矛盾の呪いをかけられて   作:ブリッジ

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1話の後書きでさえ誤字してたの恥ずかし過ぎてすごかった作者です。
というか最近記憶があやふやなのですが、FAIRY TAILの星霊の鍵の作成者ってどこかで明言されてましたっけ?
そろそろFAIRYTAIL読み返さないと色々と怪しいですわね…。


加筆修正後の1話を未読の方は、1話の最後を読み直してから2話を読んでいただけると幸いです。
ちょっとだけ足しました。



2話

 

 

立派に打倒師匠を掲げた俺だったが、リンゴ事変*1以降の師匠は気迫が違った。

実戦形式が行なわれるようになった修行では常に理不尽なほどに魔法を使い、もはや本気で俺を殺す気なのではと錯覚する程容赦なく魔法を使って来る。

それに加え、時には魔物までをも利用してくるので、俺は日々生傷が絶えない生活を送っている。

おかげで打倒師匠はまだ先だと実感し続ける毎日だ。これをあと80年は味わうのか。…ドMかな?

 

こんな状態で母上の前に出ると心配のあまり離してもらえなくなるので、癪ではあるが俺はまた師匠と山に篭っている。誠に遺憾だ。

 

気付けば俺も15歳になり、背もすっかり師匠を抜いた。

いや、師匠は別にそこまで大きくないか。でも小さいと言うと雷撃を放ってくるので言わない。

あんなのでも胸のサイズと身長は気になるらしい。

 

最後に村に帰った時も、母上の胸を見て「神秘だ…」とかアホなことを言っていた。

そんなに憧れるなら「胸を大きくする魔法」でも作ればいいのにとも思うが、恐らくはそういう事じゃないんだろうな。

とりあえず、まだ死にたくないので口には出さないでおく。

それにいきなりこんな事言っても気持ち悪いしな。得るものが何もない。

 

強いて言うなら師匠の殺意と村の女衆の軽蔑くらい。

 

師匠の殺意は今の時点で十分に足りてるし、女性からの軽蔑の視線は普通に辛い。

そんな事になれば、永遠に魔力を大気に溶かして一人で暮らそう。

誰にも認識されず、山奥で一人静かに暮らすんだ。仙人のように。

 

それはそれとして、師匠は手加減が無くなったのか脳筋になった。

どの程度脳筋かというと、俺の放った魔法を受け、魔力でその身を覆う事で防ぐのだ。

魔法使いがこんなふうに戦うとか、脳筋と言わずになんと呼ぶ?

 

はじめて見た時は目が点になったな。

そのまま魔力を纏った腕で殴り飛ばされ、岩を突き破って湖に落っこちた。

水中には恐竜と見紛うほどに巨大なワニが控えていて、意識がはっきりとした俺が最初に見たのは大きく開かれたワニの口だった。

 

寸前まで別の獲物を食べていたのか、周囲は血の色で染まっていた。

だから俺がワニを倒して水中から脱出した時には、水面を彩っていた血がべったりと付いた。

 

血塗れの俺を見た師匠はあろうことか爆笑し、俺に向かって「臭いが取れない魔法」をかけやがったのだ。あの瞬間はこの人を殺すべきか真剣に悩んだが、魔法の解除をさせるのに殺してはいけないと思いとどまった。

おかげで俺は血生臭い臭いが取れず、生物が苦手なのもあってそのまま倒れてしまった。

多分今までで一番辛い時間だったと思う。まさに地獄だった。

 

次に目が覚めた時には、申し訳なさそうな顔をした師匠がワニ料理を振る舞ってくれた。

料理といっても、捌いたワニを丸焼きにしただけだけど。

その後は湖の中心で自分の周囲に均等な厚さの防御魔法を展開しながら、水上に立つという訳のわからない修行を積まされた。

 

走るだけならまだしも、動かずに立っておくには足の裏から均一に魔力を適量放出しながら維持する必要がある。

ただでさえ長時間維持するのは辛いのに、そこに加え防御魔法も均等にときた。

そして防御魔法の乱れを感知した途端、師匠の魔法が俺の防御魔法を掻い潜って直撃する。

 

そして湖の怪物共に加えて空の魔物など、警戒するべき相手が多過ぎて最悪だ。

師匠の攻撃でバランスを崩して落下すれば、水中で待ち続ける奴らの餌になる事間違いなしだ。

 

この修行の初日からこんな極限状態に半日も置かれ、終盤は文字通りボロボロである。

こんな日々を既に数週間も送っており、まともに飯も食えない俺の機嫌は最悪だ。

そんな間師匠はどこから見つけたか、メロンを食べていやがる。しかもあれ魔法で甘くしてるな。

 

湖畔で優雅に寛ぐ師匠に向かって怨念を発していると、突如上空から「ヒュ〜」という変な音が聞こえてきた。

俺は頬を痙攣らせながら、ゆっくりとブリキの人形のように上を向く。

見えたのはどでかいワニの尻尾。徐々に大きくなるおまけ付きで。

 

そして下を向いたワニは俺を視界に捉え、大きく口を開ける。

もう一度師匠の方を見ると、ニヤニヤしながら今度はリンゴジュースを飲んでいた。羨ましい。

しかしおかしいな。俺はこんな仕打ちを受けるような失態を犯しただろうか。

はてな、軽く死ねと怨念を飛ばしただけなのだが。師匠も器が小さいものよ。こんな事を数週間もさせられて半分本気の死ねで済ませる俺を見習ってくれ。

 

身に覚えがない(笑)制裁に辟易としながら、俺は上空に向けて魔法を放つ準備をする。しかし、代償として防御魔法が解けてしまい、水中で機を伺っていた連中も動き出す。

織り込み済みではあるが、煩わしい事に変わりはない。

 

これはあれだな、別種の魔法を同時に複数発動をする訓練もしないとな。

可能なのかは分からないか、試してみる価値はある。

あと出来たらすごい強そうだし。

 

俺は足の裏から放出する魔力を少し上げると、わずかに浮いて水面から離れた。

これぞ空を飛ぶ、というやつだ。

人間なら誰しも一度は憧れた頃があるだろう?

俺も憧れていたので、一人前の太鼓判を押されてから密かに練習していた。

 

でも完成までひとりでやり切れるわけもなく、少し浮いてるのを師匠に見られた時は本気で引かれたのもである。

そのあとはふたりで頑張ったのだ。ちなみに俺の方が少しだけ高く飛べる。

でもまだ高高度となると安定しないので、今のように1m程しか飛べない。こっちも鍛えていかないとだな。やることが多い…。

 

今後の課題の多さに苦笑いしつつ、俺は師匠の方を見ながら満を持して魔法を放った。

師匠が驚愕の表情を浮かべるのが見える。うん、これは愉悦だわ。

 

 

「雷霆を放つ魔法」

 

 

この魔法は師匠の十八番なのだが、何度も見るうちに自分でも打ちたいと思うようになった。

あとシンプルに、今まで受けた魔法の中で一番死を感じさせたのはこの魔法だった。

だから視続けて真似してやった。

お披露目はまだ先の予定だったが、師匠に少し腹が立ったので今出す事にした。全方位に完全な制御というおまけ付きで。

 

派手ではあるが、同時に全方位に雷霆を放たないと上下の脅威はもちろん、師匠がいつの間にか放った魔法を相殺する事はできない。

だから派手なパフォーマンスというわけではなく、シンプルにそうしないと非常に面倒くさい事態に陥るのだ。

魔法を発動する速さでゴリ押す事で同時発動が出来ない弱点を補う手もあるが、俺にはそれができるほどの速さが未だに身についてない。

また課題が増えた…。

 

そして今回は師匠の魔法は相殺に留まらず、彼女のところまで巨大な雷霆を伸ばす。

どうせ当たらないだろうけど、物は試しだ。どっちにしろ師匠への不意打ちは成功したし。

 

上空から落ちてきていたワニは可哀想ではあるがバラバラに砕け散って絶命し、水中から迫っていた水生の捕食者達も感電死した。

師匠の魔法も破る事に成功したし、絶体絶命の事態を五体満足で切り抜けられたんだ。おまけに師匠の驚く顔と、地団駄を踏む姿まで見れたのだから気分は最高だ。

魔法の制御を一瞬忘れるほどに気が動転したらしいしな。

これは気分的には俺の大勝利といって良いだろう。本当に最高の気分だ。

 

とりあえず死んでしまった魔物達を回収して師匠の待つ湖畔へと向かう。

こいつらも食えるからな。焼いたら皆飯だ。

湖畔には俺の期待通り、顔を真っ赤にしたり青くしたり、コロコロと顔色を変える師匠がいた。

 

地面が一部ヒビ割れているが、これってもしかして魔力を開放した時になったのか?

いやそれ地味に怖いわ。

 

「答えろゼレフ。どこであの魔法を学んだ。まさか私からなどとは言わないよな?」

 

「いいや。正真正銘、君が教えてくれた魔法だよ、ローリエ。」

 

「…お前は相変わらず気色の悪いヤツだ。その目を見てるとエルフの里の長老を思い出す。」

 

「それって褒められてる?」

 

「神をその目でみた魔法使いの一人だ。」

 

「そりゃすごいね。で、どうだった?僕の魔法はさ。」

 

「反応が薄いな、全く…。生きた化石に例えてやったのだから。」

 

「化石だと過去の遺物じゃないか?」

 

「生意気坊主め。だがそうだな、嗚呼───お前の雷霆は憎たらしい程に美しかったよ。」

 

「そっか。」

 

「だがそれでも上空に放った雷霆は──────」

 

一瞬だけいい雰囲気になっていたのも束の間、師匠はいつもの調子に戻って俺の魔法にダメ出しをしてきた。

心なしか普段よりも厳しい採点だが、それでも認められたんだと思う。

 

今の彼女の目には、村に来た頃から俺に向けていた視線が消えていた。

ようやっと俺をしっかり見てくれた。いつまでもあなた個人には大して興味がありません───とでももいうかのような、彼女の視線が俺は密かに気に入らなかったのだ。

まるで俺の発想と魔法のポテンシャルにしか着目していない、実験動物を見るような目。

 

だから強制的に彼女の意識を切り替えさせた。

俺という個人が考えた上でこのように魔法を使っているのだと。俺の発想の根源を知りたい彼女は、その根源と深く関わる俺という個人を無視出来なくなる。

だから今も彼女の眼が捉えて離さないのは俺であり、俺の魔法ではない。

 

その事実に何かが満たされるのを感じた。

この世界に転生してから、一度も感じてこなかった感情だ。

 

師匠も俺の変化を感じ取ったのか、先程までのダメ出しはすぐに止んだ。

 

その日はこのまま修行を終わらせ、森の中の拠点であるログハウスに二人で帰った。

そのまま夜が訪れ、俺と師匠はいつもと少しだけ違う朝を迎えた。

 

 

ちなみにこの日以降、修行は十割増になった。なぜ?

 

 

 

 

 

 

直近の五年を一言で表すのならば、私のバカ弟子は頭がおかしい。

 

妹のゼーリエが一人前の魔法使いになったので旅に出た私だったが、いつしか才ある魔法使いを高みへ導くことが日々の楽しみとなっていた。

 

そんなある日、私は交易都市で一人の人間と出会った。

其奴は人間にしては並外れて強く、日常的に数々の死戦を潜り抜けてきた精鋭である事が容易に見て取れた。

無論人間の魔法使いはいないわけではないが、やはり寿命の問題で我々エルフや他の長命種と比べると現段階で劣る事は否定できなかった。

そんな中、これほど卓越した魔法使いに会うとは思わなかった。

そう思い彼を少し観察していると、私の視線に気付いて近寄ってきた。

 

「あんたすごいな。俺が見てきた中で一番強い魔法使いだ。」

 

「あら、あなたのような強い魔法使いにそう言ってもらえると嬉しいわ。」

 

「しかも制限していてその魔力量か…。なぁ、少し話せないか?」

 

同族でも腕利きの魔法使いにしか気付かれなかった揺らぎに、この男は一眼で気付いた。

その事実だけで気分が高揚した私は、彼の提案を受け入れて移動した。

 

彼が案内してくれたのは近くの宿屋で、中には老兵と護衛がいた。

この人間の老人も相当強い。今日はなんて運がいいんだろう。

ずっと同じ表情を保つ私だったが、内心では気分が高揚して笑みが溢れてしまっている。

 

老兵達と一通り挨拶を交わすと、私をここに案内した魔法使いが要件を話し始めた。

 

「実は俺には10になる息子がいるんだがな、そいつのための新しい師匠を探しているんだ。」

 

「ふむ、前任の指導は誰が?」

 

「俺がやってたんだがな、もう直に俺の手に余る領域に到達するだろうからな。可能な限り強力な魔法使いに後任を任せたいんだ。」

 

「ふむふむ。」

 

このレベルの魔法使いをもってしても手に余ると言われる10歳の人間。

素晴らしい素質を秘めているのは、この一団の魔法使い達の反応だけで分かった。

いいな、次の弟子はそいつで決まりだ。

 

黙っている私が悩んでいると思ったのか、村長と呼ばれた老兵が追加の条件を提示してきた。

内容は村で独自に生み出された魔法が記された魔導書や、件の少年の魔法が記された魔導書だった。

 

「ゼレフからも魔導書の譲渡に関しては承諾を受けております。もし貴殿が引き受けてくれるのならば、これに加えて我等の出来る範囲で要望に応える準備がございます。いかがでしょうか?」

 

「いいね、引き受けるよ。私もちょうど暇してたしね。」

 

「ほ、本当か!?忝い!」

 

ゼレフの父親が床に頭をつけるほどの勢いで礼を述べてきた。

それに遅れて他の者達も一様に私に感謝を捧げる。

 

だが私の目にそれが映る事はなく、私の目はゼレフの魔導書に釘付けだった。

感じられる魔力は既に一流以上に至った者の魔力であり、これがまだ発展途上の魔法使いの魔力だと思うとここで今すぐ故郷の舞を舞いたくなるほどに興奮していた。

 

私はエルフの中では感情が強い方なので、ここまで興奮すると流石に自分を律せられない。

普段からここまで気分が高揚するのは妹と魔法を使う時や老衆の魔法を見る際などぐらいしか無いため、普段から己を立する機会が多く無い私では上手く感情の制御ができない。

しかし不慣れな感情の制御も、ゼレフの指導をする中で少しは身につくだろう。

そんな確信が今の私にはあった。

 

ゼレフがある程度育てば、いつかゼーリエの刺激に里へ連れて行くのも悪くなさそうだ。

しかし去り際は見極めないとな。ゼーリエはああ見えて繊細な子なんだ。

仲良くなったゼレフがあっさりと死んだら泣いてしまうかもしれん。

 

すぐそこに迫る未来を夢想し、私は村へ帰る商隊に同行した。

 

 

二週間ほどが経過した時、私たちは無事に村へと到着した。

盛大な出迎えの民衆の中に一人、妙な魔力を持つ子供がいた。

制限された魔力とはまた違う、徐々に感知が出来なくなるような魔力だ。

 

まるで精霊の悪戯のようだな。しかしやっている芸当や、溢れる魔力の気配と量から見ても奴がゼレフだろう。

私の未来の教え子は、黒髪黒目という珍しい容姿をした子供だった。

私自身人間と比べると圧倒的に長く生きているが、その私でもこの組み合わせの人間は見たことがなかった。

 

両親はどちらもその特徴にあてはまらないが、先祖の色が強く出たか。この辺もエルフには無い、代替わりが早い人間ならではのものだな。

 

隊列から離脱すると、私はゼレフの父上に連れられて彼等の家へと到着した。そこでゼレフとして紹介されたのは、やはりあの黒髪の少年だった。

彼は物珍しそうに私の顔をマジマジと眺めると、簡潔に「ゼレフです、よろしくお願いします」と短く挨拶をした。

 

もしかしたら恥ずかしがり屋なのかもしれない。

私も軽く挨拶を済ませると、ゼレフの母上から今後どのように鍛えるつもりなのかと修行について質問された。

その後にもいくつも息子の安全にまつわる質問を投げかけられ、私はとりあえず誤魔化すことなく答えた。

 

ゼレフはその内容を気に入ったようで、会話に参加せずうっすら笑みを浮かべている。人によっては気味悪がられそうだなと感じたが、初対面を果たしたばかりで言うことでもないので黙っておこう。

 

その後もいくらか質問に答えていたが、師弟となる二人の話し合いも必要だろうと両親が退席してゼレフと2人きりになった。

 

お互いに何か話始める訳でも無く、ただ時間が過ぎていた。

私は別に不満がなかったが、ゼレフは魔法を見てほしいと言って彼の修行場へと案内してくれた。

 

そこらじゅうに魔道具があるのだが、もしかしてこれは全てこいつの手作りなのだろうか…?

 

その年で魔道具を量産する輩は居なくは無いが、自分の修行道具として大量の魔道具を作る少年を初めて見たかもしれない。

私が見たのは暇人なエルフのガキだったが、こいつは人間だしな。

どんな頭をしてたらこんな事をするんだか。

 

そしてゼレフは修行を見せてくれたのだが、正直気持ち悪かった。

魔法の同時詠唱などは高等技術で感心しながら見ていたのだが、突如ゼレフの体が霞のように消えて見えなくなったのだ。

魔力も感知できず少し混乱していると、目の前に青白い顔をしながら床に倒れ込むゼレフがいた。

 

推測するに姿を消す類の魔法と魔力を用いた存在の隠匿辺りだと思うが、こんな短時間でここまで消耗するとなると実戦で使えるようになる日は遠そうだな。

そのようにゼレフの魔法を評価した私だったが、やつから魔法の詳細を聞いて完全に意見が変わった。

 

こいつとんでもないバカだ。

なんだ、大気に魔力を溶かして見えなくするって。

同時に自分の気配も自然に溶かし込むことで視認できないようにしつつ、魔力も大気中に溶かすことで敵からの視覚と魔力での探知の両方を不可能にする。

 

こいつは何になりたいんだ?

神を暗殺する予定でもあるのだろうか。そもそもこのようにイカれた無駄な技術は、エルフが数万年生きた末に習得するようなものだ。

要約すると暇を持て余した阿呆が時間潰しにやること。

 

それを100年程度も生きられない人間がやろうとするなど…。

似た様な技をエルフの里の長老が使えたが、里の外へは漏れていないはず。

つまりこいつはひとりでこれを考え、数秒だけでも実用するに至ったわけだ。

 

期待していたのとは別のベクトルで頭のイカれた天才と出会ってしまい、私は困惑することしか出来なかった。

思わずこいつに常識を説いてしまったほどだ。私にすら常識があるか怪しかったが、少なくとも魔法においてはこいつよりも常識を身につけている。

 

そして1番腹が立つのは、ゼレフがこの魔法を「割とすごい技術じゃない?」だとか宣うことだ。

 

なんだ、割とすごいって。

苛立ちと自分の弟子となる子供のバカさ加減に目眩を覚えながら、とりあえずこいつの魔法の根幹となる基礎を見ることにした。

 

結果は散々で、一部は卓越していたり未熟だったりとちぐはぐなものだった。ゼレフにそれを伝えると少し凹んでいたが、父親は後から泣きながら詫びてきた。

 

なのでとりあえず最初はゼレフの基礎固めを行っていたが、元の下地もあってか1年で終わってしまった。

予定より早く終わってしまった。だが悪いことではない。

人間は一瞬で死んでしまうからな。

 

このようなバカでも、純粋な才能だけで見れば人類史にのこるような天賦の才を持つ怪物の一人だ。

その怪物を私が育てあげるのだから、面白いものだ。

 

基礎固めが終わったので、その次の修行に関して考えている時だった。

ゼレフが唐突に、故郷に帰らなくてもいいのかと心配してきた。

故郷を出て1年、この村に来て1年。たったの2年である。

 

下手したら同族の中には、まだ私が村を出たことに気付いていない者すらいるだろう。その程度の時間でしかないが、そういえば目の前にいるゼレフは同族ではなく人間の子供だったな。

 

「私の滞在期間など気にするな。お前の最後をこの村で見届けたとしても、私にとっては大した長さじゃないんだ。

それにお前は興味深いからなら、そんなお前の結末をこの目で見るのも一興よ」

 

思ったままのことを口にしたが、ゼレフの顔色は優れなかった。

自身の死に関して話されたことで不安になったのか、可愛らしいものだな───などと思いかけた私だったが、すぐに思考を改める。

なんせこいつの顔色、明らかに不安だと思うようなものじゃない。

 

バカにされている気がして無性に腹が立ったが、子供の些細な行動で目くじらを立てるような歳でもない。大人気ない思考を溝に捨てた私、再びゼレフの次の修行について考える。

 

そうだな…。とりあえず10年程は北の奥地でこやつを鍛えるとしようか。

本来なら20年程はかかるものだが、このバカなら半分の時間でも習得するだろうしな。

 

そう思って森でゼレフと暮らし始めた私だったが、どうやらまだこのアホのことを読み違えていたらしい。

このドアホはなんと、私が立てていた10年かける計画を3年でやりよった。

 

なんなんだこいつ?

妹のゼーリエを彷彿とさせる魔法の才を持つと思っていたが、やり方は真反対だな。私がいくら魔法の理論を説いても、このドアホは自分にわかりやすいよう全てを最適化して勝手に発展させおる。

 

次の修行を考えないとな、などと1人考えていた時の事だ。

ゼレフが唐突に血相を変えて私の部屋に駆け込んできた。

 

はて、何かあっただろうか?

念の為に魔力で周囲を探ってみても、特に何か引っかかるものはない。

ふむ、修行に関して───「おいッ!」

 

切羽詰まった声で私の肩を乱暴に掴むゼレフ。

しかし困ったな、今回は本当に心当たりがない…。

 

「何年経った!」

 

「ん?この山に入ってからの時間か?」

 

「そうだ。お前の感覚に合わせてこもってるけど、もうどのくらい村に帰ってないんだ?」

 

「そうだなぁ。3年くらいか?」

 

「は?3年ってお前、マジかよ!?」

 

「うむ。思ったより早く済んだな」

 

「何が早く済んだだよ!何も言わずに3年も村を空けてくるとか、その感覚に付き合って修行してたら俺が死ぬわ!」

 

「ふむふむ…。」

 

そういえばゼレフは今15にもなっていないのか…。

そうなると人生の5分の1以上をここで過ごした事になる。

 

言われるまで意識していなかったが、人間の子供にとって3年とは中々に長い時間だったな。

その事を意識すると、少しゼレフに対して申し訳なくなった。

私も人生の5分の1の時間をずっとゼーリエと会えないのは辛いからな。

 

 

「とりあえず1回村に帰るぞ!」

 

 

こうして私達は一旦北の森での修行を切り上げ、ゼレフの故郷であるフリーデンに帰ることとなった。

ちなみにゼレフは道中ずっと不機嫌だった。

 

 

数日かけて村に帰ると、ゼレフの両親が出迎えに来ていた。

村の周囲に張られた結界で私達の接近を感知したのだろ。

 

ゼレフの母上がその胸に息子を抱いたのだが、その際の彼女の胸の動きに思わず目を奪われた。

なんだ、あの柔らかそうな揺れ方…?

 

村の同胞は私を含めて慎ましい胸元をしているため気にならなかったが、再会した母上殿の胸は私に大きな衝撃を与えた。

思わず胸をじっと魔法で観察してしまったほどだ。

 

しかし凄まじい、見れば見るほどに素晴らしいものだ…。

あれに包まれるとどれほど気持ちがいいのだろうか…?

 

自身の胸部と見比べ、思わずため息が漏れてしまった。

以前はそこまで注目していなかったので気にならなかったが、一度目につくと気になって仕方がない。

何をどうすればあのようになるんだ?

やはりあれなのか、我々エルフは悠久の時を生きるからこそに肉体の成長も相応に遅いということなのだろうな。

 

私があれに至るには、あと何万年掛かるのだろうか…。

 

私の胸部装甲に対して憂鬱になっていたその時、私の全神経が逃げろと伝えてきた。久しぶりの感覚に困惑した私が前方に目を向けると、そこには恐ろしい笑みを浮かべたゼレフがいた。

 

そして私が離脱のために何か言葉を発する前に、無言で退路を断たれた。

なんだか知らないが、非常にまずい事態に陥ったので適当に誤魔化しておく。

 

先程10年という単語が聞こえたので、もしかしたら家族から私の修行プランを聞いてしまったのかもしれない。

3年であのように怒ったゼレフだ。3倍以上の10年でどうなるかなど、もはや私には想像が出来なかった。

 

とりあえず彼の問いに素直に答えていくと、魔力をふんだんに込めた指で思いっきり両頬を引っ張られた。

反射的に防御魔法を発動しかけたが、それ以上の速さでやられた。

 

徐々に込められていく魔力。

はっきり言ってちぎれそうだ。怒るのはわかるが、ちぎれてしまったらどう責任を取ってくれるんだこいつ。

 

しかし私の考えを読んだのか、更に力が込められる。

思わず涙が溢れてしまった私は詫びを入れたが、今後はしっかり報告することを約束したことでようやく解放された。

 

思わず頬が千切ていないか何度も確認する私だったが、どうやら無事ではあるらしい。女子の顔に何してくれるんだと抗議の視線を送っても、ゼレフは顔色ひとつ変えずに家の中へと入って行った。

 

 

その日は静かに泣いた。めちゃくちゃ痛かったもん。

 

 

 

翌日の朝、私はこれまでの人生で一番怒った日が到来した。

ゼレフが禁断の魔法に手を染めた。私の朝ご飯にかかせない、甘いりんごを酸っぱくしよった。

流石にやっていい事と悪い事があるのでは無いか?

 

私は決意した。このクソガキを完膚なきまでに叩き潰す事を。

そうと決まれば早かった。私は実戦形式の訓練で徹底的にゼレフの手札を潰し、雷霆を放ってゼレフを嬲り続けた。

 

半日が経つ頃には半泣きのゼレフが許しを乞いてきたので、今後りんごの味を変えないことを誓わせて手打ちとした。

いい気味だな。これでやつも私に逆らうまいよ。

 

 

 

あの後少し考えたのだが、ゼレフは私の雷霆を受けて生き延びた。

ならばもう少し厳しくしごいでもいいのではないだろうか?

 

その方がゼレフも強くなれるし、私も鬱憤を晴らせる。

いいな。これでいこう。

とりあえず私は容赦なく雷霆を放ち続ける事を決めた。

 

しかし戦いの余波で村の作物に悪影響が出るため、再び北の森を拠点に修行をするようになった。

しかし以前とは違い、月に何度か村へ帰るようにしている。

これでゼレフも文句を言うまいよ。

 

だが帰る度に思う。母上殿の胸はまことに神秘よな。

もはや嫉妬すらわいてこぬとは恐れ入った。

彼女の前では私も調子が狂うのか、思わず本音が漏れることもしばしば。

 

母上殿は笑って流してくれるのだが、ゼレフも無反応なのは意外だった。

てっきり身体についていじられると思ったのだがな。

やつもそこまで性根が腐ってはいないらしい。

…いや、りんごの味を変える時点で腐り切っているか。

 

ゼレフに容赦なく雷霆を放つようになって気付いたが、やつは攻撃が卓越している割に防御はイマイチだった。

これから魔法使いとして各地を巡るのならば、攻撃のみではなく防御や相手の攻撃を避けることも身に付けなくてはならない。

 

そのために私は師匠からつけていただいたのと、同じ内容の修行をゼレフにもつける事にした。ただ私との違いがあるとするならば、湖の生物達がほんの少し獰猛すぎる程度だろうか。

 

それでも死にはしないと思うので、とりあえず私もたまに魔法を放ったりしながらゼレフの修行を眺めていた。

 

そんな時だった、ゼレフが湖の魔物の血で包まれて帰ってきたのだ。

私は初めて見るゼレフの姿に笑いが止まらず、やつにリンゴの仕返しをしようと魔法を放った。

 

結果は直ぐに出たのだが、想定外だったのはゼレフが気絶したことだ。

どんなに厳しい修行を課しても倒れなかったゼレフが、まさか生臭い臭いで気絶してしまうとは…。

思わぬ弱点を発見してしまったが、同時に少し申し訳なくなった。

 

なんせ血生臭いのは、苦手でなくともずっと嗅いでおくのは気分が悪くなるのも当然だ。そこに苦手だという要素を追加すれば、それはもう単なる拷問だ。

ゼレフが私に放ったりんごの味を変えた魔法と大差ない。

 

その事実に愕然とした私は、少しだけゼレフに優しくする事にした。

私もりんごの件は本当に嫌だったからな。ゼレフも今回の臭いの件は同じだろう。詫びを入れたが、とりあえずもうやらんでおこう。

お互いにやっても失うものが増えるだけよ。

 

この次の日からゼレフは私の課した修行と同じ内容を熟し、確実に成長していった。

全く、末恐ろしい才能よ。人間であることがつくづく惜しい。

あれがエルフであればな…。

 

それにしても、このりんごジュースというのは美味いな。

ゼレフが作ってくれたのだが、気に入りすぎて今も湖畔で数本ほど飲んでしまった。

これも美味いりんごジュースが悪い。

 

りんごジュースを湖畔で楽しんでいると、目の前に巨大な魔物が出現した。この湖に生息する主だ。

とりあえずゼレフの修行をみるのに邪魔なので、飛ばしておいたのだが、それが図らずともゼレフの方向へと行ってしまった。

 

わざとでは無いのだがな。あの弟子のことだから、あとでまたグチグチと文句を言われるだろう。

想像したら憂鬱になるので、気分転換に再びりんごジュースを飲む。

やはり素晴らしい。これぞ世紀の発明よな。

 

にこやかにりんごジュースを愛飲する私だったが、突如として湖の方から身に覚えのある魔法の気配を感じ取った。

 

湖の中央部から激しい雷鳴が鳴り響く。

 

雷鳴を中心にいるのはゼレフであり、私が最も得意とする「雷霆を放つ魔法」を用いて湖の魔物を一掃していた。

 

私はただ魅入ってしまっていた。

あの魔法は私が父上から直々に教えていただいた魔法であり、憧れの魔法使いである父上と私の繋がりの証でもある。

 

その魔法をゼレフは指導も受けずに放っているのだ。

それも父上を彷彿とさせる、全方位に放つという荒業で。

 

気絶しそうだった。

何故?どうやって?いつ?どうして使える?まさか父上から指導を受けた?いやありえない、だが──────

 

浮かんでは消えていく疑問の数々。

思考がまとまらない中、シタリ顔のゼレフが魔物の死体を引っ張りながら湖畔まで来ていた。

 

初めは気が動転していた私だったが、徐々に落ち着きを取り戻していた。

何とか誤魔化すためにダメ出しをする私だったが、そんな上辺だけの取り繕いもゼレフに容易に破られてしまった。

 

互いに疲労困憊なこともあって、この日はもう修行を切り上げることに決めた。お互いに限界が近かったのかもしれない。

 

私にはそれ以降のハッキリとした記憶がなく、ただ翌日はスッキリとした目覚めが訪れたことだけは覚えていた。

 

 

 

 

 

 

ゼレフとローリエが修行で不在な頃、そいつは突然現れた。

 

どす黒い魔力を垂れ流し、多くの竜を従えた竜王。

魔力を喰らい、魔法使いを殺し尽くすために暴れる魔竜。

 

その名も魔竜アクノロギア。

 

神代の前期に勃発した神々の戦の際に産み出された竜であり、己以外の全ての竜を人種の者達に葬り去られた神話の敗北者。

 

彼は己の傷を癒すために息を殺して潜み続け、ついにかつての力を取り戻すまでに至った。

 

そんな魔竜の願いは単純だった。復讐したい、あの脆弱なアリのように湧いてくる虫ケラ達を殺し尽くしたい。

故に力を取り戻した彼は、自分の仲間を葬った人間の末裔達を狙って行った。

彼によって数多くの街や村、そして夥しい数の魔法使いが滅び、その魔の手はゼレフの故郷にも例外無く到来した。

 

 

まず最初に気付いたのは村長であり、彼は側近達に指示を出すとすぐさまアクノロギアを足止めするための魔法を展開した。

しかし歴戦の古参兵である村長の魔法を、アクノロギアは真正面から飲み込んだ。そのまま魔竜は止まることなく地上に降り立ち、村長は瞬く間に半身同士が泣き別れすることとなった。

 

その後はひたすらに蹂躙が続き、ゼレフの母も逃げようとしたところをアクノロギアに踏み潰された事で亡くなった。

この事をゼレフが感知した時には、もう全てが遅すぎた。

 

ゼレフが死ぬ気で村への山道を駆けて目にしたのは、頸だけになった父親の骸と跡形もなく消え去った故郷の村の跡地だけだった。

そこに下手人の魔竜の姿はなく、ゼレフはただ呆然と変わり果てた故郷を眺めていた。

 

産まれてくるはずだった弟/妹は日の目を見ることなく母と共に絶命し、その魂さえも魔竜の中に吸い込まれた。

しかしゼレフにそれを知る術はなく、彼は家族の仇と灰燼に帰した故郷を見て魔竜への憎悪を膨らませていた。

 

 

この日からゼレフは全ての修行を取り止め、ただひたすらに死者蘇生の魔法の研究を行い続けた。

その姿を間近で見たローリエは、自分が指導していた少年の消失に悲しんだが、それでもゼレフを見捨てることなく支え続けた。

 

しかし死者の蘇生など、女神とさえ面識のある長老の高弟の一人である彼女は、そのような禁忌に加担することが出来なかった。

死者の蘇生はこの世で最も業が深い罪として知られている。

 

いくらゼレフの頼みといえど、彼女はそれに協力する事は出来なかった。

それと同時に、そのような禁忌を平気で犯すゼレフを見捨てるほど薄情でもなかった。故に彼女はゼレフが効率的に研究を進められるよう身の回りの雑務の処理を担った。

家事などは慣れないものだったが、それでもやり遂げた。

 

このような悲しい現実とは裏腹に、彼女の中には新たな生命が宿っていた。

その事実に二人が気付くのはいったいいつになるのか。

今はまだ二人とも我が子の小さな息吹に気付くことなく、互いの目標を必死に熟していた。

 

 

 

 

これはひとつのボタンの掛け違いから生まれてしまった、二人の今後を決める大きな綻びとなる。そして今も徐々に裂け目は広がっていく。

ひとつだけ確実な事をいうとするならば、二人の息子は偉大な神話の時代を生きた大魔法使いとなることだけである。

 

 

 

 

そんな息子の立派な功績を称える人々の中に両親の姿があるか、それは天界の神のみぞ知ることである。

 

 

 

 

*1
師匠命名






すごくお腹痛い。
そしてカメムシ、貴様らは許さん。
ペットボトルに閉じ込めて我が家から追放の刑や。

そして次回の更新についてお話があります。
実は作者は物語を書く時に、基本的に設定から書き出していって、それをベースに書き進めていくタイプなんです。

でもこの作品は作者が深夜にフリーレンの漫画を読み返した衝動で書いた作品なので、ベースとなる設定集が今もないんです。
なので今後書き進める上で矛盾をできる限り消していくために、少し遅いですが設定集を描き始めたいと思います。

なのでそちらの方に時間を使うので、恐らくすぐには次のお話を更新できないかなと思われます。


ではでは。本作を読んでいただきありがとうございます。
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