黒服になったのでキヴォトスが滅びないようどうにかこうにかする話。 作:しゃけ_缶
「対策委員会が……公認の部活に!?」
──アビドス高等学校別館。今となってはゴーストタウンとなってしまった街にある小さめの校舎で、驚愕に染まった声が響いた。
声の主は、アビドス廃校対策委員会のメンバーである黒見セリカ、十六夜ノノミ、奥空アヤネ、砂狼シロコの四人だ。どうやら急に降りかかった幸運に現実味を感じていないらしく、驚いた表情のまま固まってしまっていた。
……どう説明しよう。
小鳥遊ホシノもまた、現状に現実味を感じていない。
まさか死んだと思っていた生徒会長が生きていて。その上出席日数が足りないなんてバカみたいな理由で自分と同級生になってしまって。そしてその生徒会長は、つい数日前まで
いったいなんなのだこれは。悪い夢ならいっそ覚めて──いや、やっぱり覚めてほしくない。
いままでずっとユメが死んだと思っていて。ずっと
彼女が生きていると認識したとき、つい胸がいっぱいになって彼女に抱き着いてしまったのを思い出す。あの時は年柄もなく泣き喚いてしまった。
本当に、本当に夢のような時間だった。……その場に黒服がいなかったらの話だが。
──あいつって、気を使うこともできたんだな。
気まずそうにしながらそそくさと部屋を出ていく黒服を思い出して、ホシノはあんな大人でも意外に常識人っぽいところもあるんだなあと思った。
「……ホシノ先輩?」
どうやら思考にふけっている間に後輩たちは意識を取り戻したらしく、気づけばこちらを心配そうに見つめていた。
ちょっと長いこと考えすぎちゃったかなあ、とホシノは後頭部をかきながら事のいきさつを話す。
「うへ、ごめんごめん。……おじさん、ちょっと前にふる~い友人と偶然再会しちゃってさあ。話したことあったっけ? うちの生徒会長」
「生徒会長って……急にアビドスを去ったユメ先輩って人?」
「うん。突然いなくなるものだから、おじさんもそう思ってたんだけどね。何か事件に巻き込まれてたみたいでさ。ようやく落ち着いたから戻ってきたんだって~」
ほら、これが在籍証明書。ホシノがそういって書類を見せると対策委員会一同は困惑した表情を見せた。
その中でも、特に困惑しているのはノノミだった。
それもそうだろう。彼女だけはある程度事情を知っている。過去にホシノが伝えている。
しかしいったん疑問を飲み込んでくれたのか、事情を聴きだしたそうにしながらも彼女は口をはさむことはなかった。
……後でどう言い訳しよう。
言い訳の言葉を二つ三つほど考えて、別に嘘を言っているわけじゃあないし別にいいか、とホシノは思考を放り投げた。
ノノミには確かにユメが死んでいると伝えてはいたが、
あの場で見たのは──血に濡れているユメ先輩の盾。あたりに散らばった血痕。なにか巨大なものが暴れまわっていた跡。そして、極めつけはあの場で起きていた砂嵐。
状況的に生存は絶望的だと判断していたが、今考えてみると彼女は
ノノミにはそう伝えよう。ホシノはそう結論付けた。
「本当はもう卒業してる歳だけど、出席日数が足りないから留年することになったんだってさ。まぁそれが幸いして対策委員会の公証手続きができたんだけどね。……おじさんは複雑な気分だよ」
「うわぁ……」
「ん、圧倒的感謝」
「留年したことに感謝するのはさすがに……なんというか……」
対策委員会一同はまだ見ぬ生徒会長に対して感謝すると同時に同情の念を抱いた。
そしてこれから来るであろうユメ先輩なる人物にはできるだけ優しくしてあげよう、そう決心した。
そんなこんなで説明は終わった。いつもの夜警を終えた時とはまた違った疲労を感じたホシノは、うへぇといつもの鳴き声を発しながらいくつか椅子を横に並べて作った簡易ベッドに倒れこむ。
今日は一段と疲れた。今日はもう早く寝てしまいたい。
そう思って瞼を閉じようとすると、突然教室の扉がピシャンと開き──
「ごめんホシノちゃん、遅れちゃった! ちょっと生徒会の仕事が──」
「うへ? ……あ、ユメ先輩」
瞼を開けるとそこには申し訳なさそうに教室に入ろうとしているユメの姿があった。
彼女の急な登場にシロコ達が凍り付き、自分の記憶とはかけ離れたホシノの姿にユメが凍り付き……。
「対策委員会の活動を認めてくださって、なんと感謝を伝えたらいいか……」
「ん、これからは貴女に足を向けて寝られないね」
「ホシノ先輩から話は聞きました。その、ありがとうございます」
「セリカちゃんが素直に感謝するなんて、珍しいです☆」
「わ、私だって普通に感謝くらいするわよ!」
果たして先に解凍されたのはシロコ達だった。彼女たちは一瞬でユメを取り囲むと思い思いに感謝の意を伝える。
感謝の嵐に巻き込まれたユメも、ようやく我を取り戻し一言。
「え、何この状況」
急に後輩たちに取り囲まれ一度に言葉を投げつけられたことから、またフリーズしてしまった。
……どうやら自分はまだ寝られないらしい。
いまだ困惑した表情で固まってるユメを助けるべく、ホシノは彼女を取り囲んでやいのやいの言ってる後輩たちをいさめるために立ち上がる。
……おかえりなさい、ユメ先輩。
ふとどうしても言いたくなって、しかし口に出すのもなんだか小恥ずかしくて。だれにも聞こえないように小声でそう漏らす。
ユメと後輩たちの間に入ろうとして、ホシノはユメが満面の笑みでこちらを見ていることに気づく。
──ただいまっ、ホシノちゃん!
……やはり助けるのは面倒だ。眠気も限界だし、なんだか熱っぽいし。今日はもう寝よう。
風邪かもしれないのだから、早く寝ても罰はあたらないだろう。
顔に熱が帯びるのを感じながら、踵を返したホシノは再度簡易ベッドに寝転んで顔を隠した。
「ホシノちゃん!?」
見捨てられたことに抗議する声を背中に受けつつ、ホシノは誰にも気づかれないように小さく笑った。
ずっと夢見て焦がれて、それでも求めることすらおこがましいと思っていた光景が現実となった。
……先輩が先輩ではなくなってしまったのはちょっと複雑ではあるけれど。
決して信じたわけじゃあない。大切な後輩たちを人質にとったことは、いつか絶対に報いを受けさせる。
……それでも、まぁ今だけは彼に感謝してやってもいいだろう。非常に不服ではあるが。
◇◇◇
「ええ、交渉はそちらに任せますよ。……心配せずとも、あちらは拒むことはできないでしょう」
『まぁ、あそこまでやればね……』
人気のないオフィスの中、何やら誰かと通話している男がいた。黒いスーツを着こなし、嗤っているような、そんな不気味な表情の亀裂を顔面に張り付けた異形の存在。
黒服と、そう呼ばれている男。
その男の言葉に、通話相手──ユメはドン引きしたように言葉を漏らす。
『でも、ちょっと心配だなあ。うまくいくといいけど』
「……それについては大丈夫でしょう。そのための仕込みもしました」
『……よかったの? ゲマトリアを頼ったんでしょ?』
「『王女』が目的だと言えば快く協力してくれましたよ。……確かに私としてもあの連中に借りを作るのは避けたかったのですがね。まあ必要経費ということにしましょう。私だけでは──」
──ミレニアムを経済危機に陥れるのは不可能でした。
『……資金援助をちらつかせて無理やり頷かせるなんて、ひどいマッチポンプだよね』
「……仕方ないでしょう」
『原作』通りにゲーム開発部には廃部の危機に陥ってもらう。そのためにはミレニアムは経済危機に瀕してもらわなければ困る。
セミナーの生徒会長──調月リオが汚職を働いていない以上、やはりこちらで誘導するしかない。
連邦生徒会長がアビドスに干渉してこなかったことから想像はついていたが、どうやらこの世界線はループの最初あたりらしい。
解決方法を知らないのか、原因を知らないのか、はたまた何が起きるのかさえも知らないのか。それは判断に困るが、おそらく今回も連邦生徒会は頼りにならない。
……それにしてもここまで準備するのは相当に大変だった。
ゲーム開発部の廃部の危機を用意し、アリスを入部させる動機を作り、堂々と介入できるように立場も用意した。
「ここまでしたのです。失敗は許されない。ですので──」
──ミレニアム留学の件、頼みましたよ。
「失敗したら、私が罪悪感で死にます」
『私も……』
黒服ルートではリオ会長が行動してないので、もろもろの事件がスキップできてタイムが縮まるわけですね。黒服ルートのRTAを走る兄貴姉貴はぜひ参考にどうぞ。
まぁ楽な道じゃあないんですけどね。黒服、お前には地獄を見てもらうゾ♡
原作改変ポイント
ホシノはユメ先輩の死体を見ていない。まぁ先輩が生きている以上あたりまえだけど。
なんとファンアートをいただきました! 絶対匿名さん、ありがとうございます!!!!
【挿絵表示】
めっちゃかっこいい黒服だ!!!!!!
でもよく見たら冷や汗かいてるところとかユメパイセンがちょっと引いてるところとか、本当にこの作品を読み込んでくれてるんだなあってしみじみ。(たった三話で読み込んでるとは?)
先生が中にはいってるって演出もいいですね……グリッチエフェクトがかっこいい!
あ、それと日刊三位になってて椅子から転げ落ちました。
余談だけどアヤネの口調がよくわかっていない。とりあえず敬語にさせとけばいいかなって思ってる。(ダメ)