最強催眠種付けおじさんvs女魔族   作:アリマリア

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 アニメのリーニエちゃん可愛かったね記念。

 果たしてどっちが勝つんだ──!?





断頭台のアウラ編
最強催眠種付けおじさんvs『模倣する』女魔族


 

 

 

 おはよう諸君、我輩は種付けおじさんだ。

 

 何、「種付けおじさんって何だよ」だと?

 ……まぁ、その、アレだ。制限に引っかからない玉虫色の言葉を使えば、女の子と仲良くなって仲良しするおじさんである。

 

 いやもう、そこに関しては、そういう生態の生き物なのだと察してほしい。

 今ここで実情を語るには、こう、年齢制限的なアレがアレなのだ。

 

 とにかく、我輩は種付けおじさん。

 しからば今日も、可愛い女の子とにゃんにゃんしようではないか!

 

 

 

 そう思って家を駆け出したところで突っ込んできたダンプカーにぺしゃんこにされ、気付けば我輩は全く見知らぬ街の中にいたのだった。

 

 

 

 ……???????????

 

 え、何、何が起こった?

 我輩アレだよね? ダンプカーに轢かれたよね?

 なんならその瞬間の激痛とか、運転席に乗ってた我輩の女の元カレ君の「ざまあみろ」みたいな顔とかも見えてたよね?

 

 なら、目覚めるべきは病院じゃない? あるいは自宅のベッドの上じゃない?

 我輩なんでこんなところにいるの? 何が起こった? 拉致? 監禁? そっち系は我輩の趣味(たんとう)ではないので別の部署(ハイエースおじさん)にお任せしたいのだが。

 

 

 

 混乱しながらも、取り敢えずオラッ催眠して情報収集することしばらく。

 我輩は、粗方の事情を察することができた。

 

 これはアレだ。いわゆる異世界転移というヤツである。

 「死んだら別の世界に転移してそっちで新生活を始める」という、ちょっと前に流行ったジャンル。

 いや、異世界なんてフィクションではないのか!? と思わないでもないが……。

 そもそも、ここにこうして種付けおじさんが実在するのだ、異世界転移が実在しても何らおかしくはないだろう。

 

 そして、我輩が転移してきたこの世界は、どうやらいわゆる中世ファンタジー的な世界らしい。

 文明レベルは比較的低く、移動手段は徒歩か馬か馬車、保存食は乾パンや干物。剣が振るわれ魔法が乱れ飛ぶ、随分と治安が悪い物騒な世界である。

 当然ながら、その快適性と安全性は現代に比べて低く、楽しく平和に純愛催眠したいおじさんとしては甚だ不本意な状況なのであった。

 

 

 

 ことに、この世界の安全性を大きく下げている原因として、魔族という種族の存在が挙げられる。

 街の人と「おはなし」して聞いたことには、魔族の特徴は以下の通りらしい。

 

 ・人間そっくりの見た目だが角が生えている。

 ・言葉は通じる?

 ・人間を捕食するために襲う。

 ・人間とは比べ物にならない程の魔法を使う。

 

 まぁ、いわゆるファンタジーモノに出て来る人型の魔物みたいなものだろう。

 言葉は通じると言うのなら、あるいは共存の道もあり得るか? と思わなくもないが……少なくとも現時点においては、魔族にとって人は捕食対象に過ぎない、という感じか。

 

 しかし、人間の魔法とは比べ物云々と言われても、我輩そもそも魔法とか使えないから違いがよくわからないのだが……。

 あぁいや、ある意味魔法みたいなことはできるか。我輩催眠系種付けおじさんだし。

 

 

 

 催眠種付けおじさんである我輩は、控えめに言ってありとあらゆる催眠を使うことができる。

 マインドコントロール及び強制意識障害、認識災害系に自我の書き換え、その他にもいくつかあるね。

 そしてその手段も、肌での接触、声を通したもの、音声を使ったもの、自身の身振り手振り、接触、薬剤、5円玉ぶらぶらなどなんでもござれだ。

 

 一般人から見ると、もはや魔法の如しであろう。

 高度に発展した科学は魔法と見分けが付かないと言うが、これぞまさにその典型例である。

 まぁ我輩の催眠が科学か魔法かと言えば、どちらかと言えば魔法側な気がしないでもないが……。

 

 何はともあれ、恐ろしいものだ。

 通りがかりに殺しに来るとは、倫理も秩序も何もあったものではない。

 せめて攻撃ではなく催眠にしなさい催眠に。捉えようによっては催眠も精神攻撃になってしまうけれど。

 

 

 

 とにかく、魔族や魔物などという物騒なものとは、そもそも関わり合いにならないに限る。

 

 幸い、我輩が流れ着いたこの街は、どうやら大魔導士? フランメ? という昔の人がかけた結界? によって守られているらしく、領主が受け入れでもしない限り、魔族も魔物も侵入できないらしい。

 すごいんだな、フランメ氏。男性か女性か微妙にわからん名前だが、自分が死んだ後何百年と持続する結界とか、まさしくファンタジーという感じだ。

 

 まぁ大昔の偉人の存在はともかくとして。

 つまるところ、この街にいる限り、最低限の身の安全は保障されているというわけだ。

 安全確認、ヨシ!

 

 本音を言えば、もう少し文明レベルが高い方が好ましいのだが、それはこうして転移してしまった以上もはやないものねだりでしかない。

 少なくとも、安全性と快適性の内片方でも確保されているのだ、これはラッキーと思うべきだろう。

 

 そんなわけで、我輩はこの街に逗留し、楽しい催眠ライフを送ることを決定したのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 約3か月前に「安全確認ヨシ!」などとほざいた阿呆がいるらしいが、どうかソイツのことは忘れてやってほしい。

 

 領主が「魔族からの和解の申し入れを受け入れる」などと言い出した。

 そんなわけで今朝、どうやらこの街に魔族が入って来たらしい。

 

 

 

「頭が痛いな……」

 

 正直なところ、我輩は「魔族と人間が和解、あるいは共生できるか」などということには、欠片たりとも興味がない。

 そういう難しいことは、一般人の方々に任せればいいのだ。

 我輩は催眠種付けおじさん。催眠と女の子のことだけを考えていればいいし、考えているべきだ。適材適所というヤツである。

 

 しかし、この身に火の粉が降りかかるとなれば、当然話も変わって来るわけで。

 我輩自身もそうだし、我輩が既にモノにしたこの街の女たちに被害が出ても困る。

 そういう意味で、「脅威になる可能性を持つ存在」である魔族がこの街に入って来るのは、我輩にとってかなり困った事態だった。

 

 

 

「ふむ」

 

 薪を買い出しに行く最中、路地裏を歩きながら、我輩は腕を組んで考える。

 

 とはいえ、自分から魔族というモノに近付き、何らかの対処をするというのも、これまた難しい。

 

 しばらく過ごす内にわかったが、この世界はいわゆるナーロッパ的な、領主と民衆の距離感クソ近な世界ではない。

 むしろ支配者層と被支配者層がハッキリと別れ、当人たちもそれを強く自覚しているし当然のことであると捉えている、ウェーバーの唱えた伝統的支配体制に近いものが敷かれているようだった。

 

 そんな中で、領主が直接招いた客という扱いになっている魔族に対して干渉することは、かなり難しい。

 それも、相手はこれから和平を結ぼうとしている大使だ。下手すれば外交問題に発展しかねないわけで、ガードは固いだろう。

 話しかけようとしただけでも禁固拘留される恐れがあるし、まぁこんな選択を取る蛮族がいるとは思いたくないが、攻撃でもしようものなら懲役や処刑の可能性もあるだろう。

 

 が、だからと言って何もせず後手に回るのも良くない。

 最悪の場合、我輩は街のどこかで火の手が上がったり死体の山が積み上がってから、事態の進行を知ることになってしまう。

 そして、その最初の被害が我輩や我輩の女である可能性は、決して否定できないのだ。

 

 かなり難しい、予断を許さない状況だ。

 こんな事態に陥ったのは、前世で20人程の女に囲まれた時以来か。あの時広域性催眠が使えなかったら、我輩は死んでいただろうなぁ……。まぁ結局その後ダンプカーにプレスされて死んだのだが。

 

 

 

「……情報が欲しいねぇ」

 

 我輩、基本的に催眠や女の子以外のことには興味がない。

 なので、関わることがない(と思っていた)魔族や魔物に関しては、ほとんど知識を集めてこなかった。

 その上、我輩がモノにした女たちは、皆街の中で平和に暮らす者たちだ。その辺りの事情について詳しい者はいないだろう。

 

 となると、事情を聞くために「おはなし」すべきは、外で働くこともある憲兵や騎士になるが……。

 そういった職には、女性がほぼ絶無なんだよなぁ。悲しいことに、性別間の体力の差や男女への社会的常識の壁がある……。

 

 残された選択肢は、街に滞在する女商人か、あるいは外に関わる領主一家か。

 当然ながら、後者は現実的ではないな。

 となると、我輩が気に入るレベルの容姿と心を持つ商人を探さねばならないが……商人という職業柄、こちらもなかなか難しそうだ。

 

 だがまぁ、とにかくやるしかない。

 気付いたら地雷を踏み抜いていた、などという展開はご免なのだから。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 我輩は知らなかった。

 

 ちょうど数秒後に、警戒していたその地雷を、意図せず思い切り踏み抜いてしまうことを。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 その時。

 

 ふと、通りの向こうにいた、リンゴを齧っていた女性と目が合った。

 

 いや、女性と言うよりは少女かな。

 その体型からして、恐らく15から16歳といったところだろうか。

 綺麗な桜色の髪を短めのツインテールに纏め、この世界の人間にしてはかなり綺麗に整えられた服を身に纏っている。

 顔立ちもとても整っており、まさしく美少女といった可憐な容貌だ。

 正直に言えば、是非ともモノにしたいと思える可愛さではあったのだが……。

 

 

 

 ……最大の問題は。

 彼女の頭の上に、2本の角が生えていたことだ。

 

 

 

 角。

 それは、魔族に唯一共通する特徴だ。

 

 この世界において、人間──エルフやドワーフといった者たちも含めた、共存できる隣人的な存在の総称だ──は皆魔族と敵対している。

 故に、魔族の最大の特徴である角を、ふざけて頭に付けるフリをする、なんてことはあり得ないのだ。

 

 ということは、目の前の少女は魔族で確定。

 領主が言っていた、和平交渉のための大使だろう。

 

 だが、何故ここにいる? 護衛の姿はない。独断で動いている? 何故? 監視を振り切った? 自由行動を許されている?

 わからない、わからないが……。

 

 とにかく、間違いないことはただ1つ。

 今は危険であり、同時にチャンスでもある。

 

 魔眼型催眠、起動。

 対象、目の前のツインテ魔族。

 内容、悪意を持つことの禁止、危害を加えることの禁止、隠し事の禁止、現在の仲間及び繋がりのある存在への裏切りへの罪悪感減少、完全服従、与えた命令の確実な遂行、独断専行の禁止、好意極大、崇拝感情極大。

 

 よし、これでとっかかりを掴……。

 

 

 

 

 

 

 ブン──、と。

 

 目の前数センチを、斧が通過した。

 

 

 

 

 

 

 ……な。

 

 咄嗟に飛び下がらなければ、間違いなく、我輩の首は飛んでいただろう。

 いいや……仮に跳び下がっていたとしても、我輩が催眠種付けおじさんでなければ死んでいたはずだ。

 それだけ魔族の少女の斧──先程までは持っていなかったはずなのに、いつの間にかその手に握られている──捌きは、素晴らしく研ぎ澄まされていた。

 

 今のは、攻撃だ。

 我輩は、魔族の大使に、攻撃された?

 

 確かに聞いていた。

 魔族は人間と同じ姿をしながらも、問答無用でこちらを殺しに来ると。

 

 だが……だが、今回は和平の交渉に来たのではないのか!?

 交渉先の住民を、こうも問答無用で切り捨てにくるものか!?

 我輩が正しい意味でこの街の住民でないことを知っている? いや、それはあり得ない。催眠種付けおじさんである我輩が、そう気付かれるだけの証拠を残すわけもなく……。

 

 いや。

 というか、そもそも最大の問題は、そこではない。

 

 何故、我輩の催眠が効いていない……!?

 念のために何重にもプロテクトをかけたのに、どうしてそれを突破できた!?

 

 ……いや、落ち着け。

 今すべきは動転ではなく、目の前の問題への対処。

 具体的に言えば、今まさに振り抜いた斧を構え直し、こちらへ突撃しようとする魔族の少女の説得だ。

 

 

 

「ま、待ってほしい! すまない、我輩に害意はないんだ! 一旦落ち着いてくれ!」

 

 取り敢えず両手を上に上げながらそう言うと、魔族の少女は……どうやら少しは留飲を下げてくれたか、一旦突撃をやめてくれた。

 

 その反応を見て、我輩は確信する。

 我輩の催眠は、確かにこの魔族の少女に届いたらしい、と。

 

 我輩が言ったのは、「こちらには害意はない」という宣言だ。

 これを聞いて一旦戦闘を停止したということは、つまるところこの魔族の少女、「我輩から何らかの攻撃を受けた」と感じ取り、それを以て我輩を「害意ある敵」として認定、その排除のために反撃を取ったのだろう。

 もしも最初から人間即殺を信念としているのならば、我輩に敵意があろうとなかろうと殺しに来るはずだ。そうでないならば、あくまでも反撃として攻撃を行ってきたということになる。

 

 催眠は、確かに魔族の少女に届いた。

 しかし何らかの事情もしくは不明な手段により、無効化された。

 その上で、この魔族の少女はその気配を感じ取り、攻撃してきた。

 まとめればこういうことになるだろう。

 

 そして同時にわかるのは、どうやらこの魔族という種族、なかなかに強い理性と自制心を持っているということ。

 ここで「相手には害意がなかったかもしれない」かつ「和平交渉の邪魔になる」、あるいは「和平交渉を行おうとしている同族の邪魔になる」と判断して戦闘を停止するというのは、高度な知性を持ち合わせなければとてもできない行動だ。

 

 

 

 それらの情報を頭の中でまとめながら、我輩は必死に魔族の少女への命乞いを続行する。

 

「ひとまず、戦闘を停止してくれてありがとう。そして、弁明をさせてもらってもいいかね?」

「……いいよ」

 

 おぉ、可愛らしく涼やかな声だ。あまり感情的抑揚はないが、むしろそれが落ち着くような感じ。

 そして同時、なるほどどうやら彼女も魔族の例に漏れず、人間の言語を喋ることができるらしいことがわかった。

 

 我輩は自己催眠によってこの世界の言語を脳にインストールしたので当然喋れるが、魔族たる彼女が人間の言語を喋ることができるというのは、なかなかに不気味なことだ。

 何故なら、そもそも言語能力というのは、長い時間をかけて同じ言語を用いるコミュニティに属することで身に付くもの。

 人間と種族単位で敵対し、本来全く別の文化圏を築いているはずの魔族が同じ言語を使っているというのは……やや作為的なモノを感じるね。

 

 これは警戒度を上げ、そして早急に対応を取る必要があるな。

 

 

 

 そんなことを考えながら、しかしそれを表に出すことはなく、我輩は説得を続行する。

 

「我輩は魔法……ではないが、それに近いものを使うことができてね。

 しかし困ったことに、これは制御が不安定で、我輩が驚くことがあれば反射的に出てしまうんだ。

 幸い君には届かなかったようで安心しているが……君からすれば、唐突に攻撃されたようで驚いたかもしれない。まずはそのことについて謝罪したい」

「魔族が街にいることに驚いたの?」

「いいや、君たち魔族がこの街に来ることは、領主より事前に通告があったとも。だから驚いたのはそこではない。

 我輩が驚いたのは、あまりにも整った君の美貌さ。いやはや、君のように美しい女性がいるとは思わなかった」

「ふぅん」

 

 ……ほう、これは面白い反応だ。

 

 我輩は催眠種付けおじさん。当たり前だが、趣味も得意技も催眠だ。

 そして催眠という技術は、人間の精神の指向性や機微を完璧にコントロールすることができなくてはなりたたない。

 よって催眠が得意というのは、つまるところ人の心理や感情についてそこそこの知識と理解力を持っている、ということでもあるのだ。

 諸君も今後催眠種付けおじさんを見かけたら、「この人も学生の時は必死に心理学を学んだんだろうな……」と温かい目を向けてくれたまえ。

 

 さて、それはそれとして。

 今、人の心理に詳しい我輩は、この魔族の表情から1つの事実を悟った。

 

 この魔族、当然と言えば当然だが、我輩のことを欠片たりとも同族と認識していない。

 

 普通は同族に「好ましい異性だ」と言われれば、多少なりとも精神的な変化が見られる。

 しかしこの魔族が瞳の中に宿した感情はただ3つ。

 「面倒くさい」「興味がない」、そして「殺したい」……これだけだ。

 

 これだけ容姿が近ければ、我輩が無意識にそう思い込んでしまっていたように、多少なりとも同族、あるいは近縁種としての情が湧くはずだ。

 それなのに、この魔族はまるで虫けらにそう言われたのと同じ反応を示している。

 

 これはつまり、魔族は進化の過程で人間と分岐した近縁種なのではなく……。

 我輩が先程警戒していた通り、人間に擬態して油断を誘う生態をしている可能性を示している。

 食虫植物が甘い匂いを垂れ流すように、魔族は人と同じ姿で油断を誘っている、というものだ。

 

 いやまぁ、進化論的に言えばもっと効率の良い進化はあるだろう、と思うのだが……。

 ここは異世界だ。我輩の前世の世界とは法則自体が異なる可能性も高い。

 

 さて、この仮説が正しいのだとすれば、先程催眠が効かなかった理由は絞り込める。

 

 うむ、問題ない。対処可能な範囲だ。

 

 

 

「じゃあ、次回からは気を付けてね。もしまた襲い掛かってきたら殺すから」

 

 物騒なことを言って踵を返す魔族を、我輩は「少し待ってほしい」と呼び止める。

 

「お嬢さん、少し話したいことがあるんだ。時間を取ってもらうことは可能かな?」

「嫌だよ。時間の無駄だし」

「では、リンゴを3倍美味しく食べる方法を教えよう。それが対価ということでどうだろうか?」

「……まぁ、リュグナー様は領主と話し合いしてるし、ドラートもどこか行っちゃったし、いいよ」

「ありがとう、君が優しい女性で良かったよ」

 

 先程リンゴを齧っていたところから推察した嗜好だが、どうやら当たっているようで安心。

 魔族は人間を食うらしいが、必ずしも人間食を好んでいるわけではないのか? 生態的に人間を殺害し喰らうだけで、個としての嗜好は別の話なのだろうか。

 

 ともあれ、安心した。

 ここでもしも乗ってこないようなら、多少荒っぽい手段になっていたかもしれない。

 我輩は平和主義催眠種付けおじさん、そういう展開はご勘弁願いたいのだ。

 

 

 

「それでは……まず、君の名前を訊かせてもらっていいかな?」

「リーニエ」

「リーニエさん。あぁ、君によく似合う清廉で美しい名前だね」

 

 あぁ、少なくとも外見と名前は非常にマッチしていると思う。

 ……まぁ、この魔族がこれまでに殺してきたであろう人間の血を考えれば、とても清廉とは言えないだろうがね。

 

「では、リーニエさん。先程も言った通り、どうやら君には届かないようだが、我輩は魔法のような力を持っていてね。それは『催眠』と言うんだ」

「……催眠魔法?」

「あぁ、いや、それとは違うらしい。昔人間の魔法使いに見てもらったこともあるんだが、どうやら魔法とは似て非なる力だそうだ」

 

 我ながら、平気な顔をして口から嘘がペラペラと流れ出る。

 なにせ、催眠種付けおじさんは嘘が上手いのだ。特に上手いのは「大丈夫大丈夫、ただの遊びだからね?」とか「あのー道に迷っちゃって、ここに行きたいんですけどー(スマホを見せながら)」とか。

 種付けおじさんとしてやっていけなくなったら詐欺師に転向できそうなくらいだ。まぁ我輩は生涯現役で種付けおじさんを続けるつもりでいるが。

 

「これの効果は、『相手を意のままに操る』こと。なかなかに強力な力だろう?」

「…………相手を服従させる、ってこと?」

「いや、そうではないかな。強制的に服従させるのではなく、自分がそう行動したいと思いこませる……という表現が近い。

 とはいえ、我輩はこの力をみだりに使うつもりはないんだ。先程も、どうやら君の魔力に弾かれたのか通じなかったのは幸いだった。多くの魔力を持つ傾向にある魔族には効かないのかもしれないね」

 

 前半を告げた後、魔族の斧を握る手にきゅっと力が入ったのを見て、慌てて言葉を繋ぐ。

 危ない危ない、こちらは無害であることを強調しなければ再び襲われてしまいかねない。

 

 

 

 ……まぁ。

 準備が整った今、仮に襲われたとしても、問題などありはしないのだがね。

 

 

 

「しかし、この催眠は実のところ、かなり汎用性が高くてね。

 あまり我輩の趣味ではないのだが、なんと人の精神構造と思考回路、そして自我自体を犬のものに書き換えてしまう、『ワンちゃんプレイ催眠』なんてものもあるのだよ」

「そう」

 

 うーんこの塩対応。

 表情も声音も変わらないからすごく興味がなさそうに見えるし……。

 実際、その瞳の中には、欠片たりとも興味というものがない。

 

 

 

 この魔族が口うるさい我輩を殺さずにいる理由は、たった2つ。

 今はこの魔族の仲間……リュグナー、だったか? それが、この街との和平交渉中であること。

 そして、我輩が「リンゴを3倍美味しく食べる方法を教える」と約束したこと。

 

 要するにこの魔族にとって、和平交渉の成否>=リンゴを3倍美味しく食べる方法>>>(越えられない壁)>>>我輩の命なのだ。

 やはり魔族は、別種族……と言うよりは、それこそ人間の言葉に近い鳴き声を発する獣や虫と例えた方が適切だろうな。

 

 例えばの話。

 その辺りの石をひっくり返して見つけた虫が、人の声に近い鳴き声を発する、人を殺し得る毒を持った害虫だったとして。

 毒針を向けてくる虫を相手に、命乞いが通用するだろうか?

 するわけがない。相手はあくまで「まるで人の声に近い鳴き声を発する」だけであって、仮に言葉が通じたとしても、相互理解を図れるわけではないのだ。

 

 要するに、魔族というモノはそういう生物なのだろう。

 話せるようでいて話し合えない、理解できるようでいて理解し合えない。

 決定的に人間と異なる、近縁ですらない……。

 

 人間という種の、天敵。

 

 であれば、愛と勇気の種付けおじさんとして、彼女を放置しているわけにもいかないね。

 

 

 

「しかしだね、実はこのワンちゃん催眠は、とても大きな欠陥を抱えている。

 これは相手を書き換えてしまう。つまり、精神思考自我を上書きしてしまっているわけだ。元に戻せなくては色々と問題になってしまうし、何よりプレイでなくなってしまう。

 だが、我輩とて催眠種付けおじさん、こんな問題は簡単に解決できる。実は我輩、この真逆の催眠を使うことができるのだよ」

「逆」

 

 極めて興味なさげに相打ちを打って来る魔族に対して、我輩は笑いかける。

 

「そう、人を獣にするのと逆だ。つまり……。

 

 

 

 ただ人の言葉を理解するだけの愛無き獣の精神、思考、自我を、人に書き換えることも、できるのだよ」

 

 

 

 瞬間、斧が振るわれた。

 

 しかし、先程と違い、今回は不意打ちでも何でもない。

 であれば──。

 

 この催眠種付けおじさん(わがはい)が、攻撃を許すわけがあるまい。

 

 

 

「……ッ?」

 

 魔族の持つ斧の軌跡は、我輩の首の30センチ程横で、ピタリと止まる。

 魔族は自らの斧がピクリとも進まないことに、不思議に思っているようだが……。

 全く、何を不思議に思うのやら。

 

 その攻撃は、君が、君自身の意思で止めたのだろうにね?

 

 

 

 さて、ひとまずの護身は完了。

 緊張が解けたからか、我輩の口は滑らかに言葉を紡ぎ出した。

 

「いやはや……全く、今回はお恥ずかしいところを見せたよ。催眠種付けおじさんが催眠に失敗するなんて、赤っ恥もいいところだ」

「私に何をした」

「まぁ、君と言葉を投げ合って、その失敗の原因は絞り込めたのだがね。

 端的に言えば、我輩は君に対して『人に向けるための催眠』を行っていた。人と全く別種の精神構造・思考回路をしている相手に有効でないのは当然だ。

 相手の容姿だけを見てその中身まで分かった気になるとは、本当にお恥ずかしい限りだよ」

「答えろ。私に何をした」

「とはいえ、我輩は催眠種付けおじさんだからね。原因さえわかればその解決は難しくない。

 君の一挙手一投足を観察し、言動を鑑み、身体構造を把握し、その精神を測る。そうして魔族の精神構造と思考回路を理解して、それに適した形の催眠をかければそれで良いのだからね」

「答えろ」

 

 うーん、この言葉のドッジボール感。

 仕方がないな、反応してあげよう。

 

「……ふむ、既に回答を導けるだけのピースは与えているのだがね。

 さて、ここから推察できる可能性は2つだ。

 1つが、魔族も人間と同じように、自分が想像できる最悪の可能性を否定して欲しいと思い、現実逃避のために自らが気付いていることを忘れる可能性。

 そしてもう1つが、魔族は人間とは比べようもない程に劣った知性しか持たぬ劣等種である可能性」

 

 少し煽ると、魔族は再び斧を走らせた。

 

 何度も、何度も、何度も何度も何度も、懸命に我輩を切りつけようとして……。

 けれど、そのただ1つでさえ、実を結ぶことはない。

 

 

 

 残念ながら、既に盤面は詰んでいる。

 これがボードゲームであれば、速やかなサレンダーをおすすめしているところなのだが……。

 残念ながら、これは厳然たる現実なのである。御覚悟を。

 

「さてと……うん。これ以上君と会話を交わす必要性は感じないな。さくっと処理してしまおうか」

 

 催眠の素晴らしさはシチュエーションの素晴らしさ。

 普段であれば、彼女にどのような形で、どのような催眠をかけるか、むふふと考えを巡らせるところではあるのだが……。

 

 残念ながら、我輩が趣向を凝らしたいのは、人間相手の催眠なんだよね。

 虫に催眠をかけるなんて作業でいいのだ。

 

 そんなわけで、我輩が最も慣れ親しんだ接触型の催眠をかけようと、彼女に手を伸ばしたのだが……。

 魔族が、無表情のままに、口を開いた。

 

「……ごめんなさい。死にたくないです、助けてください」

「ほう、命乞い。面白い。それはどこで学んだのかな? 君がかつて殺した人間が言っていたのかい?

 そして、声音は平坦で棒読みだ。練度が足りない……ということは、命乞いをする機会が少なかったのだね。それだけ君は、魔族として年若いか、あるいは命乞いが必要ない程強かったということかな」

「なんでこんなことするの? 私はただ、人間の皆と仲良くなりたかっただけなのに……」

「何故かと訊かれれば、それが我輩の存在意義であり、人間種のためだからかな? 我輩は種付けおじさんだからね。人間を愛しているのさ」

「魔族だって生きてるんだよ? なんでそんなに簡単に殺せるの、この人殺し」

「魔族は人ではないだろう? 強いて言えば人間に寄生し喰らって生きる虫じゃないか。害虫を駆除するのに罪悪感も躊躇いも必要はないよ。

 まぁ何にしろ、命乞いは意味のない行為だよ? そもそも我輩は平和主義、命を奪う訳ではないからね」

 

 あぁ、駄目だな。

 我輩は元々話し好きであるが故、虫を相手にしても、無意味に物を語ってしまう。

 

 救援や念話などの魔法を持ってたりなんかすると困るし、さっさと決着を付けてしまおうか。

 

「それでは、さようなら。魔族のリーニエ」

「待って、やめて、お願いします、私は……」

 

 我輩が扱う、新たなる催眠。

 あらゆる魔族を消し去り、そして新たな人間を生む術。

 

 名付けて……。

 

 

 

「『魔族を人にする催眠(ヒトニナーレ)』」

 

 

 

 ピクリとも動けない彼女のサラサラの髪をかきわけ、ツンと、そのおでこを突くと……。

 

 元々魔族だったソレは、目を剥いて全身を痙攣させること数秒。

 

 ふと、我輩に焦点を合わせた。

 

 その瞳にあるのは、混乱と困惑、そして我輩への好意と崇拝。

 良し。今度こそ、催眠は完了した。

 

 ここにいるのはもはや魔族ではなく、1人の少女だ。

 

「……あ、れ、私」

「さて、気分はどうかな、リーニエ君」

「あなた……私を」

「うむ。体はそのままに、思考回路と精神状態、そして自我を人間のものに『上書き』した。

 魔族リーニエとしての精神は、完全にこの世界から消え去った。今の君は、生まれ変わった人間の少女、リーニエだよ」

 

 

 

 何をもって人間とするか、何をもって魔族とするか。

 恐らくこれは、この世界でも明瞭に定義し難い問題ではあると思うが……。

 

 催眠種付けおじさんである我輩は、思う。

 その人間の、あるいはその魔族の精神、思考、自我。

 それこそが、その人、あるいはその魔族である唯一の証明なのだと。

 

 であるならば、魔族ではなく人の思考を宿した彼女は……。

 ただ1人の、人間の少女に過ぎない。

 

 

 

「わ……わた、私、あ、ああぁ……!」

 

 彼女はプルプルと震え、その手に握っていた斧をどこかへと消し去って……。

 その感情を堪えきれないと言わんばかりに、我輩に抱き着いてきたのだった。

 

「あ、あり、がとう……! 私を、私を止めて、くれて……!」

 

 

 

 ……残酷なことではあると思う。

 彼女の人としての心は、今生まれたばかりだ。

 そんな幼い少女に、我輩はこれまで魔族として取ってしまった行動の罪悪感を押し付けてしまった。

 

 けれど……。

 我輩にできるのは、これだけなのだ。

 

 人間種の生存と平和において、魔族はただ邪魔にしかならない。

 故に、我輩の生活圏を侵す魔族は、1匹たりとも逃さず再起不能にせねばならない。

 

 そして、魔族が我輩の催眠術を解除する魔法を覚えないとも限らない。

 だからこそ、下手に解析されるような暇は与えず、完全にその精神を消し去らねばならない。

 

 だが、ここで難しいのが、「我輩は『種付け』おじさんである」という点だ。

 その性質上、我輩は催眠で新たな命を生み出すことはできても、現存する命を殺すことはできない。

 故にこそ、新たな生命への上書きという。迂遠な処置を取ることしかできないのだ。

 

 結果として生まれるのは、生まれ変わる前の自分がやってしまった絶大な罪と心の影を背負うことになる、1人のうら若き乙女。

 正直に言えば、そこには決して小さくない罪悪感を感じてしまうのだが……。

 

 

 

「あなたのおかげで……私、これ以上、罪を犯さずにすんだ……! ありがとう……本当にっ……!!」

 

 人間を殺す毒虫が1匹減ると同時、こうして1人の見目麗しく心の清らかな乙女がこの世界に生まれたことを考えると……。

 

 あるいは、これで良かったのかもしれないと、そう思えてしまったのであった。

 

「……よし。それではひとまず、我輩の家に行こうか、リーニエ君」

「っ、うん!」

 

 頬を赤らめたリーニエ君と一緒にお家に帰った我輩は、この後めちゃくちゃ催眠したのであった。

 

 

 







 見た目と能力だけは良いし、中身はぽいっと捨ててコンバートして、有意義に使ってあげるね♡
 無意味に整った美貌も百年単位で培ってきた技術も、これからはぜーんぶ大好きな人間さんのためだけに使おうね♡
 人間さんと仲良くできて嬉しいでしょ? 良かったね♡

 あ、これを見て少しでも「魔族かわいそう」と思ったあなた、魔族の人間もどきマジックに引っかかってますよ。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
 ちなみに「認識災害」は誤字ではありません。相手の認識機能に対して災害を起こすので。詳しくはミーム汚染で検索検索!
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