翌日、さやかは一人通学路を歩きながら考えていた。
それは昨日あの後マミとキュゥべえから聞かされたあの異形、魔女についてそして魔法少女という存在についてだ。
そしてまどか、更に素質があるとしてさやかもマミと同じように魔法少女にならないかと持ち掛けられた。
「魔法少女……かぁ」
願いを一つ叶える代償に魔法少女という存在になり、魔女と戦う。
正直さやかはこの話、乗り気ではなかった……いや、嫌悪感さえも抱いていた。
それだけではない、まどかにも魔法少女になっては欲しくない。
何故ならそれは、険しいいばらの道だということがわかっているからだ。
「同じだよ、仮面ライダーと」
さやかはポケットの中にあるカードデッキを出し、見詰める。
これはさやかの力であり、そして彼女の願いを叶える方法だ。
仮面ライダー、さやかは正しく13人しか存在しない仮面ライダーの一人であった。
さやかは知っている、人間が願いを叶える為にはどれだけ醜く、残酷になれるのかを。
願いの為には他人さえも容易く蹴落とせるということを。
魔法少女は願いを叶える代償に戦い、仮面ライダーは願いを叶える為に戦う……順序は逆とはいえ、彼女にとっては同じように感じられた。
そして、そんな残酷で血塗られた世界に心優しい……でも少し臆病な友人を引き入れようなんて思えない。
「どうしたもんかなぁ……でも、もしもまどかが叶えたい願いがあるとすれば、私はそれを止められない……」
まどかは昨日、その話を受けて困惑していた。
当たり前だ、誰だってそんな話を受け、願いが一つ叶うから戦ってくれなどと言われて受ける受けざる問わずまず困惑する。
そんな彼女に対しマミは魔法少女体験ツアーと題し自身の活動に同行するよう提案してきた。
当然さやかは即答でお断りを入れた、それは魔法少女という存在に関わる気がなかったからだ。
だがまどかは違った……迷ってはいるが明らかにその話に魅了されつつあるのがわかった。
「それにマミさん……あれは明らかに浮かれてるよなあ」
更に言えばさやかは一つ懸念すべき点があった。
それはマミがどこか嬉しそうな、浮かれている様子であったことだ。
いや、傍から見てばその様子は頼りになる先輩そのものである。
しかし、言葉の節々、様子の節々がある人物と重なった。
ライダーの戦いを止めようと戦う仮面ライダー龍騎、城戸 真司が自身と志を共にするライダーを見つけた時の様子と重なったのだ。
確かに彼の様にあからさまに、オーバーリアクションでも馬鹿丸出しでもなかったがしかし、よく見ればその様に感じられた。
「昨日の様子ならマミさんも中々の手練れってことは分かる……でも魔法少女としての実力がどの位置にあるのかわからない……それに……普通何も知らない一般人を戦いに連れていくぅ?」
さやかがマミのことを懸念材料にしているのは彼女が提案してた魔法少女体験ツアーであった。
仮面ライダーは同じ仮面ライダーと戦うだけでなくミラーモンスターと呼ばれる怪物と戦うことにもなる。
仮に同じく仮面ライダーになりたいという人間が現れたとして自分であればそんなことは出来ない。
一般人を巻き込むなど怖くて出来ることではないのだ。
「それだけ自分の実力に自身があるのか……んーーー、心配だなぁ!こっそりついて行ってやろうかな?名探偵さやかちゃん!なんちゃって」
「おっはよー」
「おはようございます」
後ろからまどかと仁美の声が聞こえる。
さやかは振り返ると一緒に通学してきた仁美とまどか、そして……
「おはようさやか!」
「おはよう、ま……ど……え……?」
まどかの肩に乗るキュゥべえの姿があった。
「やっぱりそいつ、私たちにしか見えないんだ……」
「……そうみたい」
(頭で考えるだけで会話とかできるみたいだよ)
「いっ!」
いきなり頭の中に流れてくるまどかの声に思わず声を出してさやかは驚いてしまう。
(あ、あたし達もう既にそんなマジカルな力が!?)
(いやいや、今はまだ僕が間で中継してるだけ。でも内緒話には便利でしょ?)
(な、なんか変な感じ……)
「あの……お二人ともさっきからどうしたんです?しきりに目配せしてますけど?」
まどかとさやかがキュゥべえを介した会話をしている中、蚊帳の外であった仁美は声を掛ける。
「え!?いや、これは……あの……その……」
「ま……まさか、二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?まぁ……たった一日でそこまで急接近だなんて!昨日はあの後一体何が!?」
仁美の耳には既に二人の声は届いていなかった。
自分の妄想の世界でまどかとさやかが友人からそういう関係になっているという風にどんどんと上書きされて行ってしまっている。
「いや……そりゃねぇわ流石に」
「でも……そんないけませんわ!お二人型、女の子同士で。。。。。。それは禁断の愛の形ですのよ!」
仁美の妄想は加速していき、その頬は赤みを帯びていく。
そして自身の興奮のままに二人を置いて駆け出して行ってしまった。
「バック忘れてるよー!」
さやかは仁美が忘れていったバックを取り上げ手を振るが、当の本人は彼方へと既にいいってしまっていた。
「……今日の仁美ちゃん、なんだかさやかちゃんみたいだったよ?」
「どーゆー意味だよぉ?それは!」
ーーーーーー
昼休み、校舎の屋上に二人はお弁当を食べていた。
「ねえまどか、本当にマミさんについて行くの?」
さやかは屋上の金網のフェンスに指を掛け、まどかに訊いた。
「う、うん……さやかちゃんは……」
「あたしは行かない……魔法少女なんて……あたしには無理だから……」
まどかはさやかの言葉に寂しそうに少し俯いた。
昨日マミからの話を聞いてからさやかは魔法少女という存在に否定的だ。
そして、まどかを魔法少女に関わらせたくないという想いを持っていることも感じている。
にも関わらずマミについて行くことに対して負い目があった。
「意外だなぁ」
まどかの肩の上に乗るキュゥべえが呟いた。
「大抵の子は二つ返事なんだけど」
「そうなの……?」
「そうだよ。君達くらいの年頃の女の子なんて、それこそ自分の夢で押し潰されそうなものだと思うけど……」
「だからこそだよ」
キュゥべえの言葉にさやかは重ねるように呟いた。
「だからこそ、ダメなんだ……願いの代償にあんな化け物と戦うなんて釣り合ってない」
「そうかな?どうしても、何をしてでも叶えたい願いの対価とするなら妥当なものだと思うけど……」
さやかにとってその願いを叶えるために命を懸けること、それは正解だったかどうかは叶ってみなければわからないものだと思っている。
もしかしたら何かの拍子に叶うかもしれない、本人の努力次第で叶うかもしれないそんな願い……それを魔法少女というものに願うのは論外であった。
実際、さやかは命を懸けて願いを叶えようとしている真っただ中に他の要因から叶ってしまい、しかし戦いから逃れられず命を落とした人間を知っている。
故に……夢という甘い誘惑を持って契約を勧誘するキュゥべえには否定的にならざるおえなかった。
言葉が風に飛ばされたかの様に屋上は無音だった。
そんな中、いつの間にかほむらが二人の後ろに立っていた。
「転校生……」
「ほむらちゃん……」
ほむらは二人、いやまどかに近づこうと足を運ぼうとする。
だが一歩目を踏んだ瞬間、その動きは止まった。
(大丈夫)
隣の校舎の屋上にマミがいたのだ。
それに気づいてほむらは動くことができなかった。
「……昨日の続きかよ」
「いいえ、そのつもりはないわ。そいつが鹿目まどかと接触する前にケリをちけたかったけれど……今更それも手遅れだし」
そう言いながらほむらはキュゥべえのことを睨みつける。
そして視線をまどかに移し、尋ねる。
「で、どうするの?あなたも魔法少女になるつもり?」
「わたしは……」
「僕は強制してないよ。まどかは今も迷っているところだ」
その瞬間、ほむらの表情が揺らいだ。
少し違和感のあるような、少しだけ想定外の回答をされたときのようなそんな揺らぎ方だ。
「……あなたは違うの?美樹さやか」
ほむらは視線を動かさないままさやかに尋ねる。
「あたしは魔法少女になんてならない……こんな願いの叶え方をしない……しちゃいけないと思う」
その言葉を受けたほむらの次の表情は誰からも見ても驚いてた。
まるで信じられないかのように目を見開き、しばらく押し黙る。
「……なんだよ、悪いかよ」
「……いいえ、少し意外だっただけよ。それにしても……昨日の話、覚えてる?」
何事もなかったかのようにほむらは再度まどかに視線を移す。
視線を向けられたまどかは少し肩をびくつかせながらも肯定した。
「ならいいわ。忠告が無駄にならないよう祈ってる」
それだけ言うと彼女は踵を返す。
そんな彼女にまどかは大声で名前を呼び、呼び止めた。
「ほ……ほうらちゃん!あの……あなたは、どんな願い事をして魔法少女になったの?」
その問いかけにほむらは答えなかった。
少し瞳の中の光が揺らぎ、更に冷たいものへと変わっていく。
開いてはパンドラの箱を開いてしまったかのように……その目は冷たかった。
「……」
そのまま彼女は校舎の中へと戻っていく。
「ほむらちゃん……」
「……」
まどかはまるで後悔の念に押しつぶされてしまいそうに顔を俯ける。
そんな様子を見て、さやかはほむらが戻っていった校舎の扉に視線を向ける。
「……ごめんまどか、先戻ってるね!」
「さ、さやかちゃん!?」
さやかはそう言うと駆けていき校舎の中に戻っていく。
まさか突然に走って自分を置き去りにしてしまうなんて考えてなかったまどかは面食らったかの様にさやかの名前を呼びながら驚いた。
しかしそんな彼女を余所にさやかは屋上の扉を閉める。
そして素早く階段を下りながら、一人の人影を探す。
「転校生!」
ほむらを見つけるのは難しくなかった。
さやかとほむらが屋上を出た時間にはさほど差はない、すぐに見つけることができた。
自身を呼ばれ、振り返るほむらの肩をさやかは掴んだ。
「転校生、あたしと組まない?」
そう言われたほむらの顔は今日一の驚愕であった。