精霊の寵愛を受けた才禍の怪物が神に挑むのは間違っているのだろうか   作:子猫猫猫

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遅くてすまね。


【剣姫】と求道者

まだ太陽が顔を見せる少し前、薄暗闇が街に垂れ込めている。

迷宮都市に人の気配はなく、物音もしない。ただ、静寂が街中を支配していた。

 

「んぅ…朝…特訓…しなきゃ」

 

ベッドに横たわり、心地いい微睡みに身を任せている少女を体内時計が優しく起床へと促す。

 

眠そうに目元を擦りながら、ベッドから上半身を起こした少女―――――アイズ・ヴァレンシュタインは慣れた動作でカーテンを開く。

 

「よしっ!」

 

窓の向こう側の天気は晴天。今日もいい天気だ。窓を開け放つと早朝のひんやりとした空気が部屋へと流れ込む。

 

アイズ・ヴァレンシュタインにとって早起きとは最早習慣と言って良い。

 

朝日が昇る前に起床し、朝練用の動きやすい服に着替える。日課の剣の稽古、軽い型稽古等を行った後、朝食を摂ってから迷宮へと潜り実戦を行う。帰宅したら体を清め、栄養を取り、死体のように眠る。それが彼女のルーティーン。

 

誰に言われたわけでもなく、アイズが9年前から自ら始めたことだ。

 

日々の反復を行うように、あるいは更なる剣技の向上を目指すために、ホームにいる間はほぼ毎日のように行われてきた。

 

全ては、一刻も早く力を手に入れるために。

 

アイズは慣れた足取りで部屋を出て、中庭に向かう。彼女が所属する【ロキ・ファミリア】のホーム、『黄昏の館』はその構造上、比較的どこからでも中庭の様子を窺うことは容易い。

 

「……!」

 

気づいたのは偶然か。はたまた貪欲に力を追い求める者としての直感故か。

 

(中庭に…誰かいる)

 

心当たりはない。アイズは【ロキ・ファミリア】に入団してから毎日のように特訓を続けてきたが、彼女のように早朝から行う者はさすがにいなかった。

 

あと半刻もすれば陽は昇るだろう。にもかかわらずその誰かは一心不乱に剣を素振りしている。

 

(もう……)

 

アイズ・ヴァレンシュタインは気が付くと少しづつ前進し、中庭にいた何者かを視界に捉えようとしていた。

 

(少し……)

 

そしてとうとう踏み出し、先客を視界に収めたとき……、

 

「―――――――ッ⁉」

 

未知の衝動に襲われた。

 

そう、アイズ・ヴァレンシュタインが未だに経験したことのない感覚。

 

その衝動は彼女の心を魅了する。

 

『美』を体現する女神フレイヤにも感じなかった感情。

 

振るわれた剣の軌跡に、音に、なにより躍動する肉体に心が囚われる。

 

一閃。先客の正体であるムラクモ・総司が行う剣の一振り。

 

けっして速くない。一つ一つの動作を確かめるような正確な剣閃。

 

たったそれだけなのに。

 

児戯。自分が今まで培ってきた剣技はまるで幼子の棒振りと同等だと。

 

思ってしまう。思わせてくる。

 

感じてしまう。圧倒的な才能の差。

 

理解してしまった。未だ天を目指すその魂胆を。

 

「嫌だ…」

 

常人なら挫けてしまう剣の境地。

 

だが、アイズ・ヴァレンシュタインは折れない。

 

『神の恩恵』に発現してしまうほどの執念。【復讐姫】が、彼女自身が、諦めることをユルサナイ。

 

(もっと近くで見たい……自分も同じように振るいたい……剣を……振らなきゃ……!)

 

己の衝動に身を任せたアイズは気づけば剣を片手に、鞘をかなぐり捨てて駆け出していた。

 

「私に剣を教えてっ‼」

 

 

 

 

 

「それが、師匠に弟子入りしたきっかけ」

 

話し終えたアイズは、自身に話をねだってきた山吹色の髪の妖精にドヤ顔を決めた。

 

「ひゃああ……すごすぎますぅ……」

 

話を聞いたレフィーヤが感嘆の声を上げる。

 

現在、ロキ・ファミリア内の談話室にはレフィーヤ、そしてたまたま同席していたティオナ、更には興味本位で話を聞こうとしたロキが勝手に集っていた。

 

「あんときは一度断られても四六時中引っ付いて懇願しとったからなぁ。正直、総司が根負けするとは思っとらんかったわ~」

 

ロキはケラケラと笑う。

 

「死ぬかと思ったけど、おかげで強くなった」

 

「しっかし、あの総司が弟子を取るなんてなぁ……」

 

ロキは感慨深げに呟く。フィンやリヴェリアに続き、ファミリアの後輩を面倒見る様子があまりにも珍しかったのだろう。

 

(アイズさんと総司さんの関係も気になるけど……今はもっと聞きたい話が沢山ある……!)

 

「あ、アイ」

 

「アイズ、居るか?」

 

突如談話室に現れた総司。腰には漆黒に染まった長剣が一本。肩に掛けた剣帯からはアイズの愛剣『デスペレート』が吊るされている。

 

「どうしたの?」

 

突然の来訪に驚いたアイズは、目を丸くしながら総司に問う。

 

「すまないな、ちょっと剣の特訓に付き合ってもらいたい。少し鈍っている気がしてな」

 

「……分かった。やろう」

 

思いがけない機会に高揚したアイズ・ヴァレンシュタインは二つ返事で了承して、意気揚々と中庭に出ていった。

 

「………………」

 

談話室に流れる沈黙の空気。

 

「あ~、うん。どんまいレフィーヤ」

 

ポンとレフィーヤの肩を優しく叩くティオナ。

 

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ~~~‼‼‼」




TIPS4 アイズは現在Lv.5。たぶん原作より早い。ティオナ、ティオネは総司と入れ違いで入団したので原作とあまり変わってないよ。ツンデレベートさんも強くなってるよ。
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