黒服になったのでキヴォトスが滅びないようどうにかこうにかする話。 作:しゃけ_缶
転生したら黒服だった件
砂漠に埋もれ廃墟となったアビドス高等学校校舎本館。その地下は悪い大人――黒服の手によって趣味の悪い実験室にされ、そこに
「……私のせいだ、全部。私の……」
借金の大半を肩代わりする。そんな甘言に乗せられ彼女は退学届けを提出し黒服と契約を交わした。その結果、ホシノだけだった生徒会メンバーは事実上の解散となり公認された組織が存在しなくなったアビドス高等学校は学校としての機能を失う。
自治機関がなくなり宙ぶらりんとなったアビドスは、カイザーPMCの襲撃を受けていた。アビドスの市民が、大切な街並みがカイザーたちの手によって傷つけられる様をホシノは黙ってみていることしかできなかった。
――私は……ただアビドスを、みんなの居場所を守りたかっただけなのに。
廃校を阻止しようとして、そのためなら自分も犠牲にして。その結果すべてが裏目に出てしまった。
「ごめん……私のせいで……。シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。……ユメ、先輩。私は、何も守れなかった」
自分の考えの至らなさに嫌気がさす。馬鹿な自分の行動が事態をここまで悪化させてしまった。
後悔と自責の念で肩が震える。これでは、みんなに合わせる顔がない。
――ああ、もうみんなと会うこともないんだったか。
そう考えてホシノは自嘲気味に笑った。
こうなってしまった以上、アビドス高等学校は廃校になる。対策委員会のメンバーも散り散りになってしまう。
そうでなくても黒服のモノとなってしまったホシノにはもはや彼女らと顔を合わせることは叶わない。
「……」
借金さえなければ。もっと黒服のことを疑っていれば。あのとき契約を交わさなければ。
都合のいい考えだと思いつつもそんな言葉がずっと頭の中をぐるぐる回る。
◇◇◇
「まだ実験までは時間があったと思うけど? ――黒服の人」
開かれた実験室の扉の先を見て、ホシノは不愉快そうに顔を歪めた。そこには黒いスーツを着込んだ異形の存在――黒服がいた。
笑っているのかそうでないのか、不気味な模様の亀裂を顔面に張り付けた男。彼こそがホシノを陥れた元凶である。
「……少しばかり、事情が変わりましてね」
その言葉を聞いてホシノは首を傾げた。
いつも泰然とした態度をとる彼が、今はどうにも少し余裕がないように見える。
……どうして?
自分がこうしてここに拘束されている以上、彼の計画は順調であるはずだ。だからこそ彼が焦っているのにはどうにも違和感がある。
でもまあ、彼が何か為誤ったというのなら気味がいい。
もしかして対策委員会のみんなが彼らの計画の障害になっているのかもしれない。そう思うと少し気分が晴れる。
そんなことを考えているうちにも黒服はこちらに近づいてきていた。
ああ、とうとう始まってしまうのか。これから行われるであろう実験を想像してしまい体が震える。これ以上意識を保っていたくないとぎゅっと瞼を閉じて、――不意に、体に自由が戻った。
「なに、してるの?」
目を開けてみれば自分に施されていた拘束が解かれていた。
なんで? どうして? という言葉で頭がいっぱいになる。
彼の目的は自分で何らかの実験をすることなのだから、拘束を解く理由はないはずだ。
「対策委員会がカイザーの手に落ちました」
「……は?」
返ってきた言葉は、さらにホシノを混乱させた。
計画の邪魔をする存在が無力化されたのは彼にとって吉報であるはずだ。どうしてそんなに焦っている?
いやそもそもそれを自分に伝えてどうするつもりだ?
「助けにいくなり、お好きにどうぞ。座標もあなたのスマホに送っておきました」
「なんのつもりだ」
「言ったでしょう、事情が変わったと。対策委員会が今潰されるのは、私としても都合が悪いのです」
そう言って彼はホシノの武器――Eye of Horusと折り畳み式の盾を投げ渡した。
ホシノはそれを受け取り、銃口を彼に向けつつ距離をとった。
「何を企んでる? 言わないと――」
「それは、また後日伝えましょう。今は仲間を優先したほうがいいのでは? 貴女も母校と仲間を失いたくはないでしょう」
「ちょっと待って。生徒会がなくなったアビドスは廃校になるって……」
「退学届けを受理できるのは生徒会かそれに比肩する権限を持っている者のみです。現状、該当するのはホシノさんだけですが……」
あっ、と情けない声が出た。
そういえば退学届けを手紙と一緒に置いてきただけで、そういった手続きは踏んでいない。対策委員会に生徒の退学の手続きを行う権限はない。
「そ、それじゃあ……」
「アビドスの公的機関はまだ生きています。ですが、急がなければ本当に手遅れになりますよ」
「……ッ。 あとで、いろいろと聞かせてもらうよ」
「ええ、もちろん」
また騙されているのかもしれない。彼が何を考えているのかは分からない。
分からないが――折角湧いて出てきた最後のチャンスだ。今度こそ、今度こそ誰も取りこぼしたりしない。
ホシノはそう決意し実験室を後にした。大好きな仲間を、大切な街を守り抜くために。
◇◇◇
「はぁ……今回はなんとかなりましたが、先生が頼りにならない以上先行きが不安ですね……」
実験室に残された黒服は、ホシノが校舎本館を飛び出していったのを確認して深いため息を吐いた。
黒服は転生者である。
元々はブルーアーカイブの一プレイヤーにすぎなかった、ただの一般人だった。ある日目を覚ますと自分が黒服になっていた。
鏡で自分の姿を確認したときに軽く失神しかけたのは今でも悪い思い出だ。
自分が黒服になったと認識してからはブルーアーカイブの『原作』通りに物事が進むよう行動してきた。
『原作』では、ほとんどの出来事が綱渡りという言葉すら生ぬるいほどの偶然で解決されている。自分の行動一つで結末が変わってしまうことを危惧した彼は黒服になりきり、そして物事が『原作』から乖離しないよう誘導してきた。
ああ、今回対策委員会を裏から誘導するのには相当骨が折れた。
誘拐されたセリカの居場所がつかめるよう痕跡を残したり、ホシノの救出がやりやすいよう警備を手薄にさせたり。
もっとも、そのほとんどは失敗してしまったのだが。
彼女らは風紀委員にも便利屋にも会うことができず、カイザーの襲撃の際には当然手助けしてくれる存在はなく、最終的には全員捕まってしまった。
どうしてこうなった。というのが黒服の切実な感想だ。
「うまくいかないものですね……できれば『原作』から離れた行動はしたくなかったのですが」
『前提から『原作』通りじゃないんだから仕方ないんじゃないかなあ』
ため息交じりに漏れた言葉に、のんきというよりかは現実逃避したような声が返される。
ああそういえば、彼女にも先ほどの会話を聞かせていましたね……と、黒服はスーツの胸ポケットから通話中になっているスマホを取り出した。
『先生が来ないんじゃあ仕方ないよ。黒服くんの言ってた『原作』も、先生の存在が前提だったみたいだし』
「そうなんですけどね……まさか
おかげで
それはそれ。これはこれ。黒服はこれから起こるであろう事件の数々に思いをはせ、よけいなことしやがってと頭を抱えた。
ああ、保険とはいえこうなった時の対策を用意しておいてよかった。切実に。
「『原作』の時間軸ではない以上、こちらが不干渉を貫けばキヴォトスは滅びる運命にあります。……私たちでどうにかするしかないですね」
『……結局そうなっちゃうかあ』
「まずは彼女と交渉する必要があります。私たちだけでは立場も人手も足りなさすぎる」
キヴォトス最高の神秘を持つ彼女を引き込むことができれば、戦力になる。うまくいけばそれなりの立場も手に入れられる。
黒服がそういうとスマホの向こうの存在がうへぇと素っ頓狂な声を発した。
『ホシノちゃんと会うのはちょっと……ううん、かなり気まずいんだけどなあ』
「今までしたことを考えると私のほうが気まずいんですけどね……頼みますよ。切実に。ホシノさん相手に切れる交渉材料としては、貴女以上のものはないんです」
『あんな顔までさせちゃったのに今更どんな顔して……』
悲痛な声がスマホから漏れる。申し訳なさと後悔が混ざった声だった。
「責任は全部私が負います。私が貴女を誘拐した、ということで押し通しましょう。納得はしてくれないでしょうが……私が強引に貴女を巻き込んだのは事実です」
『……そんなことしたら黒服くんはもっと嫌われちゃう。最悪ホシノちゃんに銃を向けられてもおかしくは――』
「覚悟の上です。……ふむ、責任について貴女と話したことがありましたね」
――たとえ嫌われることになろうとも、子供を導く。それが大人の責任ですよ。ユメさん。
「貴女がこちら側にいる以上ホシノさんは協力するしかないのです。ああ、本当に貴女を助けておいてよかった。ククッ……」
『……台無しだよ』
ホシノパイセンのただいまがなくなっちまった! 許さん……許さんぞ陸八魔アル!!!!!!!
普通寂れた学校が廃校になったくらいじゃあ世界が滅びるとは思わないよね。
連邦生徒会として優先するべき業務をこなしてたら世界滅びちゃった……初見殺しかな?
先生がアドビスに来ない
→先生がいないのでゲヘナ風紀委員は来ない。
→対策委員会がセリカのバイト先に行かないので便利屋と会わない。
詰んでて草。
黒服君は何とか軌道修正しようとしたけど先生がいないんじゃあ無駄な努力なんだよなあ。かわいそう♡