矛盾の呪いをかけられて 作:ブリッジ
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故郷のエルフの里へ戻ってきたゼーリエとティーフェが目撃したのは、慣れ親しんだエルフの里ではなく、黒焦げの渓谷だった。
生存者などどこにもおらず、アクノロギアを討伐するために集まっているはずの大陸中の猛者達の姿もどこにもない。
混乱しながら周囲を探すと、エルフではないが懸命に捜索活動を行う人達が幾人か見つけられた。
しかし全員が到着したらこうなっていた、と言うばかりだった。
誰も里に起こった惨劇の生存者を見つけられなかった。
それは魔法を使って捜索を行っていたゼーリエ達も例外ではなく、懸命に体を動かすゼーリエも、表面上は気丈に振る舞うティーフェも精神的に限界が近いのが見て取れた。
特にゼーリエは姉の事で酷く、彼女が亡くなっている可能性を考えないようにするため、懸命に動き回っていた。
姉が里に到着したという報せを自分達は受け取っていない。
里に向かっているとは推測したが、それも自分たちの憶測だ。
もしかしたら里帰りの途中で、まだ帰っていなかった可能性もある。
捜索の途中でかつての自分達のように合流してくるかもしれない。
そう自分に言い聞かせるゼーリエだったが、日に日に不安は増すばかり。
結局二週間の捜索で見つかったのは欠損した肢体の部位のみであり、肝心の生存者は誰一人として見つからなかった。
皆が諦めかけたその時、ゼーリエは渓谷の底の地面で見覚えのある魔力を感知した。
迷わず感知した場所へ向けて駆け出すと、遅れて気付いたティーフェも彼女に続いた。
二人で慎重に地面を魔法で掘り進め、出て来たのは小さな結界だった。
その結界は一人の赤ん坊を護るように展開されており、込められた魔力からローリエが張った結界である事が分かった。
結界は赤ん坊を守るのと同時に、餓死しないように必要な栄養素などを摂取できるという代物だった。
最初は姉が里の赤ん坊を護ために張ったのだと錯覚した二人だったが、ゼーリエが結界に触れた事で全てが判明する事となる。
結界には赤ん坊の血縁者しか中に入れないようになっており、ゼーリエが中に入れたという事は彼女の姉の子である可能性が高かった。
弟である場合、人間のような耳をしている事に説明がつかない。
しかし赤ん坊の出自に関する疑念もすぐに解ける事となる。
赤ん坊の上には魔力で作られた紙が置かれており、そこにはゼレフなる人物へのメッセージが残されていた。
震える手でゼーリエが手に取ると、手紙の内容から赤ん坊はローリエとゼレフという人物の息子であり、オーガストと名付けられた事がわかった。
そして周囲をどれだけ探ってもローリエの痕跡を見つけられない事から、生存は絶望的だった。
何より結界に込められた魔力が膨大すぎる。
術者が命を賭さなければ、決して展開できないような代物だった。
この時点でゼーリエは、姉がもうこの世にいない事を理解してしまう。
そして中に入れないため外で待機していたティーフェも、魔法で読み取ったゼーリエの思考から友人の死を理解した。
絶望に打ちひしがれる暇もなく、ゼーリエは甥であるオーガストを外へ出すために抱き上げた。
そして彼と共に外へ出ると、結界の魔力は全てオーガストの中へと流れ込んでいった。これもローリエの結界の効果だと理解していた二人は焦る事なく、いち早くオーガストを安全な場所へ連れて行くために捜索隊のキャンプ地へ急ぐ。
ゼーリエは自分のテントにオーガストを運び込むと、魔法で整えた自身の寝床にオーガストを寝かせた。
テントの周囲に防音の魔法を張り、眠るオーガストを抱きしめながら声を押し殺して泣き続けた。
彼女はまだ18にもなっていない少女でしかなく、僅かに希望を抱いていた家族の生存の可能性も断たれた。
皮肉な事に、悠久の時を生きいるエルフのゼーリエが最愛の姉と共に過ごしたのは、僅か10年であった。
エルフにとってはあまりにも短く、彼女を容易に奈落の底に叩き落とす事実だった。
この日以降、ゼーリエは渓谷3ヶ月間不眠不休で捜索活動に従事した。しかし生存者が見つかることはなく、日増しに増えるのは同族の遺体と遅すぎる到着となってしまった討伐隊の残りの猛者達のみであった。
しかし捜索隊は解散となり、多くの者達は故郷へと帰って行った。
既に里の同胞のほとんどが亡くなったのだと無理やり受け入れたゼーリエは、ティーフェと共にオーガストを連れて旅に出ることにした。
里があった渓谷にいるのが辛いというのもあったが、オーガストの父親であるゼレフの捜索も兼ねた旅だった。
今のところゼレフの情報は名前と、人間であること以外にはない。
だが世界のどこかで今も、自分の妻子の安否も分からずに探し続ける義兄がいると思うと、このままオーガストを自分の子供として育てようなどとは思えない。
ティーフェも友人の妹であり、最後の里の同胞で友人であるゼーリエを赤ん坊と2人で放り出すわけにも行かず、3人でゼレフを探すために旅に出ることとなった。
未だに残っている捜索隊の面々に別れの挨拶を行い、手配した馬車に乗り込む。
すやすやと眠るオーガストを抱きながら、ゼーリエは少しづつ遠くなる故郷を馬車の荷台から見続ける。
途中でエルフの旅人とすれ違ったりしたが、皆が一様に絶望していた。
多くは今里に到着したのだろう。魔物の討伐のために大陸各地に派遣されていた同胞も少なくはない。
しかし立ち尽くす同族の中に、彼女の見知った顔はなかった。
◇
ローリエに付けたワールの分身体からの連絡が突然途切れた。
死者蘇生の魔法を完成させた俺が最初に知ったのは、自分が生み出した機械魔人からの最悪の報せだった。
ワールは分身体の記憶を本体と同期させている。
だから何があったのか問い詰めたのだが、分身体はよほど酷い殺られ方をしたのかしてまともな受け答えが出来なくなっていた。
魔法を使ってみてもダメだったので、相当酷いのだと思う。
魔法を完成させたことで精神的な余裕を少し取り戻した俺だったが、神は俺のことが嫌いらしい。
何かを成し遂げたかと思えば、直ぐに試練を課してくる。
本当に嫌になる。ローリエからも師匠として、俺が優秀な魔法使いになっていると太鼓判を押してくれた。
そんな力を得ても、俺には何も出来ない。
とりあえずワールから情報を拾うのは一旦後回しにして、ローリエの故郷であるエルフの里の位置の割り出しに取り掛かる。
地図を広げてから思い付いたが、ワールの記憶を読むのはどうだろうか。
もしかすると、ローリエと子供の安否や、ワールがあそこまで混乱している理由も分かるかもしれない。
結果的に里の位置はわかったが、ローリエ達の安否やワールの混乱の原因は分からなかった。
しかし里の位置がわかっただけでも上々だ。
俺はワールを魔法で眠らせると、そのまま家を飛び出してエルフの里へ向かった。
ここから最短で飛ばしたとして、5ヶ月程で着くだろうか。
魔法を駆使しながら休みなく走り続けた俺が長旅の末に見つけたのは、故郷の村のように変わり果てたエルフの里だった。
現地にはエルフが数人いたので何があったか問い詰めると、約半年前にアクノロギアの襲撃を受けて壊滅したのだと教えられた。
最悪なのは、時期的にローリエが既に出産していたのがほぼ確定だ。
ここで半年間捜索を続けたが、誰一人として生存者は見つからなかったらしい。俺も魔法を用いて探してみたが、ローリエ達を見つけることは出来なかった。
つまり俺は同じ相手によって、両親と、師であり密かに結婚を考えていたローリエと、生後まもない我が子を奪われた事となる。
しかも2人は遺体すら見つかっていないため、死者蘇生の魔法があっても蘇生する器がない。
何も考えられなくなった俺は、逃げるようにエルフ里を後にした。
そして故郷の村へと帰り、そこで両親に死者蘇生の魔法を使った。
だが両親が目覚めることはなかった。
何故?完璧に造り上げたはずだ。
何かが足りなかったのか?どういうことだ?
何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故────────
訳も分からないまま立ち尽くしていたが、突然尋常ではない痛みを感じた。頭が割れるように痛み、体に徐々にナニカが刻み込まれる感覚。
少しづつ生え始めていた草木が枯れていき、周囲の命が全て失われていくのがわかる。
これが誰の仕業なのか。以前にローリエから聞かされた話を元に、俺は生と死を司る神がかけた俺への呪いなのだろうと結論付けた。
考えてみれば当然だ。
既に死んでいる人間を無理やり生き返らせようとしているのだ。
神にとっては自分達の定めた理をたかが人間が犯すのは面白くあるまい。
冷静になって考えれば、少しは予期出来たはずだ。
こんなことではもう、ローリエ達を探しに行けないじゃないか。
俺に呪いをかけた神の名は、アンクセラム神。
その名前を頭の中で呟いた時、俺の意識は完全に途絶えることとなる。
◇
ゼーリエとティーフェがオーガストを連れて旅を始めてから2年が経った。
オーガストは既に言葉を覚え、馬車の荷台から魔物を討伐する保護者2人の魔法を見てきゃっきゃしている。
幼いながらに強い魔力をその身に宿したオーガストは、2人にとって非常に将来が楽しみな子供だった。
それにゼーリエにとっては、血が通った最後の家族だ。
最初は義母としてオーガストを育てる決意をしていた彼女だったが、その想いは他でもないオーガスト自身の手で打ち砕かれることとなる。
それはオーガストが言葉を覚え始めた時の事だった。
ゼーリエは甥っ子に「お義母さん」と呼ばせるために格闘していたのだが、オーガストがゼーリエを呼ぶ際に使ったのは母を表す言葉ではなかった。
彼が発したのは
そう、母ではなく叔母だ。
そして思い出して欲しい。ゼーリエの現在の年齢を。
彼女はまだ19歳なのだ。ある国では時代が時代なら未成年。
そんな彼女に向けて最後の家族が放った言葉はおばさんだった。
この歳でおばさん呼ばわりなど、あまりにも残酷だ。
しかもそれが無垢な幼い家族の口から発せられたなど、世の女性にとっては悪夢に等しいのではないだろうか。
意味は違えど、言葉の音は高年の女性を表す「おばさん」と同じなのだ。
隣で聞いていたティーフェは爆笑し、ゼーリエは一瞬だけ思考停止して咄嗟に現実を受け入れることが出来なかった。
そのあとは「
オーガストを撫でくりまわし、彼の大好きな魔法の数々を披露した上で頼み込んでも、幼い甥っ子が折れることはなかった。
そして家族であり、未だ幼いオーガストに自分の考えを押し付けるのを嫌ったゼーリエが引いたことで、勝負は甥の完全勝利で幕を閉じた。
ちなみにティーフェはあまりにオーガストを撫でさせてもらえない。オーガストが嫌がるわけでは無いが、彼がゼーリエの手をより好んでいるためにいつの間にか撫でる機会が巡ってこなくなったのだ。
実はこの事をちょっと気にしていたりする。
2人はオーガストと接することで、徐々に過去を消化しつつあった。
無論今も悪夢を見ることなど珍しくないが、目の前にいる子供と姉の分まで思い出を作ると決めたゼーリエは前を向いていた。
ティーフェも数千年を生きたエルフであり、幾度も出会いと別れを繰り返してきている。
故郷の惨状に絶望をしたのは間違いないが、これまでの別れと同じく形あるものはいつか滅びるものだからと無理やり自分を納得させていた。
だが2人はそうだとしても、最年少のオーガストはどうだろうか。
彼は運がいいのか悪いのか、胎児である頃から聞こえるものを全て正確に記憶していた。
叔母上という単語を含めて彼が2歳の時点である程度話せるのは、彼の生母であるローリエが大きく関係している。
叔母という単語はローリエがゼーリエの事を話す際に漏らした言葉だ。
「あの子も叔母になるんだな」など何気なくこぼした言葉であっても、オーガストの脳には全て記憶されていた。
その記憶の数々は今も鮮明に思い出せる。
そんな彼の憂いは、最も母の話に出てきた父のことだった。
オーガストは視界が開けた時、一番最初に探したのは父の姿だった。
母がどこにいるのか、幼いオーガストは既に知っていた。
だからもう1人の親であるゼレフの姿を探したのだ。
だが旅の一行の中にゼレフの姿はなかった。何故だろうか、幼いオーガストが父の不在に対し疑問を抱くまでそう時間は掛からなかった。
しかしオーガストが知るのは母が語ったことやエルフの里で聞いた事柄だけであり、その中にはゼレフの居場所などに関する話は無かった。
ゼーリエの膝の上で大陸の地図を開いても、文字を読むこともままならないオーガストには記憶の中の地名を探し当てることが出来なかった。
だからオーガストは初めてゼーリエにおねだりをした。
文字の読み書きを教えて欲しい、と。ゼーリエは断ることなく、オーガストに読み書きを教えた。
そして2人の勉強会を発見したティーフェも合流し、最年長の彼女から知識を授けられる生活を送るようになる。
それは学問的なものに限らない。例えばゼーリエが何か単語を教えていたら、その単語にまつわる知識や体験談をしてくれるようになったのだ。
ティーフェはエルフの中では若い部類だが、それでも1000年以上生きて来た経験がある。
彼女の旅先での話や、ゼーリエに向けての指導などでも、盗み聞きをして齧り付くように、貪欲にオーガストは得られるものを全て吸収していった。
全ては自分の父と再会するために。
オーガストは親の愛に飢えていた。
母と実際に触れ合った期間は1年にも及ばず、既に叔母のゼーリエやティーフェと共に過ごした時間の方が長くなってしまった。
そんなに時間が経ったのに、自分に名付けをしてくれた父はどこにもいない。
母親のローリエに心の中で問い掛けてみても答えはない。
まるで、自分の力で見つけなさいと言われているようで、幼いオーガストは心の中で母から贈られた言葉に従って彼女達には何も伝えなかった。
一応2人の旅の目的もゼレフの捜索だが、オーガストは父親を自分で見つけ出したいと思っていた。
そして知りたい。父上は私を見て何を感じるのだろうか。
母上を返せと叫ぶだろうか。ゼーリエのようになでてくれるだろうか。ティーフェのようにいろんな事を教えてくれるだろうか。それとも自分では想像もつかない、父親として何かをしてくれるのだろうか。
今のオーガストを突き動かすのは、愛を求める子供心と、まだ見ぬ父親への好奇心だった。
そんな親子が再会を果たすのは、もう少し先のことだ。
二次創作書きたい作品多すぎ問題。
本文を書いてから思いましたが、アクノロギアがモンハンの古龍みたいな存在になってんな。
その内怒って火山地帯行きそう。
そして誤字報告してくださる皆さん、本当にありがとうございます。
すごく助かってます。