精霊の寵愛を受けた才禍の怪物が神に挑むのは間違っているのだろうか   作:子猫猫猫

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以前の作品を非公開にしてからはや7か月ほど経ちました。お久しぶりです。そして大変申し訳ございませんでした。様々な環境変化があり、それどころではなかったのはありますが、一番の理由は気分にならず先延ばしにしていたからです。それでも、待ち望んでいて剣製都市の情報が出たり、最新を読み、書くしかないという気持ちになった次第です。一応書き溜めていた約3万字分の【ロキ・ファミリア】創設期編がありますが、物語の展開上、過去編は後でやることにしました。あと、主人公のライバルキャラもそのうち登場します。


始まり

荒涼とした大地に怪物達の咆哮が轟く。

 

不規則に響く轟音が地を揺らし、そよ風が砂埃を舞い上げる。

 

山羊のようにねじれ曲がった二本の大角。家畜の山羊とは似ても似つかない怪物の巨躯。

 

血走った眼球がぎょろぎょろと蠢き、獲物目掛けて進撃していた。

 

それが地を埋め尽くさんばかりにこの異相の大地にひしめいている。

 

その最後方に座するは、単眼の王。

 

迷宮(ダンジョン)49階層、「大荒野」と呼ばれる一本の草木すらない、石や砂など全てが赤茶色に染まった茫漠たる大空間の主。舞い上がる砂煙にかすむ景色の奥に堂々と鎮座し、赤黒い巨尾を揺らめかせ、配下に指示を飛ばすその姿はまさに「王」と形容するに相応しい。

 

深層第二の階層主『バロール』それが、単眼の王の正体だった。

 

重力に干渉していると疑ってしまう威圧感。その巨軀から滲み出る桁外れな存在感が、他の怪物達と一線を画している。

 

まさに、この49階層の迷宮(ダンジョン)の主に相応しい絶対王者の風格だ。

 

「ギシャアアアアアアァァ!!」

 

瞳に魔力を集中させ、視界を赤色に染めたバロールが雄叫びをあげる。

 

それが戦闘開始の合図となった。

 

『大荒野』に跋扈する無数の怪物達が一斉に襲いかかってくる。

 

凶悪獰猛な怪物ーーー迫り来るモンスターの大群に相対するは、異なる種族からなる3人の冒険者。

 

パルゥム、ハイエルフ、ドワーフ。本来相いれないはずの種族の彼らは、お互いの背を向け、己の得物を構えている。

 

「ガレス、リヴェリア、準備はいいかい?」

 

「おうっ‼」

 

「勿論だ」

 

この戦場にて誰よりも小柄な少年ーーー小人族の首領はばさばさと風にあおられる一本の旗を指さした。

 

刻まれているのは滑稽な笑みを浮かべる道化師のエンブレム。

 

一柱の『神』と契りを結んだ、『眷族』の証。

 

「僕たちの勝利条件は迫りくるモンスターの大軍を殲滅し、階層主であるバロールを討ち取ること。敗北条件は誰か一人でも失い、この旗を怪物たちの手で穢されることだ」

 

宣言する少年の表情からは、何の気負いも感じられない。

 

僕たちならできる。そう確信している眼だ。

 

不敵に微笑む少年に、二人も釣られてニヤリと口角を上げる。

 

「ガレス、君が前衛だ。モンスターを一匹たりとも通すな。【重傑】の底力を見せてくれ」

 

「がっはっは!お前に言われるまでもないわ!行くぞ‼」

 

ガレスと呼ばれた大戦斧と大盾を構える筋骨隆々のドワーフは、見た目にそぐわない俊足を発揮し、押し寄せるモンスターの津波へとその身を投じる。

 

「おりゃぁぁぁ‼」

 

迫り来るモンスターを大戦斧の腹で横殴りに打ち据え、ガレスは先陣を切る。

 

並のモンスターなど紙切れのように吹き飛ぶドワーフの豪腕。その勢いは止まらない。それどころか、次々に襲いくる怪物達をガレスは力任せに叩き潰していく。

 

猛牛のように前進し、彼の通った後は地面がひび割れていた。

 

「この程度かぁ‼」

 

強烈な一撃を喰らい、吹き飛ばされたモンスター達が後続を巻き込み、阿鼻叫喚の渦中へと呑み込まれていく。

 

「リヴェリア、君は魔法の詠唱を。都市最高峰の魔導士の実力を存分に発揮してくれ」

 

緑髪を風に靡かせ、魔法の性能を底上げする最上級の魔宝石を幾つも使用した魔杖を構えるハイエルフの女性、リヴェリアは凛々しい顔を引き締め、戦況を注意深く見据える。

 

無数の怪物達の波に呑まれ、いつの間にかガレスの姿が見えなくなるが、ハイエルフの美女は微塵も動揺していない。

 

「フィン、貴様はどうするつもりだ?」

 

「そうだね…なら僕は総大将の首を取りに行こうかな」

 

言うや否や、フィンの体が搔き消える。

 

疾風怒濤。

 

瞬間移動でもしたのかと思う程の速度でフィンは単眼の王の元へと疾駆する。

 

瞬きすら許されない迅雷の進撃。

 

小柄な体躯を最大限活用し、群がるモンスターを一切寄せ付けないその速度は、何度も恩恵を昇華させた第一級冒険者をもってしても目で追うことすら難しい程だ。

 

時に怪物の巨躯を得物の槍で貫き、時に乱戦を縫うように移動し、パルゥムの【勇者】は戦場を駆け抜ける。

 

その威容はまさに、今は遠き古代、『大穴』への道を切り開いたとされる偉大な英雄を彷彿とさせる。

 

「私も負けてはいられないな」

 

瞬間、巨大な魔力が渦巻き、リヴェリアの体から溢れだす膨大な魔力がを詠唱の開始を宣言する。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬―――】」

 

妖精の王女の足下に広がる翡翠色の魔法円。発展アビリティ『魔導』を所持している証拠であり、同時に彼女が一流の魔導士である証だ。

 

「【―――間もなく、()は放たれる】」

 

『詠唱連結』。本来ならば魔法のスロットは3つしかないため、最高でも3種類の魔法しか発現出来ないのだが、リヴェリアだけはそのルールを逸脱している。

 

攻撃・防御・回復の3種類の魔法に加え、それぞれ3段階の階位を含めた魔法を詠唱連結することによって規模や効果を変える規格外の魔法特性。

 

合計9種類の魔法を扱える彼女が、神々から賛歌とともに授かった二つ名は【九魔姫(ナイン・ヘル)】。

 

「【忍び寄る戦火、(まぬが)れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

モンスターがひしめく荒野に、彼女を中心として同心円状に風が巻き起こり、砂塵が空高く舞い上がる。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

絶大な魔力の奔流に、本能を刺激されたモンスターたちはリヴェリアのいる方向へと進路を変える。

 

しかし―――

 

「行かせんぞ‼」

 

その前にガレスの大楯が行く手を阻む。

 

分厚い大盾を巧みに操り、モンスターの攻撃を防ぎながら、ガレスは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「歯を食いしばれよ!【アースレイド】‼」

 

振り下ろした大戦斧がダンジョン49階層の地面に叩き付けられたのと同時に、解放された魔法が発動する。

 

突如地面が隆起し、津波のように隆起した大地がモンスター達を吞み込み、押し潰さんと襲いかかる。

 

大地を震わす轟音。巻き起こる砂煙に視界を奪われ、リヴェリアの魔法が不発に終わったのではないかと疑いたくなる程の威力だった。

だが――

 

「【焼きつくせ、スルトの剣--我が名はアールヴ】‼」

 

この戦場の中でだれよりも美しく在る彼女は、その玲瓏な声で呪文を続けていた。

 

力強く、流麗な韻律を持つ『詠唱』。

 

立ち昇る魔力が彼女の周囲には目に見える程の濃密な大気の渦を巻いている。

 

必死に、何としてでも詠唱を阻止したい怪物たちの怒涛の猛攻を虚しく、弾ける音響とともに魔法円が拡大した。

 

全戦域が彼女の魔法の射程距離内。

 

「【レア・ラーヴァテイン】‼」

 

大炎。

 

地面―――魔法円から突き出す無数の炎柱。

 

耳を弄するほどの轟音とともに、炎の射出がガレスを避けて放射上に連続する。大空洞の天井にまで届こうかという炎の極柱は太く、フォモール達を串刺しにするどころか、その巨躯を丸呑みにした。

 

劫火の奥に次々とモンスターの姿が消え、絶叫が折り重なる。

 

広範囲殲滅魔法。百をも超すモンスターの大群はこの僅か数舜で一掃された。

 

熱気と火の粉に満たされ、世界が灼熱に包まれる。

 

「最後は僕の番だね」

 

階層主を除き、全滅したモンスターを背に、フィンが疾駆する。

 

「グギャァァァァァァァァァ!!!!」

 

その時、今まで傍観者に徹していた単眼の王『バロール』がついに動き出した。

 

巨人は単眼の瞳に魔力を集中させ、小さき者に標準を定める。

 

「―――――――――――っつ⁉」

 

真紅の魔力を放つ瞳。フィンは本能の警告に従い、咄嗟に横へと跳躍する。

 

直後、フィンが佇んでいた場所を中心に地面がめくれあがり、無数の亀裂が走る。

 

バロールの瞳から放たれたのはただの魔力砲。『蒼炎』や『猛毒』などの特殊効果があったり、属性が付与されている訳でもないただの砲撃。

 

その身に宿る膨大な魔力を無造作に放っただけ。ただそれだけで、恐ろしいまでの破壊力を秘めた砲撃が地面を深く抉ったのだ。

 

避けなければ跡形もなく消滅する程の威力を秘めたバロールの一撃に、フィンは冷や汗を流す。

 

(……凄まじい威力だ)

 

これほどの怪物を生んでしまう階層主の恐ろしさに、改めて畏怖の念を抱く。

 

しかし、退くわけにはいかない。二人はやり遂げた。数えるのも億劫になるほどの量の魔物を防ぎ、殲滅してみせた。

 

(やるなら短期決戦。一気に決める!)

 

大気を切り裂き、速度を落とすことなく飛来する魔力砲を紙一重で回避しながら、フィンはバロールとの間合いを猛然と詰める。

 

「ガァァァァァァ!!!」

 

「挙動が変わった…?」

 

一向に仕留めることが出来ないフィンに、単眼の王は憤怒の表情を浮かべた。

 

今まではフィンの動きを捉えるためにバロールの瞳は魔力砲を放ち続けていたのだが、ここに来て単眼が空を向いた。

 

怒りの咆哮をあげながら、再びその双眸に膨大な魔力を集中させ、宙に放つ。

 

「閃光の…雨…」

 

フィンが苦々しく呟いた。

 

空中に放たれた魔力は、光の粒子となり、雨のように降り注ぐ。

 

その数は百や二百ではきかず、十秒と待たずにフィンの頭上は光の雨で埋め尽くされた。

 

「グォォォオ!!」

 

「突き進むしかないね!」

 

降り注ぎ、炸裂する閃光の雨。轟音とともに放たれる魔力砲は、地面を穿ち、ダンジョンそのものを貫く。

 

圧倒的な破壊の嵐の中を、フィンは第一級冒険者の脚力で駆け抜ける。

 

「オオオォォォォ!!」

 

迫る砲撃を紙一重で避けながら、フィンは疾走を止めない。

 

豪脚が大地を蹴り抜き、怪物の王へと肉薄する。

 

金の槍を握りしめるフィンは、ギギッとむき出しにした歯を食いしばりながら、己の体を弩砲に変え、渾身の投擲を行った。

 

「一撃で決める―――【ティル・ナ・ノーグ】!!!」

 

放たれる黄金の輝き、勇者の一槍。

 

フィンによる全力の槍投げ。撃ちだされた《フォルテイア・スピア》が大気に風穴を開け、一条の閃光となってバロールに驀進する。

 

存在していた彼我の距離を無視し、一瞬で階層主の頭蓋を貫いた。

 

「グォ……」

 

フィンの槍に頭蓋を貫かれたバロールは、断末魔をあげて絶命した。

 

轟音とともに力なく崩れ落ちる巨人。

 

遅れて、フィンの遥か後方で地面がめくれあがる。まるで巨人の存在そのものが世界から無かったことになってしまったかのように、その亡骸は地面に倒れた瞬間に消滅したのだ。

 

「…はぁはぁ……ふぅ…死ぬかと思ったよ」

 

最後の渾身の投擲に体力を注ぎ込んだフィンは、膝を折り、息を荒くしてその場に座り込んだ。

 

階層主を倒し、バロールの消失を確認すると同時に、フィンを襲っていた全ての重圧が消え去り、安全地帯へと変わった。

 

「よくやったな」

 

「ガレスか……」

 

声を掛けられた方へ振り向くと、ガレスがこちらに歩いて来ていた。

 

彼は他の仲間の様子を横目で観察しながら口を開く。

 

「リヴェリアもそこそこ疲弊しておる。あの魔法にかなり精神力を込めたようだな」

 

「君こそ、怪我は大丈夫なのかい?」

 

「がっはっは、儂があの程度で傷つくはずなかろう!」

 

豪快に笑いながら、ガレスは己の胸を叩いてみせた。

 

確かにあの猛攻を喰らったにしては傷一つ無いようだ。ガレスの体が異常に頑丈なのか、それともスキルおかげかは分からないが、元気そうで何よりだ。

 

フィンとガレスは互いを称え合うように手を差し出し、ガッチリと握手を交わした。

 

「人数は一人多いけど、これで彼らと同じ偉業を達成できた。」

 

「しかし、あの二人は装備も魔法も使わなかったんだぞ。ランクアップの条件の一つ、上位の経験値を貯められたとは思えない」

 

二人のもとに近寄ってきたリヴェリアは、偉業達成に喜びつつも、どこか不安げな表情を浮かべた。

 

【神の恩恵】を昇華させるためには二つの条件がある。

 

一つ目は、いずれかの基本アビリティの熟練度を『D』以上にすること。

基本アビリティは、本人の才能や資質、向き不向きによって上がり幅が大きく変わるが、特殊なスキルやそもそもアビリティを鍛えないなどでない限り、どれか一つでも『D』以上にするのはそう難しいことではない。

 

二つ目は、偉業を達成して上位の経験値を獲得すること。

世界の中心と謳われる迷宮都市オラリオにおいてもLv.2の冒険者を『上級冒険者』と区分するのは、ひとえにこの条件を達成するのが非常に困難だからだ。

 

「んーーー、偉業の内容的には彼らに劣ってしまうけど、階層主を取り巻き含め少数で討伐したのは十分認められると思うよ」

 

「お主も案外あやつらの非常識に染まっておるのぉ」

 

リヴェリアの疑問に、フィンは顎に手を当てながら答えた。

 

呆れたようにガレスがそう呟くが、否定できないので反論は出来ない。

 

「今回の討伐でランクアップしていなくても、一歩進んだことは間違いない。それに最近地上がきな臭い。4年前のあの時と同じように…」

 

「『大抗争』か…あの時を超える戦力が出てくるとなると都市を守り切れるか怪しいぞ」

 

「もう敵に遅れを取れる訳にはいかんからな」

 

追想するのはかつて起こった神時代最悪の大厄災。

数多の邪悪が躍動し、幾多の者が冥府へと落された大事件。

 

破壊と慟哭。恐怖と絶望。

街は燃え、血が流れ、数々の星が散った悪夢の日。

 

巨悪と巨正がぶつかり合い、混沌を極めた。

 

あの恐怖を、無力感を、再び味わわないためにも――

 

「とりあえず、帰ろうか。僕たちの黄昏の館(ホーム)に」

 

 




Tips1 総司やアルフィアの影響で原作よりもオラリオ上位層の平均レベルが上がっているぞ!その分敵も…

何か追加したほうがいいタグとかありましたらメッセージに送ってください。

投稿は亀よりは早いと思います。もうすぐ試験なんで…

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