黒服になったのでキヴォトスが滅びないようどうにかこうにかする話。   作:しゃけ_缶

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ブルアカは新人にわか先生なので初投稿です。


いたいけな少女を奴隷に堕とす悪い大人の図

「……お待ちしておりました、ホシノさん」

「……」

 

 ──キヴォトス某所。ホシノはとあるビルのオフィスにて黒服と相対した。

 オフィスビルとしてはあまりにも人気がなく、黒服の存在がそうさせるのかどこか不気味な雰囲気を醸す場所。彼女にとって当然ここには良い思い出はない。ここは、あのろくでもない契約を結んだ場所だ。

 若干の居心地の悪さに顔をしかめながら、彼女は黒服をにらみつける。

 

「そう睨まずとも、私に貴女を害するつもりありませんよ」

「……その言葉を信じられるとでも?」

「クックックッ……いいえ? これまでのことを鑑みるに、貴女が私に不信を抱くのは至極当然のことでしょう」

 

 何が面白いのか、黒服は肩をすくめくつくつと笑いをこぼす。こちらの疑念も敵意も気にも留めていない、そうする必要もないといった素振りだ。

 ……相変わらず、食えないやつだ。黒服を睨むホシノの眼光がより一層鋭くなる。

 ホシノは黒服の余裕な態度に腹の虫の居所が悪くなるが、しかしこの苛立ちを彼にぶつけようとしたところで意味はないだろう。ホシノは努めて冷静に振る舞うことにした。

 余裕そうに見えて、その実誰よりも狡猾。こちらが銃を向けたときの保険も用意しているに違いない。彼はそんな男だ。

 

「しかし、信じていただく必要もありません。貴女はこちらの話を飲み込むしかない。──そのための()()()()()はすでに私の手札にあります」

「なにを──」

「そう慌てずに。本題に入る前に、少し現状について話しましょうか。カイザーの話。借金の話。貴方もいろいろ気になることはあるでしょう?」

 

 その言葉の真意はなんだ。何を企んでいる。そう問いただそうとして、黒服が続けた言葉にホシノは出かかった言葉を飲み込んだ。

 たしかにその話は彼女にとって最も、とは言わずとも黒服の次に気になる事項だ。彼の言う通りとなるのは少々癪ではあるが、黙って彼の言葉を聞くことにした。

 

「理事は今回の責任を取らされる形でカイザーコーポレーションを解雇されることとなりました。近いうちにニュースで報じられるでしょう。肩書も権力もすべて失ったようなので報復の心配はしなくても大丈夫ですよ」

 

 本社は知らぬ存ぜぬ。トカゲの尻尾切りとはまったく汚い大人もいたものだ。

 黒服はそういうとデスクに肘を付けながらククッと笑った。

 汚さで言えばお前のほうが数億倍は上だろうとホシノは思ったが、いちいち彼の言葉に反応するのもどうかと思ったのでそれは言わないでおくことにした。

 

 今はそんなことよりも、自分たちに課せられた借金のことのほうが重大だ。

 毎月の返済がままならなくなるほどに膨大に膨れ上がった利子。ホシノは黒服の手を取ることとなってしまった原因を思い出して顔をしかめた。

 

「カイザーのことはどうでもいい。さっさと借金について話して」

「ええ、もちろん。……不当な利子について連邦生徒会に暴かれることを恐れたカイザーコーポレーションは、利子を適切なものに是正することにしたようです。当然その不当な利子で今まで被ることになった損害も補償すると」

 

 そういって彼はデスクから取り出したファイルをホシノに手渡した。果たしてそれはカイザーローンの契約更新の書類らしく、そこには借金の総額やこれからの毎月の返済について事細かに記載してあった。

 それを読み込んでみると、どうやら黒服の言う通り借金は減額されている。

 数日前まで借金返済のために駆けずりまわっていた時と比べると、随分と良心的な金額だ。そのことにホシノは数瞬安堵の表情を浮かべ、ふと疑問に思った。

 

「……なんで総額がこんなに減ってるの?」

 

 不当な利子による被害の補填。それだけで片付けるにはあまりに不自然なほど借金の総額は小さいものになっていた。とはいっても、元の金額を考えれば誤差みたいなものだが。

 それに気づいたホシノは当然疑問に思い、黒服に質問した。

 どうやらそれには彼が関わっているらしく、ホシノの言葉を聞いた彼は愉快そうに笑いを漏らすと言葉を続ける。

 

「私からのささやかな『お詫び』というものですよ。これから交渉する相手に好印象を持ってもらうというのは、それほど不自然なことではないでしょう? ──ええ、安心して下さい。これを理由に貴女に何かを要求するつもりは毛頭ありません」

 

 もちろん、これによって契約の強制もしない。その言葉を聞いたホシノは、信じられないとばかりにさらに警戒しながらも先ほどの言葉にすこし引っかかる点があることに気づいた。

 交渉、とたしかに彼は言った。

 まだ何か企んでいるのか、ふざけるな。

 そう言おうとして『自分が絶対断れなくなる何か』を持っていると彼が言っていたのを思い出す。

 

 ──また私を利用するつもりか。

 

 背筋に冷や汗が流れるのを感じる。彼は確かに『絶対断れない』と言った。彼がそういうのであれば、残念ながらそれは確かに本当のことなのだろう。彼は虚言も吐くしごまかしもするが、無意味なことはしない。後でばれるような嘘はつかない。

 目の前が真っ暗になりかけて、どうにか冷静さを取り戻す。

 

 一体何を企んでいるのか、聞かなければならない。

 昨日から彼は不気味と言っていいほど不自然な態度をとっている。実験すると言ったかと思えば、自分を解放したり、後輩たちの救助に向かわせたり。

 

 あの時自分を解放したのだから、単純に実験をさせろという話ではないだろう。……となると汚い仕事でもさせるつもりか。

 黒服に『キヴォトス最高の神秘』と称されるだけあって、彼女は戦闘力だけには自信があった。

 おそらくその戦闘力を見込んでのお願いという奴だろう。

 しかし、ある程度想像はついたとはいえ聞かなければならない。

 

「……交渉?」

「ええ、貴女に頼みたいことがありましてね。それは『我々からの契約』ではなく、私からの『個人的なお願い』です。……単刀直入に言いましょう」

 

 ──貴女にはキヴォトスの滅亡を阻止するために動いてもらいます。

 

 

「──は?」

 

 予想からあまりに外れた爆弾発言にホシノは数秒思考を放棄してしまった。

 

「現状、キヴォトスは首の皮一枚で繋がっている状態です。奇跡的に秩序が成り立っているとはいえ、その実いつ爆発するかも分からない核爆弾をいくつも抱え込んでいる」

「な、なにを言って……」

「キヴォトスが滅ぶのは、我々としても非常に都合が悪い」

 

 故に、貴女を戦力として迎え入れたい。貴女ならば、戦力として申し分ない。

 いつもと違い真剣味を帯びた黒服の態度に、ホシノは圧倒されていた。

 これは、まるで別人だ。人を食ったような態度をとる彼が、今は──

 

 いや、騙されるな。今までの彼の所業を思い出せ。

 彼は悪い大人だ。こんな演技で騙そうというのなら、そうはいかない。

 

「そんなの、信じられるわけが──」

「信じていただく必要はありませんと言ったはずです。必要なのは動機ですよ。……キヴォトスの危機とはそれ即ちアビドスの危機でもある」

 

 ──果たして貴女は、その可能性を見過ごせるでしょうか。自分で確かめもせずに?

 

「ッ──!?」

 

 息が詰まった。

 アビドス(思い出の場所)が、アビドス対策委員会(大好きな後輩たち)が人質に取られている。

 黒服は無意味な嘘をつくような男ではない。ホシノは彼を悪い意味で信用している。

 キヴォトスの危機という言葉をそのまま受け取るつもりはないが、しかしその全てを否定することはどうしてもできなかった。

 

 提案を飲まなければ、アビドスは何らかの形で滅ぶことになる。滅ばないにしても何らかの危害が加えられる。いや、この際滅ぶか滅ばないかなんてどうでもいい。

 

「これはあくまで『お願い』。形式上契約書は用意しましたが……ほとんどは報酬に関してのもので、貴女への縛りはとても緩い。少しでも怪しいと思った時点で契約を破棄していただいても結構です。ですので、どうか今はこの手を取っていただきたい」

 

 よくもまあそんなことをぬけぬけと。これは、これは実質強制しているようなものじゃないか。

 言外に彼はこう言ってるのだ。この手を取らなければアビドスは危機に陥るのだと。

 そして一度とってしまえば、お前は二度とこの手を離すことはできないのだと。

 最初から彼は自分を逃がすつもりはなかった。そのことに気づきホシノは歯噛みした。

 

「……対価は?」

「ええ、もちろん出し惜しみをするつもりはありません。アビドスの警備、弾薬、借金に充てる費用、対策委員会の公的な認可。必要とあらばそれ以外もこちらで用意しましょう」

「……非公認の部活の認可なんてどうやって用意するの? 私にだって、そんな権限はない」

 

 その権限を持つのは『連邦生徒会』か『先生』か『生徒会長』くらいのものだ。

 だからこそ、ホシノは今の今まで対策委員会を公的な組織とすることができなかった。

 権限を偽造するにしても、いずれは連邦生徒会にばれてしまう。いくら黒服とはいえ、彼女らの目を欺くことができるとは思えない。

 

「クックックッ……ええ、確かにその通りです。私としても連邦生徒会に目を付けられるようなことは極力避けたい。ですので──」

 

 ──その権限を持つ人物に仕事をしてもらいましょう。

 

 ちょうどその人もこちらに到着したようなので。黒服がそういうと、ホシノの背後でガチャリと扉を開く音がした。

 いったい誰のことだと振り向き、ホシノは目を疑う。

 そこには緑がかった薄い水色の髪を膝あたりまで伸ばした柔和そうな女性──

 

「──ユメ、先輩……?」

「……久しぶり、ホシノちゃん」

 

 すでに死んでいるはずの、大好きな先輩の姿があった。

 

 

 

「クックックッ……早速アビドス生徒会長として働いてもらいますよ、ユメさん」

 

 そうして、黒服に切られた()()()()()によってホシノは完全に『お願い』を断ることができなくなってしまったのだった。




──あったかもしれない会話──

黒服「生徒会長として仕事してもらいますよ」
ユメ「えっ、私もう卒業しててもおかしくない歳だよ?」
黒服「心配せずとも貴女は出席日数が足りないので留年です」
ユメ「え」
おじさん「え」


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11/05 : 日刊ランキング35位ありがとうございます!!!!!!
うひょぉ~~~~夢見てるみたいだぜ

よく考えたら黒服は実験室じゃなくてオフィスで話してたよねということで、二話の最後をちょこっと修正。
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