。
あんなのでも、師匠はおそらく魔法使いとしては一流だと思う。
魔力も制限しているのに、揺らぎがほとんど見えない。制限しているのは多すぎて怖がられるかららしいが、いつか師匠の全力の魔力を見てみたいと思う。
というか多すぎて怖がられる魔力量ってなんだ。意味がわからんわ。
改めて庭先を見ても、やはり締りのないだらしない顔でリンゴを食べる師匠しかいなかった。
やっぱり意味がわからんが、いつか俺の魔力量で師匠を震え上がらせるのもいいかも知れない。
うん、そうしよう。当面の目標は打倒師匠だ。
◇
世界の果てのどこか。
生命の息吹を感じない渓谷の奥底に、その生物はいた。
喪った片腕の疼きと、同胞を抹殺されたことへの憎悪に溺れた魔竜がいた。
巨神によって生み出され、神々の戦いに参加した原初の神話の怪物は世界への復讐に囚われていた。
不治の傷を喰らい自傷と再生を繰り返しながら、自身の同胞を討ち取った人種の末裔達の位置を割り出していく。
深い傷に喘ぎ続けた魔竜は、虫ケラのように己が殺戮する憎き敵の姿を想い気を落ち着かせた。
数千年もの間、神からの刺客を返り討ちにし続けた魔竜は、もう直ぐ傷を喰らい尽くすに至るすんでのところまで来ている。
誤字があれば、誤字報告をして頂けると助かります。
追記:投稿後に読み返してから、言葉の意味の重複や描写の描き方の下手くそさをコレでもかと発見していて笑ってしまいました。
やっぱり小説を書ける人ってすごいなと改めて実感してます。
そして誤字報告もありがとうございます。ほんと助かる。